「ふぁ〜ぁ」
寝起き眼をこすりながら伸びをする。昨日は遅くまで準備をしていたからかまだ少し眠い。やろうと思えば寝ずに生きていける体だけど、精神による影響は大きいのだ。
先に起きていたのだろうナヒーダが目に入って、急速に意識が目覚める。
「誕生日おめでとう!ナヒーダ」
「ありがとう。アルド」
きっと今日はたくさんの人がナヒーダを祝ってくれるだろうが一番乗りは譲れない。
そう、今日はナヒーダの誕生日、花神誕祭だ。様々な人を巻き込んで準備したこの祭でナヒーダの心を癒してみせる。
決意を胸にベッドから降りてナヒーダへと手を差し出す。
「早速だけどついてきてくれるかい?」
今日は何の予定も入っていない。昔は毎日のようにセノとの戦闘訓練があったが、僕も強くなってきたことを理由に今は週に一回程度の頻度になっていた。
「ええ、喜んで」
ナヒーダが微笑みながら僕の手を取る。
特に驚きもない。僕の動きくらいは予想できていたということだろうか。それでもナヒーダなら真正面から祝われればもう少し喜ぶと踏んでいたんだが…。
いや、やはり心の傷は深いのだろう。そもそも、喜ぶだろうなんて傲慢な考えだった。今日はまだまだこれから、僕の全力をぶつけてみせよう。
ナヒーダの手を取って目的地へと向かう。
本当なら送迎でも乗り物を使ったり工夫したかったとはいえみんな一様にナヒーダを応援してくれるわけじゃないからね。
聖処から見下ろせるスメールの街はいつも通りだ。いつかこの街全体で祝える日が来るのだらうか。
少し歩いてグランドバザールの入り口までやってきた。
扉を開く前にトントン、と叩いて合図を送ると、中から合図が返ってきたのを確認してから開く。
扉の先には──
「「「誕生日おめでとうございます!クラクサナリデビ様!」」」
たくさんの祝いの言葉と共にパン!という音を鳴らして花びらが舞い散る。
これも事前に準備していたものの一つ、手作りクラッカーだ。
草原核の力を使って花びらを撒くだけの簡単な装置で、花びらはガンダルヴァー村のみんなと協力して集めたものだ。
これも元素力で作ることは考えたが、実は草神の権能を使っても花を作るのは難しい。花神誕祭の名の由来になった花神もいるのだから花はそちらが専門ということだろうか?まあ、紫陽花で花っぽく誤魔化すこともできたがそれは怠慢というものだろう。
「アルドー!」
「ハハッ、今日の主役は草神様だからね」
ガンダルヴァーの子供達も今日のお祭りにきている。
後ろの方には子供達の親も保護者としてつい来ているのが見え、少し申し訳なさそうに会釈をしてくれた。
本当はコレイやティナリにも来て欲しかったが、コレイの体調のこともあって今日は来れていない。
「みんな、ありがとう。こんなに祝ってくれる民がいることを嬉しく思うわ」
ナヒーダは同じような微笑みを浮かべて民に手を振っている。
その表情を崩すには至らなかったか…。しかし、今日はまだまだこれからだ。
ひとまず、バザールを回りながら考えよう。
入り口に近い占いの露店に向かうと、既に先客が…旅人にパイモンが女性と一緒に見ていた。
「こちらの"錬金占い"はクラクサナリデビ様が発明したと言われていて…あっ、クラクサナリデビ様!」
露店を出している学生がこちらに気づくと、旅人達も振り返ってしまう。
あんまりナヒーダが嫌な気持ちになるようなことがないと良いんだが…
「クラクサナリデビ様!お誕生日おめでとうございます!」
旅人達と共にいた女性が最初に声を上げた。
ちょっと不味いな。
彼女のことは僕も知っている。ナヒーダと共に診療所に行ったときに出会った魔鱗病の患者で名前はドニアザード。幼少の頃にまだ閉じ込められていたナヒーダが届けた声に救われたということで信仰心が強いんだが…。彼女の魔鱗病はまだ治ってない、というか悪化の一途を辿っているわけで、悪意より純粋なその言葉を聞いて罪悪感でナヒーダの顔がわずかに歪んでいたのを覚えている。
チラリとナヒーダの方に顔を向けるが、
「ありがとう、ドニアザード」
と短い言葉と共に微笑むだけだった。
杞憂だったか?いや、隠しているのか。とりあえず早くこの場を去らないと…
「おめでとう、クラクサナリデビ」
「おめでとう!」
「二人もありがとう」
旅人達も祝いの声をあげる。
あれ、前あったときはもうちょっと敵意が強くなかったか?
不思議そうにしていた僕の顔に気づいたのかジト目をした旅人がこちらに話しかける。
「私だって流石に誕生日に嫌なことはしないよ?それに、眷属…アルドが頑張って準備したって話は聞いたから。それに家族…?の絆を無駄にしちゃうのはね」
途中からどこか遠くを見つめながら旅人は優しい顔で言った。
「けど、お兄ちゃんのことは早く教えてね」
「ええ、もちろんよ。あと数日あれば調べ終わると思うわ」
旅人が今日にそこまで追及する気はなかったのかすぐに引いた。
話が終わったことを察して店主が声をかけてくる。
「クラクサナリデビ様が来たのなら先に占いした方良いでしょうか」
「気にしないで頂戴。先に並んでいた彼女達の方に先にやってもらう権利があるわ」
店主はそれでも失礼だと考えたのか、少し迷った末に声を上げた。
「そうだ、それなら二人同時にやらせていただきますね!」
「別に私はクラクサナリデビが先にやってもらって構わないんだけれど…」
緊張した様子で錬金台を扱う店主は旅人の言葉に気づかないのか、そのまま手を動かしていく。
「出来ました。結果はどちらも"月"ですね。意味は…えっと…」
「"虚幻"と"嘘"ね」
「なんだか縁起悪いぞ…」
パイモンが怪訝な顔をして、店主の方を見ているのを横目に彼女達に声をかける。
「思い出した!ただ自分の直感を信じ、心の中の恐怖を克服すれば、太陽は必ずや昇るだろう。」
占いの結果を聞き届けてから周りなら声をかける。
「それじゃあ、僕たちは他のところに行ってくるよ」
「あ、せっかくなので眷族様もどうですか?」
「確かにどんな結果が出るのか気になるね」
旅人達から寄せられる期待の目を前にして去るわけにもいかない。
「わかったわかった、僕も頼むよ」
「了解しました!結果は…"薔薇の種"です。意味は…"忍耐"と"信頼"。諦めずに周りを信じ続ければ、必ずや花は開くだろう」
今度はナヒーダに言われる前に思い出せたみたいだ。
「薔薇か…花開く前に棘に気をつけないとね。ありがとう、君たちもこのお祭りを楽しんでね」
旅人達に手を振りながら今度こそ離れる。
「"月"に、"薔薇の種"ねえ。ナヒーダはどんな意味だと思う?」
「曖昧すぎて予測可能な事象を限定するのが難しいわ」
「そんな機械みたいな堅苦しい返答じゃなくて良いんだけどな」
そうして日も暮れていき…
「やっぱり、ニィロウの舞はすごいな」
何度見ても素晴らしい。始まる前は美貌と衣装に目を引かれる…ちょっと露出がね…が、舞の最中はそんなことを考えることもできない。ただ、その一挙手一投足にただただ注目するだけだ。
「ええ、そうね」
ナヒーダはこちらに微笑みかけてくる。
僕らは花神誕祭を終えてスラサタンナ聖処にいた。
結局、彼女の表情を崩すことはできなかった。以前はもっとすぐ表情を変えていたのに。
一体何をすれば良いのだろうか?
一応プレゼントは用意しているんだが、この調子じゃなんの影響もなさそうだ。
彼女は何をして欲しいのか。あの夜言われはしたけど…あれはちょっと違うし…
僕は覚悟を決めて聞いてみた。
「ナヒーダ、せっかくの誕生日だ。何かして欲しいことはないかい?」
「…」
ナヒーダが目を閉じて考えてる…というより何か操作しているのか?草元素力がほんのりと感じられる。
「…干渉できない…とりあえず…」
ナヒーダが手のひらを上に向けると、その上に赤い缶詰知識が表れた。
「え?」
「この前、神の缶詰知識についての調査に協力を頼んだでしょう?あなたなら汚染されることなくこの知識を読み取れるはずよ」
これ普通にお仕事だな。
「…もちろんやらせてもらうよ」
まあ、ナヒーダの大きな悩みの解決につながる手がかりかもしれないから協力することは吝かではない。
缶詰知識に手を向け、その草元素力に込められた知識を読み取ろうとする。
─世界が─
普通の缶詰知識と違う
─私を─
自分の中に流れてくる
─どうか─
記憶だけじゃなくて
─忘れてくれますように─
何か
『久しぶりね』
「『ピー』」
占いについては全然調べてないんですけど、これって何か元ネタあったりします?
教えてくれると喜びます。
まあ、とりあえずこの二次創作ではこのままでいきます。