ヘルメット団員です。血反吐吐きながらがんばります 作:はみがきこな
カタカタヘルメット団団長──俺は本名を知らない。
俺は、と言うより、俺"も"と言ったほうが良いだろう──それくらい、彼女の名前を知る者は少ない。
「ボス。名前なんなんだ?」
だから聞いてみた。
リビングで、タンクトップと短パンという格好でアイスを食べながらスマホを見ている──堕落しきった人間の行動をしているボスに、そう聞いた。
「ふぇふぃふぉふふぁひははい」
「アイスから口を離せ」
「んっ……ぷはっ。敬語使いなさい」
「はーい……。で、名前はなんなんですか」
俺がそう聞くと、彼女はスマホの画面をスクロールさせた。
それで、終わり。
ボスは、かなり頑固だった。
■
「ヒロイ」
「何だ」
「暑い」
「我慢してくれ」
ショッピングセンター、帰り道。
行きの反省を活かして、公共交通機関を出来るだけ使って移動した後、歩いて帰るという行動に出た。
行きよりは楽だったのは確かだ。
だが、砂漠を歩くというのはそれなりにキツイものである。
結局太陽に照らされ、汗をかきながら移動していた。
「しっかし、ありゃあ何だったんだ……?」
「テロの事か? まあ、日常茶飯事というやつだ」
「治安悪ぅ」
ずっと思っていた事ではあったが。
やはり、ここの治安はおかしい。
「そう言えば、カスム」
「何だ?」
「あの大人──先生が居るだろ? 彼は、アビドス側に付いている」
時が止まる。
──俺達は彼と戦わなければいけない、そういうことだ。
「そりゃ、キツイな……」
彼の指揮能力やらは未知数だが、決して能力が低い訳は無いだろう。
ため息を吐く。
ざくざくと砂の上を歩いていく。しばらく歩けば、アジトの影が見えてきた。
「ようやくだ……」
つう、と頬を伝う汗を拭う。熱中症になってもおかしくないぞ、この暑さ。
アジトの玄関に向かう。
太陽によって熱された鉄のドアノブを回し、ドアを開けた。
室内の冷気が体に触れた。
「ただいま──は?」
「只今帰りました、ボス──って」
2人、同時に驚く。室内は、予想だにしなかったことが起きている。
「なんでこんなにぐっちゃぐちゃ……洗濯物散らばってるし」
「皿が全部割れて──そん、な……」
ヒロイに至ってはへたり込んでしまった。
確かに、このアジトで家事を担当している側の人間からしてみれば、部屋の様子はまさに地獄そのものだ。洗濯物は散乱し、皿は割れ床に散らばり、ソファからは大半の綿が出てしまっている。
「あ、帰ってきたのね」
そんな惨状の中央に、その少女は立っていた。
「……ボス、これはどういう……」
「見てわからない? 襲撃にあったのよ。アビドスの奴ら……」
ボスは下唇を噛んで悔しがっている様子だった。
まあ、その、悔しがるのはいいんだが。
まずはその格好を、どうにかして欲しいというか……。
「ボス〜?」
「あいつら、なんでこんな行動に……何だって今日なのよ……」
水色のパンツに、ブラ。白に近い柔らかな色合いの肌とのコントラスト。
完全に下着姿のボスは、俺の言葉が耳に入っていないようだ。
「……もしもし、ボス〜?」
「うるっさいわね! ちょっと黙っててちょうだい!」
目のやり場に困るから着替えて欲しいのに、一蹴される。
頑張って目を逸らしながら、自分の部屋に移動する。
しかし、それは出来なかった。
「何逃げようとしてんのよ、待ちなさい」
「何で?」
ボスは何故か逃がしてくれない。
困った、非常事態だ。
しかし、ボスはまだ何かを思考しているようで、独り言を呟いている。
「……そゆこと? だったら今すぐ行動しないと……。ヒロイ、カスム、聞きなさい!」
「何だよ」
「何でしょうか」
ボスは仁王立ちでこちらを向いた。
だから、目のやり場に困るんだって……!
「……っ! ボス、さっさと着替えてくれ……!」
「え? ……あ」
俺もボスも、顔を真っ赤にしていく。
弱弱しく目を伏せた俺とは対照的に、ボスは目尻を吊り上げた。
「……見ないで、変態っ!!!」
「ぐあっ!?」
瞬間、閃光のような蹴りが顔面に飛んできた。
避ける事は出来ず、普通に気絶した。
◆
「……はぁっ!」
がばっ、と上体を起き上げる。
ぐちゃぐちゃのリビングの床に敷かれた布団に寝かせられていたようだ。
「……何してたんだっけ」
「あ、目が覚めた?」
私服姿のボスが歩いてくる。
「ああ、起きたけど……。どうも、記憶がハッキリしないんだよな」
「忘れたままで結構。話に入るわ」
布団を体から離し、あぐらをかく。
ボスは「あのねえ、私が話すのよ? 尊敬の念とかあったら正座とかした方がいいと思うんだけど」と言ったが──別にこいつ、尊敬する要素ないんだよな。
あぐらのまま話を聞く。
睨まれた。
「まず……何故か、アビドスの生徒が襲撃に来たの」
「は?」
ボスは、淡々と話し始めた。
◆
数十分前。
私は、風呂に入ろうとしてた。団のみんなは、三日後の作戦のため作戦予定地に事前調査をしに行ってた。のんびり風呂に浸かれるチャンスだったの。しかも暑かったし、汗もかいてたから、スッキリしたかったワケ。
それで、風呂場に行って、着替えたんだけどーー。
ドアが大きな音を立てて開いた。
誰も外出していないはずーーそれに、こんなに乱暴にドアを開け閉めする奴はこのアジトに居ない。
不審者?
急いで下着だけ着て、玄関に向かう。玄関の方では、ガサガサと物音がする。良い予感だけはしない。
そこには、
「ん……!?」
どこかで見たことがある顔が、銃を構えていた。
確か……
「アビドスの……!? チィっ」
「っ……よりによって」
銀髪に狼のような耳、十字のヘアピン、季節外れのマフラー。その特徴は、彼女がアビドス高等学校、砂狼シロコだという事を示す。
つまり、敵だ。
「用があるんなら、チャイム鳴らしておすわりしててよ!」
懐に飛び込む。急な事態に混乱しているのか、彼女は少し固まっていた。
右の拳を固める。狙いは腹。一発与えられれば、相手は蹲る事間違いなし……!
「はあっ──! ……っ、めんど……」
「ありがと、セリカ」
「気をつけてよね!」
拳は空を切った。
砂狼は、黒いツインテールの女に引っ張られ、動いていた。
「黒見も……。気前がいいわね」
「そっちこそ、ボスが登場とはね」
玄関で相対する。
何故ここに今攻め入ってきたのか、なんで2人だけなのかーーそれは考えない事にした。考えるべきは
こちらは素手、相手は銃器。どうあがいても勝てるものではない。ガンラックは遠い。しかも、相手は2人。多対一は不利だなんてことは、義務教育でも習う。
しかし、ここは私のアジトだ。間取りも、家具も、何もかも知っている。
なら、そのアドバンテージを活かす。
「っ、逃げ……!」
「セリカ、落ち着いて。……よく狙って」
リビングに向かって走る。敵に背中を向けるのは愚策だが──きちんとした策でもある。
ソファ目がけて走り、ジャンプ。ソファを飛び越え、しゃがみ、それを遮蔽とする。
瞬間、ソファに銃弾が当たった。
「小賢しいわね……!」
黒見が土足でアジトに入り込み、回り込んでくる。
やられる前に、やる──!
近くの食器棚まで跳ぶ。昔から脚は良く動いてくれた。
いきなり飛び出したものだから、黒見の反応は芳しくない。銃を構えるのに少しラグがある。
食器棚から幾つか皿を乱暴に取り出し、ぶん投げる。乱暴に取り出したせいで、使う気の無かった皿まで落ちる。
「あいたっ!?」
「セリカ!? 大丈夫?」
「ダイジョブ、だけど……!」
バリンバリンと皿は割れ、代わりにセリカを傷つける。
これで暫く怯んでくれれば──
「こんのお〜っ!」
──そんな事は起こらなかった。
セリカは銃を乱射させる。
この距離は、不味い──!
「くっ……!」
腕、脚、腹に弾丸が直撃する。鈍い痛みが走り、その存在を主張する。
何か、射撃を妨害出来るものは……!
視界の端に、畳んでいた洗濯物が映る。
「──使わせてもらうわよ!」
「……させないっ」
いつの間にか侵入していた砂狼がトリガーを引く。私の少し後ろを弾丸が通過していく。
避けながら洗濯物の所へ跳んで、幾つかの服を掴む。
それもまた、ぶん投げる。
「きゃあっ!?」
「っ……邪魔っ……!」
彼女らの顔に被さったそれらのおかげで、隙が出来る。
ガンラックに銃を取りに行く時間は無い──ならば、素手で。
黒見の所まで跳躍。跳んだ速度をそのままに、拳を突き出す。
「がっ……!?」
頭に命中。拳に、じん、と痺れが走る。
いくらキヴォトスに生きる者でも、頭に強い衝撃を受ければひとたまりもない。彼女のヘイローが消えたのを感じた。
「次」
「……!」
砂狼の方を向く。
明らかに「驚いている」と言ったふうな表情の彼女に、突進する。
「っ……!」
速度と体重を乗せたストレートは、何か硬いものに弾かれた。
砂狼は、咄嗟に銃身で防御したらしい。
「どうしたの? まさか黒見がやられてショック受けてる?」
「黙っ……て!」
砂狼は銃身を一振りさせる。
しゃがんで回避し、立ち上がると同時にアッパー。流石に読まれていたのか、すんでのところで回避される。
さらに、彼女はあろうことか膝蹴りを繰り出してきた。予想出来なかったそれを、もろに腹に食らう。
腹をさすりながら一歩離れる。
「いっ〜〜……! 昔っから変わらないわね、その足癖の悪さ!」
「うるさい、黙ってやられてて」
「やれるのはそっち、実力の差くらい思い出したら?」
彼女は追い打ちを仕掛ける。銃を構え、射撃。
肌を掠めたり、直撃したり、様々な形で痛みを与えられる。
ソファを遮蔽にし、ダメージを最小限に留める。
「昔の友達のよしみで見逃そうと思ってたけど……ダメそうね」
「今の私はアビドス高等学校、砂狼シロコ。貴女みたいなのとは──違うから」
「はっ、お偉くなったわね」
立ち上がる。ゆっくり立ち上がったのは、もう急ぐ必要は無いと理解したからだ。
玄関のドアが開く。
そこには、ピンク色の小さな生徒が、立っていた。
「シロコちゃーん、帰ろー」
「ん……先輩、なんで」
「なんで、って、そりゃ
軽くため息をついたその生徒──小鳥遊ホシノは、ちょいちょい、と指を曲げて、
「セリカちゃん、返して〜」
と言った。
……ああ、こりゃ、敵わない。
ここで従わなかったら、瞬殺されるだろう。そう思えるほど、小鳥遊からは敵意が見えている。
先程気絶させた黒見を抱え、小鳥遊の元へ持っていく。
「ほら」
「ありがとね。帰るよ〜」
「ん……」
しょんぼりした様な砂狼と、小鳥遊に抱きかかえられた黒見は、このアジトから去っていった。
その10分後くらいに、ヒロイとカスムが帰ってきた。
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