角からこことは異なる空間を覗き見る、そこに緑が二つに金と白が一つずつ。その周りから無数の
黒い衝動が脳を染め上げる。異物を排除しなければならない。残った僅かばかりの余白で獲物の隙を待つ。
緑が動く。黒が消える。金が動く。緑が動く。黒が消える。黒が消える。黒が消える…
金が止まった─
──
厄介な魔物だ。
初めて見るこの黒い狼達を警戒しながら思う。
狼達は下半身を持たず空中に浮き、身軽に爪を振りかざしてくる。さらに毒か呪いか、何なのかわからないが傷口に妙な感覚を感じる。軽い爪でも受けずらい。
何より厄介なのが空間を移動する能力だ。空間を割ったような裂け目と共に空間を移動して距離など関係なく襲い掛かってくる。
そのせいでいやでも空間全体に注意をしなければならない。
狼達の攻撃をかわしながら裂け目がないか横目で周りを警戒すると、草神達の戦闘が目に入ってきた。
片方は槍を手に持ちながら慣れた手つきで爪をいなしそのまま地面から生やした木で狼を貫く。おそらくこちらがアルド、眷属だろう。
もう片方、おそらく草神は直接攻撃をせず周りを見回しているように見えるが近づいた狼がつたに絡め取られていっている。目がこちらとあったかと思えば自分の周りにシールドが貼られていた。チラリと見えたパイモンにも強いシールドが貼られている。
何となく苛つきながら近づいてきた狼達を風の刃で払うが、一際大きな狼が風の真ん中から爪を振りかぶってきた。咄嗟に剣を両手で持って受けるが爪に纏われた雷が腕を痺れさせる。
その時、背後から気配がした。シールドがあるとはいえこのままでは
「旅人!」
狼の巨大に槍が突き刺さる。狼はまさに横槍と言うべきその一撃に一瞬気を取られながらもそのまま爪を振り抜こうとする。
しかし、突然に中から無数の木の針が生え、その狼はこの空間から消えていく。そこには枝のように棘が生えた槍が残った。
「きりがないな」
眷属は再び生み出した槍を持ちながら声を上げる。
「旅人、岩か水のシールド使える?」
「岩なら使える」
「じゃあそれで使って。パイモンはもっと高く上がって。」
一方的な指示に少し不満を抱くが、戦場でそんなことを言っても仕方がない。言われた通りにシールドで自らを覆った。
眷属を中心に草元素が渦巻き、近くから段々と地面から膝ほどの高さの緑の葉をつけた低木が広がっていく。私の足元にも広がるそれは、少し黄色く色づいていた。
「これは…紫陽花?」
いつのまにか移動していた草神を背に眷属は右腕を上げる。
その腕の手首はつたと葉に包まれていたが、その植物らは一瞬にして焦げ落ち中から赤い宝玉のついた腕輪が顕になる。
そしてその宝玉が光輝く。
「紫陽花・紅」
その光と共に現れた火種が足元の草、緑一色の紫陽花へと近づくと、紫陽花の花びらが形そのままに炎へと変わる。それは周りの草元素と反応して空間ごと燃え上がり、それによってさらには炎が紫陽花へと伝わり…
あたりが紅い紫陽花畑へと変わる。
「やっぱり花こそ華があるよね。まあ紫陽花は花じゃないけど」
炎に包まれ狼達が歪んだ苦悶の声を上げる。この炎の原因を直感で理解した狼達は燃え上がる肉体のまま裂け目を割って現れるが、
「紫陽花は土壌によって色が変わるんだ」
意にも介さずに喋りながらかわす。木の葉のようにふらりふらりと交わし続けてそのあとに元素軌跡が残されていく。
それと共に眷属の足元の紫陽花は炎から雷へ、雷から岩へと…色とりどりに変化していく。
「そろそろ締めかな」
地面に生えていた紫陽花の花びらがわっと舞い上がり視界が一瞬紅で覆われる。
視界が開かれると狼達はそれぞれが豪華に身を包まれ姿も見えなくなっていた。さらに岩元素の結晶化や雷元素の電撃が時たま走る。
襲うどころではなくなった狼達はしばらく苦痛の声を挙げていたが、少しすると一体、また一体とこの世界から消え去っていく。
そうして周りに見える狼がいなくなったころ、火の中でも残っていた低木がぼろぼろと崩れていった。
「怪我をしているようね」
あたりに狼がいないことを確認した草神がそう言うと傷口が癒やされていく。最初は何か抵抗があったがすぐにそれもなくなり瞬く間に傷口は消え去った。
目の前に広がっていた景色を思い、しばし眷属の方角を見つめる。
「手伝ってくれて助かったよ。それじゃあ帰ろうか」
「おい、流石にそのまま帰るのはないだろ!」
「あれは何だったの?何であんな大量にいたの?」
気を取り直して眷属に問う。
眷属が苦笑いをしながら「まあそうだよね」と言い、草神が微笑みを浮かべながら話し出す。
「あれは獣域ウルブス、過去の戦争の遺物ね。世界樹や地脈の穢れに潜み、その歪みから地上に現れるわ」
「何でそれがここにいるの?」
「それはこれが世界樹の穢れを切り離したものだからね」
草神が庭先に生えた背丈ほどの黒い木を指して言う。
その木からは"何か"が感じられる。元素視覚を使うまでもなくわかるそれから、少なくともその木が普通ではないのは察せられる。
「これで良いかしら?」
「…大丈夫。現実に帰らせて」
「了解。ありがとうね」
眷属の周りへと集まった元素力が放たれ、それと同時に意識が遠のいていく─
────
「行ったわね」
夢境の中の時間の進み方は現実とある程度ずらすことができるので少しここで話し込んでも気づかれさしないだろう。
「明らかにこの木さ…」
「ええ、大きくなっているわね」
この木は僕と共にテイワットに拒絶されたが故に切り離したもの。テイワットの記録で成長することはないし、僕自身の記録を糧にしたにしては大きすぎる。
「おそらく、死域の増加が原因じゃないかしら。ウルブスが侵入したのも切り離された地脈から来たというより可能性が高いわ」
「死域か…世界樹から穢れが溢れてるんだっけ?権能で抑えたりできないの?」
「…ごめんなさい。前代の草神ならできるはずだけれど、私の力では抑えきれないわ。」
「ナヒーダが悪いわけじゃないんだから謝らないでくれよ。とりあえず確認はできたし、僕たちも帰ろうか」
「ええ…そうね──
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