1.播種
枯れ木に囲まれた森の中、僕は魔物と戦っていた。
「磔刑」
「グォォ!」
その身を貫かれた獣域ハウンドが倒れ伏せる。
「これで終わりかな」
赤黒く光る木に手を添えると、そこから緑色の光が広がり枯れた木が生き返り、魔物は消えていった
"ナヒーダ、終わったよ"
"わかったわ、村で合流しましょう"
最近はこの体の能力も使いこなせるようになってきて、ナヒーダとなら普通にテレパシーができるようになった。
ちなみにナヒーダはアーカーシャ端末を持ってる人にならテレパシーどころか意識を乗っ取れるらしい。凄いというかもはや怖いよ。
そんな取り止めもないことを考えながら慣れた歩きで森を抜け、木々の隙間から道へ出る。
そのまま真っ直ぐ村に進もうとすると、後ろに気配を感じて立ち止まる。
気配なんてものを感じたことはないが、何か意識が引っぱられる。
すると、その気配から声がかけられた。
「ねえ、大丈夫?」
振り返ると、美しい金髪の少女がいた。
「一人?お父さんかお母さんとは一緒?」
「いや、えっと…」
「旅人!もっと優しくゆっくりだぞ!」
旅人と呼ばれた少女の隣に浮く白髪の小さな子が声を上げると、少女、旅人は少しムッとした顔で言葉を発した。
「パイモンは子供の気持ちをよく知ってそうだもんね。「おい、何か悪意を感じるぞ!」こんなところでどうしたの?森は危ないよ?」
この国では大分有名になったからこういう間違いをされるのは随分久しぶりだ。彼女らの空気に引っ張られないよう、一度深呼吸をして答える。
「心配の必要はないよ。僕はこの国の守護者にして草神の眷属、アルドだ。」
「草神?」
その言葉をきっかけに旅人の表情が固くなる。
「君が噂の旅人かい?モンドから風魔龍を退け、璃月を危機から救い、稲妻を目狩り令から解放したっていう」
最近はナヒーダとの雑談で旅人の話はよく出てきていた。
一応聞いてみたが、まあ間違いなくこの少女があの旅人だろう。見た目も特徴的なだし、側を浮いているパイモンという存在も一致している。
一瞬の逡巡の後、旅人は言葉を返した。
「そうだよ。…単刀直入にいうけど、草神と会う方法を教えてくれない?」
「構わないよ。丁度今から会うところだったんだ。一緒に行くかい?」
「えっ?」
旅人の固くなっていた表情が呆気に取られたような表情になる。
「お兄さんを探すためにナヒーダ…草神に話を聞きにきたんだろう?行かないのかい?」
「もちろん行くよ」
「それじゃあ、僕についてきてくれ」
──
「旅人、今回はラッキーだったな!」
「テイワットに来てから大変だったろ。スメールではゆっくりしていってくれ。」
「ありがとう」
彼女、アルドが先導して歩く後ろでパイモンが話しかけてくる。短く返しながら、そっとパイモンの体に手をかけた。振り返られても大丈夫なようにそっと耳を口に近づける。
(彼女、少し怪しくない?)
意図を察したパイモンが潜めた声を出す。
(そうか?オイラは普通に親切だと思ったけど…)
(都合よく私たちのことをよく知っていて、都合よく道にいて、都合よく草神と繋がりがあるなんてできすぎじゃない?)
(確かにそうだけど、それだけで疑うのは可哀想じゃないか?)
こうして話している間、アルドは特に振り返ることもなく進んでいる。普通なら会話がなくなれば、少しは気にする、振り返るくらいはしそうなものだが…
(草神は知恵の神だっていうくらいだから、むしろ私たちのことを把握している可能性は高い。それでいて眷属が偶然みたな顔で察してくるのは怪しくない?)
(うーん…)
パイモンが目を細めてアルドの後ろ姿を見ていると、アルドは唐突に話し始めた。
「そういえば、君はテイワットの外を旅していたんだろう?元素力みたいな不思議な力、というか一般の物理法則に反したものがない世界とかはあったのかい?」
「あったけど…何?」
「いや、そうだな…シンプルに興味があっただけだよ」
曖昧な返事にパイモンが訝しげな目を向けている。
(不思議な力…?)
怪しいのは当然だが、その前の言葉もなにか引っかかる。この世界では元素力はどこにでも存在するものだ。神の目がないと直接は使えないが、水、火、木…物を放れば落ちるように当たり前に元素力がある。最初からこの世界で生きていて、それを不思議だと思うだろうか?
ふと顔を上げると、今までの国で見た物とは違った、森の中の建築が目に入ってくる。考えているうちに村にはついたようだ。
「ナヒーダ。話した通り、旅人を連れてきたよ。」
村の入り口に向かってアルドが話しかける。
「!」
そちらの方に目を向けると、小さな背丈に綺麗な銀髪。アルドと全く同じ顔をした少女がそこにはいた。
少女はこちらに顔を向けて声を出す。
「こんにちは、旅人。私はクラクサナリデビ。
草神として、あなたのことを歓迎するわ。」