二つのナツメヤシキャンディ   作:降臨してない異邦人

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9.ファデュイ

 

 砂漠は広い。

 一夜で越えることなどできないので、ナタへ向かう商団は何回か野営をしながら行かなければならない。

 

「嬢ちゃん、うまいか!」

 

「ああ、塩の具合が逸品だね。」

 

「そりゃあ良かった!この味が苦手だったら砂漠は耐えられないからな!」

 

 当然、僕たちもその例外ではないので野営をしていた。テキパキと作業していく姿を特に手伝うこともできず見ていた僕はそのまま食事をもらっている。

 

「特に手伝ってもないのに食事までもらって申し訳ないね。」

 

「何、可愛い嬢ちゃんと一緒に食事できるだけで儲けもんだ。お前らもそうだろ!」

 商隊全体から「ガハハハ!」「そうだそうだ!」と声が上がってくる。

 

 商団はそこまで人数は多くないがにぎやかな雰囲気だ。

 騒がしいけれどどこか心地よい人たちだ。

 

「あちらに人影が見えるがどうする。」

 商隊にやとわれている護衛が商人に話しかける。

 

 言われた方向を確認すると、暗い砂漠の中でこちらに向かってくる人影が見えた。

 

「一人なら宝盗団ってわけでもねえだろう、ひとまずは話してみるか」

 

 少ししてその人影はこちらにたどりついた。

 明るい茶髪に頭にかかる仮面の男、なかなかに印象的な姿だ。

 

「何の用だ?砂漠で迷っちまったって格好には見えねえが...」

 

 商団の中にもピリピリとした雰囲気が広がっている。

 そんな雰囲気を意に介さずに男は軽薄そうに答えた。

 

「そう警戒しないでくれよ。少し探し物があるだけなんだ。」

 

「探し物?」

 

 男は僕に顔を向けていった。

 

「その子を渡してくれないかい?」

 

 まさかこいつは…

 

 護衛達が武器をとる音が聞こえる。

 

「ハハッ、良いね!ファデュイ執行官第十一位、「公子」タルタリヤ。

行くぞ!」

 

 ファデュイを名乗った男は護衛達に襲いかかる!

 

 商人達は逃げ出していく。

 護衛たちは前衛と後衛に分かれ、チームワークを生かして戦おうとした。

 しかし、いつの間にやら短剣を構えた「公子」は前衛の護衛は数合のうちに打ち倒し、短剣を弓へと形を変え、後衛を射つ。

 圧倒的な実力差を前にして護衛たちは死んではいないものの、もう動けなさそうだ。

 

「君は何もしないのかい?」

 

「そんなわけないだろ!」

 

 根を伸ばして足を絡め取らんもするも、素早い身のこなしでかわされる。

 

「そんなものか!」

 

 かわした体勢からそのままこちらに矢を射ってくる。

 

「ツッ!」

 

 根から意識を離し、地面から木を生やして矢を防ぐ。

 草元素力をばら撒いて草原核を生みながら後ろに下がる。

 

「逃げられるかな!」

 

 弓を剣へと変えてこちらに迫る。

 

 計画通りだ。

 

 指カメラを作り、「公子」の全身を収める。

 

「蔓延れ!」

 

 ばら撒かられた草元素力がその形を変える。

 つたとなり「公子」の全身に絡みつく!

 

「なっ!」

 

 突然に現れたつたに流石に体勢を崩す「公子」

 

 その隙に近づいて、拘束を強めようとする。

 

 しかし

 

「ハハッ、面白い!」

 

 声と共に「公子」の体から雷が迸り、つたが焼き焦げる。

 

「雷まで、ツッ!」

 

 雷元素に反応して草原核からつたが雷を纏って飛んでくるのを、咄嗟に生やした木で防ぐ。

 

「元素は強いけど、経験が足りないな!」

 

 その一瞬で距離を詰め、雷の槍でこちらを襲ってくる。

 

 地面から木を生やすのは間に合わない。手元で草元素を固めて枝を作る。

 

「力もね!」

「グハッ!」

 

 なんとか槍に枝をあてて逸らそうとするも、体格差ゆえかそのまま弾き飛ばされて地面に転がる。

 

「楽しかったけど、これでおしまいだ。」

 

 「公子」が水の矢を構えるのが見える。体勢は崩れてるが、矢が飛んできたら防ごうと元素力をいつでも使えるよう構える。

 

「星海遊鯨!」

 

 しかし、その備えは無意味だった。

 

 ザパァンッ

 

 足下から現れた巨大な鯨に飲み込ま──

 

 

──

 

「これ生きてるかな…」

 

「公子様ー!」

 少し遠くからファデュイの一隊が現れる。

 

「遅かったから先にやっちゃったよ」

 

「公子様が作戦を無視して飛び出していったんでしょう!」

 

「まあまあ、落ち着いて。念の為この子を回復してあげられる?」

 

「瀕死じゃないですか!」

 水元素の使い手はそう言いながらも慣れた手際で回復させていく。

 

「ハハッ、死んでなくてよかった。それじゃ、「博士」に文句を言われる前に帰ろうか」

 

「はぁ…」

 

──

 

「痛たたた」

 

 全身に痛みを感じながら目を覚ました。

 

 

 ここは格子がはめられていて牢屋のような場所らしい。緑のシールドのようなものが部屋全体を覆っている。不思議な匂いがして、頭がくらりとする。

 

「目覚めたようだ。」

 

 格子の奥からカラスのような仮面をつけた水色の髪の男が声を出す。

 

『アルド!』

 

「ナヒーダ!どうして急に話さなくなったんだ!」

 

『それは──』

 

「君に聞きたいことがある。」

 男はそう言って一枚の写真を出す。

 

 そこに写ってたのは僕。前世の僕の目を閉じた姿だった。

 

『─!』

「なんでここにそれが!」

 

「ふむ、本当にそうだったか。君はその神に殺されたのだよ。」

 

「は!?」

『アルド、』

 

「君はこの世界に体と共にやってきた、だが、ただの異邦人にすぎない君はこの世界に阻まれてしまったのだよ。」

 

 男は芝居がかった調子で話をつづける。

 

「私たちはそんな君をこの世界に繋ぎ止めるために、地脈というものに君の魂を結びつけた。」

 

「しかし、その神は不純物があることに気づいてしまった。そうしてその神は君の魂を切り離した。」

 

「君の体を保護をしていた私たちは驚いたよ。急に魂が抜けて動かなくなってしまったのだから。」

 

「信じられるか!ナヒーダ、どうなんだ!」

 

『…彼の言っていることは本当よ。け』

 

「け?」

 

 ナヒーダから伝わってくる思考が唐突に途切れる。迷ってるような感覚もなく、急に何もなくなってしまった。

 

「ナヒーダ?」

 

 

「神は都合が悪ければだんまりだ。けれど、私は君を助けたい。もしかしたら元の世界にも返せるかもしれない。協力してくれないかね?」

 

 正直、誰も信じられない。頭もよく回らない。けど、手を差し伸べてくれるなら

 

「わかった。何を、すれば?」

 

「君が何かする必要はない。今は疲れているだろう。ゆっくりと休むと良い。」

 

 つい先ほどまで意識を失っていたというのに瞼が重い。

 僕はその言葉に従って再び意識を手放した──

 

──

 

「「博士」、なぜあのようなことを?」

 

「わざわざ草神の意識を解放し、説明してやったことについてかね?」

 

「あの部屋は草神の封印を参考にして作ったものだ。全てを再現することはできなかったが、草神の権能の影響は受けない。草神からの接触を絶った以上、もうリスクを犯す必要はなかっただろう」

 

「意識を封じたのは草神のみ。あれの意識も封じるまで、草神と同様の権能を持っていればやろうと思えば意識を接続できる可能性があった。」

 

「だからわざわざ思わないようにする必要があったと」

 

「幸いにも薬で思考を緩めて少し誘導するだけですんだがね」

 

「草神の意識を封じる装置を作ったのは我々ではないからな。確認の必要があったのだ。」

 

「私たちは共に同じ目的を目指す協力者だろう?気にすることはない」

 

「そうだな。共に真の神の創造のために──」

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