ヘルメット団員です。血反吐吐きながらがんばります 作:はみがきこな
事の顛末を聞かされ、沈黙が漂う。思考の為の沈黙。各々が、その事件について思考を巡らせていた。
何故アビドスが? 連れ戻されていった──という事は、全会一致で決まった事じゃあ無いのだろう。独断? アビドスで、そんな内部分裂が起こるだろうか?
有力な仮説を組み立てる。
「……だとすると、面倒だな」
仮説はこうだ。
まず彼女らは、俺達カタカタヘルメット団を警戒している。だってそうだろう、毎日のように襲撃を受けていたらしいのだから。
そして、アジトに攻め入った。何か策があったのだろう。
しかし、陥落は出来なかった──。
そこで、意見が対立したのでは?
もう一度攻めて、叩きのめすか。いいや、今一度作戦を考え直そう、という考えか。
そして、独断で彼女らがやってきた。
かなり、有力であると思う。
その旨を伝える。
「……一理あるわね、それ」
ボスは頷く。
二人で攻め入るのはおかしいかもしれないと思ったが……俺達の戦闘力はそこまで高くない。
見くびられていたのだろう。
ボスが、徐ろに呟く。
「はぁ〜……。シロコかぁ〜……」
それにはどんな感情が混じっていたのか。
俺には読み取ることは出来なかった。
「……知り合い、なのか?」
「……ちょっとね。子供の頃にいろいろあって」
その返事は、詮索の拒否の表れだった。
ならば、大人しく引き下がるしかない。
このまま会議を続けたかったのだが、ボスはしんみりとしたような、遠くを見る目をしていた。
「……じゃあ、これからの話をしよう」
「何でアンタが仕切ってんのよ」
「別に良いだろ。感傷に浸ってるみたいだったし」
「なによ。ぼーっとしてたって言いたいの?」
「間違ってないだろ」
バチバチと目線がぶつかり合う。このまま取っ組み合いになったっておかしくはない──というか、望むところだ。
そんな俺らを静止させるように、
「落ち着いてください、ボス。カスムも」
ヒロイが言葉を放つ。
「へ〜い……」
「しょうがないわね」
謝る。別に怒っている訳でもないので、すんなりケンカは終わった。ヒロイは、こういうのに慣れているようだ。
「じゃあ、これからの話をするわよ」
「はーい」
「はい」
ボスが仕切り直し、会議が再開する。
「次、アビドスに襲撃されたらたまったもんじゃないわ。早めに手を打たないと。案はある?」
「アジトを別の場所に移せばいいんじゃないのか?」
「のこのこ引っ越しする気? 第一、こんな大人数が暮らせる場所が何処にあるっていうのよ」
必要以上にボコボコに言われ、発言を撤回する。
「……まあ良いわ、聞くだけ無駄だし。私はね、敵の戦力を削げばいいんじゃないかって思うのよ」
ボスはそう言う。
「どうやってやんだよ。攻め入って返り討ちにされるのがオチだろ」
「もう忘れた?
「なっ──ボス、正気ですか!?」
頭の中に、それがよぎる。思い出したくもなかった、暗い話題。
そこで落ち込んでいる訳にもいかない。
仕方の無いことなのだ、拉致は。
「ヒロイ、私はもちろん正気よ。……
ボスは、さらりとそう言う。
──確かに、その作戦なら敵はこちらに手出し出来ない。何かしてしまえば大切な友人が生き埋めにされるかもしれない、という恐怖をあちらに与えることも出来る。
「でも、いつやるんだよ。3日後……だっけか? 多分、その間があればアビドスの戦力は回復するぞ」
根拠はある。
まず、先生があちら側に付いているということ。彼は連邦なんとか──お偉いところからの使者らしい。なら、それ相応の補給は受けられるだろう。
そんな補給を受けられたら、たまったもんじゃない。
「じゃあ、明日やるわ」
「はい?」
「え?」
ええっと、明日?
なるほど、明日か〜……。
なーんだ、明日ね〜……。
「──とはならねーよ! 出来るわきゃねーだろ!?」
「出来ないじゃなくて、やるのよ。貴方が言ったんでしょ、待ってる暇は無いって」
「おま……準備とか……出来てんのか……?」
「今やらせてる。そろそろ上がってくるんじゃない?」
無茶苦茶だ! こんな計画で拉致しようなんて!
ライブ感で生きるな!
「はぁっ……」
しかし、この組織の最高権力は彼女にある──俺ごときが何を言っても、彼女はなびきそうにない。
諦めるしかない。
「まあ、いいじゃない。善は急げ、って言うでしょ」
「……そうかもな……」
それと
実際、それほど致命的に悪い作戦でもないし……これくらいしか方法が無いし。
この路線に舵を切るしか無い。
「じゃ、緊急会議終了。準備しといてね」
そんな言葉と共に、あっさり終わった。
ヒロイは部屋の片付けに、ボスは自分の部屋に。そうやって、各々が行動する。
窓から、夕焼けが差し込んでいた。
ああ、もうそんな時間か──。
長い一日だった。いや、短くも感じた。
ここに来てから毎日が騒がしいから、体感時間が前世(死んではいないが)の比では無い。
それで、前の生活を思い出す。
親がいた。
弟がいた。
友人がいた。
青春があった。
「──何だよ」
とうに、割り切れていたと思っていた。
そんな事は無かった。
「──ああ、クソ──!」
沈んでゆく太陽を睨む。
そんな事をしても、何にもならないと知りながら。
ただ、足掻きたかった。
◆
私は、姉が好きだった。
「カナメ」と私を呼ぶ彼女。
「しーっ」と唇に人差し指を当てる仕草をする彼女。
「あはは」と鈴を転がすように笑う姿の彼女。
私は好きだった、全て。
視線に追われていた毎日だった。
彼女が安心できる時なんて、
だとすれば、あの結末は理にかなったものだったのだろう。私を置いていったけれども、それは仕方のない事だった。それが分かるのに、随分時間がかかったと思う。
逃げるな。
違う、仕方ないことでは無かった。
思い出せない。
何でああなったのかが思い出せない。
何が起こっていたのか思い出せない。
それでも、罪は私にあった。
組織ごっこ、のような事をしていたと思う。
私が「ボス」で、彼女が「相棒」みたいな……何かのドラマを観たのかは、定かではない。
悲しいドラマだったから、主人公の相方は死んじゃってた。
そういう、オカルトみたいな死に方でもあったのかもしれない。だとすればやりきれない──私の命名のせいで殺した事になる。
いや。
それも、あながち間違ってはいない。
私の姉──
私が、殺した。
「うああっ!!」
ガバリと起き上がる。
体中が冷や汗を流す。心臓が爆発しそうだ。体中が痛い。震えている。何処が? 手?
「はあっ、はっ、はっ、はっ、はっ──」
喘ぐ。
体が酸素を欲している。
部屋が暗い。
今は一体何時だろう。夜であることは間違いなかった。
呼吸が落ち着いてくる。
「もう……やだ……」
頭を押さえる。
悪い夢だ。
その夢を思い出す必要は無い。
だというのに。
「うっ……」
吐き気が込み上げてくる。
枕元に置いてある洗面器に、顔を突っ込む。
「うおええっ……うええっ……おえっ……」
体が無くなっていくような感覚。苦しさ、怖さを兼ね備えた感覚。
それにももう慣れた。
「……っ……。何やってるのよ、
無理やり自分を奮い立たせる。それが無茶だと分かっていても。
「そうよ……。それでいいのよ……」
私は、この組織のトップなのだから。
──いつまでも、完璧でいなくちゃ。
人の上に立つには、それ相応の思いが必要であると思う