二つのナツメヤシキャンディ   作:降臨してない異邦人

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3.ティナリ

 

 

 

 目を覚ますとベッドの上にいた。

 

 ぼーっとしていると声がかかる。

 

「よかった、起きたんだね。」

 

 大きな尻尾のついた人だ。見上げると、意識を落とす直前に見た大きな耳が視界に入った。

 

「こんにちは、アビディアの森所属のレンジャー長、ティナリだ。雨林の生態系や入林者の安全を守るのが仕事さ。

 君の名前はなんていうのかな?」

 

 ここで普通に前世の自分の名前を言っても良いのか。小説とかだとここで新たな名前を…という展開なのではないだろうか。

 

『別にあなたの名前を伝えてもそこまで問題にはならない思うけれど…気になるなら、新しい名前を名乗っても良いんじゃないかしら。』

 

 それなら、せっかく転生したんだし、新しい名前で心機一転と行こうかな。

 

 …どう考えれば良いんだ?

 

「急がなくて大丈夫だよ?時間がすべてを解決してくれるからね。」

 

 黙りこくっている僕にそう言ってくれるティナリ。

 

 可愛らしい容姿に反して少し落ち着いた低い声。アルトボイスというやつだ。

 

「何か事情があるのかな…」

 

『そろそろ答えた方が良いんじゃないかしら?』

 

「えーっと…アルドだ。」

 

 アルトボイスに引っ張られてしまった…。

 まぁ、名前なんてものは識別記号にすぎない、気にしないでいこう。

 

「アルドというのか。良い名前だね。どうして君はあそこにいたのかな?」

 

「いやー、それがわからなくてね、寝ぼけていたのかな。ハハハ…」

 

 正直に答えをいうべきか?

 異世界から転生してきました。実は男なんです。

 いやいや、ありえないか。

 

「近くには誰もいなかったけれど、お母さんやお父さんは一緒じゃなかったのかな?」

 

「両親か…どうだったかな…。」

 

 両親は二人とも死んでいる。大学も卒業して、久しぶりに家に帰ろうかと思っていた矢先の話だ。

 二人揃って交通事故で死に目にも会えないまま居なくなってしまった。

 この世界の両親っているのか?

 

 難しい顔をしていたティナリが口を開く。

 

「それじゃあ…そばにいたヒルチャール。あれは君がやったのかな?」

 

 

 

 その言葉に急に現実が遠のいていく。

 

 目の前の存在が自らを裁く裁判官のように見える。

 

 心臓の鼓動が早まる。

 

 動悸がする。

 

 頭が重い。

 

 

「大丈夫かい!?無理をする必要はないからね。」

 

 かけられた声にはっとする。

 

「全然大丈夫だ。気にする必要はないよ。」

 

 全身にべっとりとまとわりついた汗の感覚を誤魔化す。

 

「そうか…。しばらくここでゆっくりしていくと良いよ。

 ところでご飯を作ったんだけど、お腹は空いてるかな?」

 

 転生してからそこまでお腹が空いてない。とはいえ、この世界での食事は見てみたい。

 

「ありがとう。せっかくのご好意だ。いただけるかな。」

 

「それじゃあ持ってくるから少し待っててね。」

 

 ──

 

 ティナリの立ち去る姿を見届けると部屋に沈黙が広がる。

 

 ……

 

『ごめんなさい。辛い思いをさせてしまって、私のせいね。』

 

 いやいや、気にすることはない。僕が弱かったというだけさ。精神的にも物理的にもね。

 自分がこんなにナイーブな人間だったとは驚きだね。

 

「ハッハッハ」

 

 口から可愛らしい、それでいて乾いた笑い声が出る。

 

『…』

 

 それにしてもこれからどうしようか。ずっとこの村にいるのかい?

 

 どんよりした空気をなくそうと、無理やり話題を変える。

 

『そうね、商団の馬車にでも乗せてもらってスメールを出ましょう。そのあとは"自由の国"モンドに行くのが良いかしら。そうすれば好きに暮らしていけるはずよ。』

 

 好きに暮らす?僕を転生させたのには特に目標はないんだね。

 

『…ええ』

 

 まあ良いか。前世では脳梗塞でも起こして死んだんだろう。あまりに医療に詳しくないけれど、最近実験で相当徹夜が続いてたからね。こんな魔法みたいな世界で生きていけるならそれ以上は望まないさ。

 

 そんなことを考えていると、ティナリが戻ってきた。

 お楽しみのご飯は…

 

「はい。どうぞ。」

 

 真っ白いお米。水分を多く含んで光沢を放っている。

 お盆に一緒に置かれたスプーンを使って口に運ぶ。

 ほのかな塩味が引き立つ、優しい味だ。

 

 …お粥かぁ。

 

 別に嫌いなわけじゃないんだけどさ。異世界ってこう…あるだろ?

 お米があるのは嬉しいけどさ。

 

「口に合わなかったかな?」

 

 大きな耳を横にして、優しい顔を申し訳なさそうに歪ませるティナリ。

 

「まさか!信じられないほど美味しいよ。」

 

 せっかく出してもらっておいて失礼なことを考えてしまった。その態度を挽回するためにも口にかきこんでいく。

 

「こら!ゆっくり食べないとだめだよ!やけどしないよう気をつけて食べてね。」

 

 怒ったような顔だけれども、ピンと立った耳は嬉しそうだ。

 そんな様子に頬を緩ませながらお粥を食べすすめて行った。

 

 

 

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