オドガロン亜種に転生しました   作:聖成 家康

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呪縛から逃れられない職を選んでしまったものだ。

 

 

 古代樹の森。そこの頂上とも言える、巨大な大木の上。

 

 古代樹の森どころか、新大陸全土が見渡せるのではないかという絶景が、アレサの目には霞んで見えた。

 

 

 あの一件以来、アレサは口数が減った。

 

 元々喋る方では無い、ドライな性格ではあったが、感情が無いとまではいかなかった。

 今の彼女は、完全に心を閉ざしているかのように、他者との接触を避ける傾向にある。

 

 EXギルオスシリーズに身を包んでおきながら、彼女は狩りをしなくなった。

 こうしてフィールドに出かけることはあれど、愛用していた弓は愚か、武器一つ携帯しないで行くことが殆どだ。

 

 

 服の中から頬にかけて刻まれた、稲妻かのような跡も相まって、そんな彼女に近づく人間はいなくなってしまったのだ。

 

 

 アレサの良き相棒であったシェパードも、彼女と狩りに行くことは無くなり、滅多に彼女の前に姿を現すことはなくなった。

 

 たまに会ったかと思えば、虚ろな目で謝罪をしてくるだけである。

 

 

 嫌な風が吹いてきて、アレサは想いを馳せる。

 

 

 ”オドガロン亜種”。

 苦戦するはずの相手では無かったはず。

 

 ハンターたる者、油断は大敵。

 しかし、あの時の自分と彼の実力なら”オドガロン亜種”などに遅れを取るわけがなかった。

 

 

 ――奴は何かが違った。

 

 

 あの時の忌々しい記憶と、いつしか見た何かの記憶が重なる。

 

 あの瞬間――全てが崩れ去る直前、奴は妙な行動をしていた。

 

 龍属性を纏った前脚による叩きつけ。

 

 そう、それはさながら”ジンオウガ”――”ジンオウガ亜種”を思わせるかのような攻撃パターン。

 

 

 そんな個体が今も生きているのだとしたら、すぐに報告しなければ――。

 

 

 という、調査に対する意欲さえも、今の彼女には湧いてこない。

 

 以前なら次々に湧いてきた。だって、この新大陸で活動できることに、希望を見出せていたのだから。

 

 信頼していた彼との隔壁、打ち砕かれた狩人としての誇り。アレサはもう、傷ついた空っぽな器に他ならない。

 

 空を裂くような荒々しい音。

 ”リオレウス”だ。

 

 とても狩猟できるような気分ではなかった彼女は、すぐさまそこから退散する。

 

 ”リオレウス”の目から免れ、安堵した彼女は足元がお留守になり、情けなく転がり落ちてしまった。

 

 受け身は取ったが、全身が激しく痛むほど強打する。

 

 無気力で、土の味を噛み締めることしかできない彼女はもういっそ、このまま死んだほうがマシなのではないかと思えてきた。

 

 シェパードは今も、きっとこの傷のことを気にしている。自分が大怪我をしたことを、自分のせいだと追い込んでいる。

 

 そんな彼とどうやって関係を修復すればいい?

 

 この虚しい気持ちを、どうやって無くせばいい?

 

 

 顔を俯かせ呻く彼女に、答えを示すかのように導蟲が何かに群がった。

 

 

 その導蟲は()()()()()()()

 

 

 禍々しく、黒い鱗の欠片。

 固まった血が付着している様子で、かなり古い痕跡。

 血生臭い匂いは、微かだがその痕跡から漂っている。

 その匂いは、まさしく、あの日自分が血に塗れた時に鼻を劈いていたものと酷似していた。

 

 

 兇爪竜。

 

 

 彼女はその名を、何度も頭の中で反復する。

 

 背中には、奴に刻まれた痛々しい傷跡が消えること無く残っている。

 防具のお陰か、脊髄にまで達することは免れたが、前のように肩へ力が入らず、弓を引くことは難しくなってしまった。

 

 

 兇爪竜。

 

 

 奴の顔が、悪魔のような顔が頭に浮かぶ。

 

 

 アレサは立ち上がり、そこへ転がった痕跡を足蹴して散り散りに分散させる。

 黒い鱗は無造作に散らばってもなお、青い輝きを見せ続けた。

 

 

「殺してやる……この手で……!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ”ディアブロス”の咆哮が迸る。

 

 ”リオレウス”と同じ気迫だ。一地帯の王たる資格を持つモンスター。角竜は、よほどの存在が君臨しない限りは荒地の生態系の頂点に立つモンスター。

 

 ”ディアブロス”は、侵入者を滅ぼすべく突進を繰り出してくる。

 

 双角が大地を削りながら迫ってきて、オドガロン亜種は危機を察知し即座に回避した。

 

 獲物を取り逃がした”ディアブロス”は体勢を即座に立て直して、オドガロン亜種に向き直る。

 

 

 角を横へ振るうよう、荒々しく迫ってくる角竜。

 攻撃しようにも、その隙が全く見出せない。

 

 空を飛んでばかりの”リオレウス”と違い、同じ土俵に立っているはずなのに、奴より圧倒的に戦いづらかった。

 

 龍属性を纏わせ、獄狼竜の攻撃――〈龍掌撃〉を繰り出す。

 

 しかし、その攻撃は”ディアブロス”の双角によって防がれ、難なく弾かれる。

 

 ねじれるように発達した角は、オドガロン亜種の体躯を諸共せず、その竜を軽々と吹っ飛ばした。

 

 岩壁に激突し、臓物が飛び出るような思いをするオドガロン亜種。

 

 力が出なくなってきた。

 

 先程の戦闘で肉は消費。

 この騒ぎで周辺に狩ることのできるような獲物は皆逃げ帰っている。

 

 

 どう考えようと、逃げに徹するべき状況――だが、荒地の王がそう安々と逃がしてくれるわけが無い。

 

 

 ”ディアブロス”は咆哮を轟かせ、即座に突進を仕掛けてくる。

 回避し、逃げようと試みるが、奴は方向転換して執拗に狙ってきた。

 

 また回避するしかなく、近づいていた出口は瞬く間に遠ざかってしまった。

 

 

 ”ディアブロス”は縄張りを荒らされ、相当気が立っている様子だ。

 

 オドガロン亜種は腹を括る。

 変に逃げに徹し長引くよりも、命懸けで攻めに出て、確実に逃げられる状況を作るほうが良いに決まっている。

 

 咆哮の後、オドガロン亜種は疾走。

 

 龍属性ブレスを吐きながら飛翔し、奴の背中に飛びついた。

 

 対獣竜種戦術が通用するかと思って仕掛けてみたが――”ディアブロス”は暴れに暴れ、兇爪竜を背中から引き剥がした。

 

 

 ”ディアブロス”は飛竜種でありながら、滅多に飛行しないモンスター。

 ゆえに、”リオレイア”のような通常対飛竜種戦術は当然無効だ。

 

 

 考えろ、まだヒトの理性が自分には微かにあるはずだ。

 

 

 思い返す。この世界を俯瞰で見ているだけだった頃のこと。

 

 

 ――そうだ、とオドガロン亜種は考えつく。

 

 

 なぜこんなにも簡単なことを、これまで思いつけなかったのだろう。

 

 

 オドガロン亜種は即刻実行に移した。

 

 

 目の前を駆けるわけでもなく、奴を凝視しながらゆっくりと闊歩する。

 

 

 ”ディアブロス”は挑発ともとれるその行動を見て、角を突き出して突進体勢を取った。

 

 

 ”ディアブロス”は突進して壁や岩に角を突き刺してしまい、動けなくなることがある。

 

 

 オドガロン亜種は、それを狙っていた。

 

 

 ――寸前。腹に角を掠めるようなギリギリのタイミングで突進を回避。

 その背後には、聳え立つ石柱があった。

 

 

 思惑通り、”ディアブロス”は石柱に角が刺さって身動きが取れなくなった。

 

 

 総攻撃のチャンス――と思われたが、鈍い痛みを感じ足を止めた。

 

 角を掠めただけのはずの腹部から、大量の血が流れ出ていた。

 想定よりも深く抉られたようだ。あれだけ発達した角ならば、掠めただけでも大怪我するのは必然と言える。

 

 

 逃げるなら今しかない。

 

 

 こんな痛手を負った中で戦闘を継続しても、いずれ限界が来るに違いない。

 

 奴が動けずじまいなうちに、そそくさと逃げることが先決ではないだろうか。

 

 

 オドガロン亜種は踵を返し、腹を痛める様子を見せながら、悪魔の巣窟から命からがら脱出するのだった。

 

 

 ここにきて初めての敗北。

 

 

 自然界ならば当然のことだ。勝ち続きはあり得ない。

 

 

 ――いや、とオドガロン亜種は残った人間性を糧に思う。

 

 

 生きているだけで、この世界において勝ったと言えるのではないか?

 

 モンスターには誇りも何も存在はしない。あるのは、自然界で生き残りたいという荒々しい欲求のみ。

 

 ならば、生きているというだけで勝ちと言えるのではないか?

 

 

 オドガロン亜種は痛む腹が疼く中、そんな事を考えながら一心不乱に逃走を図った。

 

 

 

 その後、深手を負わされたオドガロン亜種は荒地での生存競争に勝てなくなり、その地を抜け出すことを余儀なくされた。

 

 

 今、奴の目の前にあるのは幾多もの岩山が連なるかのような渓谷。

 

 

 その先には陸珊瑚の大地が広がっているはずである。

 

 

 

 そのオドガロン亜種は、何を求めて彷徨うのか。答えは一つしかない。生きるため。

 

 

 そのためならば、人だって殺す、生態系の頂点にだって歯向かう。

 生きるためならば何でもする――オドガロン亜種は、残った人の理性で、そう固く決意を結ぶのだった。

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