ヘルメット団員です。血反吐吐きながらがんばります   作:はみがきこな

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ヘルメット団員です──テロ!?

 

 

 

 

 

「隣、座るぞ」

 

 ヒロイは、俺の座るベンチに腰掛けた。

 

「なあ、カスム」

「何だ」

 

 彼女は、ポツリポツリと話し出した。

 

「今回の仕事……怖くはないか?」

「怖いよ」

 

 拉致。

 健全な青少年として、そんな犯罪……、楽しみにできるわけがない。

 

「私も……怖いんだ」

 

 彼女の言葉を遮らず、ただ聞く。

 

「ターゲット……黒見セリカとは、友達になったんだ」

「前に散歩をした時……、向こうから話しかけてくれて」

「驚いたよ……そんなの初めてだったしな」

「それで、電話番号を交換して……」

 

 彼女の言葉からは、哀しみが漂ってくる。

 一つ一つの言葉に、力が込められているのを感じる。

 どうして俺にこの事を言い始めたのかは分からない。

 けれど、俺はそれに最後まで付き合わなければいけないと思った。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

「彼に、剣を託してきたよ」

 

 不吉さを感じる暗闇の中、少年の髪だけが薄らと白い。

 

「どうするんだい、これから」

「……彼に使えるか、試す時だ」

 

 少年──渦野カナタは、ズボンのポケットに手を入れたまま、何かの声を聞いている。

 

「また彼に辛い思いをさせないといけないのかい?」

「仕方のない事だ」

 

 少しため息を吐き、少年は指を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ショッピングセンターが、爆発した。

 正しく言えば、ショッピングセンターの天井が爆発した、と言うべきだろう。

 体を打ちのめすような低い音を出した爆発は、大きな天窓を作り上げた。

 

「うっわ……何だよ」

 

 落下してきた瓦礫を避け、ヒロイの目を見る。

 

「何が起こってるんだ?」

「多分……テロだ」

 

 テロ。

 犯罪行為と言ったらコレ、みたいなヤツじゃないか。

 

「何でテロ起こす必要があんだよ……」

「暇つぶしかもな。止めに行くか?」

「出来んの? 俺らそんなに強いのか?」

 

 俺ら、と言うよりヒロイが強いのか。

 

「いや……助け舟も来たから、と思ってな」

 

 助け舟?

 新しい武器の事か? いや、そうだとしてもそんな言い方はしないはず。

 

「あそこを見てくれ」

 

 ヒロイが指差した方向には、一人の男性がいた。スーツを着こなし、白色のタブレット端末を持っている。戦闘能力が無い動物の様な市民を逃がしているらしい。

 

「あの人の事か?」

「ああ。あれは"先生"と言うらしい。生徒の味方をしてくれるんだと」

 

 なるほど?

 ヒロイの言いたいことが、少し分かった気がする。

 

「ええっと……彼に助けを求めよう、って事で合ってるか?」

「慣れてきたな」

 

 先生の元へ走る。

 途中途中、瓦礫が上から落ちてきたりしたが、体が反応してくれて避けれた。やっぱり、身体能力は上がっているらしい。何故かは知らないが。

 

「すみません」

「"え?"」

 

 声をかけると、彼はくるりとこちらに振り向いた。

 

「テロやってる奴らを倒したいんですけど、手伝ってくれませんか」

「"いいの!? ありがとね!"」

 

 こんなお願いで通るのか。

 この世界は、子供もおかしければ大人もおかしい。

 

「"名前、聞いてもいい?"」

「俺がカスムで、こっちがヒロイです」

「"よっし、カスム、ヒロイ。今からテロを起こした子たちを捕まえるけど……私の指示に従っていればいいから! はい、これ"」

 

「手、出して」と言われ、従う。

 先生は、何か硬いものを俺達に渡した。

 手のひらにある物を確認すると、片耳しかないワイヤレスイヤホンがあった。ヒロイの方を見ても、片耳分しか無かった。

 

「"ゴメンね、ちゃんとしたの無くて……。とりあえず、それから私の指示が聞こえるハズだから"」

「分かりました」

 

 俺のは右耳用のイヤホンだったので、右耳に付ける。

 ヒロイも同様に、左耳に付けていた。

 

「"あそこに武装集団がいるのが分かる?"」

 

 先生が指さした広場の方に目を凝らすと、5人程の生徒が人々に射撃をしていた。

 

「砂漠で生き埋めにされたくなけりゃ金置いてけェ!」

「大人しくしてろォ!」

 

難なく引き金を引けているあたり、ここはヤバい所だと再認識できる。

 

「"彼女らがターゲット。作戦は……"」

「私達に任せてくれ。先生は戦況を教えてくれればいい」

「"……オーケー"」

 

 先生は少し意外そうな表情をしたが、すぐに切り替えたようだ。先生自身、作戦を立てるつもりでいたのだろう。

 

 ……。

 今やってることはヒーローなんだけどな……。

 心の奥底で呟く。

 

「行くぞ、カスム」

「分かってる──よっ!」

 

 落ち込んでいる暇は無い。

 地面を蹴る。幾らか外から舞い込んで来た砂が吹き飛んだ。

 右手は、刀の柄を握っていた。

 目標にぐんぐん近づいていく。彼女らは気づかずに、呑気に銃を乱射していた。

 しかし、弾が一定の間隔で頬の近くを飛んできた。

 つまり、

 

「……気付かれた」

 

 刀を取り出す。巻いていた包帯をシュルシュルと解き、刀身を剥き出す。

 

『戦闘形態へ移行します。……(つるぎ)と同期中……完了。過負荷に注意してください』

 

 白い刃が少し輝く。

 また、この声。

 お前は誰なんだよ──。

 

 目の前から弾丸が飛んでくる。いつもの様に遅いそれを、軽く首を曲げて躱す。

 直線距離が1番短い。止まる必要は無い。しかも敵は目の前。

 このまま──

 

『"カスム、後ろ!"』

 

 横に転がる。先生のバックアップに体が反応していなければ、危なかった。

 さっきまで俺がいた場所辺りは、抉れていたからだ。

 

「狙撃……? コレ何だ、先生──グレネードランチャー……?」

 

 先生が言うには、それはグレネードランチャーによる攻撃らしい。

 確かに、床が大きく抉れるほど強い攻撃は、俺が知ってる所だとロケットランチャーとかその辺りの武器しかできなさそうだ。

 納得がいく。

 

『"狙撃地点確認中……上から!?"』

 

 バッ、と上を見上げる。

 歪な天窓から、銃口が見えた。

 ……とてもじゃないが、返り討ちに出来る距離じゃない。狙撃されて吹っ飛ばされて終いだろう。

 背後から銃声がした。

 

「っ──」

 

 また、体が勝手に動く。

 それは弾丸を回避する事と代償に、吐き気をもたらした。

 

「背後は私がやる! カスムは上の奴を!」

「──分かった!」

 

 どうやったらあの距離の相手に刀を振るえるのか気になるところではあるが、任されたからには仕方無い。

 方法は──無茶ではあるが──ある。

 

「やってやるさ……」

 

 右足を後ろに置き、槍投げのポーズを真似る。

 もはやこれしか無いだろう。

 片目を閉じて、こちらを見ているであろう影に狙いを定める。

 じわり、じわりと集中していく。

 

『軌道誤差修正……17%。命中確率、高』

 

 右足を出し、踏み込む。

 それと同時に、腕を思い切り振るった。

 刀が飛んでいく。

 

『……命中』

 

 機械音声。

 それ共に、黒い影が天窓から落下してくるのが見えた。

 

「……誰だよ、お前……さっきから」

 

 機械音に問う。

 返答は、静寂だった。

 

「……何が起きてんだよ……」

 

 周囲の環境に。

 自身の状態に。

 俺は、混乱していた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 刀の奴がいなくなったから、大丈夫だと思った。

 それは、大きな間違いだったようだ。

 

「くっそ……これでも食らえェ!」

 

 至近距離でサブマシンガンをフルオートで乱射する。腕に重い反動。確実に撃てている、当たっている。

 しかし。

 緑の閃光。

 それが現れ、弾丸は虚空を貫いていく。

 それを見届ける間も無く、体を衝撃が貫く。

 

「かはっ……」

「抵抗は止めろ。全て見えている」

 

 蹴られたと察知した時には遅い。腹に居座る鈍痛と共に5mほど地面を転がっていた。

 

 化け物。

 あの「緑の閃光」を十分に表せる言葉だろう。

 こんな奴がいたのなら、もうとっくにキヴォトスに名を馳せていてもおかしくない。空崎ヒナや、剣崎ツルギらと肩を並べて戦えるんじゃないか──そうとさえ思った。

 ああクソ、こんな仕事、やってみるんじゃなかった──。あの量の報酬を目の前にして「やらない」という選択肢が出てくるほど賢く生きていないのが災いした。

 仲間は気絶していた。

 体中を支配する倦怠感と鈍痛のせいで、動くことすらままならない。

 

「化け、物……!」

「悪かったな、化け物で」

 

 ガサッ、ガサッと少し砂っぽい床を歩いてくる「化け物」。

 恐怖を感じたが、動けない。

 

「トドメだ──ヴァルキューレで5人仲良く暮らせ」

 

 それの冷徹な視線と、頭に降ってきた踵落としの痛みは、忘れる事は無いだろう。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 私に家族は居なかった。

 街を歩いていた時、彼女に出会ったのが始まりだった。

 

「あなた、だいじょうぶ?」

 

 小さな手を差し伸ばしてくれた少女。

 ああ。

 私は、彼女を守らなければいけない。

 そう思った時、目に痛みが走った。

 それが力の発生だったのだなと、今なら思い返せる。

 

「ほんとうに、だいじょうぶ?」

「……うん」

 

 ふわりとした金髪。

 汚れの無いワンピース。

 一目見ただけで、アビドスの人間では無いと理解できた。

 

「ねえ、いっしょに帰りましょう?」

「……どこへ」

「もちろん、決まってるじゃない!」

 

 何故か胸を張った彼女の言葉を、私は今でも覚えている。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「カスム」

「? 何だ?」

 

 彼は、振り向いて私を見た。

 今度は、私が彼女の番なのだと、つくづく思えた。

 

「──家に、帰ろう」

 

 私の原点は、この言葉だった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 渦野カナタは、暗闇でひとり微笑んでいた。

 

「随分面白い使い方をするんだねぇ……あは」

 

 くすり、と笑うと彼は立ち上がり、歩き始めた。

 

「素質は十分、あの調子なら剣の再構築もできそうだ」

 

 独り言か、或いは誰かに報告しているのか。それを知る由は、無い。

 

「鍵は揃った──そろそろ始めないとね」

 

 スウ、と暗闇に白色のシルエットが現れる。無名の司祭だ。

 

「脊髄は現れた、眼球もいる、脚も居る──頭蓋は僕だし、うん、楽しみだなぁ……」

 

 愉悦の表情を浮かべたカナタ。何を考えるか、何を成すのか、それは闇に包まれたままだ。

 しかし、彼は言った。

 

「神域再構築を成すのは、僕だ」

 

 

 

 

 

 

 




(執筆から)逃げちゃダメだ
いや、マジで
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