オドガロン亜種に転生しました   作:聖成 家康

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巨大なモンスターに変ってしまっていることに気づいた。

 

 

 

 アレサ・ヴァニタスはハンターだった。

 

 過保護な両親の反対を押し切って、新大陸での調査の夢をかなえるために、調査団の五期団に志願したのだ。

 

 新大陸は夢のような場所だった。

 

 恵みの大地、そこに芽生える豊かな生態系たち。

 ハンターとしてそこに飛び込めば、自分がその一部となっている実感を得られて、誇らしく感じられた。

 

 マスターランクの受注資格を得る高みまで上り詰めた彼女は、希望に満ち溢れた生活を送っていた。

 

 

 だが、そんな彼女が絶望の淵に落とされたのは、何度も相対した筈の兇爪竜――オドガロン亜種と対峙した時だ。

 

 

「アレサ!! 俺がわかるか、アレサ!!」

 

 

 アステラ(調査拠点)に近い、古代樹の森での出来事であった事が不幸中の幸いか。

 

 ネコタクの台車が、赤々とした液体によって汚らしく彩られている。

 アイル達がせっせと運んできた軌跡が、危険を示す導蟲のような色彩で痕跡として残されていた。

 

 

 彼の応急手当のおかげで命の危機はないということを、凄まじい激痛と後悔で薄れる意識の中聞いて安堵する。

 

 ――いや、安堵したかった。

 

 自分の様を見て、青ざめる彼と周囲の調査員の形相を鑑みれば、きっと自分は醜い姿になっているのだろう。

 

 龍属性エネルギーが身体に齎す影響は計り知れない。龍を殺す力とも呼ばれるものが人間の体内に悪影響を与えないはずがない。

 

 

 そんなアレサ本人の考察通り、彼女は一命は取り留めた。が、その背中には巨大な痛々しい爪痕が、右の肩から首筋を通り、頬に至るまで血管が露出したかのような不気味な跡が残されていた。

 

 

「アレサ……すまない……俺の、俺の……」

 

 

 珍しく感情を顕にする彼――シェパード。

 恋人関係、にまでは発展してはいないが、周囲からはそう見えてもおかしくない間柄にはなっていた。

 

 この時、二人の間に確かな隔たりができたのをアリサは何となく感じていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そのオドガロン亜種は、古代樹の森を抜け出した。

 幾刻過ぎたのか定かではないが、人間単位で言えば、かなりの時間が過ぎたと推測していいだろう。

 

 豊かな森の香りは、むせ返るほどの土の香りによってかき消されていった。

 

 古代樹の森ほどの豊かさに欠ける木々の間を抜けていけば、その先に広がっていたのは広大な荒地だった。

 

 砂地に木々の代わりに屹立しているのは、蟻たちがしきりに出入りを繰り返す蟻塚と呼ばれる自然物。

 

 古代樹の森とは、また一風変わった生態系を築いている地であった。

 

 

(腹が減った……)

 

 

 空腹に抗えなくなった彼は、徐ろに走り出して、気が狂わぬうちに食事を確保することを優先することにした。

 

 泥で満たされたエリアにやってくると、亀のような草食竜――アプケロスたちが群れを成していた。

 オドガロン亜種の存在を検知すると、何やら陣形のような物を組み初め、明らかに警戒している様子だった。

 

 だが、オドガロン亜種は容赦なくその群れに突撃する。

 多少アプトノスよりも好戦的なようだが、実力が伴っていない。

 

 群れのうちの一頭を仕留めると、他の二頭はそそくさと逃げていった。

 

 もう、狩りには慣れてしまった。

 そうしなければ生きていけないから。排泄や睡眠といった、生活に必要不可欠な行為の一環になってしまったのだ。

 

 何もそれを悪いことであると、男は考えてはいなかった。

 人間であった頃だって、食していたのは他の命に他ならない。自ら直接手を下すか否かの違いである。

 

 

 肉を食い、お弁当も確保できた彼はこの大蟻塚の荒地で暫く暮らすための住処を探すところから始めることにした。

 

 荒地は古代樹の森以上に野蛮なモンスターが多いイメージだ。縄張り争いもかなり過酷な環境のはず。

 

 

 早速、荒地を彷徨う彼が目にしたのは、大型モンスターであった。

 

 

 泥を泳ぐ魚のような竜――泥魚竜 ”ジュラトドス”。

 然程、生態系において上位存在とは言えないがその生態上、この泥エリアに活動領域が限られるためそういった意味では、泥の上ならば最強、といったところか。

 

 

 自分と同じように、奴も食事をしている最中のようだ。

 こちらにちらりと目をやり、警戒する様子は見せたが、縄張りに侵入する意思を見せないためか襲ってくる気配はない。

 

 面倒事にならぬうちに、オドガロン亜種はそそくさと泥に塗れたエリアを抜け出す。

 

 

(そう言えば、荒地の下って洞窟になってるよな)

 

 

 荒地での戦闘経験(ゲームプレイ)を思い出して、オドガロン亜種はふと思いつく。

 洞窟なら、古代樹で見つけたような良さげな寝床が見つかるのではないだろうか。

 

 だが、一つの懸念点としてはやはり先住者の存在だろうか。

 

 

 荒地の頂点――と聞き、真っ先に思いつくのは二本の角を有する悪魔にも似た竜”ディアブロス”に他ならない。

 

 ”リオレウス”、ハンター相手に逃げ切れたとは言え、まだ戦闘経験は全然足りていない。

 ”ディアブロス”に喧嘩を売って、大怪我でもして、その間にハンターに出会ったとしたらひとたまりもない。

 

 

(洞窟はやめるか……)

 

 

 それが一番だろう。

 リスクは取らないのが、この自然界では良さげな事のように思える。

 

 

 となると、あと住みやすそうなのは荒地の西部分。古代樹の森に近い方面に広がる森林地帯だろうか。

 あそこは砂原が広がる荒地よりかは涼しそうだし、生存競争もあまり過酷ではなさそうであった。

 

 

 オドガロン亜種は思い立ったが否や、早速そこを目指すことにする。

 

 

 森林地帯に向かう最中、オドガロン亜種の目には一番嫌な存在が映る。

 

 

(あの角は……)

 

 

 荒々しいゴツゴツとした角を有し、この荒地には不釣り合いな真っ白な分厚い体毛を有する獣竜種のモンスター――猛牛竜 ”バフバロ”が川に頭を突っ込みながら水を飲んでいた。

 

 

 ”バフバロ”もまた、オドガロン亜種と同じくあらゆる環境に生息するおかしなモンスターである。

 

 

 おそらく、狩猟対象としての危険度はオドガロンのほうが上だろうが、如何せん、大岩と石ころくらいの体格差だ。勝てるかどうか怪しい。

 

 

 ――いや、逃げてばかりではいられない。

 

 

 体格差はあるが、俊敏性ではこちらの方に利があるのだ。それを活かせない手はない。

 それに、”バフバロ”ごときに勝てなかったら、ここのヌシにも、ハンターにさえ勝つことができないだろう。

 

 

 勇気を振り絞り、オドガロン亜種は”バフバロ”のテリトリーへ足を踏み入れた。

 

 互いに咆哮し合い、瞬く間に戦いの火蓋が切って落とされる。

 

 

 気性の荒い”バフバロ”は、縄張りの侵入者を見つけると、すぐさま襲いかかってくる。

 一撃一撃は、あの巨体に見合って極めて強力。とはいえその行動パターンは安直で非常に読みやすい。

 

 角を突き出し、猛突進してくる”バフバロ”の頭上を軽々飛び越え、奴の背後に回る。

 

 凶爪を剥き出しにし、全体重をかけて奴の毛皮と肉を引き裂いた。

 

 美味そうな血が荒地を汚し、”バフバロ”は奇襲の衝撃によって大きく蹌踉めく。

 

 その巨体を足場代わりにし、オドガロン亜種は”バフバロ”を馬のように扱った。

 抑えきれなくなってきた食欲を満たすよう、その背中にかぶりつく。

 

 

 毛皮ごと肉を食い千切り、そのまま華麗に着地する。

 

 

 ”バフバロ”は手痛い一撃を喰らい、縄張りのことなどどうでも良くなって、一心不乱に逃げ出した。

 

 またも縄張り争いに勝利した。

 ――”リオレウス”などに比べれば、大したものではないが、祝杯を上げるべきものだろう。

 

 

 刺客を乗り越え、満を持して森林地帯に足を踏み入れたオドガロン亜種。

 

 そこはいい感じに涼しく、乾いた風によって木々が揺らされ、子守唄のようなものが延々と流れ続けているかのような、あまりに理想的な空間であった。

 

 

 オドガロン亜種は気分が良くなり、咥えていた肉を貪る。

 

 戦闘直後の肉は格別に美味い。

 

 満腹になると唐突に眠気に襲われた。

 

 そうして、オドガロン亜種は安全確保を行ってから、やっと手に入れた安泰な空間で眠りに落ちるのだった。

 

 

 血に染まった凶爪を、かの者が気にかけるようなことは、もう二度とない。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 オドガロン亜種は数カ月間――明確に言うなれば、兇爪竜にそれを認知する術はないが――生存競争に生き残り続けた。

 

 大蟻塚の荒地は、古代樹の森よりも生存競争が過酷であった。

 狩りをするべく沼地に赴けば、”リオレウス”の雌個体――”リオレイア”や泥を纏いし獣竜種”ボルボロス”と鉢合わせになることが多々あったし、縄張りを広げようと少し森を離れれば、同じように各地に出現する”アンジャナフ亜種”や”バフバロ”に遭遇した。

 

 

 縄張りなど広げずに、静かに暮らすべきかもしれないのだが、もうそのオドガロン亜種に”ヒト”としての常識は欠片も残っていない。

 

 あるのはゲームとしてではなく、どういう訳か持っているこの世界のある程度の知識と、獣としての本能のみであった。

 

 

 

 斬竜――”ディノバルド”が咆哮する。

 

 金属質な刃、ではなく尾を地面に擦り付けて発火。

 灼熱の刃の異名の如く、炎を纏わせた尾でオドガロン亜種を攻撃した。

 

 オドガロン亜種は龍属性ブレスを吐きながらそれを華麗に回避し、反撃に”獄狼竜”さながらの龍属性を纏わせた衝撃を喰らわせる。

 

 砕け散る斬竜の甲殻、弾けるエネルギーの結晶。

 

 オドガロン亜種は興奮し、咆哮。

 

 ”ジンオウガ亜種”の三連撃を模倣し奴を追い詰め、唐突に従来の行動へと戻すことで”ディノバルド”を翻弄する。

 

 しかし奴はなかなかしぶとく、一向に引こうとはしなかった。

 

 龍エネルギーを纏わせた前脚を、さながら”リオレイア”のサマーソルトの如く振り上げながら飛び上がれば、奴の頭部は完全に部位破壊され、荒地に血が散乱した。

 

 

 オドガロン亜種は”ディノバルド”相手に優勢だった。

 

 

 だがオドガロン亜種は周りが見えていなかった。

 

 

 砂が積もり、蟻塚が連なるエリア。

 

 上空を舞う小型の翼竜”バルノス”は、二頭の大型モンスターが荒れ狂う光景を見て、威嚇代わりに甲高い音を響かせた。

 

 

 ――まずい、とオドガロン亜種が察した頃には遅かった。

 

 

 揺れる大地。それに応じて、ある一点に流れていく砂。

 たかが砂と侮っていると、瞬く間に足を取られて、踏み入れてはならぬ領域へと荒れ狂う獣たちを誘っていった。

 

 

 次の瞬間――地中から”奴”が飛び出した。

 

 

 ”リオレウス”のものとは違う両翼、悪魔を思わせる双角。槌を思わせる尻尾。

 

 

 荒地の王――角竜”ディアブロス”が”ディノバルド”の腹を突き刺しながら飛翔する。

 

 

 小柄なオドガロン亜種は流砂に呑まれて、”ディアブロス”の巣へと墜落した。

 

 

 ”ディノバルド”がどうなったのかは知る由もない。

 

 ただ分かるのは、”ディアブロス”が見逃してくれるわけがないということだけだった。

 

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