続けて第2話をどうぞ!
戦いの後、デビンスは馬の顔が描かれたデビンキーを取り出して自動ドアのガラスに差し込む。右に90度回すと、ガラスの向こう側が歪み出して1頭の一角獣が飛び出してきた。
その一角獣『ユニコーンマギー』の背にデビンスは飛び乗ると、指を鳴らして搬入口の方を指す。
「事務所に子どもが隠れています。保護してください」
「子ども……?」
「それと、押し付ける形で申し訳ありませんが後始末をよろしく」
ユニコーンマギーはデビンスを乗せて自動ドアを破壊すると、逃げていた花蓮と蛭屋を抜いて県道を駆けていく。花蓮はユニコーンマギーが走り抜けた風を受けて立ち止まると、夕日に向かっていくデビンスの背中に思わず目を奪われていた。
ひとしきり街中を走ったデビンスは、人気のない地下通路に逃げ込んでユニコーンマギーから飛び降りる。ユニコーンマギーはそれを確認すると、地面にできた水溜まりに吸い込まれるように消えていく。
「ありがとうユニコーン」
デビルゲートからイグナイフとデビンキーを抜き取ると、優希人は変身を解いて地下通路から出ていった。
腰に出現していたデビルゲートはいつの間にか消失していたが、優希人の手にはイグナイフとユニコーンデビンキーが握られている。先ほど変身の際につけた切り傷も元の状態に回復していた。
「そろそろ帰らないとな……引換券、なんて説明しよう」
時刻は19時を回ったところだった。県道に沿って高層ビルの前を通り過ぎ、高校が見えると下校中の運動部の生徒に紛れながら帰路につく。
駅から近いマンションの1階にあるカフェ『グレース』に入店すると、バケットハットを被った男性が暖かく出迎える。
「おう、お帰り」
「……ただいま伯父さん」
グレースの店主・
「何だよ浮かない顔して。学校で何かあったか?」
「ううん。ちょっと疲れただけ、いただきます」
「あいよ」
赤井は店内のテレビを付け、冷蔵庫から出したビールとナッツで晩酌する。ふと今日の戦いのことを思い出した優希人は、リモコンでいくつか番組を変えて事件が報道されてないかを確認する。
幸か不幸か、優希人が見た限りではメイン局ローカル局共に先程の戦いを報じていなかった。流れていたのはバラエティ番組や再放送の時代劇ばかりだ。赤井は優希人の突然の行動に呆気にとられていたが、引きつった笑いを浮かべつつも自分の好きな女性アイドルグループの冠番組に戻す。
「見たい番組は、特にない感じか?」
「うん。ごめん急に番組変えて」
「いいっていいって。それより冷めないうちに食べてくれよ」
デビンスとマギーが争ったスーパー、そこに張られた規制線の向こうでは白い化学防護服を着た特殊部隊が集っていた。スーパーに残ったマギーの体液などの遺留品を回収し、噴霧器から特殊な洗浄液を放射して残骸を処理する。
特殊部隊の清掃に立ち会っていた明日海の元に、サングラスをかけた銀髪の男がやってくる。
「ずいぶんと派手に暴れたようだな」
「平良先輩……いつから日本に?」
「1時間前にプロフェッサーの指示で招集された。これをお前がやったのか?」
「いえ。デビンスと名乗る悪魔が」
「デビンス?」
「恐らくベルズィーズの一員かと」
零吾はまたしてもため息をつくと、懐から紙パックのオーツミルクを取り出して一気に飲み干す。
「記憶処理は任せろ。新人のうちは、面倒事は先輩に押し付けとけ」
「先輩まだ帰国してそんなに経ってないじゃないですか」
「日本にはこんな言葉がある、『貧乏暇なし』、これから忙しくなるぞ。少し休んどけ」
零吾は紙パックのゴミを明日海に押し付けると、搬入口近くにあった監視カメラに目を向けるのだった。
「……痛えな、あー痛い」
気がつくとバッピーは博物館のベンチに寝転がっていた。辺りを見回すと、目の前にティラノサウルスの化石を見学するカウボーイがいた。
「やっと起きたかバッピー」
「まさかお前が助けてくれるとはねえ、カダル」
カダルと呼ばれたカウボーイは、テンガロンハットを指で弾いてバッピーの方を振り向く。
「不用心じゃないか。あんな所で豪快に寝てくれるとは」
「寝てたんじゃねえよ。不意打ちくらったんだ、同族に」
「同族?」
バッピーはベンチから起き上がって背伸びをすると、ポケットから金色のデビンキーを取り出す。上空に向けて鍵穴を生成すると、デビンキーで扉を開いてそこから博物館の警備員を地面にたたき落とした。
「せっかくだ。マギーが暴れてくれたら、あいつもやってくるだろうし」
「ほう。確かにお前のマギーは、暴れ回るしか脳のない陽動におあつらえ向きだからな」
「うるせえ」
バッピーは警備員の首元にデビンキーを突き刺すと、少し考え込んだ後に再びキーを90度傾けた。
警備員の体から黒いオーラが分離すると、それは赤いタコ型怪人・オクトパスマギーに変化した。
「今度はタコか! 中々面白いねえ!」
「全く……ベルーゼ様の復活には程遠いぜ」
「おら行くぞタコくん、カダルくん」
バッピーは項垂れる警備員を置いてオクトパスマギーと共に出入口から出ていく。カダルは呆れた様子でそれに続き、出入口に置かれたパンフレットを全部抜き取って夜の闇に消えていった。
土曜日、優希人はエプロンを着てグレースの店員として励んでいた。グレースの客層は主に地域に住むご婦人方が大半を占めており、悪目立ちしてしまう優希人にも寛容に接してくれた。
「優希人くん、パンケーキセット頼むわね」
「私はお紅茶を」
優希人は笑顔で注文をとると、厨房にいる赤井に伝票を渡した。
「はい、パンケーキセットとホットティー」
「パンケーキねえ、あれ結構手間なんだけど」
「看板メニューでしょ。よろしくね」
優希人が再びホールに戻ると、隣に本棚がある席に座っていた一也が声をかけてくる。
「よっ、優希人。やってるねえ看板娘」
「おれは男だよ」
「割と似合うと思うけどな。今度の文化祭、男装女装カフェの看板娘に推薦しとくよ」
「絶対キッチンでやるから」
優希人はそう言って踵を返す。
しばらくホールスタッフとして動いていると、カランカランと店の扉が開く。そこには白のロゴTシャツを着た花蓮が立っていた。
「どうも……」
「清嶺さん、いらっしゃいませ! もしかして昨日の?」
「それもあるけど、この子が入りたがってたから」
花蓮は後ろに隠れていた少年に目をやる。スーパーで優希人が事務所まで連れていった彼だ。少年はくしゃくしゃになったクーポン券を優希人に渡すと、頬を赤らめさせつつ口を開く。
「ぷ、プリンアラモードください……お、お姉さん……」
「おねえ、さん?」
それを聞いた花蓮と一也、それにキッチンにいた赤井は吹き出してしまう。赤井に至ってはフライパンのパンケーキをひっくり返すタイミングを間違えてしまい、顔に直撃して悲鳴をあげていた。
一也は唖然とする優希人の顔を撮ろうと携帯を取り出すと、ちょうどSNSの通知が届いた。
「何? 『逢魔ウォーターパークに怪物』?」
少し離れている一也の呟きを耳にした優希人は、受け取ったクーポンを未だ苦しんでいる赤井に投げ渡すと新しく注文を伝える。
「伯父さん、今来た男の子にプリンアラモードとサービスでオレンジジュース! あと清嶺さ、女学生にホットコーヒー!」
「りょ、了解!」
「おれ少し用事ができた!」
優希人はエプロンを脱いで椅子にかけると、ポケットにイグナイフとユニコーンデビンキーが入ってるのを確認して店から出ていった。置き去りにされた花蓮は眉をひそめ、少年と共にテーブル席に座る。
「……私、コーヒー苦手って言ったのに」
「参ったなあ、俺ワンオペ苦手って言ったのに」
赤井の愚痴を耳にした花蓮は、それを聞いて椅子にかけられたエプロンをじっと見つめる。
流水プールにスライダー、造波プールなどが備えられた逢魔ウォーターパークにオクトパスマギーが現れた。
「もう、休暇中だってのに何なの!」
明日海はバカンススタイルで焼きそば片手にプールを楽しんでいたが、悔しそうに焼きそばをテーブルに置いて急いでロッカーに向かう。しまっていたハントガンブレードを取り出すと、マギーとの戦闘を開始した。
ハントガンブレードを銃モードにして光弾を放つが、今度は容易く避けられてしまう。お返しにと言わんばかりにマギーは口から黒煙を吐き、明日海から視界を奪った。
「うっ、エホエホッ! どこ!?」
目を凝らしながら銃口を辺りに向けるが、背後から伸びてきた触手に首を掴まれ締めあげられる。その拍子にハントガンブレードを手から離してしまい、明日海は反撃の手段を失ってしまった。
息を切らしながら駆けつけた優希人は、混乱に乗じてウォーターパークに入場する。明日海が今にもオクトパスマギーに絞殺されるところを見ると、すぐさまイグナイフで左の掌を斬りつけた。
【デビルゲート】
出現したデビルゲートの右側面にイグナイフを装填し、ベルトの左側に出現した鍵束からデビルデビンキーを選択してゲートの左側面に差し込んだ。
【エンゲージ】
【セット・デビル】
右手で小気味よく胸を2回叩くと、指を鳴らしてデビンキーを回した。
「変身!」
【オープン・ユア・ハート】
【デビルフォーム】
身体中にまとわりついた赤い血を振り払い、優希人はデビンスに変身して駆け出した。その様子を無人のキッチンカーの中で見ていたバッピーとカダルは、フライドポテトを分け合いながら戦いを観戦する。
「今行きます!」
デビンスはオクトパスマギーの触手に手刀を用いて衝撃を与える。明日海の拘束を解くと、落ちていたハントガンブレードを彼女の方に蹴った。
「撃って!」
明日海は喉元を押さえながらも、黒煙の中にいたオクトパスマギーを正確に撃ち抜いてみせる。
「デビンス!」
「ここは任せて、逃げ遅れた人がいないか探して下さい!」
デビンスはオクトパスマギーを掴み、砂浜を再現したビーチエリアまで飛び立った。オクトパスマギーは再び黒煙を吐いてみせると、今度は向こう側からフライマギーが数体現れる。
デビンスはデビルゲートからイグナイフを抜き取ると、逆手持ちして距離をつめる。彼がナイフを振る度に水が飛び散り、フライマギーがバタリと倒れていく。
「せやっ!」
最後の1体を倒し終えると、黒煙が晴れて視界が開ける。だがそこにはオクトパスマギーの姿はなかった。辺りをぐるりと見回してみるデビンスだが、敵の攻撃は水面から伸びてきた。
「ぐあっ! なっ……」
保護色を使って水底の色に化けていたオクトパスマギーは、背中から伸びる触手でデビンスの首を締めて水面に叩きつけた。
「負けな……い……」
触手にイグナイフを突き立てて切断しようとするも、分厚いためか上手く切断できない。1度刺すと首を絞めあげる力が強くなり、力がめっきり入らなくなってしまう。
デビンスはイグナイフをデビルゲートに差し直すと、鍵束からユニコーンデビンキーを取り出して水面に突き刺した。
「頼んだよ……」
鍵を90度回すと水面からユニコーンマギーが出現する。ユニコーンマギーはオクトパスマギー目掛けて角を突き刺すと、荒々しく投げ飛ばしてみせる。その勢いでデビンスにまとわりついていた触手は離れてしまった。
その隙にデビルデビンキーを鍵束に戻すと、今度は持ち手に爪痕が刻まれたデビンキーを取り出して左側面に差し込んだ。
【セット・ウェアウルフ】
デビルゲートから飛び出した手が毛むくじゃらに変わり、奥にある目が青色に輝く。
「デビルチェンジ!」
デビンキーを回すと、デビンスの身体中に灰色の毛皮が生え始める。手には鋭い爪が備わり、マスクはオオカミの頭部を模したものになる。眼帯の絵柄はドクロから3つの爪痕に変わり、それを合図に遠吠えをした。
「ウルァオオオオオン!!」
【ヒューマン・アンド・ビースト】
【ウェアウルフフォーム】
姿を変えたデビンスは、水面から起き上がったオクトパスマギーに飛びかかって押し倒す。顔面にいくつもの引っかき傷をつけると、そのまま顔を掴んで砂浜まで引きずっていく。
「ガルッ!」
悶絶しているオクトパスマギーに対し、追い討ちの浴びせ蹴りを食らわせる。腹を押さえて苦しむオクトパスマギーの頭部を掴み、無理やり起き上がらせる。
「ガルァアッ!」
デビンスはその場で軽く飛び上がると、空に浮きながらオクトパスマギーの腹目掛けて何度も蹴りを食らわせる。最後に両足を揃えてドロップキックを命中させると、オクトパスマギーは吹き飛ばされてフェンスに叩きつけられた。
それを見たバッピーとカダルは目を見開き、残りのポテトをまとめて掴みあげる。
「あれが人間の極地、魔物のアウトブリードだなカダル!」
「まさか……いや、あいつが王を継ぐものでないのが残念だ」
観戦している2人だったが、逃げ遅れた人を探す明日海と目が合うと急に熱が冷めてしまった。
「何してるんですか!? 早く逃げてください!」
「はいよー、てか覚えてないんだ」
「えっ……」
明日海に促されるまま、バッピーとカダルはプールサイドから出ていってしまった。
デビンスは背で繰り広げられていた事も知らず、両手で頭を掻きむしって苦しんでいた。
「コレハマズイ! 理性ガ……オカシクナル!」
急いでデビンキーを差し替えてデビルフォームに戻ると、気持ちを切り替えるように指を鳴らしてみせた。
「危ないところだった。気を取り直して……さあ、お休みの時間だ!」
デビンキーを再度回し、右脚に紅蓮の炎を纏わせる。ドクロに戻ってばかりの眼帯が燃え尽きると、その虚から赤い閃光が走った。
それを合図に駆け出していくと、オクトパスマギーもこちらに向かって突進してくる。
【デビルストライク】
「ラァッ!」
タイミングを見計らってジャンプすると、炎を纏った回し蹴りをオクトパスマギーに食らわせる。蹴りを食らったオクトパスマギーは再びプールに放り込まれ、断末魔をあげながら水底に沈んだ。
「では。良い夢を」
大きな爆発とともに水柱が吹き上がり、デビンスに向かって勝利の雨が降り注いだ。
優希人は人目を盗んでグレース近くまで戻ると、入店と共に大きなくしゃみをかました。
「っくし! あー、ただいま」
「……お帰り」
そこには冷めきったコーヒーと共に、少し不満気な花蓮が尚も座っていた。夕日に当てられてか、それとも戦闘によって疲れ切っているのか。花蓮の周りがキラキラと輝いて見えてしまっていた。
目をぱちくりして立ち尽くす優希人だったが、遅れて声をかけた赤井によって一気に現実に引き戻される。
「おかえり! てかどこ行ってたんだよ優希人ー、俺大変だったんだからね!」
「ごめん伯父さん、えっと何ていうか……」
「まあいい。おかげで少し、いやかなり良いことがありましたもので」
赤井はキッチンから出てくると、店の前にずっと貼っていたバイト募集の案内を優希人に手渡す。
「新しいバイトの子が来てくれたんだよ」
「へえ、どんな人?」
「どんな人ってお前……」
赤井は花蓮に向けてウインクすると、彼女は優希人がかけていたエプロンを身にまとって両手を組んだ。
「今日からここで働くことになった。よろしくね」
「……えっ、ええええええ!?」
優希人は腰を抜かして叫び、そして再び大きなくしゃみをかましてみせた。
新しい力・ウェアウルフフォーム…
かなり危険な力です