「は?」
過ぎ去っていく電車に呆然とする僕。
空いたホームで無意識に前につめようとした僕に声がかかる。
「アルド」
「ナヒーダ!」
見覚えのある姿に安心する。
手を自分の頭とナヒーダの頭の上に交互に当て、同じ高さなことを確かめる。
「ここはあなたの精神世界、過去に戻ったわけではないわ」
「周りの空気が違いすぎて不安でね」
安心で息が漏れる。
「ところでここからどうすれば良いんだい?」
「ここはあなたの精神世界、私にはわからないわ」
どうしたものか…少し考えていると次の電車がやってきた。
前につめてるのもあって乗らないのは気まずい。
「とりあえず乗ってみようか」
──
時間帯的には昼前くらいなのか、乗っている人は少ない。
「これが電車…」
だから、田舎者みたいに目を輝かせるナヒーダは目立つ。
「僕の記憶で知っているだろう、と言うのは無粋かな?」
「ええ、知っているのと直接体験するのは大違いだもの」
「これも僕の記憶だけどね」
まあ、服装からして目立つのは今更か
わざとらしく頬を膨らましているナヒーダを尻目に話す。
「そういえば、これが僕の精神世界なら周りの人間はなんなんだろうね」
ナヒーダは何もなかったかのように表情をもどして言う。
「あくまであなたの精神なんだから、NPCのような動くだけのものなんじゃないかしら。気になるなら話しかけてみれば良いじゃない」
近くの人に目を向けたナヒーダとは反対に目を逸らして話す。
「いや、精神世界とはいえ急に話しかけるのはちょっと…」
そんなことを話していると電車が止まった。どこかに着いたみたいだ。
ナヒーダの手を取ってなんとなくその駅で降りる。
「どこに向かうのかしら?」
無意識に動く足を止めてこの駅について考える。
「自宅だね」
しばらく歩くとアパートの前についた。
改めて見るとボロボロだな…
自宅に入り隅々まで見ても木のようなものはない。
「この世界で最後にいたのがここだからもしかしたらって思ったんだけどな…」
冷静に考えて家の中に木があるはずもないか。
「急いでいるわけじゃないもの、そう気を落とすことはないわ」
ベッドに腰掛けたナヒーダがそう言ってくれる。
幼女を連れ込んでなんか犯罪臭のする絵面だな…
ナヒーダはいつのまに回収していたのか、本体から外した二つのコントローラーのうち、青い方を渡してくる。
「せっかくだから少し遊ばないかしら」
──
「テクニックは知ってるはずなのに!」
体をすごい傾け方をしながら操作するナヒーダ。
ところどころショートカットは使ってるんだけど壁にぶつかったりして基本の操作がなあ。
順位は5位だ。
「ふっ、流石に経験が違うからね」
そう言う僕も、片方だけのコントローラーの持ち方に慣れず、NPC相手に2位に甘んじている。
ナヒーダが後半から追い上げてきて、危ういところもあったが、最終的に僕から一位二位でゴールした。
「手も足も出なかったわ」
「初めてとしては上手いと思うよ」
「けれど、楽しかったわ」
ナヒーダは満面の笑顔で言った。
「どうして急にやろうと思ったんだい?」
僕の疑問に対してナヒーダは少し迷ったような素振りを見せたあと言った。
「アルドが楽しんでいたことを知りたいと思ったの」
思わず口角の上がる僕にナヒーダは続けて行った
「でも、一人でこんなに楽しめたかしら…?」
その言葉にいよいよ笑みが溢れる。
「ハッハッハ、僕も一人じゃこんなに楽しくなかったよ!」
「ナヒーダのおかげで僕も楽しめたよ」
──
「この後どうしようか?」
アパートから出た僕らはあてもなく歩いていた。
「とりあえず、思い入れのあるところを探して見るのが良いんじゃないかしら。精神世界の中なら、場所にも意味があるはずよ」
「思い入れね…」
一応の心当たりの方角に、適当にあたりを見回しながら向かう。
「このあたりを通るのは久しぶりだなあ」
人通りのない住宅街を通りながら言う。
「ここは子供の頃住んでいた街かしら?」
「そうだね、あそこの公園とかでよく遊んでいたよ」
そこまで言って違和感に気づく。
「あれ、あの公園潰されてなかったっけ…」
悩む僕にナヒーダが言葉を返す。
「あなたの精神世界だもの、あなたの中では慣れ親しんだその姿が自然なんじゃないかしら」
「なるほど、実際の世界じゃないしそれもそうか」
そうこうしているうちに目的地に着く。
「ご実家ね」
「そう、ここも今は無いんだけどね」
扉に鍵はかかっていない
「ただいま」