第1話『悪魔の王子と悪魔狩り』
深夜、
サーチライトが辺りを照らす中、廃材の影にスーツ姿のポニーテールの女性──
埠頭エリアには自分を指すNのマーカーと、ターゲットとなるDのマーカーが複数検知された。
腰に着けたホルスターから光線銃を抜いて物陰から飛び出すと、彼女は目の前の怪人たちに銃口を向ける。
「対象の『悪魔』を確認、これより掃討します!」
刹那、埠頭にはびこっていたハエ型の悪魔──フライマギーたちの身体が光弾に貫かれる。明日海の奇襲によって反撃の隙も与えられず、1人また1人と爆散していく。わずか10分足らずでフライマギーたちは為す術なく撃破された。
「よし! 見たか!」
明日海は光線銃をしまってガッツポーズする。意気揚々と通信装置を操作し、ディスプレイに表示される包帯の男に先程の戦いを報告しようとする。
「こちら苗村、あっいや……Nです。先程ハエの悪魔を──」
「はいストップ」
明日海の背後から突如、ヒッピー風の男が現れて彼女にレトロチックな金色の鍵を突き刺す。そのままぐりっと右に90度回転させると、明日海の体から黒いオーラが飛び出す。
「最近ハエちゃんやられてると思ったらお前の仕業か、やられたねえ」
オーラはサメ型の怪人シャークマギーに変化すると、雄叫びをあげて海に飛び込んだ。
ヒッピー風の男──バッピーはその場にへたり込む明日海を放って、陽が登る前に埠頭エリアから去っていった。
「
9月初旬。市立逢魔アイランド高校の保健室にて。
右目の黒い眼帯を直してベッドのカーテンを開けると、学級委員長の
「待って清嶺さん! おれ……」
優希人の言葉を聞き、彼女は立ち止まる。
「えっと……いつも荷物持ってきてもらうの悪いからさ。だから……実はおれの家喫茶店なんだ! 今度コーヒーサービスするよ」
「……気にしないで。その、委員の仕事しただけだから」
「ああ、そっか。そうだよね委員長だし」
「後、私コーヒー苦手なの」
花蓮は振り向くことなく保健室から出ていった。
優希人も後に続いて出ようとすると、入口の近くで爪を切っているドレッドヘアの男子生徒に呼び止められる。
「物好きだねえ、まさかタイプが清嶺花蓮とは」
「そ、そんなんじゃないよ
頬を赤らめて俯く優希人に、
「彼女は海浜公園の駅前にあるスーパーでバイトしてる。もしかしたら今日シフトかもな」
「まさかとは思うけど君、清嶺さんの──」
「冗談じゃないね。俺はこの学校の情報通、ただそれだけさ」
一也はお手製の名刺を花蓮の写真と一緒に優希人のポケットにねじ込むと、彼の肩を強引に押して保健室から出ていかせるのだった。
高校の最寄り駅から2つ離れたところに、花蓮が働くスーパーがある。学校からはかなりの距離があるものの、優希人は結局ここに来てしまった。
「……おれ、ストーカーだよな。これ」
優希人が入口付近でしどろもどろしていると、通信装置を頼りにシャークマギーを捜索していた明日海が背中にぶつかってしまう。
「痛っ、ごめんなさい前見てなくて」
「ああ、こちらこそ道を塞いでしまってました」
明日海は平謝りして頭を抱えたまま店内に入っていく。おぼつかない足取りだったが、優希人はそれに気づくことなく再び考え込んでしまう。
その間もなく、店の中からシワシワのエプロンを着た青年が出てくるや否や優希人に掴みかかった。
「お前だな? 花蓮をストーカーしてるって奴は!」
「いやそんな! 違う、とは言いきれないというか、いやでもそんな犯罪行為はやってません!」
「嘘をつくか、この人間のゴミ!」
青年は優希人を近くのリサイクルボックスに叩きつける。優希人は冷静に手をあげ、青年の胸元にあるネームプレートを確認する。
「落ち着いて、えっと……
「あ? よく見たらお前……何だ、厨二病の黒裂か。相変わらずこんなもん付けやがって」
優希人はすぐさま右手で顔にできた洞を隠すと、彼を突き飛ばしてゴミ箱に向かう。震える手で眼帯を付け直す優希人に、蛭屋は薄ら笑いを浮かべて腕を組む。
「こんな事で取り乱すとは、男の風上にもおけないな。まあストーカーなんぞ女の腐ったような──」
その時、店の方から悲鳴が上がった。優希人は蛭屋を押しのけて店に入ると、そこではシャークマギーとフライマギーの群れが人々を襲って店内中を荒らし回っていた。
「なんだよあれ……花蓮はどこだ!?」
優希人が呆然としていると、蛭屋も遅れてやってくる。
花蓮はレジの中で蹲っていたが、フライマギーの1人に見つかってしまう。抵抗虚しく首を絞め挙げられる姿に、優希人は思わず近くのカゴを持って走り出していた。
「やめろ! 清嶺さんに!」
勢いをつけてフライマギーの後頭部を殴ると、拘束を解かれた花蓮を抱きかかえて入口まで走り抜ける。目を瞑ったままの彼女に声をかけ肩を叩いてみるも応答がない。
彼女を連れて逃げようとしたのもつかの間、店の遠くの方から子どもの叫び声が聞こえた。
「誰か取り残されてる……蛭屋くん──」
蛭屋に花蓮を任せようと思っていたが、彼の姿はどこにも見当たらない。蛭屋は道路を挟んだ向こう側の方へ既に去っていた。
優希人は駐輪場の陰に彼女を隠してスーパーに戻ると、売り物のホウキを片手に取り残された子どもの救出に向かった。
暴動の最中、明日海は光線銃の銃身をスライドして剣に変形させてフライマギーに果敢に立ち向かっていた。
「体が重い、それに数が多すぎ!」
スーパーにいるフライマギーは、明日海が埠頭で戦った数の倍以上いる。それに加えて、彼女自身から生まれたシャークマギーもいる。
シャークマギーは地面を海のように見立て、背びれだけを彼女に見せながら地面を遊泳している。時折地面から飛び上がって彼女を攻撃し、再び地面に隠れてジリジリと追い詰めていく。
「銃が使えればまだマシなのに」
明日海は未だ店内で逃げ惑う人々、そして自身の後ろでへたりこんでいる少年に目を向ける。フライマギーやシャークマギーから彼を守りつつ突破口を探しているものの、状況は追い詰められていく一方だ。
「はああああ!!」
すると、優希人がホウキを槍のように構えながら明日海の前に現れる。柄の部分でフライマギーの背中を突き飛ばし、彼女の隣に立って穂先を敵に向ける。
「君はさっきの!」
「おれも手伝います! こんな事しかできないけど」
「大した自信ね。でも、こいつらを倒すよりあの子をお願い!」
優希人は少年に気づくと、ホウキをフライマギーの顔目掛けて投擲する。少年を背に乗せて店員用の通路に抜けると、明日海は剣を構え直してマギーに立ち向かった。
フライマギーを椅子にしてその様子を見ていたバッピーは、売り物のスナックを平らげると地面に向かって金色の鍵を突き刺す。すると地面に扉が生成された。
「フォウ!」
鍵を回すと扉が開き、バッピーとフライマギーは搬入口に逃げた優希人の前に瞬間移動する。バッピーは下敷きになったフライマギーから退くと、鍵をくるくると優希人に突きつけながら寄っていく。
「スペシャルゲストは、お前の悪魔に決定!」
「悪魔? 何を言って──」
「問答無用、デビルトライ!」
バッピーは優希人の胸に鍵を突き刺し、右に90度回してみせた。すると優希人の体から黒いオーラが発生し始める。
「さあ出てこい! 何の悪魔が……」
しかし、オーラは黒から赤、青に黄色とさまざまな色に変化していく。やがてその変化と共に優希人の体から衝撃波が放たれ、バッピーは後ろにあったダンボールの山に吹き飛ばされる。
やがてオーラは優希人の腰に集中し、それはベルトのバックルの形となった。正面には縦開きの銀色のゲートのような装飾が、側面にはそれぞれ何かの差し込み口と鍵穴が備えられている。
【デビルゲート】
「これは……」
優希人は少年を事務所の机の下に隠れさせると、プリンの絵柄が描かれた紙切れを握らせる。
「すぐ戻るからここで待ってて。それと、さっきの事は内緒ね」
少年の頭を軽く撫でると、事務所を飛び出して搬入口の前に立つ。扉越しには明日海がマギーたちと戦闘を繰り広げており、遠目から見ても疲弊している様が分かった。
「何故か分かる……この力の使い方」
今一度優希人は辺りを見回し、店内に人気がないことを確認する。
「やってみよう……!」
優希人はデビルゲートの右側に付けられたホルスターから小型ナイフ『イグナイフ』を抜き取ると、左の掌に傷をつける。イグナイフが優希人の血を吸い取ると、それをデビルゲートの右側面に差し込んだ。
【エンゲージ】
続けてデビルゲートの左側に付けられた鍵束から1本の赤い鍵『デビルデビンキー』を取る。キーの持ち手には角のマークが刻まれており、デビルゲートの左側に刺すと赤黒い波動がゲートから発生した。
【セット・デビル】
デビルゲートの内側からドンドンと扉を叩く音がする。それは優希人の中にいる誰かが、早く自分を解放しろと主張しているようだった。
ダンッ、ダンッとはやし立てる何かに追い立てられるように、優希人は右手で小気味よく胸を2回叩いた後に指を鳴らした。
「変身!」
優希人がデビルゲートに刺さった鍵を回すと、銀色のゲートが勢いよく展開する。中からは赤黒い筋肉の両腕が飛び出し、奥に光る血走った1つ目からドクドクと赤い血が溢れ出した。
【オープン・ユア・ハート】
【デビルフォーム】
優希人の身体を赤い血が覆うと、彼を一瞬にして異形の存在に変化させた。
黒いアンダースーツに赤の鎧、頭部には曲がりくねった2本角、背中には小さな翼が生えている。そして首から湧き出た少量の血が右目を覆うと、それはドクロの形をした眼帯になった。
扉の窓にうっすら映った自分の姿を確認した優希人は、ドクロの眼帯をさっと撫でると勢いよく外に飛び出した。
明日海とマギーたちの戦いに乱入した異形は、搬入口を飛び出してすぐにシャークマギーの不意打ちを受けた。
右腕にかぶりついたシャークマギーはそのまま食いちぎらんとするも、直後に異形はマギーの頭部に左肘を打ち込んだ。異形はそのままマギーに浴びせ蹴りを食らわせると、シャークマギーは再び地面に潜ってしまった。
「お前は……悪魔?」
明日海は剣の切っ先を異形に向けて問いかける。異形は顎に手を当てて唸るが、思いついたように指を鳴らしてみせる。
「おれは……デビンス」
「デビンス?」
「7つの魔物を従える、悪魔の王子」
異形──デビンスが名乗りをあげると、左側にかけられた7つのデビンキーがキラリと輝いた。
直後、壁に張り付いていたフライマギーが右側から飛びかかってくる。
「っと! 危ない」
デビンスは顔を傾けてフライマギーの腕を掴むと、背負い投げで反撃してみせた。立て続けにデビルゲートからイグナイフを抜き取ると、マギーの脳天目掛けて一突きめ仕留めた。ビクビクと痙攣するフライマギーからナイフを抜き取ると、軽く振って緑の体液を払い落とす。
「さあ、覚悟はいいかな?」
デビンスはイグナイフを逆手持ちし、数体のフライマギーに問いかける。
フライマギーは口から光弾を浴びせてくるが、デビンスはそれらを避けるかイグナイフの刃で跳ね返すかで対処していく。
ゆっくりと近づき、ナイフの間合いに入ると懐に飛び込んで胴に深く突き刺す。崩れるフライマギーを盾にして光弾を受けきると、亡骸を仲間に投げ渡し、まとめて赤い斬撃波で撃破する。
「これでお前だけだ。鮫の悪魔」
デビンスはイグナイフを投擲し、柱に隠れていたシャークマギーの額に深く突き刺す。飛び出したシャークマギーはナイフを手で払い除けると、腕に生えたヒレ型のカッターでデビンスに切りかかる。
「これはまずい。借りますよ」
「えっ、ちょっと!」
デビンスは明日海から銃剣武器『ハントガンブレード』を奪い取ると、銃モードに切り替えて赤黒い光弾を放つ。
デビンスの影響を受けて多少性能が向上しているものの、シャークマギーは勢いが衰える様子もなく襲いかかってくる。
カッターがデビンスを切り裂く刹那、彼は武器を剣モードに切り替えてシャークマギーの胴に斬りかかった。振り向きざまに背中にもハントガンブレードで斬りつけ、体重を乗せて蹴りつける。
「中々いい武器。1つ貰えませんか?」
「早く返しなさい!」
「それは残念。名残惜しいですが」
再び銃モードに切り替えてシャークマギーに弾幕を張ると、ハントガンブレードを置いて床に落ちていたイグナイフを回収する。
放たれた光弾は全弾命中し、続けざまに攻撃を受けていたためにシャークマギーは弱りきっていた。
「さあ、お休みの時間だ」
デビンスはイグナイフをデビルゲートの右側に差し直すと、デビルデビンキーをもう一度回した。するとその瞬間、デビルゲートの向こうにある目が強く輝く。
【デビルストライク】
さらなる力を解放したデビンスは、右脚に紅蓮の炎を纏わせる。ドクロの眼帯に火が燃え移ると、燃え尽きた向こう側から赤い閃光が走った。
それを合図にシャークマギーに向かって走り出すと、ジャンブした後に回し蹴りを放った。
「ラァッ!」
必殺の蹴りは、イグナイフで付けたシャークマギーの頭部の傷に命中する。
デビンスは着地した後、シャークマギーに背を向けてまた指を鳴らした。
「では。良い夢を」
シャークマギーは炎の柱を立てて爆発四散し、その爆発は地面に吸い込まれるように収束していった。
戦いから一転、静かになったスーパーに取り残されたデビンスと明日海。デビンスは足音を立てずに入口の駐輪場に向かうと、隠していた花蓮の安否を確かめようとする。
そこには頭を抱えて起き上がる花蓮と、いつの間にか戻ってきていた蛭屋の姿があった。
「起きたみたいだね。大変だったよ、さっきまで化け物がいて」
「そう。何も覚えてないけど……」
「もう大丈夫だと思う。いつでも頼ってくれよ、守ってやるから」
思わずイグナイフとデビルデビンキーを抜き取ろうとするが、チャキッと銃を構える音がした。振り返るとそこには、ハントガンブレードを構えて息を切らす明日海の姿があった。
「まさか、このまま逃げるつもり?」
それに気づいた蛭屋は、デビンスを指さして声を荒らげた。
「化け物め、まだ生きてやがった! 逃げよう花蓮!」
蛭屋は花蓮の手を引いて去っていく。デビンスの右目に眼帯が再生成されると、彼は明日海の方を向き直って馬の顔が描かれたデビンキーを見せる。
「おれも、逃げさせてもらいますよ」