Under taker   作:オリトラ

1 / 4
第1話

あぁ、神様……!私はいったいどこで道を踏み外したのかな?

「あぁ……うぅ」

「質問に答えてもらおうか」

どうしてこんなことになったの……?

私、倉橋瑠実(くらはしるみ)

21歳。私はいま

命の危機にさらされています。

……なぜなら、黒いコートの男に馬乗りにされてナイフを

喉元に突き付けられているからっ!

「……いや、嫌ぁ……!お願い、殺さないでぇ……!」

震える声を絞り出すようにして男に懇願する。

男は私の命乞いに眉をひそめたが、不機嫌な表情はそのままだった。

「……なぜお前は大勢の人間をこの場所に集めた?」

男が私に問いかける。

とんでもなく強い殺気が私の顔にビシバシと浴びせられ

正直気絶しちゃいそうになる。

あぁ、つい30分ほど前に紅茶を入れたけどあれ飲まなくて

正解だったなぁ……。

もし飲んでたら今ごろ漏らしてる自信がある。

「答えろっ!」

そんなことを考えている最中

男は語気を強めて語りかける。

心なしか、喉元に突き付けられたナイフが少しだけ私の皮膚に触った気がした。

「こ、殺さないって約束してぇ!じゃなきゃ話さないからぁ!!」

ついそんなことを叫んでしまう。

あぁ馬鹿だ私、そんなこと聞いてもらえるわけもないのに。

「……わかった、約束してやる。だから話せ」

「……え?」

予想外の返答に呆気にとられる。

え、なに?ここから入れる保険って存在するの?

「もう一度聞く、なぜお前はこの場所に人を集めたんだ?」

「……た、頼まれたから」

「頼まれた?誰にだ?」

「わからないわ……!名前すら知らない、こっちが知りたいくらい……!男だってことくらいしかわからない」

「人数はわかるか?」

「わからない、でも私と会話したのは1人だけ……!」

「そいつらの目的はわかるか?」

「……っ!」

その質問に私は押し黙る。

そう、私は本当になにも知らないのだ。男達の素性も規模も、今回私が人を集めなきゃいけなかった理由も何ひとつ知らない……。

巻き込まれただけ。

この男の知りたい情報のただひとつも……私は知らない。

終わった。私死んだ。

こんなの取引にならない……。

長い沈黙が答えだと知った男は、呟くように言う。

「……そうか、なら用はない」

「……ッ!!」

男のその言葉を聞いて、私は両目を強く瞑り来る痛みと衝撃に備える。

来る痛みに、備え……備え……?

「……?」

いつまでたっても痛みも衝撃も来ず、呆気にとられる。

恐る恐る目を開いて、状況を確認する。

さっきまで私の上に馬乗りになってた男は、私から背を向けて私の前から去ろうとしていた。

「な、なんでっ?!」

思わずそんな声が出る。

男は私の声に振り替える、

続けて私は男に問いただす。

「なんで……?私のこと殺さないの……?」

「なんだ?やっぱり殺してほしいのか?」

「いやいやいやっ!ごめんなさい殺さないでください殺さないでください!!」

ナイフのように鋭い目で睨まれ、恐怖のあまり一生分の涙と鼻水が出た。

私いまひどい顔してるんだろうな。お化粧とかぐちゃぐちゃなんだろうな……。

その様子を見て男はフンッとつまらなそうに笑い、言葉を発する。

「冗談だ。さっき約束しただろう?殺さないとな」

「それはうん、たしかにしたけど……」

意外すぎる返答、まさか本当に約束を守ってもらえるなんて。

……思ったより悪い奴じゃないのかしら?

滅茶苦茶怖いけど。

「それに、ただの一般人をこれ以上いじめるわけにはいかないからな」

「え?」

「え?じゃない、お前は一般人だろ?つい最近能力に目覚めたばかりのな」

「……」

なんでこいつはあの一瞬で

そんなことまでわかるのだろう。

この男の言ってることは当たってる。

「もう帰っていい、今日のことは忘れろ。そしてもう二度と能力をこのようなことに使うな。わかったな?」

言うだけ言って男は再び私の前から去ろうとする。

だけどそれは私の言葉によって阻まれた。

「だったら助けて!」

ピタリと男の足が止まる、ゆっくりと振り替える男に私はさらに言葉を続ける。

「私、脅されてるの……!」

私は、男に自分の置かれている状況を説明した。

つい3ヶ月前まで

私はしがないOLだった。

超がつくほどのブラック企業、 

毎日始発の電車で出社して毎日

終電の電車で帰宅する日々。

そこにセクハラパラハラサビ残まで完備してるのだから笑えない。

今思い返しても本当にひどい日々だったわ……。

そんなある日、私は風邪をひいた。

ひどい高熱にうなされて、何日か寝込んだ。

いっそのことこのまま死んじゃってもいいかなって思った時、いきなり自分の中の熱が下がるのを感じた。

そして目を覚ました時

風邪は治っていて、

私の世界は一変していた。

羽のように軽い体、湯水のように沸き上がるバイタリティ、

人の限界を超えた身体能力、

そして……洗脳の力。

私はその日人間という枠から外れたのだ。

その洗脳の力で、私は勤めてた会社を崩壊させた。

私のことをイジる嫌な上司や私に嫌味を言う同僚、責任を部下に擦り付ける部長や社長。

そのすべてを洗脳して奴隷のようにしてやったわ。

元々小さな会社だったこともあり一月も経たずに会社は倒産。

あれほど清々しい気分になったのは生まれて初めての経験だったかもしれない。

会社が潰れて晴れて私は自由の身、この能力があれば私はなんだって出来る。

まるで世界は私のためにあるような。

女王様にでもなったような。

そんな全能感に満たされていた。

……ようするに私は調子に乗っていたのだ。

私を止めれる奴なんてこの世にいない!

私は神様に選ばれたんだ!

今思い返したら恥ずかしくなる

そんな幼稚な考えで、私は街中で能力を使った。

私の使える洗脳にはいくつか種類がある。

一つはかかった相手を自分の

言うことをなんでも聞く操り

人形にする洗脳。

私の言うことには絶対服従。

洗脳という単語を聞いたときに真っ先に想像するものだと思うわ。

2つめは少し特殊。

説明が少し難しいのだけれど言うなれば

相手に無意識に特定の行動をさせる洗脳ね。

例えば、相手に毎日朝の10時になったら牛乳を1L飲むといった行動を強制することが出来るわ。……そして、相手は自分の行った行動を疑問にすら思わない。なぜなら無意識だから。

私は主にこの2種類の洗脳を使って悪事を働いた。

街中で出会ったあきらかに半グレっぽいやつらから財布とカードの類を全部奪ってやったり、同士討ちさせたり、私をナンパしてきたやつをパンツ1丁にさせて警察署に突撃させてやったりしてやったわ。

そんなこんなやりたい放題やってたわけだけど、神様ってちゃんと見ているんだね。

ある日調子に乗りすぎた私に

天罰が下ったの。

いつものとうり能力を使おうとした私は―――――――。

突然男に羽交い締めにされた。

(……むぐっ)

口元を塞がれ言葉が出ない。

当然私は抵抗した、だけど男の力は私よりにはるかに上で、

全然振りほどけなかった。

(……この、いい加減にしなさいっ!)

私は能力を使った。

これで形成逆転……!

……にはならなかった。

(……嘘、なんで?私の能力が効かない……?)

私の意識は、ここで一旦途切れた。

 

次に目覚めたとき、私は両手足を拘束された状態で男たちに取り囲まれていた。

「どこよここ。あんた達は誰っ!?」

男たちを睨み付けながら私は叫ぶ。

男たちに反応はない、というより……。

なに?この違和感は……?

まるで自分の意志が無いような、生きていないような……。

感情が無いような……、

恐ろしいほどの無表情……。

「……この!」

男たちを同士討ちをさせようと私は能力を使う。

だけど、私の期待は裏切られた。

「なんで効かないのよ……もうっ!」

さっき私を羽交い締めにしてきたやつと同様、こいつらにも

私の能力が利かなかった。

まずい、本当にまずいわこの状況……!

さっきから私の身体を拘束している器具も全く外れない……!

私の腕力でも壊せないなんて

一体なにで出来ているのよこの器具!

「手荒な真似をしてすまないねぇ、お嬢さん」

男たちの後ろの扉が開き、また新しい男が入ってくる。

その男は開口一番にそう言った。

「……っ!」

間髪入れず私は男に洗脳を試みる。

……お願い、効いて!

「おやおや、出会い頭に洗脳とは……!行儀がよくないなぁ!!!」

ダンッ!

そんな音と共に男は私に向かって走り出す、そして――――。

ドガッ!

「……ッ?!!」

お腹に強い衝撃、遅れて激痛、こみ上げる胃液。

そして奥の壁へ勢いよく吹っ飛ばされる。

バァァンッ!

そして激突。

あまりに強い衝撃を受けた

証拠に私を拘束していた器具は

粉々になっていた。

(……あぁ、うっ……)

かろうじて保っていた意識を

フル稼働して男を見る、男はゆっくりと私に近づいてくる。

……死ぬ、殺される。

私を拘束していた器具はもうないから、身体さえ動けば逃げれるのに身体が言うことを聞いてくれない。

そんなこんなしているうちに

男が眼前まで迫る。

「……た、助け――」

ガンッ!

言い終わる前に衝撃。

ガンッ!ガンッ!ガンッ!

頭を鷲掴みにされて、床に何度も何度も打ち付けられる。

床が、私の血で真っ赤に染まる。

「……………っ」

もう、もう許して……!

許してください……!

声にならない懇願の言葉を何度も何度も心で呟く。

男は私の頭を髪を掴んでもちあげて、冷たく言い放つ。

「立場がわかったかな?お嬢さん」

「……」

無言で頷く。

「よろしい、なら私たちのために働いてもらおう。変な真似をしたら、わかるね?」

「……はい」

人を操り人形にして弄んでいた私は、その日男たちの操り人形になった。

因果応報、そんな言葉がぴったりだった。

 

1

 

私が一通り話し終えた後。

目の前の黒コートの男は眉間にシワをよせながら考え込む、

ただでさえ良くない人相がさらに悪化していた。

「それで、お前はその男の命令どうり人を集めてたわけか」

「……そうよ」

「ふむ、質問がある。

お前はどうやって人を洗脳してこの場所に集めた?ここに監禁されているんだろう?」

「私にも自由に行動できる時間は与えられているの、1日2時間だけこの場所を出ることを許されてるわ」

「その自由時間を使って人々に洗脳を撒き、この場所に来るよう仕向けていたのか」

私が頷くと、男は言葉を続ける。

「その自由時間で逃げ出すことは考えなかったのか?」

「そんなこと無理ッ!話し聞いてわからなかったの!?そんなことしたら殺されちゃうわっ!!」

思わず叫び声をあげる。

怖い……!怖い……!怖い……!

あの男にされた暴力の数々が

鮮明に思い出される。

恐怖で支配されそうになる

身体を私は必死で抑えた。

「……それに、逃げ出さないように対策もされているのよ」

「対策だと……?」

「……これを見てよ」

そう言って私は自分の首もとに指を指す。

そこには無機質で不恰好な、

ダサいデザインの首輪があった。

「……自由時間の2時間を超えてもこの場所に帰らない場合、自動で爆発するんだってさ。これ」

「ほーう、お洒落で着けてた訳じゃなかったのか」

男は嫌味な笑みを浮かべる。

むっかつくわねこいつ……!

私がこんなダッサいものつけるわけないじゃない!

「まぁ、センスの無いおもちゃだな」

そう言って男はなにかを放り投げる、……えっ?!

ドーン!

遅れて爆発。……えっ!!?

「嘘、いつのまに……?」

私の首もとから、ダサい首輪が綺麗さっぱり消えていた。

「これでお前を操る糸の一つは切れた」

男は、私を見つめながら、

ほんのすこしだけ微笑んで、

言葉を続ける。

「残るもう一つの糸も俺が切ってやる。だから協力しろ」

ドキッ!

「~~~~~~~~~~っ!!」

なになになになになにっ!!?

いきなりなんなの!?

なんでそんな……、えっ?

さっきまでの辛気臭い顔はどこ行ったのよっ!?

「どうした?返事が聞こえんぞ、自由になりたくないのか?」

「え、いや、その……、きょ、協力しましゅ……!」

……噛んだ。

 

2

 

「ねぇ、そう言えば私たち

お互いの名前知らないわよね?

聞いてもいいかしら?」

「朝倉だ、朝倉明人(あさくらあきひと)」

「ふーん、朝倉って言うんだ……。私は倉橋、倉橋瑠実よ」

お互いに自己紹介をしつつ建物の探索をする。朝倉と名乗る

辛気臭い顔のこいつは私に道を案内させ、共に地下に進む。

「このエレベーターか」

「ええ、間違いないわ」

進んだ先には巨大なエレベーターがある。

以前私は洗脳した人たちがこのエレベーターに連れてかれたのを見たことがある、そのことを伝えると朝倉は私にそこに案内しろと言ったのだ。

「ついたはいいけど、私このエレベーター動かせないわよ?」

エレベーターを動かすにはカードキーとパスワードの2つが必要だった。

……私の洗脳が利かない例のあの男達がそれを持っているわけだけど、どうするのかしら?

朝倉は問題ない、とだけ言うと

ナイフを取り出し……。

シュシュシュシュシュシュシュ!!!

風を切る音がして、気がつくと……。

分厚いエレベーターの扉がまるで切られた豆腐みたいに散らばっていた。

「……………………っっっ!!!」

開いた口が塞がらない、

速すぎて全く見えなかったし

なんなのそのナイフ?

切れ味が異常すぎるわ……!

呆然とする私をよそに朝倉は

エレベーターの中に入る、

そして……。

シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ!!!

先ほどと同じ音がして、気がつくと。

今度はエレベーターの床が細切れになって下へと落下した。

「下りるぞ」

「え、ちょっ――――!!」

突然朝倉が片手で私を荷物みたいに肩に抱き抱える、そしてそのままこともあろうかエレベーターの穴に飛び込んだのだっ!

「~~~~~~~~ッ!!!」

声にならない声を上げながら下へ下へと落ちていく。

時折朝倉は周囲の壁を蹴りながら落下のスピードを調整する。

その緩急が気持ち悪くて、酔う。お昼に食べたパスタが逆流しそうになる。

そんなこんなしているうちに

私達は建物の一番下の階についたのだ。

「ついたぞ」

「……あは、あははは、あは」

「なにを呆けてる」

「ぐえっ」

朝倉が抱えてた腕を離し、私は地面に自由落下する。

ちょっと~~~!!!

扱いが雑すぎない?

私だって女の子なのよっ!

「どうした?さっさと立て」

「わかったわよ……!」

土ぼこりを払いながら立ち上がり、先に進む朝倉の後を追う。

「……ねぇ、聞いてもいいかしら?」

「なんだ?」

「あんたは、いったい何者なの?」

……ずっと気になっていた。

こいつの、朝倉明人のことが。

なんでこの場所に来たのかとか

異常すぎる強さとか。

……洗脳が効かなかったこととか。

「なんでこの場所に来たの?」

「任務だ、この場所に大量の

人間が集められているから調査をしてこいと言われてな」

「……任務?あんたどっかに雇われてるの?」

「そうだ。お前も噂とか都市伝説のレベルでは聞いたことがあるんじゃないか?」

朝倉は、彼は語り出す。

今の世の中に起きていることを。

超人、今世界各地で偶発的に発生する人の理を逸脱した存在。

その超人を軸に作られた組織があること。自分がその組織の

一員であること。

世の中が偶発的に発生する

超人達のせいで混沌とした状態であること。

朝倉は、朝倉たちはその混沌とした世の中を正そうとしてること。

……そのためなら人を殺すことだってあること。

色々、話してくれた。

「……ねぇ、なんであんたは私を殺さなかったの?」

話を聞けば聞くほど疑問になる。

私の能力は、その、相当に厄介なはずだ。

世の中の秩序を守るためなら

人を殺すことすら辞さない組織なら、私を生かしておく理由なんて無いはず……。

「勘違いしてるかもしれないがな、俺は不穏分子を誰彼構わず殺すような血に飢えた獣じゃない」

「でも、私たくさんの人を洗脳したわよ……?今回の件だって元をただせば私が招いたことだし……!」

唐突に彼は、進む足を止めた。

そして私のほうを振り向く。

「お前はもう二度と私利私欲で能力を使わないはずだ」

「……約束できないわ、そんなこと」

「いや、絶対に使わないさ。俺はお前を信じてる」

そんなことを言いながら、朝倉は私の眼をまっすぐ見つめる。

その顔はいつもの辛気臭いものではなく――――。

「~~~~~~っ!」

「どうした?」

「な、なんでもないわっ!!」

慌てて私は朝倉から顔を背ける。

もう、もうっ!!!

こいつズルいわ……!!

なんで微笑むのよっ……!

「……先に進むわよ」

立ち止まってる朝倉の横から抜き去り前に進む、朝倉も止めてた足を再び進めた。

「ねぇ、もう一つ聞いていい?」

そう問いかけると

朝倉はあくびをしながら頷く。

「……なんであんた、私の洗脳

効かなかったの?」

朝倉の顔が、少しだけ険しくなった。

聞いちゃいけないこと、聞いてしまったかしら……?

 

3

 

 

遡ること小一時間、場面は私が朝倉に押し倒されて喉もとに

ナイフを突きつけられる以前のこと。

私は例の男達にあらかじめ2つ命令されていた。

一つは定期的に人を集めてこの場所に連れてくること。

……もう一つは、もしも洗脳されていない人間がこの場所に

入ってきたらその人間を殺すか

洗脳にして地下に送ること。

突然の侵入者に驚きながらも、私は侵入者に相対して言った。

「出ていきなさいっ!!さもなくば洗脳するわっ!!」

黒いコートの男、朝倉は私の言葉なんて聞こえないかの如く歩みを進める。

すると、私を監視するために

用意されていた男達が朝倉に襲いかかった。

(ダメッ……!逃げてっ!!殺されちゃうっ!!)

私は黒いコートの男に、逃げるように洗脳をかけた。

だけど……。

……朝倉は。襲いかかってきたその男達を、私の洗脳が効かなかった男達を一瞬でバラバラにした。

辺りに血飛沫が吹きあがり、周囲を赤く染める。

「……え」

そんな間抜けな声をあげるやいなや、私の視界は天井に向かい――――。

押し倒されたのに気づいたのは、彼のナイフが喉元に突きつけられた後だった。

それが、私と朝倉のファーストコンタクトだった。

 

 

「……まぁ、ネタばらしをしてやってもいいか」

朝倉はそう言いながら、自身の左腕を見て言葉を続ける。

「お前の能力が効かなかったのはこの左腕のおかげだ」

「……左腕?」

「俺の能力だ、俺の左腕に触れた能力者は俺が触れている間能力が使えなくなる。そしてこの左腕で自身に触れた場合、触れている間は俺自身が他者による能力の影響を受けない」

「つ、つまり。その無効化能力で私の洗脳を防いだわけ……?」

「そうなるな、お前が先に洗脳するなどと口走ったからあらかじめ俺は左腕で自分を触っておいた」

……ということは、

こいつ残った右腕1本で

襲いかかってきた

あいつらをバラバラにしたってことぉ!!?

化物……!化物だわっ……!!

「質問はすんだか?いくぞ」

「ちょっと待って、もう一つ質問があるわ」

「……なんだ?」

「私の回りにいた男達居たじゃない?なんであいつらは躊躇なく、その……、殺したの?」

そう聞いた途端、彼は、朝倉は

呆れた顔で私を見て、ため息をついて言った。

「お前気づいてないのか……、

あれは死体だぞ」

「え……!」

朝倉のその言葉に、私は全身の血の気が引いていくのを感じた。

……死体?

……あれが?

動いていたわよ……?

……動いていたけど、でも……。

私は、初めてあの男達と

出会ったときの違和感を思い出す。

なんの感情も感じさせない、

あの恐ろしいまでの無表情……!

「厳密に言えば、人間を使って作った超人並みの力を

持たされた操り人形ってとこだな。

あれには自我も意思も感情も感じられなかった。恐らくは作成者の命令だけを聞くよう作られているのだろう。

それもごく単純な命令をな」

「……そんな、そんなのって!」

ひどすぎる……!

「お前の洗脳が効かなかったのもそれで説明がつく、おそらくだがお前の洗脳は自我も意思もない者には効かないんだ。あれは人間じゃない、物だ」

「……っ!」

「……どうした?お前、もしかして泣いてるのか?」

「……うっさい」

朝倉を無視して、私は足を進める。

「私、腹が立ったわ」

「どうした?いきなり」

「私をこんな目に合わせたあいつが、人の尊厳を踏みにじるあいつがっ!許せないって言ってんのっ!!」

ドガッ!

怒りに任せて壁を殴る、壁はクレーターを作り細かな破片がパラパラ散り、土煙をあげる。

だけども私の怒りはちっとも収まらなかった。

「ふざけんなよくそがっ!!!

人は、人は操り人形なんかじゃないんだっ!!人間は物なんかじゃないっ!!みんな意志があるんだよっ!!!」

今まで散々人を洗脳して操り人形にしてきた私が、なにを言ってるんだろ……。

いや、私は私自身にも憤ってる

んだな……。

私とあいつらは同じ穴のムジナ、

同じ操り人形を作ったもの同士なんだ……!

「……その怒りはまだとっておけ、ぶつける絶好の的があるだろう?」

朝倉が私の肩を叩く。

朝倉は、一呼吸を入れてから私に言った。

「倉橋、やっぱり俺の見立ては間違ってないよ。そんな風に憤って吠えることが出来るお前は悪人じゃない、俺が命をかけて守る価値のある人間だ」

「ふぇ……?」

朝倉は、呆然とする私をよそに

言葉を続ける。

「俺に任せておけ、あとはなんとかしてやる」

…………………っ!!

「あしゃくらっ~~~!!」

感極まって私は朝倉に抱きつく。

「……待てっ!待てっ!!ストップッ!やめろ引っ付くなっ!!鼻水が付くだろうやめろっ!!」

なにか聞こえた気がするけど、私は構わず彼を抱き締めるのであった。

 

4

 

「……いたい」

朝倉からチョップを受けた頭がズキズキと痛む。

そりゃ服に鼻水なり涙なり擦り付けたのは悪かったわよ。

でも私くらい美少女だったらむしろご褒美じゃない?

脳天チョップはひどくないかしら……?

「まったく、お前は少し自分の感情をコントロールする術を知ったほうがいいな」

「……ふん、悪かったわね」

痛む頭をさすりながら、私は言う。

「……ねぇ、私考えないようにしてたんだけどさ、私が連れてきた人達って今頃どんな目に合ってると思う?」

「……」

朝倉は、私にも見てわかるぐらい考えながら……、かつ、出来る限り私を傷つけないように言葉を選びながら、話してくれた。

「……十中八九人体実験の材料にされているだろうな。あの操り人形もおそらくは……!」

「……!」

やっぱり、そうだよね……。

今までの話しの流れで大体察しはついてたわ……。

私は、本当に取り返しのつかないことをしてしまったんだ……。

「……気に病む時間なんてないはずだぞ?諸悪の根元を潰さない限り同じようなことはいくらでも起こり得る」

朝倉は言葉を続ける。

「お前は利用されていただけだ。何度だって言ってやる、

お前は俺が命をかけて助ける価値のある人間だ。だから、今は目的のために行動しろ」

「……うん」

思わずまた抱きつきそうになったけど、チョップが怖いから止めた。

「……っ!止まれ」

「え?」

いきなり朝倉に制止を促される。

突然朝倉は私を抱き抱え、物陰へと隠れた。

――え。

声を出す前に朝倉が私の口を手で塞ぐ、尚も声を出そうする私に静かにしろと片手でジェスチャーを出す。

そして、ゆっくりと私にある方向を見るように手でサインを送った。

(あれは……!)

私の眼にうつったそれは、まさにモンスターだった。

体長が目測で大体5から6メートル。二足歩行。左右非対称な異常に発達した右腕。

身体中のあちこちに生やしたトゲ。

私はこの奇妙な生物に見覚えがあった。

(UMA……!)

世界各地のあちこちに偶発的に

発生する、正体不明な化物の

総称だ。

ニュースでもたまに報じられているわ。

(……なんでこんなところにUMAが?)

私は朝倉のほうを見る。朝倉はわからんと言わんばかりに首を横に降る。

(まさか、こいつもあいつらと関係あるのかしら……?)

そう考えていると、朝倉が小声で私に話しかける。

(倉橋、UMAを洗脳してみろ。UMAは意思のある生物のはずだ、お前の洗脳が効く)

(わかったわ)

朝倉に促されるまま、私はUMAに洗脳を試みる。

結果として、UMAに私の洗脳は効果が無かった。

(あしゃくら~!効かないわ!あいつ効かないわ!!)

(見ればわかる騒ぐな!)

朝倉は眉間にシワをよせながら考えこむ。

(あれも操り人形か。UMAさえも手駒してるとはさすがに俺の想像を越えてきたぞ……)

(UMAが操り人形って、そんなこと可能なの?)

(こうして実在している以上は可能なんだろうな。全く、お前を利用してる奴らの底が見えん)

朝倉はやれやれといった様子で肩をすくめると、意を決したようにUMAの目の前に足を進める。

「朝倉っ!」

私が叫ぶやいなや……

UMAの身体が赤い血飛沫に変わった。

「……………!!」

……いや、だから強すぎるってばっ!!!!

なに?今苦戦する流れじゃなかったのっ!!?

瞬殺じゃない!!!

「やれやれ、今日は返り血をよく浴びる日だ。洗濯が面倒だな……!」

「うーん、その発言はサイコパス全開だわ……!」

こいつ返り血を浴びたくなかっただけかよ……!

軽く目眩を覚えつつも、私は先を歩く朝倉を追った。

 

5

 

「ずいぶんと奥に進んだが、

どうやらここが終点のようだな」

「えぇ、ここまで長かったわ……」

……本当に長かったわ。

あの後道中に操り人形達の

大群が襲いかかってきたり

私が罠に引っ掛かって三途の川を渡りかけたり本当に、本っっ当に色々あったけど!なんとか生きてたどり着いたわ……!

「見たところ研究施設よね?

これ」

「ああ、恐らくここが敵の本丸だ」

研究施設の入り口には見たことも無いくらい巨大な扉がある。

セキリュティは、網膜認証に指紋認証にパスワードにカードキーか、万全ね。

でも意味がないんだなー、これが。

シュシュシュシュシュシュシュ!!!

はい聞き慣れた音ー。

ガラガラと音立てて

扉は跡形もなくバラバラになった。

ビービービー!!!

瞬間、けたたましく鳴り響く警報。

遠くから侵入者だ!殺せ!

などの物騒な言葉が聞こえ

武装した男達がわらわらと私達の前に沸いてくる。

すかさずナイフを構えて臨戦態勢にはいる朝倉を、私は制止する。

「相手が人間なら、私の出番よ!」

眠りなさい!

私は男達にそう念じる。

すると、間髪入れず男達は糸の切れた人形のようにその場から崩れ落ちていく。

ふふん、どうよ?

最近効かない奴らばかり相手にしてきたけど、私の能力ちゃんと強いのよ?

「ほう、便利なものだな」

「少しは感心したかしら?」

名誉挽回完了!

ふふーん!私を褒めることを許すわ朝倉!

そしてひざまづきなさい!

「だが、甘いな」

「ふぇ……?」

「全員眠らせる必要はない、

行動の邪魔にならない2、3人程度の数は動向させ先頭を歩かせるべきだ。上手くいけば

動向させたそいつらが前から 来た刺客をなんとかするし、

仮にやられても肉壁として

機能する」

「……お、おう」

賢いわ……!

私は朝倉の言葉どうりに、

男達を再度洗脳して陣形を作った。

「倉橋、この先は何が起こるかわからん。常に警戒を怠らないよう用心して進め」

「わ、わかったわ」

「それと、これを渡しておく」

朝倉はそう言うと、懐から

液体の入った小瓶と1粒の

カプセル錠剤?を私に

渡す。

「なによこれ?」

「特性の栄養ドリンクとその効果を高める薬だ、2つともここで飲んでおけ。疲れが吹き飛ぶぞ」

「……ありがとう、なら遠慮なくもらうわね」

促されるままに薬と

ドリンクを飲み干す。

「特性のドリンクだなんて言うからどんなものかすこし

身構えたけど、味は普通ね……」

「飲んだか?なら、そろそろ行くぞ」

朝倉がそう言って前を歩く、

私はそんな彼の後を慌ててついて行った。

だだっ広い廊下をひたすらと歩いていく、この研究施設にたどり着くまでにあれだけしつこくやってきた操り人形もUMAもここにきてから全然姿を見せない。

それが、不気味だった。

きっと朝倉もそうなんだろう、さっきから険しい顔をしてる。

……いつもこんな感じな気もするけども。

「……扉だな」

朝倉が呟く。

私は、先頭を歩く男達に朝倉が見つけた扉を開けさせた。

「…………ッ!」

これはっ……!

「……壮観だな」

扉の先に広がっている光景に

私は思わず言葉を失う。

そこには1000じゃ利かない数の操り人形とUMAが、よくわからない機械の中に入れられて

等間隔に整列されていた。

「誰だお前達はっ!?警備はどうした!?」

呆気にとられているとそんな声が聞こえる、間髪入れず朝倉が声の主を気絶させる。

……よく見たらいかにも研究員ってなりの奴らがたくさんいるじゃない。

急いで洗脳で無力化しなきゃ。

念じる、少し間をおいて研究員達が倒れる。

そしてあたりに静寂が訪れた。

「……ここで操り人形やUMAは作られていたのかしら?」

「間違いないだろうな」

朝倉はそう言って少し考えこむようにする、そして私を見て

言葉を発する。

「倉橋、研究員たちにここで研究してきた事に関する資料とレポートの類をすべて持ってこさせろ。PCにあるデータもすべてだ。出来るだけ速く頼む」

「ええ、わかったわ!」

朝倉の言うとうりに研究員たちを動かす。そうして小一時間ほどの時間が過ぎた頃、研究員たちは動きを止め待機状態に移行した。

「……これで全部か」

「すごい量ね……」

これだけ大きな研究所なのだからある程度は予想はしていたけれど、その予想を大きく上回る量の資料が運ばれてきた。

……頭が痛いわ。OL時代の書類地獄を思い出す。

「PCにあったデータはすでに

組織に送った。あとはこの紙の資料だけだ、気は進まんが目を通すぞ」

「ちょっと正気……?この量はさすがに」

「無論全部じゃない、肝心なものだけだ。重要度の高いものだけ目を通す」

幸い私の洗脳で書類は重要度の高いもの順に振り分けられている。

一番重要度の高い書類だけなら、確かに私達でもなんとかなりそうだった。

「どれどれ……」

朝倉はパラパラ漫画でも見るかのごとくスピードで書類を捲っていく。

いやいや、それ読めてないでしょ!

そう突っ込みそうになったその時だった。

「……っ!?」

朝倉の目がカッと見開かれ、

みるみるうちに血相が変わっていく。

書類を捲る速度が上がる。

そして、まとめた書類のうちのひとつが終わり朝倉はぱた、と

書類を床に置く。

「……ふざけやがって、

何が遺骸人形(ドール)だっ……!」

苦虫を噛み潰したようにして

朝倉がそう呟く。

静かに発せられたその言葉には

明確な怒りの感情が浮かんでいた。

「な、なにが書いてあったのよ……?その、遺骸人形(ドール)ってなに……?」

朝倉は、重々しく口を開く。

「……俺達が戦った操り人形共がいたな。あれが遺骸人形(ドール)だ。人間を人工的に超人にした存在だ」

朝倉は言葉を続ける。

「改造された人間は自我も

理性も感情すらも失い作成者の  命令だけを聞く操り人形に   なる。……まぁ、ここまでは

俺の予想どうりだ。驚くには値しない」

「まぁ、そうね……」

朝倉の推察どうりだ。

確かに今さらな話し。

でもならなんで朝倉は、こんな憎悪に満ちた顔をしてるの……?

「……あいつらは失敗作だ、あの遺骸人形(ドール)達は改造に耐えられなかった人間の成れの果て。

超人と同格の力とスピードを与えられてはいるが、それだけだ。自我も意思も無い。こいつらの真の目的は、自我を持ち

自らの意思で動く最強の兵隊達を作り出す事だ」

「それって……」

「……ありていに言ってしまえば、こいつらは世界征服を目論んでいる。超人の、超人による、超人の為の世界。そんなものを遺骸人形(ドール)達を使って作ろうとしているんだ……!」

朝倉が怒りに声を震わせる。

私は、そんな朝倉に対して

なんて声をかければいいのかわからなかった。

「以前にも超人を軍事利用しようとした組織や国などは存在したが、ここまでのバカは初めてだ。あまりに度を越して……――――!?」

言い終わるよりも先に、朝倉の表情が驚愕という様相に変わる。

「倉橋っ!そこから離れろっ!!」

「……えっ?」

そんな朝倉の叫びが聞こえ、腕に誰かが触った感触がした。

そして、私の意識は途切れる。

「倉橋っ!」

途切れる間際、朝倉の叫び声が聞こえた気がした。

 

6

 

この俺としたことが、敵が

ここまで近づいていたのに

気配に気づかなかったとはなっ……!くそっ!

「……誰だお前は、倉橋をどこにやった?」

俺は目の前の浅黒い肌の男に問いかける。

いきなり現れたこの男に倉橋は腕を掴まれ、次の瞬間には姿を消していた。

男はニヤリとした笑みを浮かべると、ゆっくりと口を開く。

「……安心シろ、女は殺シてない。パパのところへ飛ばしたダケだ」

パパだと?それに飛ばしたか、

なるほどな……。

「お前の目的はなんだ?」

「オマエの始末、それト女の回収。あノ女、パパの夢に必要。オマエはいらない、殺ス」

「物騒な話しだなぁ、それで?

その目的を達成したらパパとやらは褒めてくれるのか?」

「もちロん!オマエ殺シてボクはパパに褒めてもらウ!!

だからオマエ死ネッ!!」

言い終わるや否や、

男が猛スピードでこちらに突っ込んでくる。

(速いな、だが合わせられないほどではない)

俺は突っ込んでくる男にカウンターのナイフを突き刺した――

はずだった。

(……消えた?)

瞬間、後方から殺気。

紙一重で後方からの攻撃を俺

は躱す。

「……よく避けタ!でもいつまデ続くカナッ!?」

「ふん……」

今ので大体わかった。

テレポート、それがこの男の能力だ。

おそらくは自身を含む触った対象を任意の場所に飛ばすことが出来るのだろう。

倉橋はこいつに触れたからパパとやらのいる場所に飛ばされた。

そして俺がこの程度の奴の

接近に気付けなかったのは

こいつがあの瞬間まで

この場所に存在してなかったからだ。

「アハハハはっ!!」

ドスッ!

(なにっ……!?)

右の脇腹に鋭い痛み、自身の身に起きたことを迅速かつ冷静に

理解する。

「なるほど……!そんな使い方も出来るのか」

俺の右脇腹から、瓦礫辺が生えていた。

俺は内側から生えた瓦礫辺を肉ごとえぐり取り出す。

「アハは、痛ソー♪」

愉快そうに笑う男。

やれやれ、なにがそんなに愉快なのやら。

お前は今、俺に勝てる万分の一のチャンスを逃したのだぞ?

「頭が悪いなお前、今の攻撃を俺の脳にでも食らわせてれば

多少は勝機があったのに」

「ア゛ぁ……!?」

男の表情が怒りに染まる。

頭が悪い上に煽り耐性も0か、救いようがないな。

「勝てルと思っテるのかオマエッ!」

滅茶苦茶にテレポートを繰り返し、俺を撹乱しているつもりの男。

男は激昂しながら言葉を続ける。

「ボクはオマエの能力知っテる!無効化ダロッ!?左手で自分に触レている間は能力ノ干渉を受けなイ!相手に触れテル場合は相手ガ能力を使エなクなるっ!!」

「よく知っているじゃないか」

「余裕ブるなっ!!ボクはオマエの左手とそノよく切レるナイフにさえ気ヲつければイイんだっ!!」

男はテレポートの速度を増す。

「サっきかラ左手で自分に触レているじゃナイか!怖いンだろウ!?ボクのテレポートがっ!!デもソンなの通用しないンだよっ!!」

瞬間、俺の四方を取り囲むように瓦礫の山がそびえ立つ。

どうやら目眩ましのつもりらしい。

「アハハはっ!」

……もう少し遊んでやってもいいが、倉橋を救出してやらんとならん。

また抱きつかれて鼻水をつけられては堪らんからな。

いい加減終わらせるとしよう。

「セット」

そう呟き、俺は終わりの準備を終えた。

――ザンッ!

「あっ……!?」

そんな間抜けな声と共に、テレポートの男は地面に散らばる。

両手足を失くしたその姿は、さながら芋虫だった。

「チェックメイトだ」

俺は男にそう宣言する、

男はなにが起きたかわからないという顔で俺に言葉を発した。

「なんダ……?今ノ……?オマエ、何モしてなイはズ……?」

「したさ、お前がテレポートするであろう場所にあらかじめ斬撃をセットしておいた。だからお前は今こうやって地面に散らばっているんだよ」

「……なんダと?」

困惑の色に染まる男に俺は

真実を教えてやる。

……いわゆる冥土の土産というやつだ。

「俺の能力がひとつだけだと

誰が言った?

俺の能力は2つある。

ひとつは左手の無効化能力。

もうひとつは、任意の空間や

物体に線をイメージして描き、

その線に触れた物を両断する能力だ。

線は俺の意思で自由自在に引くことが出来る、一度その線に触れてしまえば防御は不可能だ。

俺の能力は線に触れた物体に「両断される」という結果を強制することが出来る」

「あリえない……!能力ノ複数持チなんて聞いタことガ……!!」

「そうだな、俺も聞いたことがない。だが、実際にここに実例がいるんだからしょうがないだろう」

俺は芋虫に歩みよる。

「見たところ再生力は並より少し上程度だな。

元どうりになるまで半日といったところか。可哀想に、痛いだろう?」

「あガぁ……!!」

芋虫を踏みつける、めりめりと足が芋虫の肉に沈んでいく。

血反吐を吐き悶え苦しむ芋虫、 

そんな芋虫に俺は問う。

「質問に答えてもらおうか、

お前は遺骸人形(ドール)なのか?」

「……ボクはたダの遺骸人形(ドール)じゃなイ……!!完成品、

完全自立行動型遺骸人形

(ピグマリオンコレクション)ダッ!!」

「なるほどなぁ、お前はパパの大事な大事なコレクションってことか」

「ウぅ……ガぁァ……!!!」

足に力を入れ芋虫をさらに

強く踏みつける、

芋虫の身体からはめぎめぎと骨や臓器の潰れる音が聞こえた。

「これからお前は死ぬが、なにか言い残すことはあるか?

生まれてくるべきじゃなかったお前達だが、せめて最期の言葉くらいは聞いてやろうじゃないか」

「……フふ、ハハは。オマエは強イ、ボクじゃ勝テない……!!」

……ふん、そんなわかりきったことを今更言うとはな。

やはり脳の出来がイマイチのようだ、完全自立行動型遺骸人形

(ピグマリオンコレクション)が聞いて呆れる。

「……だけド、道連レにナラ出来る」

「なに……!?」

ビーーー‼ビーーー‼ビーーー‼

突如として警報がけたたましく鳴り響く。

「フふ、起爆スイッチを起動サせた。オマエと一緒にボクは死ヌッ……!」

「ちっ……!ベタなマネを……!」

ここは奥深い地下だ、脱出にはそれなりに時間がかかる。

「お前のような薄気味悪いやつと心中などゴメンだ、行かせてもらう」

そう言って俺は男にトドメをさす。

「ァ……!!!」

俺の第2の能力で男は跡形も無く粉微塵となり、血飛沫になってこの世から消えた。

ドン‼

「……爆発が始まったか」

やれやれ、まったく今日は忙しい日だ。

 

7

 

「……ぅうーん」

ここは……、どこ?

たしか朝倉にそこから離れろって言われてそれから……。

ガチャリ

「……っ?!」

金属が擦れる音がして、私は

遅れて状況を理解する。 

私の両手足はあの時と同様、

枷で拘束されていた。

「……このシチュエーション

二回目よ」

身動きひとつとれないわ……!

私また捕まっちゃったんだ……!

「久しぶりだね、お嬢さん」

「……ッ!!?」

声のした方向に私は全神経を集中させる。

この声は、忘れるわけないっ!

この声はっ……!

「あんたはっ……!!」

「相変わらず行儀がよくないなぁ、そう睨まれると僕も少し傷ついちゃうよ」

全身が総毛立つ。

恐怖で身体が硬直し、うまく動かなくなる。

忘れるわけがない……!

こいつは、この男はっ!!

あの日私を拐った男ッ!!

「まさかまさかだよ、侵入者にここまで好き勝手されるとはね。危うく君も奪われるところだった」

「……私はあんたのモノになんかなってないわ」

「はは、これは失敬」

肩をすくめて男が笑う。

「……朝倉はどこ?」

「朝倉?あぁ、あのナイフ使いの彼か!彼ならここにはいないよ。僕のかわいい息子が始末に向かった。今頃は死体になっているはずさ」

「朝倉は負けないわっ!そんな奴すぐに倒して私を助けてくれるはずよ……!」

「はははっ!!君はバカだなぁ!!!」

大笑いする男。

……男は、次の瞬間私にとって絶望的な言葉を口にした。

「仮に完全自立行動型遺骸人形(ピグマリオンコレクション)

を返り討ちにしたとしても

彼がここに辿り着くことは

ありえないよ、どれだけ

距離が離れていると思ってるんだい?」

「……え?」

「本当にわかってないんだなぁ、君は僕のかわいい

ジャンパーにここまで飛ばされたんだよ。距離にして約20㎞といったとこか」

「そんな……!」

身体の力が抜けていくのを感じる。

「そもそも場所すらわからないよっ!!彼は君の居場所なんて知らないのさっ!!」

「……っ!」

恐怖と絶望に耐えきれず涙が

こぼれ落ちる。

朝倉ぁ……!

「……さて、そろそろいいだろう。始めようか」

ゆっくりと男がこちらに歩みよる。

「……来ないでっ!!」

全身全霊の力を振り絞り私は

男に洗脳をかける。

だけども、やはり男には効かなかった。

(やっぱり効かない……!なんでなの?こいつは自我も意思もある人間のはずなのに……!)

「やっぱり強力だなぁ、その

能力は。君のことはもろもろの準備を整えてからゆっくりと腰を据えて望みたかったが、

裏切られたからには仕方ないね。殺してから考えるとするよ」

「……私を殺して、遺骸人形(ドール)とやらにするつもりなの?」

「そうだとも、でも安心してくれよ。

君はただの遺骸人形(ドール)

じゃなく完全自立行動型遺骸人形(ピグマリオンコレクション)になるんだから。ちゃんと

人間と同じように自分でものを

考え学習し成長する僕の

最高傑作さ。……もっとも、

人格は君のものではなく僕の用意したものが入るんだけどね」

「……結局あんたの操り人形じゃないっ!私は人間なんだっ、あんたの操り人形になんかなってたまるかっ!!」

身体に力を入れ、なんとか拘束を解こうともがく。

(くっそぉ……!全然とれないわ……!本当になにで出来てんのこれっ!)

「操り人形?失礼だなぁ、

完全自立行動型遺骸人形

(ピグマリオンコレクション)は僕の家族さ!僕の言い付けを聞き、守り、僕の為なら命すら投げ出す!そんな最高の家族なんだ!」

男は、もう私の眼前にまで迫っていた。

「君は運がいいんだよ?そんな最高の家族の一員になれるんだから」

「嫌だ……!やめてっ……!」

「ああ、そうだ!      あとで君の大好きな朝倉くんも   遺骸人形(ドール)にしてあげよう!二人一緒なら

寂しくないだろう?なっ!」

「……っ!!」

頭を掴まれ、宙吊りにされる。

頭がものすごい力で絞められ、

意識が飛びそうになる。

「じゃあ、おやすみ。次に目覚める時、君には新しい名前がついてることだろう」 

……朝倉ぁ、助けて……!

私、ほんとうに殺されちゃう

……!!

「朝倉ぁ……!」

私の意識は、再び闇に―――。

「その薄汚い手を放せ」

落ちることはなかった。

闇に落ちかけた意識が回復し、

私は状況を理解する。

「――――……っ!?」

私は、突然現れた朝倉に

所謂お姫さまだっこをされていた。

「待たせたな、倉橋」

「……朝倉ぁ~!!」

助けにくるのが遅いんだよぉ~~~~!!!

私は感情のまま朝倉に抱きつき

泣きじゃくる。

「おいっ!……まぁいい。どうせ服は洗濯しなきゃいけないからな。……今だけは許してやる」

「……バカなっ!?どうしてこの場所がわかった!?」

「ほう?あれだけ切り刻んでやった腕がもう元通りか、なかなか優秀な再生力だ」

私を地面に座らせ、朝倉が立ち上がる。

「お前が倉橋の言っていた黒幕だな?お人形あそびはそんなに楽しいか?ん?」

「……ジャンパーのやつしくじったのかっ!!パパの役に立てないなんてなんて悪い子なんだ!あの失敗作めっ!!」

激昂した男が朝倉に襲いかかる。

「……ジャンパー?ああ、あいつそんな名だったのか」

「僕の完全自立行動型遺骸人形

(ピグマリオンコレクション)を壊しやがって!あれを造るのは大変なんだぞっ!!」

男の身体が突然隆起し、背の辺りから大量のトゲのついた触手が生えた。

「な、なにっ!?あいつ人間じゃなかったのっ?」

おぞましい変貌を遂げる男に

思わずそんな声をあげる。

男は大量に生やした触手をムチのようにしならせ、朝倉を

攻撃した。

――シュン!

私の目にはほとんど映らないほどの速さの攻撃。

風を切る音が絶え間なく聞こえる。

朝倉は、触手を避けながら口を開く。

「……ふむ、なかなか速いな。

その身体、お前がなにか手を加えたのか?」

「ご名答!今使っているこの

身体は混合遺骸人形(ジグソウドール)さ!

UMAと超人の

良い部分を組み合わせて造った実験個体だよっ!」

「使っている……?そうか。お前本体じゃないんだな?」

……なになに?いったい何を話しているの?

朝倉はちらりと私の方に顔を

向けて口を開く。

「ずっと疑問だった、なぜお前には倉橋の洗脳が効かないのかとな。今謎が解けたよ、お前は遺骸人形(ドール)の

身体を借りて意のままに動かすことが出来るんだな?ちょうどロボットでも操縦するみたいに」

「……っ!」

借り物の体に他の人間の精神が乗り移った状態だったってこと……?

それが私の能力が効かなかった理由……!

朝倉は言葉を続ける。

「お前の本体は今頃安全な場所にいるんだろう?まったく腹の立つ奴だ」

忌々しげに朝倉が男を睨む。

そして――――

シュン――‼

風を切る音がした。

「不愉快だ。もう終わりにしよう」

「……あ、がっ……!?」

男は首だけを残してこの世から消えた。

ぼとりっ、という音が遅れて聞こえる。

……え、いま何が起きたの?

男の体がいきなり首だけを残して勝手に爆発したようにしか見えなかったわ……!

「……なんだ今のは?何をされたんだ僕は?お前今何もしてなかったはずだ……!」

「やっぱり親子なんだなぁ、

ジャンパーとやらもおんなじ反応だったよ」

朝倉はどうでも良さそうに

吐き捨てると左手で首だけになった男を掴む。

「さすがに損傷箇所が多すぎて再生がままならないか、まぁ

仮に再生したらしたで

その分だけ追加で切り刻んでやるだけなんだがな」

「こ、怖ぁ~……!」

朝倉のサイコパス発言に背筋が凍った。

「……お前ぇ、いったいなんなんだ……!その強さは異常だぞ……!」

「さぁな、俺も詳しくは知らん。それより俺の質問に答えろ」

朝倉が生首に力を加える、

生首からみしみしと嫌な音が聞こえる。

このまま握り潰しかねない勢いだ。

「完全自立行動型遺骸人形

(ピグマリオンコレクション)とやらはいま何体存在している?」

「……答えるわけないだろう」

生首にさらに強く力が加わる。

「……あいつらを造るために今までいったい何人の人々を犠牲にした?」

「覚えてるわけないだろう、君は馬鹿なのか?」

生首に、さらに強く力が加わる。

「何にも答える気がないなら

死ね」

「おー怖い怖い、おっかないねぇ朝倉くんは。逆に僕からも

いいかなぁ?朝倉くん。

君、持ってる能力1つだけじゃないな?」

「っ……!」

「ははっ!図星かっ!!そうかっ!!なるほどなるほどなるほどなるほどっ!!!はははははっ!!!」

……生首が愉快そうに嗤う。

とても、とても不快な笑い声が辺りに響いた。

「今回は僕の負けだよ。

あぁ完敗さ、君の力量を見誤った。……だけど、次は負けない。次はもっと質のいい遺骸人形(ドール)を使わせてもらうよ」

「言いたいことはそれだけか……?」

「まだ一言だけある。……倉橋留実!」

「な、なによ……!」

突然生首に名前を叫ばれ私は

身構える。

生首は、なんとも気味の悪い笑顔で言葉を発する。

「お前は必ず僕が手に入れる、僕の夢のために働けるその日を楽しみにしてておくれ」

「……っ!!」

全身に鳥肌が立つのを感じた。

私は、結局これから先もこの男に狙われ続けるんだ……!

「そんな日は永遠に訪れさせないさ」

朝倉はほんの少しだけ怒気のこもった声で呟き、生首を地面に叩きつける。

生首は何とも形容しがたい

嫌な音と共に地面に赤い染みを作り、肉片の一片も残さずに

この世から消えた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。