ヘルメット団員です。血反吐吐きながらがんばります 作:はみがきこな
うおお
「カスム」
「ん?」
朝ごはんを終え、皿洗いをしていた時。
飯を食えて満足そうなヒロイが、思い出したように俺の名前を呼んだ。
「今日はボスがいらっしゃる予定だ。失礼の無いように」
ボス?
まあ確かに、団があるのならそれをまとめる団長ってモンがいるのが普通だろう。……あ、でも団長じゃなくてボスっつってたな。
「団長とかとはまた違うのか?」
「立ち位置としては団長と同じだな。しかし、彼女がそう呼んで欲しいようだから、そう呼んでいる」
「……なるほど?」
自分をボスと呼んで欲しい? 何かこだわりでもあるのだろうか。
どういう人なんだろう。
優しい人だと良いなぁ……。なんて、思ったりする。ある程度厳しい方が統制は取れるが、あまりにも厳しすぎると俺の心が折れてしまう。なんて、自分で言ってて情けない奴だ。
「どんな人なんだ?」
「ふむ……。形容しがたい人だ、自分の目で見たほうが早いぞ」
どんな人なんだ……? 更に気になっていくばかりだ。
「いつ来るんだ? そのボスは」
「12時頃だと仰っていたが……あの人の事だから、早く来るかもしれない」
そんな話をしつつ。
皿を全部洗い。
ボロボロのソファに座る。座った瞬間、ボフッと塵が放出された。それらは空気中に舞い上がって、窓から差し込んできた光に照らされている。
ソファを買えるだけのお金があったのか、とヒロイに聞いてみたが、どうやら粗大ゴミを盗んだだけらしい。
「テレビとかないのか」
「無い」
「……そうか……」
まあ、無いよな。
スマホも持ってないし。
どうやって暇を潰そうか。
……あ、いや、ひとつ聞きたいことがあったんだ。
「なあ、ヒロイ。なんでここの連中は銃持ってんだ?」
ずっと気になっていた事を聞く。
ここに来て──いや、この世界に来て。俺が目にしたものの中でかなりの割合を占めているのが、美少女と砂と銃だ。あと脊椎。
銃なんていう簡単に人の命を奪える物、簡単に持てる筈が無い。持って良い筈がない。
「……? 何で、と聞かれてもな……」
何だ、その『銃を持つのは普通でしょう』感は。普通じゃないが?
「ほら、銃なんて危ないだろ」
「……?? 危なくないぞ」
……何で?
純粋な疑問が浮かぶ。
危なくない銃と言ったらエアガンとかだろうが、銃弾が本物だった。どう見ても危ない物だろう。
「……ふうん……。あ、でもヒロイ撃たれてただろ。平気か?」
「少し痛いが、別にどうと言うことはないな」
「いや、ちょっと撃たれたところ見せてくれ」
そう言ったら、ヒロイは腕をまくって、撃たれた二の腕を見せてくれた。
腕には、銃痕すらなかった。
……この事から見るに、どうやら銃で撃たれても平気らしい。
体、硬すぎじゃないか?
……いや、これはもう納得するしかないんだろうな。
俺は撃たれても大丈夫なのかとても気になるところではあるが、検証したくないのでその思いは胸にしまっておく。もし撃って貫通とかしたら嫌だし。痛そう。
そんな変な想像を引っ込めるように、突然。ピンポーン、とチャイムが鳴った。
ヒロイが椅子から立ち上がり、玄関に行ってドアを開けた。
ここからは来客の顔は見えない。そのため、声だけが聞こえる。
「……早かったですね」
「そうかしら? あ、そうか、ここアビドスだものね。時差のせいよ」
「……どこに居られたんですか?」
「あれ、言ってなかったけ? ミレニアムよ。あそこの技術力を──まあいいわ」
ソファに座ったまま、ちら、と来客を確認する。
鮮やかなオレンジ色の髪をツーサイドアップにしている、女子だった。服装は、ここの団員とは違ってブレザーだった。髪の色とは対照的な青色の目を動かし、アジトの内装を確認しているようだ。
……というか、女子多くないか?
よく考えれば、この世界で今まで会って来た人、全員女子じゃん。
そういう呪い? 別に嫌なわけじゃないが。俺はこれでも男だ。
そんな馬鹿みたいなことを考えている間に、ボスはてくてくとこちらに歩いて来て。
「ふぅん、アンタが新人ね……。面白いじゃない」
俺の目の前──鼻と鼻が触れそうになるくらいまで、顔を近づけていた。
「────!?」
顔、近っ……まつ毛長! なんかいい匂いする! めっちゃ美人!
動揺。
超動揺した。
心臓が痛いくらいに脈打っている。心臓の音が周りにまで聞こえているんじゃないかと思ってしまうほどに、強く打っていた。
俺の胸中も知らず、ボスはその青い目で、俺の目を見ていた。
じーっと。
ずーっと。
いや、ずーっと、という言い方は遠からずも近からずだろう。
体感時間は1分だが、実際の時間は5秒ぐらいだったと思うから。
気づいたら、ボスは俺の顔から顔を遠ざけていた。
腰に手を当て、仁王立ちしている彼女は言う。
「アンタ、戦闘したことある?」
「はいいぃ?」
何がなんだかわからない俺に、何が何だか分からない質問をするボス。
戦闘? それなら、昨日のを含めれば戦闘したことになる。
「だから、戦闘したことはあるかって聞いてるの」
「あり、ありますけど……」
「じゃあ、ちょうどいいわね。私と戦いなさい」
戦う!?
そんなセリフ、女の子から出ていいもんじゃないと思う!
「え、あ、いやそんな、無理っすよ俺」
「戦闘力テストよ。死にはしないわ」
「え、ええ……?」
どういう……。
ボス、確かに形容し難い人だ……。これをどうやって形容しろと言うんだろう?
「黒川? 戦闘能力テストするから、コイツ借りてくわよ」
「ボスの命令ならば。ほら、カスム、行け」
「はぁ……!? くそっ、何だって俺が……!」
玄関まで歩いていって、スニーカーを履く。
ギィ、と鳴るドアを開けると、元気の良い日差しが俺の顔を照らした。
「あっちの方に行くわよ」
「はい……」
まるで殺しに来てるんじゃないかというほどの太陽光を浴びながら、砂原を歩く。ボスが勝手にずんずんと進んでいくので、俺は付いていくだけだった。
歩いていたら、平坦なところに着いた。
ボスは、立ち止まって振り返った。
俺はボスから少し距離を取った。
「始めるわよ」
「ああもう、拒否権無いんだろ? ──いいよ、かかってこい!」
その瞬間、彼女は地面を蹴った。
彼女はその橙色の髪を靡かせ、突撃して来たのだ。まるで疾風のような速さで。
全く見えない──!
『戦闘モードへ移行します。過負荷に注意してください』
そんな声が聞こえた。
その声と同時に、ボスの動きが格段に遅くなった。
いや、遅くなったように見えているだけだ。
俺の神経系が、何かしらの変化を起こしたんだと、直感は語った。
考えている暇は無かった。
──突きが、来る!
彼女は、突進の勢いをそのままに、思いっきり右腕を突き出そうとする。
当たったらたまったもんじゃねえな!
彼女の動きに合わせて、右に跳ぶ。
彼女の正拳突きは空を切った。ビュン、という音が鳴り、彼女の右腕は伸びたまま静止する。
「結構やるじゃない」
「やりたかねえけどな!」
彼女は右腕を突き出したまま、左足を軸にして、グルンと回転した。
裏拳──!
体を仰け反らせギリギリで躱す。少し遅れて動いた前髪に、拳がチッ、と触れた。
彼女の軸となっていた左足は、地面が砂なので、少し沈んだ。そのため、彼女に一瞬の隙が生まれた。
上体を起こして、構える。
今だ、反撃しなければ──いや、相手は女子だろ……!
ああくっそ、やりづらい!
迷いが隙を生み、彼女はそれに付け入る。
彼女は、自身の左腕を、全くの無防備の俺の腹にぶち込もうとする──!
迫ってくる左手、その手首を左手で掴んで、二の腕の辺りを右手で掴む。
左腕をがっちりつかんで、左に半回転して放り投げる!
意外と軽く、彼女は2
平坦な放物線を描いて彼女の体は飛んでいった。常人なら背中から地面に叩きつけられ、そこで試合終了となるだろう。
彼女は違った。
彼女は、クンッ、と上体を起こし。
シャタッ、と華麗に着地して見せたのだ。
「バケモンかよ……」
「アンタ、やっぱり強いじゃない。宝の持ち腐れね」
「はあ? 何です?」
彼女は一瞬何か言ったが、俺にその言葉は聞き取れなかった。
ツー、と額に汗が流れた。
手で拭う。
彼女も、少しだけ疲れているようだ。
しかし、そんな疲れなど気にならないようで、彼女はまた突進して来た。
──その動きは、さっきも見た!
突きに備え、どしりと構える。
右か、左か?
彼女は、跳躍したのだ。
「上……っ」
俺の身長よりも高く飛んだ彼女は、右足を突き出し、左足をたたんで、落下して来た。
ライダーキックって、現実で出来んのかよ……!
咄嗟に腕をクロスさせ、守りの姿勢に入る。
蹴りは点で衝撃がくる。その場所さえわかれば、防御も簡単だ。
しかし、彼女は。
突き出した右足を更に振り上げた。
「まずっ──」
彼女は、右足を思いっきり振り下ろし、まるで踵落としのような攻撃を繰り出した。
それがぶつかるところは、腕ではない。
頭の上を回転してくるのだ──後頭部!
避けも防御も間に合わない!
来る──!
頭が吹っ飛んだと錯覚させられるほどの威力の蹴りが、後頭部に直撃した。
前によろけて四つん這いになった俺と対照になるように、彼女は華麗に着地した。
「──ぅあ」
いってぇ……!
生きてる!? 俺、生きてるよな!?
「はい、決着」
「……痛かった……!」
涙目になりながら、後頭部を押さえ、のたうちまわる。
信じらんねぇくらい痛え!
まるで頭が吹っ飛ばされたんじゃないかと思ってしまうほどの衝撃だった。
『戦闘終了。戦闘形態を解除します』
と、また謎の声が聞こえた。
それと同時に、鼻血が出た。
「うあ、鼻血……。ティッシュ持ってないか?」
「無いわ。自力で治しなさい」
ひどい。
しかし、何もくれないと言うのなら仕方がない。鼻の頭の方を押さえ、待機──! これをやれば、軽いのなら治る筈だ。
そんな風に鼻を押さえている俺を、表情変えずに見ていたボスは話した。
「んー、結構良かったわよ。黒川とおんなじくらい強いわよ」
「へ、はぁ……?」
飴と鞭を使い分けようってのか、この女。
やるじゃん。俺には効果ある。
「ありがとうございます……?」
「何感謝してんのよ」
「褒めてくれたから……?」
「なんで疑問符つけるワケ……? まあいいわ、帰りましょ」
俺は鼻を押さえつつ立ち上がり、スタスタと歩いていくボスの背中を追いかけた。もう鼻血は止まっているようだったので、鼻から手を離した。
少し小走りになって追いかけたら、すぐに追いついた。
「それにしても、なーんでアビドスってこう暑いのかしら」
と、ボスは吐き捨てるように言った。
まあ確かに暑い。赤道直下にでもあるんじゃないのかと勝手に思ってはいるが。
「もー、汗かいちゃったじゃないの。風呂借りなくちゃ……。日焼け止めも買っとかないと……」
一人でそんなことをぶつぶつと呟くボス。
……あの戦闘をして、まずやりたいことが美容系なのか……。
呆れるくらい強気な太陽の光と、それを引き立たせる青色の空を感じながら、俺らはアジトに帰った。
アジト入口まで来てしまえば、もう太陽の光に肌を焼かれる心配もない。
ドアを開け、中に入る。外に比べれば幾分か涼しい。
「ボス、おかえりなさい」
「ただいま。これから会議するから」
てくてくと歩いていき、外と比べれば数段涼しいこのアジトのリビング、その真ん中でボスは仁王立ちした。
偉そうにそこに立った彼女の周りに、次々とヘルメット団の団員らが集まっていく。
「次の任務を言い渡すわ。カイザーがまた仕事をくれたの」
その言葉を聞き、団員らがざわついた。
カイザー?
なんだそれは。誰かに聞けば教えてくれるだろうか?
近くの団員にカイザーについて聞くと。
「なんだ、知らないのか。大企業だよ」
それだけ言われた。
大企業からの仕事ということか──というか、大企業ってこんな不良に仕事を渡すのか?
まあいいや。
疑問をしまいこむ。
「任務内容は簡単よ。アビドス高等学校所属、
──拉致?
は?
「おい、ちょっと待てよ」
咄嗟に、発言してしまった。
「なに、カスム」
「拉致って、なんだよ」
「拉致は拉致よ」
「ちげえよ。何でそんな事すんだ」
「仕事だからよ」
当然でしょう、と。
彼女はごく平然に、動揺もせず。
言い放った。
「……こんなこと、俺は……っ」
「命令よ、やりなさい」
「やるわけないだろ!?」
「今の貴方はヘルメット団の団員よ。ボスからの命令は、血反吐吐いてでも完遂しなきゃいけないの」
彼女は、極めて冷徹に、そんなセリフを吐いた。
……なんなんだよ。
なんで拉致とか、そんなことしないといけないんだ?
もっと真っ当な生き方、あるんじゃないのか?
「なんで、そんな──」
「なんで、
彼女は、そう言い放った。
その青色の目で、俺を見据えて。
「……っ」
命の重さなんて、俺には分からない。分かるわけない。
でも。
彼女のその視線で、分からないままでいることは出来なかった。
拉致。
彼女の目は、そう言っていた。
「……分かったよ」
毒を食らわば皿まで、だ。
悪党になったんなら、とことんやってやろうじゃないか。
なんて。
半ばイカれていたんだと思う。
その場の勢いで参加するなんて、馬鹿以外の何者でもない。
「ま、とりあえずアンタが参加してくれるんなら、この任務は完了したも同然ね」
「……? お高い評価は嬉しいが、俺、そんな強くないぞ」
「……ほんと馬鹿ね。救いようのない馬鹿よ」
「む」
罵倒は良くないぞ。馬鹿とか言っちゃ駄目だって言われなかったのか?
「アンタ、私の攻撃まともに食らってないのよ」
「ん……? いや、後頭部蹴られたろ」
「あんなの、即興よ即興。あれ以外全部避けたじゃない。せっかく準備しといたのに」
……?
必死だったから憶えてないな。
てか、あの蹴り即興だったのか……。恐ろしい女。
「だから、アンタ強いのよ」
「……お、おう。なんかありがとな」
褒められると嬉しいな。へへへ。
「ま、話戻して。黒見セリカの拉致は、3日後の午後8時に行うわ。場所は、柴関ラーメンから出て左、一番最初に出る交差点を右に行った所」
……しかし。
やっぱり、拉致という言葉を聞くたびに、良い気分ではなくなる。
──命懸けてんだ。シャキッとしろ。
自分自身に活を入れ、ボスの言葉を聞く。
「メンバーは、私、カスム、それから第1分隊。黒川は待機を頼むわ」
ボスからの声がけ。
ヒロイが反応しないはずはない。
ないのに。
彼女は、まともに反応せず、何か呟いただけに留まった。
「……黒見、セリカ……」
「……黒川? 何か言った?」
「──あ、いえ、何も」
様子が変だ。
そんなことは、誰が見ても分かったろう。
しかし、誰も彼女への詮索はしなかった。優しさか、厳しさかは分からない。
「……ま、残り3日くらいは、自由になさい」
ボスは、そんな風に作戦会議の終了を告げた。
「第2の少年は?」
少年の声が響く。
「今のところは、何のアクションも起こそうとしない」
「なら、今から起こすんだろうね。無名の司祭さんもそう思うでしょ」
「無論だ」
無名の司祭、そう呼ばれた石像のような人影は、少年と言葉を交わしている。
「右腕は?」
「レイに預けた。上手く使わないだろうが」
「そう、彼女にねぇ……。彼女、ムラっ気あるからね。ま、それ以外に適正いないか」
「貴方は?」
「僕、頭蓋でしょ。2つも一緒になっちゃったら爆散するよ?」
たは、と少女は笑った。
笑った後、彼は言った。
「健闘を祈るよ、カスム君」
ノリと勢い、そして少しの適当で物語を組み立てている