ヘルメット団員です。血反吐吐きながらがんばります 作:はみがきこな
さらに短い
銃──そう呼ばれる凶器は、そこでは芸術品の様なものだった。
銃を取り扱う専門店──そんな店が、このキヴォトスには無数にある。
その中の1つが、ここだ。
「うお、かっけえ……」
10人ほどの生徒が店の中で銃を手に取ったり見たり、或いは的に向かって試射してみたり、或いはサプレッサー等のアタッチメントを見たり……、それぞれが思い思いの行動をしている。
そんな店に、俺とヒロイは入っていった。
ショウケースに入れられた何だか強そうな銃に、ギリギリまで顔を近づける。
何が強い、とかは分からない。だが、その形状・構造は、俺のことを強く惹きつけた。
かっこいい。
「ヒロイのオススメとかあるか?」
少し離れた場所の彼女に、ノールックで聞く。
「分からない。適当なアサルトライフルでも選んでおけば安牌じゃないか?」
返ってきた返事は、こんなものだった。適当にあしらわれた感がある……、彼女も彼女で、何かに集中しているようだ。
アサルトライフル。
突撃銃という意味の自動小銃。
俺みたいな下っ端にとっては丁度いい銃かもしれない。
入り口近くのガンラックに置かれてあったそれを手に取ると、しっかりとした重みが伝わってくる。
セーフティがかかってあって、もちろん弾薬も詰まっていない──だというのに、やはり、凶器であることには変わりない。
手が震えた。
どうしようもない、こればっかりはどうしようもない──手に、人を殺せるものがある、それだけでなんだかおかしくなりそうで。
腑抜けな俺は、結局もとの位置にそれを戻した。
店のドアが開いた。
それを察知できた理由は、まず、ドアが「がちゃり」と音を立てて開いたから。
もう一つは、
「見つけたよ、カスム君」
と。
誰だか知らない同い年くらいの青年に、そう呼ばれたから。
背筋が、ぞわっとした。
「だ、だだだ……え? は?」
誰?
そう聞こうと思ったのに、あからさまな困惑が口をついて出た。
「カスム君、君とは友達になりたいと思っていたんだよ……そうだね、五百年くらい前から」
「初対面でいきなりボケるな」
その
さりげなく距離をとりつつ、その青年と会話をする。
不審者は刺激しないのが一番だ──そう、学校では教わった。
「カスム君、何を見てたんだい?」
「……アサルトライフル」
「いいね、君にはよく似合うよ」
「ありがとう……?」
結局元の場所にもどしたアサルトライフルを横目で見る。
「でもね、カスム君。君には
「はい?」
なんだコイツ。
「付いてきてくれるかい?」
「え、いや、無理……」
「そう固い事言わずに」
「普通だろ」
自分が不審者だと理解してくれ。
しかし、まあ、そんな事は不可能な様で、グイグイ体を近づけてくる。
コイツ……。
「……どっかいけ、警察呼ぶぞ」
「つれないなぁ」
「不審者と行動できるわけないって事だ」
「不審者? 僕が?」
目を見開いて、本気で驚いているようだ。
「お前以外にいないだろ……、それとも何だ? 初対面の人間に対してさも友達かの様に話しかけれるやつが正常なわけないだろ?」
「君も大概じゃないかい?」
「うるせ」
そんな事を言ってるうちにもどんどんそいつは近づいてくる。
だから、距離をとっていく。後ずさったり、横に行ったり。
しかし、それにも限界が来た。
「いてっ」
背中に何かがドンッ、と当たる感触。
後ろを見れば、冷たい壁だった。
これは不味い。
逃げ場が無くなった。
前からは、ワイシャツにズボンを履いた青年が歩いて来ていた。
「カスム君」
「なん……、なんだよ」
「僕の目を見て」
彼の赤い目は、俺の目をじっと見ている。
それに呼応するように、俺も彼の目を見た。
彼の赤い目を、見てしまった。
「君の可能性に賭けるよ」
「は……?」
ドクン。
体が異変を告げた。
体がひっくり返る──そんな感じだ。
「ぐっ……が」
口から苦しみが漏れ出す。
前に脊椎を触った時の"痛み"じゃない……、"苦しい"。
呼吸が出来ない。
体が動かない。
呼吸が。
体が。
「はっ……ぐっ……」
死ぬ。
そう思った。
そう思った時には、苦しみは終わった。
「はっ……はあっ……うっ……」
吐きそうだ。
胃の中で何かが渦巻いている感じの錯覚に襲われる。
「俺に……何した……?」
息を振り絞って、彼に問う。
彼は少し笑って、
「
ふらり、どさり。
地面に四つん這いになる。冷たい床が映る。
ギュウッ、目を瞑る。
苦しみが遠のいていく。
体が落ち着いていく。
呼吸が落ち着いていく。
暗闇の中、からん、という硬く軽い音がした。
目を開ける。
地面につけた右手の近くに、刃物のような物が、いや、刀の様な物があった。
それを知覚すると同時に、青年は去ろうとする。
「待てよ……お前……!」
「そうだ、1つ言い忘れてた」
彼は振り向いた。
「僕の名前は
そうして、彼は立ち去った。
俺と、刀の様な物を残して。
「くそ……」
渦野カナタ──そう名乗った彼の背中を追う気力は無い。
ふらふらと立ち上がって、床に転がっている凶器に目をやる。
何だ?
見た目は刀だ──紛うことなき刀だ。
刃があって、鍔があって、柄がある──1つ普通じゃないのは、刃の付け根の部分に、菱形の宝石の様な物があること。
後は、鞘が無い、くらいか。
拾ってみる。
柄を握ると、それは妙にしっくりくる感触だった。
振ってみる。
ヒュンヒュン、と空気を裂く音が聞こえた。
捨てようと思った──刀なんて凶器、持ってるだけで怖いし。セーフティとかが無い分、銃器よりも人を傷つけやすいんじゃないのだろうか?
でも、捨てれなかった。
何かが、その行動をするな、と引き留めたような気がした。
「……使ってやるよ」
柄を握る力を強くした。
冷めた刃が、蛍光灯を反射していた。
■
店から出て、
待っていた人はやって来た。
「カスム……それは何だ?」
やってきた人──ヒロイは、俺が持っている物を凝視している。
疑問に思うのも無理はない。
「刀だよ」
刀──そうは言ったが、今のそれは不格好なものだった。
刃の部分に包帯の様な布が巻かれ、物を切るという事が出来なくなっている。
鞘が無かったから、仮の鞘として包帯を選んだのだ。よくあるだろう、アニメとかで。
「刀なんて売っていたか?」
「あー、貰ったんだ」
誤魔化す。
よくわからん青年の目をみたら出てきたとか、意味不明すぎて伝える気にならない。
「逆に聞くが、ヒロイ……、それはなんだよ」
俺は、彼女がいつの間にか引きずっていた、腰くらいまであるキャリーケースを指さした。
「これはだな、弾丸だよ。中に詰まっているんだ」
なるほど。
彼女らは日々銃弾を使う──もちろん弾丸は消費される。
それの補充というのは、何、当たり前の事だ。
「なるほどな。流石、副団長」
弾丸の補給が当たり前──なんて事を考えられるあたり、俺はこの世界に慣れてきたらしい。
喜ばしいことなのか、悲しいことなのか……、それは俺には分からない。
淡い陽光に照らされている一人の少女を、ただ、ただ見ていた。
両の目で、しっかりと。
シュバババッ(短かったですけれど許してのダンス)