ドリーの情報を元に神の缶詰知識を手に入れた旅団との対談の約束を取り付けた私達は約束の場所に訪れていた。
「うぅ…緊張するな」
「彼らの武力は旅人にも俺にも及ばないものだ。問題はない」
「パイモンは戦わないでしょ」
「心配なんだ!というか戦う前提かよ!」
明らかに武装した旅団のメンバーにアルハイゼンが話しかける。
「君たちが約束を守ってくれるかどうか心配だったが、信用できるようだな」
「無駄話は無しだ!野郎共、かかれ!」
旅団のメンバー達が、がアルハイゼンと私に向かって武器を向けてきて。
武器の向け方、立ち回り、連携はしっかりしていて無駄がない。複数人で少数に襲い掛かるのは慣れているようだ。
とは言え、こんなところで負ける程甘えた鍛え方はしていない。連携の隙をついて相手の懐に入り込み相手に切り掛かる。
この後情報を引き出すことを踏まえれば殺すのは得策ではない。急所を外して次々と戦闘不能にしていく。
「クソッ!イカれてやがる、ガキのくせに恐れなしに突っ込んできやがって!」
相手は周囲の味方にあたることを恐れて武器を上手く触れていない。
アルハイゼンの方に目を向けてみるがそちらも余裕がありそうだ。
「ボスが来てくれたぞ!」
奥から赤い缶詰知識を持った大男が近づいてくる。
ドリーの情報によるとあれが神の缶詰知識だ。
「うおぉぉ!」
首領の登場に戦意を高揚させた旅団メンバーたちをあしらっていると、男が缶詰知識を掲げる。すると同時にアーカーシャ端末が赤く染まり、大男が断末魔を上げながら倒れた。
「ボ、ボス!」
その様子を案じた部下がこちらに背を向けて近づいていく。
が、立ち上がった大男がその部下に対して刃を振り下げた。
「っ!」
私は風元素でその刃を引き寄せ剣で弾き飛ばす。
「いったいどうしちまったんだ!?」
ボスと呼ばれる男の唇が僅かに震える。
「世界が…私を…忘れて…」
「アーカーシャとの接続を切るぞ!」
草元素を纏ったアルハイゼンがだアーカーシャ端末を攻撃する。
火花ともに赤くなっていたアーカーシャ端末が消え、倒れようとしたところをアルハイゼンが支えた。
「目標発見!捕えろ!」
それと共に後ろからマハマトラ達が現れた。
「アルハイゼン書記官、その男を渡してもらえるか?」
「もちろんだ」
マハマトラはアルハイゼンから受け取った男を二人で拘束して連れていく──
────
「あのデカいやつ、一体急にどうしちまったんだ?」
「どうやら神の缶詰知識を使ったらしい。世界樹の知識を得ようとした学者が神の知識に触れて発狂するというのはよく聞く話だ」
「じゃあ、本当に神の知識だったってこと?」
「まあ関係があるのは間違いないだろう。とは言え噂通りに神の知恵や力が手に入るかは疑問だが」
「結局あいつもマハマトラに連れて行かれちゃったもんな。いっそなんでもない方が嬉しいぜ」
男の呟いていた言葉を思い出す。
『世界が…私を…忘れて』
缶詰知識がない今、唯一の手がかりとなるこの言葉にはどんな意味があるのだろうか?
「旅人」
アルハイゼンの言葉を聞いてひとまず意識を浮上させる。
「これで神の缶詰知識に関する協力関係も終わりだ」
「ちょっと待ってくれ、お前って教令院の人間なんだろ?神の缶詰知識の情報を得れるんじゃないのか?」
すぐに背を向けて別れようとするアルハイゼンをパイモンが引き留める。
「神の知識と呼ばれるような情報だ。賢者程の地位、もしかすれば大賢者しか接触できないようなものになるだろう。一介の書記官に回ってくるようなものではない」
「そうなのか…」
「俺は教令院に戻るつもりだがが君たちはどうする?」
「もうすぐ花神誕祭の日だしオイラたちもスメールシティに戻るか」
あの眷属が用意していたというのも気になるし、パイモンの意見に賛成だ。
「そうだね、戻ろうか」
「アルハイゼン、じゃーなー!」
「さて、急いで処理しないとな…」
────
「アルハイゼン、神の缶詰知識は取り戻したか?」
「はい、こちらを」
アルハイゼンが懐から赤い缶詰知識を取り出し、椅子に座ってふんぞりかえった男はそれを手に取る。
「ふむ、少なくともただ赤くしたものではないようだな」
「まさか、わざわざ裏切るような真似をするはずがないでしょう」
「ふん、旅人についてのレポートはまだかね?」
「申し訳ありません。花神誕祭が近く休暇の申請者が多いために仕事が滞っておりまして」
「ふん、偽りの神に唆されよって。とは言え、奴らも真の神を見れば自らの過ちに気づくであろう」
「その通りです。では大賢者様、私はこれで」
言葉にはせずとも面倒くさそうな雰囲気を背に纏わせたアルハイゼンが去っていった。
─
アルハイゼンが去って暫くした後、もう一人の入室者が現れたのを確認し、アザールは顔を上げた。
「待っていたぞ、クラクサナリデビ…約束を果たしてもらおうか?」
眷属は隣に控えていないようだ。
アザールはあえてぼやかした言い方で草神に問いかける
会議ではあのようにまとまったが、民が神の不在に気付いても、すぐに新たな神が現れるのだから。
「神の心の譲渡で良いのかしら?」
「今から説明するところだったが、知っていたか」
アザールは草神に盗み聞きされることを避けるため会議中は全員アーカーシャ端末を切断していた。そのため、この話が気づかれているからには誰か裏切りものがいたと考え、内心でその調査を考えながらも表情には出さない。
「知っていた、という表現よりはわかっていたという方が適切かしら」
「…どういうことだ?」
「教令院内の派閥、砂漠の民に対しての扇動、ここで私がいなくなっては成り立たなき動きだったもの。それでいて何か干渉をするならアーカーシャ端末に利用できる神の心の譲渡が妥当ね」
「私を見逃していたとでも言いたいのか!」
「いいえ。仮に私を封じ込めようとも、あなたがこの国の民としてこの国のために行ったことに違いない。神としてあなたの行動を咎める理由にはなり得なかっただけよ」
草神が両方の手のひらを上に向けると、そこにチェスの駒のような形のものが現れる。
そこにあるだけで草元素が溢れ出ている様から、アザールにも間違いなくそれが神の心なのだろうと察せられる。
「これで少し変わったけれど、約束は果たしたわね。あなたが大賢者として国をよくすることを祈っているわけ」
神の心を机に置いた後、そう言い残して草神の姿が消えた。
「民を救う知恵も持たぬ分際で、神気取りとは、生意気な!」
机の上に置かれた神の心を握り締め、机を叩きつけると背後から声が聞こえてくる。
「大賢者様、そう気にすることはありません。明日には新たな神の製造が完了するのですから」
いつからいたのか、烏面の男が話しかけてくる。
「草神やその眷属がいる状態で成功させられるんだろうな」
アザールは無意味だと理解しているのか、そのことは特に気にせずに言葉を返した。
「ええ、もちろんです。草神とその眷属の力は解析済み。いくら強い草元素力を持っていても彼女らが…いや、彼と彼女の力では気づくことはできません」
「くく、あの神に感化された愚か者どものせいで芸術を禁止することはできなかったが…その芸術に目を奪われている内に新たな神が生まれることにも気づかないだろう」
花神誕祭の前日、祭の準備をするものもいる中、大賢者は暗い笑みを浮かべていた。
そろそろ花神誕祭の日が近づいてきましたね
次回は花神誕祭に合わせて投稿すると思います