二つのナツメヤシキャンディ   作:降臨してない異邦人

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4.証明

 

 

 

「どうだったかしら?」

 

「やはり確実に増えています」

 

 旅人と分かれた僕たちは死域についてティナリと村長の家の中で情報を共有していた。

 実はそもそも今日はこれが主目的の予定だった。

 

「巡回のルートにここを加えたほうが良いわね」

「ですが、これでは元素力を使える隊員の負担が…」

「ええ、その代わりここを入れ替えて…」

 

 ナヒーダに丸投げして特にやることのない僕は二人の議論を眺めていた。

 

「草神様のお力で収めることはできないのでしょうか…あっ」

 

 それはナヒーダの力不足を指摘しているとも取れる言葉だ。

 ティナリがついこぼしてしまったという風にナヒーダの顔を見る。

 

「心配する必要はないわ。必ず解決できることよ」

 

「失礼致しました」

 

 不安にさせないためか、"クラクサナリデビ"は態度を崩さずに答えた。

 

「気にしないで頂戴。今日のところはこれで終わりにしましょうか」

 

──

 

「コレイ、久しぶり」

 

 話し合いを終えた僕たちは村でコレイに話しかけていた。

 

「アルド!久しぶりだな。あ、それに、草神、様も…」

 

 僕に向かって言った後、その横に視線を向けて気まずそうに言う。

 

「ふふ、気にしなくても大丈夫よ。それより、体調は大丈夫かしら?」

 

「ぜ、全然大丈夫だ。今日だって外を歩けてるし」

 

 コレイは魔鱗病と呼ばれる未だ治療法のわからない病気にかかっている。それは最近急速に患者が増えており、対処しなくてはいけない問題の一つだ。

 

「それは外を歩けないほどの日があるって自白じゃないかな。強がらなくたって良いんだよ?」

 

 強張った顔をしたコレイの頭を権能で少し体を浮かせて撫でる。

 

「う…強がってなんかない。というか何で撫でてるんだ」

 

「まあまあ、気にしないでよ」

 

「気になるだろ…」

 

 そういうコレイだが抵抗はなく口元も緩んでいる。

 流石にそれを指摘するのは控えておくが。

 

「少し診せてくれるかしら」

 

 そんな僕たちを見て微笑んでいたナヒーダだが、少し真剣みを帯びた顔で元素力を纏わせながらコレイに手を当てる。

 

 

「私に触んな!」

 

 

 コレイがそのまま走り去っていく。

 

 

 突然のことに唖然として動けなかった。

 

 暫くして、ナヒーダが口を開いた。

 

「…魔神の残滓の影響で不安定になっているみたいね」

 

「びょ、病気と言う命の危機も合わさって咄嗟に反応してしまったんだろう」

 

 コレイは事情があって厄介な力を封印している。昔はそれで相当苦労したらしい。

 

 それより今はこの気まずさを何とかしなければ…

 

「ファデュイに捕まっていた時は実験とかもされていたらしいからね。それと身体を確認するって言う動作が類似していたの可能性もあるね。まあだから気にする必要のない事象であって…」

 

「仕方ないことだもの、気遣う必要はないわ、アルド。とりあえず体調の確認はできたから帰りましょう」

 

「わ、わかった」

 

 何でもないように微笑んで手を差し出してくるナヒーダに、僕はその手を掴むことしかできなかった。

 

──

 

 

「クラクサナリデビ様は何をしておられるのか…」「マハールッカデヴァータ様なら…」

 

 声の方に顔を向けるとさっと視線を逸らされた。

 

 街の人々の不満は溜まっている。魔鱗病という未知の病気。死域によって運送の危険が増したために上がる物価。

 そんな不満を吐き出す舞台にも教令院によって圧力がかけられているのだから、実績もない草神に不満が向くのも仕方ない、仕方ないのだが…

 

「アルド、私は大丈夫よ」

 

「彼らの感情も理解できるが…神とは威厳も必要なものじゃないかい?」

 

 ナヒーダは優しすぎる。

 悪態をつかれても失望されても彼女は民を第一に考えている。

 だから、道理を踏まえて反論する。

 

「私は統治者でも象徴でもないわ。彼らは私を必要としていない。私はただそこにいるだけよ」

 

「ナヒーダ!…じゃあ、何故そんなに民のために行動するんだ…っ」

 

「…民には死域も魔鱗病も対処できないもの」

 

「そんなの君だって!…あっ」

 

 ナヒーダの顔が沈むのを見て気づく。

 この言葉はナヒーダの努力を、意義を否定するものだ。

 

「いや、これは君だけが頑張る必要はないということで「いいわ」

 

「気にする必要はないわ。さあ、帰りましょう?」

 

 一瞬前の沈んだ顔を思わせない、神としての笑顔でナヒーダが言う。

 その有無を言わせぬ顔に、僕はなにもいうことができず、ただ帰路を歩むことしかできなかった。

 

 

──

 

「アルド、あなたの世界に帰りたくないかしら?」

 

 スラサタンナ聖処に帰っていつも通りベッドに腰掛けると、ナヒーダがいきなりそんなことを言い出した。

 

「外ではどこで聞かれてるかわからないから迂闊に言えなかったの。旅人の話からしてテイワットの外に行くことは不可能ではないわ」

 

「外に行ったって僕の世界に行けるとは限らないだろう。あの旅人も聞いたところ知らないようだった」

 

「外に行けばいつか見つけられるでしょう。それに今聞いているのは帰りたいかどうか、よ。」

 

「君と離れて帰りたい場所なんてないさ」

 

 ナヒーダは真顔で詰め寄ってくる。旅人と話をしたのはこのためだったのか。それなら申し訳ないが随分と見当違いもいいところだ。君を置いて帰るなんてありえ

「私も一緒に行くわよ?」

 

「は?」

 

 ありえない。

 

「君はあれだけ民のことを大事にしていただろう。彼らを置いていくのか?」

 

「あなたは何故私と共にいたいのかしら?」

 

「何故急に?僕の質問は─

 

「答えて」

 

「っ…!」

 

 ナヒーダの体から元素力が溢れ出る。その力と一切変化しない表情に気圧されて一歩下がってしまう。

 ひとまず質問に答えるべきだろう。この答えが重要だなんてことは誰でもわかる。下手な論理じゃ誤魔化せない。ここの正解は…

 

「君を愛しているからさ。ナヒーダ」

 

 クサい言葉になってしまったが間違えなく僕の本心だ。ナヒーダの反応は

「ふふ!愛、ね!素晴らしい答えだと思うわ。私は閉じ込められている間、たくさんの人間を、たくさんの物語を見てきた。けれど、人の感情を体験することはできなかったの。教えて頂戴、どうして愛したのかしら?

 最初に会ったから?助けられたから?協力したから?共に時間を過ごしたから?それとも同情からかしら?」

 

 ナヒーダは今までの真顔とは全く違う、外で見せる顔とも違う、歪んだ笑顔で言葉を連ねる。

 

「愛に理由なんていらないんじゃないか?それに君が知りたいのは発生原因じゃなくて個人的に内的に、どのような体験かだろう。他者の話を聞いていくら理解しても納得できるものではないはずだ」

 

「それも確かによく聞く言説ね。それじゃあ、私に体験させて頂戴」

 

 ナヒーダに手で体が押し倒され、そこにナヒーダが馬乗りになる。

 

 え、肉体的に?

 

「何か問題かしら?肉体的に強い体験は納得に繋がるものじゃないかしら。少なくとも私という個人の中ではそう思うわ」

 

「心を読んでいるのか、それは愛情の一形態にすぎないと思うが?」

 

「内的な感覚だもの。それでもそれで私は納得できるわ。愛しているのなら協力してくれないかしら?」

 

 僕のはそう言うのじゃないし、流石に倫理的に…

 

 ナヒーダの顔がサッと曇り、体が離れていく。

 

「そう、それも、理解は、できるわ。ごめんなさい、少し一人にさせてくれるかしら」

 

「待ってくれ、ナヒーダ!」

 

 ナヒーダの体が解けて草元素へと還っていく。いつか彼女は肉体はあくまで神の力で作った仮初のものだと言っていた。精神を移せるのだから肉体も再構成すれば実質的なワープも可能だろう。

 とは言え、そんなことをさせるわけにはいかない。

 

「蔓延れ!」

 

 ナヒーダを草元素のシールドで覆う。

 ナヒーダはかつてある程度は自分の意思とはいえ、精神の移動が可能にも関わらず閉じ込められていた。ならば、おそらく肉体の移動はある程度遮ることも可能なはず。

 

「おやすみなさい、アルド」

 

 しかし、その言葉と共に急激な眠気に誘われる。

 夢きょうのちからか──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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