「ふぁ〜ぁ」
寝起き眼をこすりながら伸びをする。昨日は遅くまで準備をしていたからかまだ少し眠い。やろうと思えば寝ずに生きていける体だけど、精神による影響は大きいのだ。
先に起きていたのだろうナヒーダが目に入って、急速に意識が目覚める。
「誕生日おめでとう!ナヒーダ」
「ありがとう。アルド」 既視感
昨日も同じことをしなかったっけ?
──
「この前、神の缶詰知識についての調査に協力を頼んだでしょう?あなたなら汚染されることなくこの知識を読み取れるはずよ」
花神誕祭は終わった。全て光景に既視感がある。予知夢というやつだろうか?
まあ、予知夢通りならもう今日も終わる、明日また考えればよいだろう。
「…もちろんやらせてもらうよ」
ナヒーダの取り出した赤い缶詰知識を使用する。
─世界が─どうか─私を─忘れてくれますように─
ナヒーダの姿をした少女が大樹の前で呟く記憶が流れてくる。
そして記憶以外にも何かは感じる。
しかし、若干の頭痛はするが意識が遠のくのような感じはしない。
なん『昨日ぶりみたいね、アルド』だ
「なんだ!?」
飛び上がって驚く僕をナヒーダが不思議そうな目で見る。
『あら、何だとは失礼じゃないかしら?』
脳裏に思考が浮かぶ。
この感じ、ナヒーダ?神の缶詰知識には神の意識も詰まってるのか?
『うーん、50点ってところかしら?』
半分か。じゃあ、普通にナヒーダのテレパシー?
『それだと0点ね。あってるのは前半じゃなくて後半の方よ』
神の意識…?ナヒーダじゃないなら、もしかして…先代草神
『花丸満点ね。私はマハールッカデヴァータ。先代草神にして、クラクサナリデビのお母さんよ』
ナヒーダと似ていて、しかし、明確に違う雰囲気の言葉が投げかけられる。
…???
ナヒーダのお母さん???
というかなんで缶詰知識にそんな意識が???
『うーん、私も良く覚えていないのよね。私の夢境へと行くことができればわかると思い出せる気がするのだけれど…』
どうすればいけるんだ?
『あら、気遣ってくれるのかしら?優しいのね』
明らかに大事な情報を手放しにはできないだろ
『ふふ、それもそうね。とはいえ、今の私にはその空間を探し出す力もなければ入る力もないわ。そのためには神の心でも補えないほどこ莫大なエネルギーが必要でしょうね』
神の心で補えないほど…ってそんなもの存在するのか?
少なくとも今すぐに解決できる問題ではなさそうだ。
とりあえず、ナヒーダに…
『うーん、それは厳しいんじゃないかしら』
何故?もしかしたら神の心でも何かできるかもしれないし、なんにせよ共有した方が良いと思うんだが
『今の彼女…少なくとも目の前にいる彼女は、クラクサナリデビ自身ではないわ。自律思考する、人形のようなものね』
突然の言葉に一瞬思考が止まる。
そんなわけがない!今までずっと一緒にいたんだぞ!?
『あの子は私の輪廻、そこにいればわかるもの。それに、あなたは否定するのは共にいたのに気づかなかったことを認めたくないだけよ。入れ替わるタイミングは?態度の違和感は?本当になかったのかしら?』
ナヒーダの心の傷を知り、抉ってしまったあの晩のことが脳裏に浮かぶ。目の前から消える彼女。翌日からの不自然な態度。
ナヒーダにそんなことをする理由はないだろ…?
『わかっているでしょう?あの子はまだ幼い。ありえない行動ではないわ』
……わかってた、わかってたんだ。それでも浮かんでくる否定しようとする言葉ばかりを一つずつ消していく。
『あなたを責めるわけではないわ。けれど、今巻き込まれている事態の中で私は権能をほとんど使うことはできないし、あの子に頼ることもできないということをわかっていて欲しいの』
浮かんでくる言葉から逃げるように彼女の発言に飛びつく。
今巻き込まれている事態?何か知ってるのか?
『あなたの記憶を見ただけだけれど、あれは夢じゃない。間違いなく経験したもの』
同じ日が繰り返されている…?けど、それならこんな前回にはなかった会話が生まれることない筈だ。
『あなたが前回記憶を失ったのは私という記録はあなたの中の世界樹にとってあまりにも大きすぎたからよ。それは小さな袋にナツメヤシを詰め込んだような物、袋に伸縮性があったとしても伸び切ってしまうわ。けれど、一度伸びてしまえば次にもう一度入れるのは簡単でしょう?』
それならこの繰り返しで世界樹の状態は変わってないのか?じゃあ世界樹が僕が記憶を持ち越している理由か。
『そうね、もっと言えば』
「『ピー』」
唐突に意識が遠のいていく。
『これは…!』
彼女の思考も聞こえなくなっていく。
最後に、暖かな草元素力を感じて──
────
「ふぁ〜ぁ」
パチリと目を覚ましてあたりを見渡す。
ナヒーダが目に映り、その姿に何を思えば良いのか複雑な気分になる。
その気持ちを抑えて声をかける。
「禁忌の缶詰知識を貸してくれない?」
──
「世界樹の存在、そしてそのつながりを保護してもらってたから記憶が保持されていたのか」
『ええ、そうね。私はほとんど権能は使えないけれど、使い切ればそれくらいはできるもの』
グランドバザールを歩きながら考える。
この繰り返しはどうすれば抜けられるのか。
そもそも誰が何の目的でやっているんだ?
『今の私にはあなたの視界を覗き見ることしかできないけれど…時間の巻き返しなんてできる存在はほとんどいない。なら、何か別の工夫がされてるんじゃないかしら?』
工夫って言ってもな…記憶を消してやり直すとか?
うーん…
『考えるならもう少し人気のないところが良いんじゃないかしら?』
そう言われて顔を上げると、多くの目線がこちらを向いていた。
とりあえず様子を見たくて来たけど、道の真ん中で考え事なんてするもんじゃないな。
そそくさとその場を立ち去ろうとする。
「ちょっと待って」
金髪の少女に腕を掴まれる。その肩に浮いているのは白髪の…パイモン。
「何だい?少し考え事をしていただけだよ」
旅人は訝しげな目をこちらに向ける。以前話した時よりもその瞳には幾分か険を感じる。
「クラクサナリデビはどうしたの?」
「まあ色々あってね。君には関係ないだろう?」
あの人形とどう話せば良いのかもわからない僕は缶詰知識を返して話もそこそこに外に出ていた。
しかし、何で旅人がそんなことを?
「そう」
短い返答だが旅人の瞳には今度こそはっきり嫌悪が籠る。
そのまま彼女は振り返って立ち去ってしまった。
『彼女は前の回では家族を重要視しているようだったもの。それを雑に扱っているように感じたのではないかしら?』
ああ、なるほど。そんなことを言われてもな…まあ、また繰り返されるなら忘れるから気にしなくて良いだろ。
『アルド、そういう考えは良くないわ。人の気持ちを軽んじるようなことが癖になって仕舞えばこの後のあなたにも良いことはないはずよ』
わかったよ…。
それでこの空間はどういうものだと思う?
『私にも確かなことは言えないのだけれど、夢境に近いんじゃないかしら』
夢境?ナヒーダならそれこそやる理由がないだろう。
『ええ、だからあくまで検討すべきものの一つよ』
まあ確かめていくしかないか。
記憶の削除に、夢境ね。
どちらにせよテイワット全土に渡るようなものは無理があるんじゃないか?
『そうね、あなたの夢境みたいに近くの風景だけ映し出す形式ならともかく、たくさんの人間がいては厳しいんじゃないかしら』
ゲームの読み込みみたいだな…
NPCって可能性もあるけど、それは違うか。
近くを歩く人にナヒーダがするように指カメラを向けると、その人の考えが伝わってくる。
これはナヒーダに教えてもらった技術だ。草元素力を通した物だから自分より強い草元素力の持ち主には…要するにナヒーダには弾かれてしまうが基本的にどんな人でも意思があれば見ることができる。
はあ、ナヒーダは今どこにいるのかな…
『ひとまず、スメールシティの外を調査してみたらどうかしら?』
そうだな─
────
あれ、前回はどうしたんだっけ?
『スメールシティの外に出た後の記憶が曖昧ね…』
前回と同じく缶詰知識だけ受け取って、今度は人目のない街の端に来ていた。
とりあえず、テイワット全土に干渉するような物ではなくスメールシティに限ったものだということがわかった、分一歩前進と言ったところだろうか。
結局どうすれば抜け出せるんだ?
『もし夢境ならこれだけの大人数の世界を同時に維持するならその主は中にいるはずよ』
うーん、一人ずつ話を聞いていくしか…
『効率は最悪だけれど…特に検討の材料もないもの。それが最良ね』
「そこの方、お話よろしいですか」
「おや。守護者様、草神様はどうしたのですか?」
「対処しなければいけない問題が起きてしまいまして、それに関連して聞き込みを行っているんです」
「わしのような老骨でよければいくらでも話しましょうとも」
──
「ありがとうございました」
「いえいえ、花神誕祭と言いますのに草神様も守護者様も国のためにありがとうございます」
「…」
静かに去っていく。その背中にはもう赤く染まり、夕日が出ていることがわかる。
結構疲れたな…
『あら、楽しそうに話していたじゃない』
どこから聞けば良いのかわからなくて話し込んじゃったんだよ…
心を読むのも慣れてないから結構疲れた…
『この調子だともう一人聞くのは難しいかしら?』
いやいやそれくらいは
『疲れというのは自分にはわからないものよ。精神的なものなら尚更ね。ニィロウのステージを見に行ったらどうかしら』
厳しいところもあれば優しいところもあって、まるで…
まあ、お言葉に甘えておこうかな。
──
「怪しいところ?特にはないですね。ところでうちの店では…」
──
──
「クラクサナリデビの眷属に話すことはねえ!」
──
──
「草神様が民に聞くようなことがあるのですか?」
──
──
──
──
たくさんの人と話した。
ナヒーダのことが好きな人もいた。こちらを嫌っていたみたいだけれど話してみればわかってくれる人もいた。武力でのお話が最初に必要な人もいた。
疲れたな
花神誕日中に終わるかなとか言っていた自分へ
全然無理。