オドガロン亜種に転生しました   作:聖成 家康

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空の王者、二人の狩人

 

 太陽の光がほとんど垂直に降りかかってくる頃。森林地帯はそれほどでも無いだろうが、陽光が直に当たる海岸では、大抵の生物が”暑い”と感じるはず。

 

 だが、オドガロン亜種は、彼はその例外であった。

 

 仄かに暖かい(あくまでも人間の感覚ではあるが)と感じるだけで、水に飛び込みたいほど暑いとは感じない。

 

 

(便利な身体だ)

 

 

 兇爪竜。ゲームをプレイしている時は、どこにでも現れて正直鬱陶しいという感想しか沸かなかった。

 だが、いざ自分がその立場になると色々と複雑な心境だ。

 

 

 オドガロン亜種は鼻をふがふがと鳴らしながら、周囲を見渡す。

 彼が来たのを境に、獲物はどこかへと逃げてしまったようだ。

 

 今は飢餓ではないし、”お弁当”もしっかり持ち歩いている。

 

 

(そこまで警戒する必要あるのか?)

 

 

 だがアプトノス達からすれば自分は”恐ろしい上位捕食者”でしか無く、それを目の当たりにすれば逃げろ、というのが本能に刻まれているのだろう。

 

 強靭な顎で肉をしっかり咥え、彼は徘徊を始める。

 

 ――いや、もうこの森とはおさらばといこう。

 

 暑いところでも、おそらくは寒いところでもこの身体は平気なのだ。

 だったら、こんな地形最悪の場所を選ぶ旨味は皆無である。

 食事ならきっと、ここが新大陸である以上困ることはない。

 

 

 オドガロン亜種は、彼は歩き出した。

 

 ここから一番近いのは――ゲーム中、度々見た新大陸の地図を思い描く――おそらく、”大蟻塚の荒地”だろう。

 

 兎にも角にも森を抜けさえすれば、きっと辿り着ける。

 安易な考えのようにも思えたが、以前のように貧弱な人間という体ではなく、モンスターの強靭な肉体があるからこそ出来る思考だ。

 

 

 古代樹の森を抜け出そうと決意した彼の前に現れたのは、この世界にやってきて初めての困難とも言える存在だった。

 

 

 上空から降り注ぐ異質な風圧――これは自然に起こったものではない。

 

 そう思い上を見ようとして、反射的に体が動く。

 その場からバックステップで退けば、草花を一瞬にして灰へ変えるほどの火炎が弾けた。

 

 空からの火球――彼ほどモンスターハンターをやり込んでいるなら、ピンと来ないはずがなかった。

 

 

(おでましか)

 

 

 舞い降りるは、空の王者。

 

 紅の甲殻、巨大な翼。その佇まいは”火竜”という異名を持つに相応しい。

 

 ”リオレウス”――この古代樹の森の頂点に位置するモンスターだ。ここは、おそらく奴の狩り場なのだろう。

 

 

 彼はオドガロン亜種が、古代樹の森においてどれくらいの強さを誇っているのかは分からない。

 ――ただ、少なくとも”リオレウス”には敵わない。彼はそう確信していた。

 

 翔べる者と地を駆る者、どちらに利があるかは火を見るより明らかである。

 

 

(やってやる)

 

 

 空の王者に一矢報いるぐらいできなければ、この新大陸で生き抜くことはできない。

 

 

 オドガロン亜種は臨戦態勢に入る。

 脊髄が痺れるような感覚は、感じたことはないが武者震いというやつだ。

 

 火竜の行動パターンは、ゲームで散々把握している。目の前(現実)の存在である奴が同じように動くかの確証はないが。

 

 

 奴の口から火炎が覗く。

 ブレスの合図。

 横に避けるよりも、奴の足元に回るほうが後々楽になる。

 

 ブレスが吐かれる寸前に疾走し、奴の影に身を潜ませる。

 

 後方へ下がるべく、やや高度を落としたリオレウス。

 

 その一瞬の隙を逃がさんと、オドガロン亜種は思い切った行動に出る。

 

 強靭な脚力を活かし、跳躍。

 

 獲物としか思っていない肉塊のまさかの行動に狼狽えたリオレウスの顔面へ、金属質な自らの尻尾を叩きつけた。

 

 頭に凄まじい衝撃を喰らったリオレウスは、辺りをふらつきながら飛翔し始め、次第に地面に着地せざるを得なくなる。

 

 地に足をつく空の王者。

 だが、奴に利があるのはあくまでも空中だけ。

 

 同じ土俵に立てばむしろ、オドガロン亜種のほうが圧倒的に優勢だ。

 

 

 ぐっ、と前脚に重心を寄せる。

 二重になった恐ろしい爪を露出させ、オドガロン亜種は咆哮と同時に飛翔。

 

 着地と共に爪を振り下ろし、紅の甲殻の破片を舞い散らせた。

 リオレウスの血飛沫が鮮やかな緑を赤く汚す。

 

 奴の弱点は頭部。

 尻尾による攻撃がよほど効いているのか、奴はなかなか飛ばなかった。

 

 

 オドガロン亜種は再び跳躍し、奴を跨ぐように跳んだ。

 その最中、男は嘔吐するような気持ちの悪い感覚を抱きながらも、自らに溜め込んだ龍属性エネルギーを放出。

 

 塊となった赤き禍々しいエネルギーは、リオレウスの頭部に命中し、爆ぜた。

 

 

(龍属性は多少、有効だろっ!!)

 

 

 全身に響き渡る龍属性のエネルギーに悶えるリオレウス。

 激昂し尻尾による反撃を図るも、精度が悪く

オドガロン亜種は軽々避けた。

 

 

(尻尾回転攻撃は、頭がこっち(後ろ)に来るっ!)

 

 

 回避と共に再び龍属性ブレスを放つ。

 

 彼の読み通り、リオレウスの頭部が彼の方向へと向き直り、放たれた龍属性のエネルギーが顔面に命中した。

 

 弱々しい声を漏らしながら、リオレウスは飛翔。

 次なる攻撃に構えるが、奴はオドガロン亜種のことなぞ目もくれずに古代樹の頂上に向かって逃げていくのだった。

 

 

(勝ったのか……?)

 

 

 身体は疲弊していないが、男は凄まじい精神的疲労に襲われた。

 

 同時に、エネルギーの過剰使用によって空腹も襲ってきて、置き去りにしておいた”お弁当”へ無茶苦茶に食らいついた。

 

 

 満腹――にはほど遠いが空腹を誤魔化せた彼は、リオレウスの逃亡を完全に確認するとほっと一息つく。

 

 

(こんなところ、さっさと抜けよう。リオレウスと狩り場が被ってたら、ロクな事にならない気がする)

 

 

 オドガロン亜種は思い立ったが否や、早速それを行動に移す。

 

 ――その前に、”お弁当”を調達しなくては。

 

 リオレウスの脅威はしばらく無いだろうから今のうちに、と彼は隣のエリアへ逃げたアプトノスを狙うのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

(あれは……)

 

 

 隣のエリアに来たオドガロン亜種は、遠くに聳え立つ人工物を見て、嫌な予感を覚える。

 

 ひっくり返った船の元に、明らかに人が住んでいそうな居住区が築き上げられている。

 

 ハンター――すなわち、ゲームにおけるプレイヤーが住むことになる拠点”アステラ”だ。

 そう言えば、”アステラ”と古代樹の森が隣接していることをすっかり忘れていた。

 

 

 だったら尚更危険だ。

 きっと、人によるのだろうが奴らハンターは()()()()()()()()()()()()()

 

 リオレウスに勝てたからと言って、ハンターに勝てる保証はない。

 

 食事を諦める訳にも行かず、子連れのアプトノスに狙いを定め、颯爽と食糧調達をしようとした時だった。

 

 

 アプトノスたちが、何かを察して逃亡していった。

 

 

 悪寒を覚えていると、群れていたアプトノス達の代わりに、そこには二人の人影があった。

 

 

 一人は男。全身を鋼鉄の防具――おそらくはEXインゴットシリーズに身を包んだハンター。背に負う武器は、その体躯の二倍もあるランス――簡単に言えば槍と盾――だ。

 

 もう一人は女。ガッシリとした彼の隣に並ばずとも目立つ細さで、黒革を基調としたガンマンを彷彿とさせる防具――EXギルオスシリーズに身を包んでいる。武器は弓、だろうか。

 

 

(まずい、マスターランクのハンター……!!)

 

 

 一口にハンターといってもレベルがある。

 ほとんど新米の”下位”のクエストしか受けられないハンター、”上位”クエストを受注できるハンター、最難関とされる”マスターランク”の受注を許されたハンター。

 

 彼らは最難関とされるマスターランクのクエストを乗り越えたハンターだ。

 マスターランクのモンスターから得られる素材でしか作れない防具が、それを物語っている。

 

 

 逃亡を図ろうとしたが、そう簡単に逃がしてはくれないらしい。

 

 女ハンターのほうが先手必勝と言わんばかりに弓矢を放ってきた。

 鼻先スレスレを通り抜け直撃は免れたが、次、外してくれる保証はない。

 

 

「アリサ、前に出るな」

「なんで……!? 私が信用できない?!」

 

 

 ランスを構えた男が、アリサと呼ばれた女の前に立った。

 遠距離の弓と、近距離のランス。

 相性としては抜群ではあるが、何やら揉めてる様子だ。

 

 

 だが仕掛けられたからには、相手はやる(狩る)気なのだ。無抵抗というわけにはいかない。

 

 

 オドガロン亜種の咆哮に、二人のハンターは耳を塞いだ。

 つい先ほど、戦闘には慣れたばかり。

 習得したての疾走、跳躍からの龍属性ブレスを放つ。

 

 二人は散開。

 矢を二、三本放たれ、脇腹辺りに食らってしまう。

 

 鈍痛が走る――と思ったが、強固な甲殻のおかげで大して痛くない。

 だが何発も何発も貰っていたら、ゲームと同じようにいずれ殺られる。

 

 

(やるしかないっ!!)

 

 

 着地と共に逆走し、凄まじいまでのスピードをもって二人との距離を詰める。

 そのまま四肢にありったけの力を込めて、尻尾を刃に見立てた回転攻撃を繰り出す。

 

 身軽な女の方にはかすりもしない。

 男の方には当たりはしたが、ランスの盾によってしっかり防がれる。

 

 迂闊に間合いを詰めただけ――相手の懐に入ってしまった。

 

 

(まずいっ……)

 

 

 まだ〈強暴化〉が続いている。

 口から溢れる龍属性エネルギーを牙に纏いながら、ランスのハンターへ食らいつかんと大地を滑る。

 

 その攻撃を、男は難なく防いだ。

 それだけに飽き足らず、その勢いを殺して、カウンター攻撃まで繰り出してきたのだ。

 

 甲殻が裂けるほどの強烈な攻撃。

 脇腹から響く激痛に、男は絶叫する。

 

 

(こいつら、こっち(オドガロン亜種)の行動を熟知してるのか!?)

 

 

 ゲームでも、プレイヤーはモンスターの行動パターンを覚えるのは定石だ。

 相当の手練れに見える彼らならば、それをしていたっておかしくない。むしろ当然だ。

 

 何か、そんな彼らに一矢報いる方法はないか模索する。

 放たれる矢が頭部を掠め、怯んだところをランスによる突きが炸裂。

 

 悠長にしている暇はない。

 ()()()()()()()()()()()をして、この二人の完璧な連携が乱れるという可能性にかけるしかない。

 

 オドガロン亜種と同じ骨格、四足歩行で大地を駆る”牙竜種”は他にも存在する。

 その最たる例が、”雷狼竜”の異名を持つ”ジンオウガ”。

 

 ”ジンオウガ”は雷を操り、その亜種はオドガロン亜種と同じように龍属性エネルギーを操る。

 

 男は”ジンオウガ亜種”の様を頭に蘇らせながら、同時に行動に移る。

 

 口から吐き出した龍属性エネルギー。

 それの行き先は、自らの右前脚。

 

 兇爪竜の異名の所以ともなった、隠し爪を含む二重の爪。

 それに、禍々しい赤いエネルギーが纏わりついた。

 

 

「何っ……!?」

 

 

 男の方の動揺の声が聞こえる。

 

 雄叫びと共に、力強く右前脚を振り上げて、龍属性エネルギーを大地全土に迸らさんと、渾身の叩きつけを繰り出した。

 

 男は盾で攻撃を防ぐも、ガードが遅れたのか完全に防ぐことはできず、反動で大きくふっ飛ばされた。

 

 右による攻撃を終え、ノータイムで左前脚による叩きつけを行う。

 

 次なるターゲットは、女の方だった。

 

 

 その時、男は獲物の様を初めてまじまじと視認できるくらいに目に収めた。

 

 銀色の長い髪を靡かせる、凄く整った顔立ちの女性。

 その美しい顔立ちは、驚愕と戦慄に歪められていた。

 

 ――罪悪感を抱く。

 

 このまま行けば、ガードをする手立てもない彼女は兇爪に貫かれる。

 彼とて意識だけは人間。単なるモンスターではないのだ。

 

 

 だが、男はこうと思う。

 

 ”弱肉強食”。モンスターハンターは、そのテーマのもと作られている。

 自分だって生き残りたい。

 彼女だって同じだろうが、ハンターとモンスターは相容れない。

 

 

 悩みを振り切るよう、オドガロン亜種は兇爪を振り下ろす。

 

 

 女は思ったよりも反射速度と俊敏性に優れていた。寸前で回避行動を取ることに成功していた。

 

 だが――完全な回避には至らない。

 

 禍々しい稲妻を纏いし兇爪の矛先が、彼女の細々した肉体の背中を引き裂いた。

 

 痛々しい爪痕を刻み込まれた彼女は、悲痛な絶叫と共に地面でのたうち回る。

 

 

「アレサっ!!!!」

 

 

 ランス使いが復帰し、彼女を庇うようオドガロン亜種の気を引く。

 

 爪にも似たワイヤーの先端――クラッチクローを引っ掛けられ、ランスのハンターに頭部へ張り付かれた。

 

 振り払わんと暴れる間もなく、クローによる打撃によって方向転換。

 腕部に取り付けた弾丸射出兵装――スリンガーに込められた、大量の石ころを至近距離でぶっ放される。

 

 オドガロン亜種は衝撃で前方へと、引き込まれるように走らざるを得なくなり、大木に激突した。

 

 目眩がする――が、追撃は無かった。

 

 逃げるなら今しかない。

 古代樹の森から抜ければ、すぐには追撃されないはずだ。

 

 男は無我夢中でそこから逃亡を図る。

 

 思った通り、あの二人がそれ以上追ってくることはなかった。

 

 

 気がつけば、古代樹の森の根幹を成す大木が少しばかり小さく見えるようになっていた。

 

 

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