ヘルメット団員です。血反吐吐きながらがんばります 作:はみがきこな
「脊髄が取られた?」
「ああ」
「まさか。あれは相当な代償を必要とするのだぞ」
「代償は痛みだったようだ」
「そのようなもので使える代物ではない」
「しかし、事実だ」
「理解できぬ」
「忘れられた神々でもないような者に取られたのか?」
「ああ」
「理解できぬ。他世界からの来訪者だと?」
「理解できぬ」
「理解できぬ」
「しかし、まだパーツはある」
「ああ。右腕・左腕・肋骨・右脚・左脚、そして頭蓋」
「必ず、中枢である脊髄は取り戻さねばならない」
「名もなき神の、降臨のために」
■
「──ム、カ──ム! 起きろ、カスム!」
──あ?
なんだ、ここ。
なんか、良い匂いする。
うっすら瞼を開くと、見知った顔が眼の前にあった。
「──ヒロイ」
「──起きたか、良かった」
ヒロイは、仰向けになっている俺の顔を覗き込むようにして座っていた。
ちょっと、顔、近い……これか、良い匂いの元は!
うわ〜!
やばい、ドッキドキする。昨日からずっとドキドキしてる気がする。
「私を逃がしてくれたこと、感謝する」
「ああ、どういたしまして……」
ヒロイは、俺の目の前から顔を離した。
彼女が顔を上げたので、俺は、薄汚れた天井を視認することができた。ヘルメット団の基地の、天井だ。この部屋は……俺の部屋か? 部屋のレイアウトに見覚えがある。
ここに俺が居るということは、この基地は何とか守れた……ってことだよな?
あの戦力差をどうやって埋めたかは俺の知る所では無いが、コイツらも黙ってやられるだけの奴らじゃない。その辺、対策は少なからず存在したのだろう。
窓の外は、真っ暗だった。
もしかして、見守っていてくれたのだろうか?
むくっ、と上体を起こし、布団から出る──そうしたかったが、出来なかった。
体が動かなかったからだ。
ピクリとも動かない。
まるで金縛りにあったようだ──なったことはないが。
「どうした、カスム。何かあったか」
「……体が、動かねえ」
「そうか」
これで会話は終わった。
あれ?
なんか、こう、解決策とか、ないの?
「え、あの、解決策とかないすか」
「……寝れば治る」
……。
そっかあ。
じゃあ、まあ、寝るしかないんだろうな。
「おやすみ」
「ああ。良い夢を」
カスムが眠りについたのを確認して、立ち上がり、部屋から出る。後ろ手でドアを閉じ、寄りかかって腕を組む。
今、眼前にある問題は1つ。
仕事、それだけだ。
ありがたいことにボスが多くの仕事を受けてきてくれる。内容と報酬が見合った物を。だがしかし、報酬の内容は、お世辞にも良いとは言い難い。
先程までは、カイザーコーポレーションからアビドス襲撃の仕事は来ていた。それの報酬は、さすが大企業。素晴らしいものであった。
だが、任務失敗のために、カイザーコーポレーションは私達をアビドス襲撃の任務から外した。
食うのも精一杯、そんな状態になりつつある。
このまま行けば、団の維持も不可能になる。
そうなったときが、本当の終わりだ。
「……」
はぁ、とため息を吐いた。
──アビドスの連中は、元々強かった。
それが、最近になってどんどん力を増しているように思える──いや、力を増しているのだ。
そのため、彼女らに関わる仕事はよしておいた方が良いだろう。返り討ちにされるのがオチだ。
「因果応報、か?」
結局、私達は所詮、悪に過ぎないのかもしれない。
おっと。
ネガティブになっていた。
思考をちゃきっと切り替える。
1つ、良い案がある。
目前の仕事は、その案を、ボスに伝えることだ。
ボスは「出張よ」と言って何処かに行ってしまって、1週間ほどここを留守にしていた。
そのボスが、明日には帰ってくる。
その際に、面と向かって話そう。
さて、仕事の事を考えるのはこれでおしまいにしよう。気分が下がっていくという訳でもないが、しかし楽しいものでもないのは事実。
──そうだ。
カスムが目覚めた時の為に、何かしておこう。歓迎も何も無しでは正直怖いだろう。
……まあ、初対面であれだけの事をしたのにも関わらず、彼は私を助けてくれたが。そこから見れば、彼は私達に恐怖心を抱いているという事は無いだろう。
だが肝心な事に、私はそういうサプライズ系が分からない。
──これは、団員の方が詳しいだろう。
廊下を歩き、階段を下りる。金属製の少し錆びた階段は、カツンカツン、と音を立てた。
リビングに居たのは1人だけだった。
「あ、副団長。新人はどーです?」
「一度目覚めた。が、体が動かないらしい」
「あちゃ」
「そこで、ちょっとしたサプライズをしようと思うのだが」
「お、おお!? 副団長がそんな事するなんて、珍しいっすねー!」
「茶化すな、
羽部は、「へいへい」と適当に頷いた。
こいつは、やる時しかやらないという欠点がある。昨日の昼間は、団員たちを避難させようとしてくれていたようだ。
頼りにして良いのか、良くないのか、迷う存在だ。
「……私は、何をすれば良いのか分からなくてな。良い案は無いか?」
「んー。副団長、料理できるじゃないすか。唐揚げでも作ったら喜んでくれますよ」
そうか?
そうなのか。
「ありがとう、羽部」
そう言って、キッチンに向かう。
昔、皆んなでお金を出し合って買った冷蔵庫の中身を見る。
鶏肉がない。
まずい。
そ、その他の材料はあるのか?
冷蔵庫の扉を閉じて、キッチンの棚を漁る。
片栗粉……ぎりぎりあるか?
油とか、その他、美味しくする為に必要なしょうがとかはある。
なら、鶏肉を買いに行くだけなのだが……。
「店、閉まったか……?」
時計を見ると、22時5分を指していた。ここの時計は5分早いので、22時ぴったりだろう。
私達カタカタヘルメット団は、近くにあるスーパーマーケットで買い出しをしている。というか、そこしか店がない。
そして、22時は、そこの閉店時間だ。
開店は、9時。
まあ、カスムが起きる時間もそれくらいだろう。
私も寝ようか。
疲れたし。
昨日蹴られたお腹も痛い。
「羽部。私は寝る」
「お、珍しく早めの就寝ですねー」
「そうか?」
「そーですよ。副団長、いっつも3時くらいまで起きてるじゃないすか」
「む……。そうだったのか」
健康に悪いな。
ちゃんと寝たいものだ。
流石に風呂に入ってから寝たいので、風呂場に直行する。
風呂場はリビングに付属するように付いてある。皆んな共同で使っているものだ。カスムが入団したから、その辺りも少し考えなくてはならないだろう。
脱衣場で服を脱いでカゴに入れ、風呂場に入る。
頭を洗い、体も洗う。
冷めてしまって、少しぬるくなったお風呂に肩まで浸かる。それでも暖かいのだが。
「はぁ〜……」
リラックス、リラックス。
かぽーん、という効果音がしっくりくるくらいにリラックスしよう。
「ふぅ……」
リラックス〜。
こーゆーとこでぐらい、こんなになったっていーでしょー。
ヘルメット団の中には、こんなお風呂じゃなくてドラム缶風呂に入ってるとこもあるらしーし。
満喫しよー。
ああ、でも。
結局、仕事はどうなるんだろうか。
「はぁ〜……。どうしよっかなぁ」
そんな、今は考えなくてもいいような事を勝手に考えてしまう。風呂の時でも、私の頭は苦しんでいたいようだ。
カイザー、また仕事くれるかなあ。
いや、もう来ないかなあ。
ビッグちゃんすだったのに。
「上がるか」
駄目だ、こんなとろとろになっている状態じゃ、上手く考えれない。
ザバッ、と音を立てて立ち上がり、風呂場から出る。
バスタオルで体や頭を拭く。
最低限の保湿をして、ドライヤーで髪を乾かす。
パジャマに着替えたら、風呂の時間は終了だ。
歯磨きして寝よう。
鏡を見ながら、シャコシャコと歯磨きをする。
最後にうがいをして、歯磨きを終えた。
歯磨きを終え、寝る準備は整った。
リビングに出て、階段を上って、部屋に向かう。
鉄製の、少し重いドアを開けて、見慣れた部屋に入る。
布団を広げて、寝る準備万端だ。
「おやすみ」
■
ジリリリ、ジリリリ、と言う目覚まし時計に起こされる。目覚まし時計のベルを止め、時間を見れば7時。
上体を起こし、伸びをする。
「んっ……」
立ち上がって、脱衣場のところにある洗面台に向かう。
「副団長、おはよーございます」
「羽部、おはよう。寝れたか?」
「はい、そりゃもうぐっすり」
移動中、リビングに居た羽部と、軽い会話を交わした。
洗面台の蛇口を捻り、ちゃぱちゃぱと顔を洗って、最低限の保湿。歯磨き粉を少し付けた歯ブラシで、歯を磨く。
髪を梳かして、後ろで1つに結ぶ。
着替えを取り、すぐ着替える。
後は、朝飯を食べるだけだ。
冷蔵庫からツナ缶と卵、キャベツやらを取り出し、棚からは食パンを取り出す。
キャベツを千切りに。
ツナに切ったキャベツをぶち込む。キャベツナの完成だ。
スクランブルエッグを作って、食パンを焼く。
少し色づくまで焼けたトーストに、キャベツナ、スクランブルエッグを乗せ、挟む。
キャベツナタマゴサンドイッチ、完成。
いつもはこんなことしないが、うん、久々にやると良い。美味しそうだ。
ちゃんと後片付けもして。
食卓に着いて食べてみたら、案の定美味しかった。
食レポは出来ない──美味しいしか言えないからだ。
「お、作ってますねー」
「……私の分だからな」
「分かってまーすよ。自分で作りますから」
さて、そうしているうちに約8時になっていた。
まだ全然時間がある。
さて、何をしようか。
散歩でもしようか。
「羽部、私は少し出かける」
「わっかりやした〜」
鉄製のドアを開けると、砂を含んだ風が頬に当たった。ドアノブから手を離すと、ドアは勝手にバタンと閉じた。
早朝でもなく、真昼でもなく……。実に爽やかな太陽の光が、私を照らしていた。空を見上げれば雲1つ無い快晴。太陽を取り巻く空は、清々しいほどに"青"だった。
……何処へ行こうか?
市街地の方に行ってみるか。あまり行ったことのない領域だ。
ザッザッ、と1人砂の上を歩く。何処もかしこも砂まみれだが、こういうのは存外リラックスできる。道ではなく、散歩という行為自体がリラックスさせるのだろうか?
道なりに歩いていると、寂れた公園や、砂に埋もれた住宅などが見える。それらが消えていくのは時間の問題だろうなと、そんな事を思う。
歩いているうちに、コンクリートが砂の間から顔を覗かせた。
そろそろ、市街地に着くという事である。
市街地は、特に何があるというわけでも無いが、少しだけ人がいるというのが砂漠とは違うところだ。
ほら、向こうにも一人──
「っ!?」
──あれは、アビドスの生徒だ。黒い髪をツインテールにしてる生徒。たしか”セリカ”だとか呼ばれていた。彼女は、てくてく、とスマホを見ながらこちらに歩いて来ていた。距離、約10
──まずい、ここ、一本道だ。
咄嗟に近くの家の影に身を隠してしまったが、別に、今はヘルメットをつけていないのだから問題はないだろう。
──ないよな?
ど、どうしよう。
引き返そうか。
うん、それがいい。
隠れるのをやめ、”普通の通行人”を気取って歩く。
我ながら、完璧!
だが、この作戦には一つ、穴があった。
アビドスに普通の通行人がいると、どうなるかを考えていなかったことだ──!
「──おはよう!」
突如、後ろから声がかかった。
え、え?
「え、あ、おはよう……」
「あ、ごめん。この辺りに生徒がいるなんて珍しくて」
「そ、そう……?」
人に飢えてるのか!?
まあ、確かにアビドスって人少ないし……。
ヘルメットも被らずにのどかに歩いていたら、こうなるのは必然だったってこと!?
「私、黒見セリカ。あなたは?」
「わ、私……ヒロイ」
あう。
名乗っちゃった。
「何でここに? この辺は何もないわよ?」
「あ、いや、えっと……。散歩、とゆーか……」
「ふうん……。あ、じゃあさ、付いてこれる? いいトコ知ってるんだよね!」
……?
この子、初対面なのにぐいぐい来すぎじゃないか……?
これが、アビドス流なの……?
「ちょっと待って」と言って、スマホを取り出し、時間を確認する。
まだ8時15分くらいだ。
コホン、と気を改めて。
「分かった、行っても良い」
「ん、じゃあ、こっち来て!」
ふわり、と黒髪を舞わせてUターンした彼女を追いかける。
「学校は行かないのか?」
「今日は自由登校日なの。だから、行かなくても大丈夫」
へえ。
自由登校日とかあるのか。高校に通った事が数えるほどしかない私にとって、その単語は聞き慣れないものだった。
「なんでこんな──親切にしてくれるんだ」
「アビドスっていいところなのよ。それを伝えたいの──簡単に言えば宣伝ってところね」
「得するのか?」
「もちろん。これで住人が増えてくれればお金も入るし。借金も返せるかもしれないし」
借金──確か、カイザーコーポレーションとのやつだな。
莫大な借金があったのだ──10億円くらいの。
そんな学校を毎日のように襲っていたと思うと、捨てたはずの罪悪感が再び蘇ってくる。
「……あ、学校はないけどバイトはあるのよ。ちょっと急ぐわ」
そう言って、彼女は少し早歩きになった。
しばらく歩いて、世間話をして。
着いた場所は、公園だった。
小さな公園だ。ブランコ、滑り台、ベンチ、大きな時計があるだけ。
「ここの公園、私が小さい頃からあるの。ここに居ると、リラックス出来るというか……。とにかく、良いところ」
「……確かに、何だか安心するな」
だが、こんな砂漠には珍しく木が生えていて、自然を感じさせる。リラックス出来るのは、その木のお陰だろうか。
「あ、もうこんな時間! 行かなきゃ!」
彼女はそう言って走っていこうとしたが、何かを思い出した様に引き返した。
彼女はポケットからメモ帳を取り出し、何かをそれに書いた。きょとんとしてそれを見る私。
彼女は、それを私の手に押し付けると、
「これ、私の電話番号! じゃあね! アビドス、良いところだからって、友達とかにも伝えて!」
と言って、走り去ってしまった。
……怒涛のようだった。
なにもしてないのに疲れた気がする。
公園のベンチに腰掛け、休憩する。木の葉が風に揺れ、小鳥の声が聞こえる。
そうだ、と手の中にあるメモを見る。
そこには確かに、彼女の電話番号と、ついでに名前が書かれてあった。
何故か、口角が上がった。
公園の時計を、ふと見上げる。
それは、8時30分を指し示していた。
スーパーに向かったほうが良い時間だろう。
私は、上がった口角を下げられないままに、歩き出した。
人の声で意識が覚醒した。ああ、聞いたことのある人の声。
ヒロイの声だ。
目を開けると、ヒロイが俺を見下ろしていた。
「おはよう、カスム。少し見てもらいたいものがある」
「……?」
何だろう。
俺のヘルメットとかかな。
……というか、何でこの人は当たり前の様に俺の部屋に入っているんだ?
プライバシーは……?
若干の戸惑いを抱えたままに起き上がろうとする。昨日とは違って、しっかりと自分の動きに体が付いてきた。
布団から這い出て、起き上がる。
「私は先にリビングで待っている」
そう言って、出ていってしまった。
何が何だか良くわからないが、とりあえず自室の洗面台で顔を洗った。
ここで、初めてこの世界の俺の顔を見た。
──結構美形じゃない?
前世の面影を残しながらランクアップした感じ。
ほー。転生特典的な?
自分がイケメンだと、こんなに気分アガるんだ。
全世界のイケメンの皆さんに嫉妬してしまう。
──イケメンは俺か!
ごめんなさい。
パチャパチャと顔に水をつけ、意識をしっかりさせていく。
待たれているのでさっさとリビングに向かおう。
小走りで相変わらず薄暗い廊下を渡り、一部が錆びついている階段を降りる。
「来たな、カスム。少し待て」
「……」
リビングには、数名のヘルメット団員と、ヒロイがいた。
呼んだのに待たせるのか。
ま、いいや。
ちょっと待つと、ヒロイは皿を持ってきた。
その皿の上には──!
「唐揚げだ!」
喜びのあまり、そう声を上げずにはいられなかった。
目の前には揚げ物──皆んな大好き唐揚げが、大量にあったのだ! これで喜ばない奴が何処にいる!? というかこの世界にもあったのか、唐揚げ。
「私が作った」
「家庭的なの、嘘じゃなかったんだな……!」
美味しそうだ。
「そうなんだよ。副団長って、なんか家庭的なんだよな」
と、ヘルメット団員。
「裁縫も出来ますしね〜」
「ええ!? 裁縫も!?」
意外だ!
裁縫が出来る人なんて、母さんと家庭科の先生しか知らなかったのに! ここで1人増えるなんて!
玉結びと玉止めの区別も出来ない俺に、教えてくれたりしないだろうか。やってみたいことは沢山あるんだよな。刺繍とか。
──おっと。
話を、眼前の唐揚げに戻そう。
美味しそうなのだが、いかんせん量が多い。
朝に食う量ではなくないか?
その旨を伝えると、
「私も、他の団員も食べるから大丈夫だ」
と言われた。
なら、大丈夫か。
この団、人結構いるし。
いやあ、美味しそうだ。
「白米が欲しいところだな」
「米ならあるぞ」
「マジか!」
ヒロイは、すぐに茶碗にご飯をよそって持ってきた。
食卓に着いて、両手を合わせる。
「いただきまーす!」
「あ、副団長それ、私が取ろうとしてたやつ!」
「残念だったな。早い者勝ちだ」
机を挟んで言い争う、そんな光景。
面白い奴らだ。
──ここでの生活も、悪くなさそうだ。
なんて、そんな事を思っていた。
「右腕の者よ、起きよ」
「……はあい?」
「お前に、任務を課す」
「……なあに?」
「脊髄の所持者の抹殺、脊髄の回収だ」
「……はあい」
「期待しているぞ──小川レイ」
「……はあい」
なにかが動き出しそうな気配ですね(他人事)