Under taker   作:オリトラ

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Under taker

そしてその瞬間、あたりが赤い光に包まれ警報がやかましく

鳴った。

「……なにっなにっ?なんなのこの警報?」

「またか……!」

そう言って舌打ちをひとつすると、いきなり朝倉は私の体に

触れる。

「ちょ、なに?」

「説明してる暇はない、俺におぶされ」

朝倉に促され、私は彼の首元に腕を回す。

「絶対に放すなよ」

そう言うや否や――。

殺人的な加速が私を襲った。

「~~~~~~ッッッ!!!」

あぁ、これすごいデジャヴ。

エレベーターの時とそっくりだわ。

頭ががっくんがっくん前後に揺れる。

何かの破壊音が連続的に聞こえる。

スピードは尚も上がっていく。

「ね゛ぇぇぇっ!!な゛ん゛なんのい゛っだい!?」

「喋るな、舌を噛むぞ」

朝倉が方向を変える、その度に私は遠心力で吹っ飛ばされそうになる。

この地獄のような時間はいつまで続くのだろうか、今どれくらいの時間この地獄を味わっているのだろうか。

そんなことを考えている矢先、

急にふわっとした感覚に襲われる。

朝倉が高所からジャンプしたのだ。

「わ゛ぁ~~~~!!!!!!」

叫び声と共に地面が迫ってくる。

命の危険を感じた私だが、朝倉はどこ吹く風だ。

落下しながら冷静に着地の準備を整え、着地する。

こうして地獄のような時間は終わりを迎えた。

「…………………!」

朝倉に下ろされ、放心状態のまま地面に寝転がる私。

その直後私達がさっきまで居たであろう建物が大爆発を起こし、熱風が私の頬を撫でる。

ぼんやりとした頭で、私はその

光景を綺麗だと感じた。

 

8

 

「いつまで呆けてるんだお前は、起きろ」

「うーん……」

朝倉が私の頬をぺちぺちと叩く。

停滞していた脳の働きが元に戻っていくのを感じる。

ゆっくりと私は起き上がり。

――よろけて朝倉に倒れ込む。

「おい、本当に大丈夫か……?」

「あ、うん、ごめん。大丈夫……!」

今度こそ私は自分の足だけで立つと、朝倉に言葉を発した。

「あの、助けてくれてありがと……。朝倉……!」

自分の顔が火を吹くくらいに

真っ赤になっているのを感じる。

朝倉は、今私にどんな感情を抱いているんだろうか。

私から目線を反らし朝倉は

「気にするな」とだけ口にした。

私は、今日だけで何回殺されかけたんだろう。

その度に朝倉は私のことを助けてくれた、私は今回だけで彼に一生をかけても返せないほどの恩があるはずだ。

……だけど、私にその恩を

一部だけでも返すことは出来るんだろうか?

「……あのさ、これからあんたはどうするの?」

「組織に今回の件を報告しに

戻る。それとお前のこともな」

「……え?」

「忘れたわけじゃないだろう?お前はまだあの男に狙われている。お前を操る糸はまだ切れていない」

そういえばそうだった……!

あの遺骸人形(ドール)を造っている男は死んでいない。

……本体はまたどこか別のところにいるんだ。

「そしてお前は今回の事件で

組織の監視対象になる。

すまないがどうにも出来ん、

諦めてくれ」

「わ、わかったわ」

……まぁ、そうなるわよね。

このまま私を放っておくのは

リスクしかないはずだもの……。

「……それと、もうひとつお前には悲しい知らせがある」

「え……?」

朝倉は珍しく、

私に同情のような感情のこもった表情で言った。

「お前と最初に会った

お前が監禁されていたあの例の建物だが、綺麗さっぱり爆発炎上し跡形も無くなった」

「……は?」

「さっきの建物と同様、自爆したんだ」

……………………えっ?

え、えーと?私は確かあの男に

監禁されてから人々を洗脳して

あの建物に定期的に連れてきてたのよね?

設けられた1日2時間の自由時間を使って、街中で洗脳撒いて。

1日2時間の自由時間で人々を洗脳するとき、私はついでに

洗脳した人に私の私物を

あの建物の一室に持って来させてたはず……!

監禁生活がどれだけ続くかも

わからなかったし、その

自由時間の間に色々と食料品

とかの調達とかもしなきゃいけなかったから……。

……通帳とか、保険証とか、

もちろんお財布とか。

住んでたアパートからほぼほぼ

すべての貴重品と私物を持ち出していたはず…………!

……あー、だからか。

だからあんたそんな顔してるのね。

建物を探索してた時私話したものね、今のこと。

あはは……!

へなへなと地面に力なく座り込む私。

魂もついでに抜けていった感じがする。

「どうしよう……詰んだ。

詰んじゃったわ私の人生……!」

やけ酒でもたらふく飲んで

ふて寝でもかましてやりたい気分に駆られたが、それが出来る手持ちすら今の私には存在しないのだった。

……そんな私を哀れに思ったのか、朝倉が私に言葉をかける。

「あてがないならうちに来い、寝床と飯ぐらいは用意してやる」

「……ぐすん、朝倉ぁ~~~~!!!」

「くっつくな……!」

……本当に、私は何から何まで彼のお世話になりっぱなしだ。

いつか、彼に恩を返せる日は来るのかな……?

 

9

 

「本当に何から何まで申し訳ないわ……ありがとうね」

「その話しはもういいと言ったはずだぞ」

朝倉と夕暮れの町を歩く、

朝倉は私のほうに目線をやると

その口を開いた。

「それに、こちらとしても近くにいてくれたほうが監視も護衛もしやすいんだ。お互いに利点があるんだよ。わかったか?」

「うん……」

「そうだ倉橋。お前、これやるから行ってこい」

朝倉はそう言って私に小包を渡す。

中には少なくない額のお金が入っていた。

「え、なにこれ?」

「そこにデパートがあるだろう?着替えでも買ってこい。

あとは自分で必要なものを考えて買え、釣りはいらん」

「~~~~ッ!!!」

思わず生唾を飲み込んで考えこむ。

……そ、それってつまり……!

自分の顔が真っ赤になっていくのを感じる。

そ、そっかっ!私、今から男の家に、朝倉の家にお邪魔するんだもんねっ!

……つまり、そういうことだよねっ!

朝倉も、やっぱり男の人なんだなぁ……!

その仏頂面の下にはちゃんと

ケダモノが住み着いているのねっ!

「……急いで買ってくるわ」

……あー、もうヤバい。

私、もう完っ全にこいつのことが好きになっちゃってる……!

心境を察せられないよう出来るだけ朝倉に顔を見られないようにして、私はデパートに走っていった。

そして、2時間後。

「……急いで買ってくると言ったわりには随分とかかったな。

なにかあったのか?」

「べ、別にー?女の子の

買い物はこれくらいかかるのが常識よ。

朝倉も覚えておくといいわ!」

「ふぅん……、そんなものなのか」

興味なさげに朝倉は呟く。

覚悟しなさい朝倉、あんたのその余裕面をこれから私が崩してやるんだからっ!!

「もういい時間だ、終わったなら先を急ぐぞ」

そう言って朝倉はすたすたと先を歩く。

私はその後を追っていく。

そうして10分、15分ほどの

時間が過ぎた頃。

朝倉の足が止まった。

「着いたぞ、ここが俺の家だ」

そう言ってたどり着いたのは、二階建ての一軒家だった。

ここが、朝倉の家……!

私の、女としての決戦場っ……!

さながら私は、魔王城に単身乗り込む女勇者!

俄然滾ってきたわっ!

「なにをぼーっと突っ立っている、早く入れ」

「あっ、はい……!お邪魔します……!」

促されるまま私は魔王城に足を踏み入れる。

そして、私はそこで驚愕的な光景を目にした。

「おかえりアサクラ!遅かったね」

「あぁ、すまんなモニカ。

こいつの買い物が思ったより時間がかかってな」

「……え?」

魔王城の玄関には、可愛らしい少女が立っていた。

瞬間私の思考は高速で巡り、瞬時に答えを導きだす。

「……朝倉、あんた既婚者だったの?それに私と年そんな変わらないはずなのにこんな大きな子までっ……!嘘でしょ……?」

「……な、なんだお前なんで泣いてるんだ?この子は俺の子じゃない。モニカは俺が一時的に保護しているんだ」

「保護……?」

「お前と似たような立場だよ。説明すると少し長くなるからまた違う機会に教えてやる」

そう言って彼は靴を脱ぐと、

玄関から奥の部屋に消えた。

そして取り残される私、

自然モニカと呼ばれた可愛らしい少女と二人きりになる。

年の頃は10~13の間かしら?

そんなモニカちゃんのほうに

視線を向けると、モニカちゃんと眼が合う。

モニカちゃんはにっこりと微笑むと、私に一言。

「私とアサクラは、お姉ちゃんが思ってるような関係じゃないよ」

それだけ言って、モニカちゃんも朝倉の後を追った。

「…………」

色々と謎は残るけど、考えても答えなんてわからないから

私も靴を脱いで朝倉の後を追った。

 

10

 

(気まずい……!)

今、私とモニカちゃんはテーブルを挟んで向かい合っている。

朝倉はというと、組織に今回の件での報告があるからと出ていった。

つまりは、今モニカちゃんと

私は二人きりなのである。

 

「「……!」」

あたりが静寂につつまれる。

かれこれ何分、いや何十分

こうしているのだろうか。

時間の感覚が定かじゃない。

そうこうしてるうちに静寂に耐え兼ねたのか、モニカちゃんが口を開いた。

「あの、お姉ちゃん……?」

「……えっ、あぁ!どうしたのかしらモニカちゃん」

あからさまにキョドりながら、モニカちゃんの言葉に反応する。

モニカちゃんは、朝倉が保護したって言ってたわよね……!

私と似たような立場とも言っていた、つまりはこの子も超人なのかしら……?

「お姉ちゃんのお名前、知りたいな」

「名前……?あぁ、ごめんね。

自己紹介まだだったよね。

私は倉橋瑠実(くらはしるみ)よっ!よろしくねモニカちゃん」

「くらはしるみ……。うん、覚えた。これからはルミお姉ちゃんって呼ぶね」

雨模様の空さえ

青空に変えるかの如く明るい笑顔で、モニカちゃんは笑う。

あぁ、この子は本当に可愛いなぁ……!

じつは、少しだけ。

いや、かなりこの子のことは

警戒してたんだけどそれが間違いだったことに気づかされる。

バカだな私、こんな子を疑うなんて。

「……ねぇ、モニカちゃん。私モニカちゃんのこと色々知りたいな?教えてくれる……?」

そう聞くと、モニカちゃんは

変わらず笑顔で頷いた。

 

11

 

思った以上に時間を食ってしまったな。

上層部への報告書をまとめ終え、俺は帰り支度を整える。

モニカと倉橋は今どうしているだろうか?喧嘩はしてないと思うが。

(まったく、我ながら厄介なノラ猫を拾ってしまったものだ)

後悔先に立たずというやつだ。

朝倉明人よ。

全てはお前の選択だ。

お前が彼女を守ると決めたんだ。

最後までやりきれ。

俺の中の俺がそう声をあげる。

……やれやれ、実のところ俺は相当にまいっているらしい。

倉橋瑠実に遺骸人形(ドール)、

それに俺自身の問題、

どれもこれも解決には時間がかかりそうなものばかりだ。

「おっす、朝倉!久しぶりじゃないか」

考えごとをしているとふとそんな言葉が聞こえ、顔を見上げる。

するとそこには見知った顔があった。

「アルフォンスか、お前帰ってきてたんだな」

俺は見知った顔に言葉を返す。

男の名前はアルフォンス・

ダシルヴァ、俺の仲間であり

友人だ。

「実はついさっき帰ってきたんだ。中々楽しかったぜぇ九州はよぉ。お前も今終わったとこか?」

「まぁな、お互いお疲れ様というやつだ」

そう言ってお互いにハイタッチをし合う。

俺たちなりの労いと信頼をこめた動作だった。

「お前のほうはどうだったんだ?例の行方不明事件はよ」

「……それ事態は解決したが、より大きな事件がその中に潜んでいた。久々にでかいヤマに当たったよ。忙しくなるから覚悟しておけ」

「……うへぇー、マジか」

アルフォンスはがっくりと肩を落とし、落胆のポーズを作る。

そんなアルフォンスを横目に見つつ、俺は話を切り出す。

「アルフォンス、お前を前に隠し事も秘密も意味を成さんから今ここで話しておく。実はな――」 

俺は、アルフォンスに今日あった出来事を全て話した。

遺骸人形(ドール)達のこと。

それを造るために行方不明事件が起こされたこと。

……そして彼女こと倉橋瑠実のこと。

全てを洗いざらい話した。

アルフォンスはその間何も俺に聞き返すことも相槌を打つこともせず、ただ黙って話を聞いていた。

「……遺骸人形(ドール)とかいう

奴らも頭の痛い問題だが、それよりもヤバいのはその倉橋っつー嬢ちゃんだな」

アルフォンスが重々しく口を開く。

そこにいつもの飄々とした表情は無かった。

「遺骸人形(ドール)を造ってるその頭のおかしい奴に狙われてるのはもちろん、そんな

強力な能力Pax(パークス)が放っておくはずがねぇ。無理矢理にでも組織に加入させられるかそれが無理なら嬢ちゃんを始末しにかかるはずだ……!」

「……そうならないために手は打ったつもりだ、報告書にも彼女に関することには嘘を交えてある」

「よーやるわ、バレたらただじゃすまねぇぞ?」

呆れたように笑い、アルフォンスは言葉を続ける。

「つまりお前は俺に協力しろと言いてぇわけだ?人の心が読める俺が証人としてお前と組めばお前のついた嘘は本当になるっつー算段だな?」

「理解が早くて助かる、協力してくれ」

「……お前、もしかしてその嬢ちゃんに惚れたのか?えらい入れ込みようじゃねーの」

「まさか。俺たちは今を平和に生きる人々を守るために存在するんだ。あいつだってその守るべき存在なだけだよ」

「はいはい、そーですか」

やれやれとでも言いたげに

アルフォンスは肩をすくめた。

「まぁ、俺としてもその嬢ちゃんがうちらの組織にちょっかいかけられんのは見たくねぇ。

仕方ねぇから協力してやるよ」

「そう言ってくれると思ってたよ」

そう言って俺はアルフォンスに微笑む。

遅れて、アルフォンスも微笑みを返した。

これで強力な仲間が手に入った。

……あとは、うまくいくことを祈ろう。

別れの挨拶もほどほどに、俺は帰路につく。

冬の夜風が少し冷たくて、ぶるりと体が震えた。

そういえば、毛布などの防寒具の備えは充分だっただろうか?

……まぁいい、最悪倉橋には俺のやつを貸してやろう。

今日は俺も疲れた。

帰ったらゆっくり寝るとしよう。

 

12

 

十数分も歩いた頃、俺は自宅へと着く。

モニカには少し前にそろそろ

帰るとだけ連絡を入れたが、

既読はついていなかった。

家の鍵を開け、ガチャリとドアを開く。

「ただいま」

遅れて、二人分の気配がこちらに向かってくる。

そして瞬間石鹸の匂いが鼻腔をくすぐった。

「おかえり。悪いけどお風呂借りたわよ」

部屋着に着替えた倉橋がそう言葉を紡ぐ。

モニカはいうと、そんな倉橋に

甘えるようして彼女に寄り添っていた。

「一緒に入ったんだよねー♪モニカちゃん」

「ねー♪お姉ちゃん」

そう言ってじゃれ合う姿は、

さながら仲睦まじい姉妹の様だった。

ふむ、ほんの少し留守にしてた間にずいぶんと仲良くなったな。

倉橋は案外子供に人気があるのかもしれない。

「モニカの面倒を見てくれてたのか?すまないな」

「いいわよ別に、それに年の

離れた妹が出来たみたいで嬉しいわ」

「……ふん、俺もひとっ風呂浴びてくるとする。それが終わったらすぐ食事の準備をするよ、

二人ともお腹空いただろ?」

「え?あなたが作るの?」

「そうだ、いつもそうしてる」

それだけ言うと、俺は脱衣所に向かう。

そういえば服も洗濯しなきゃならんな……!

やれやれ、やることが多い。

ため息をひとつついて、俺は

服を脱ぎ風呂場に入る。

手際よく頭と体を洗い、シャワーで今日の汚れを洗い流す。

そうして20分ほどの時間が立ち、俺は入浴を終える。

やはり風呂はいい、体も心も生き返った心地になる。

余韻に浸るのもほどほどに、

俺は腹を空かせた二人のために

キッチンに立つ。

倉橋、お前はさっき俺が料理を作ると言ったとき意外そうな顔をしたな?

そこで待っていろ、すぐに度肝を抜いてやる。

クッキングスタート!

ズダダダダダッ!!!

野菜、肉を全て寸分違わぬ大きさにダイスカット。

包丁と能力による合わせ技だ、

1秒もかからずに全ての具材がカットされる。

次にフライパンに油を引き、熱を加える。

ほどよく温まったところで先ほどの具材達を入れ、炒める。

たまねぎが飴色になったころ、

湯剥きしておいたトマトを入れ潰しながらさらに炒め、煮詰める。

そこにカレー粉を入れ、最終的な味を整える。

最後に炊飯器で炊いておいた

米をよそり、たっぷりとカレー味の炒めものをかける。

今日の朝倉クッキングのメニューは、キーマカレーだ。

「出来たぞ」

そう言って俺は料理を人数分

持ってテーブルに置いた。

「……見た目はいいわね」

驚きの表情のまま倉橋が呟くように言葉を発する。

にわかには信じられない、という感情がひしひしと伝わってくる。

「いただきます」

モニカがそう言ってカレーに

手をつける。 

夕食の時間がいつもより遅い分お腹を空かせていたんだろう、

もりもりと食べていく。

そんなモニカを見て、倉橋は意を決したのか遅れて

「いただきます」と言ってカレーに手を伸ばした。

パクリと一口、そして。

「……おいしい」

そう言った彼女の眼は、爛々と輝いていた。

「びっくりしたわ……。まさかあなたがこんなに料理出来たなんて」

「モニカに変な物は食べさせられないからな、それなりに勉強したんだ」

最初の頃は苦労したなぁとしみじみ思う。

何事も慣れと経験だ。

「……そういえば私、人が作ってくれた御飯食べるの何年ぶりだろ?」

「そうなのか?なら貴重な体験じゃないか、おかわりもあるから今日のうちに満喫しておけ」

「アサクラ、おかわりー」

「うん、ちょっと待ってろ」

そう言って俺はモニカに

おかわりのカレーを出す。

倉橋も追うようにカレーを平らげ、おかわりの要求をした。

一時間もすると作ったカレーは底を付き、俺達三人の胃袋に収まる。

完全なる完食だった。

しばらくするとモニカは眠くなったらしく、俺達におやすみとだけ伝え歯を磨いて自室にへ帰っていく。

そして、居間には俺と倉橋だけが残った。

「「………」」

長い沈黙が居間を支配する。

とくにお互いに話す話題がない。

いや、話さなければならないことはあるのだが上手く言葉にならないと言ったほうが正しいか。

そして、それはおそらく彼女もそうなのだろう。

さっきから俺のほうを見ては

眼をそらし、見ては眼をそらしを繰り返している。

……やれやれ、ここはどちらかが動かないと埒があかない。

俺は意を決して倉橋に切り出す。

「……何か聞きたいことがあるのか?あるなら言ってみろ」

「……あ、うん」

倉橋は一瞬間を置いてから、

俺に問いかけた。

「あのさ、私これからどうなっちゃうのかな……?」

その声には明らかな不安の色があった。

「遺骸人形(ドール)を造る男に狙われてるのもそうだけどさ。私、監視対象なんでしょ?

朝倉の言ってたPax(パークス)の……」

超常超人対策機関Pax。

それは俺やアルフォンスの所属している組織だ。

世界各地に偶発的に発生する

UMAおよび超人、それらの

引き起こす被害と犯罪の

対処と解決またはそれらを

未然に防ぐことを目的とされた組織。

混沌とした世界を正す、その為ならば人を殺すことも辞さない組織。

それがPax、人を殺して人を救う矛盾した組織だ。

「そんなとこに眼をつけられたらさ、私絶対無事じゃすまないよね?少なくとも、元の生活になんて戻れるわけないよね……?」

肩を震わせながら、倉橋は声を絞り出す。

俺はそんな彼女をこれ以上不安にさせないように、震える彼女の肩に手を置き言葉を発した。

「大丈夫だ、手は打ってある」

「……え?」

「お前についての報告書に嘘を書いておいた。

主に能力の内容をな、

要約すると

お前の能力は状況を整えないとたいして効力のない極めて限定的でかつ使い勝手の悪い能力だと記載した。あとはお前の境遇もデタラメを書いといた」

「……っ!?」

「要は強力な能力だからPaxに

眼をつけられるんだ。能力が

驚異とみなされなければ狙われることもない。確かにしばらくは監視対象になるがそれも一時的なもの、今回の事件の重要参考人としてのものだ」

「……そんな嘘ついて大丈夫なの?もしバレたらっ……!」

俺一人なら大丈夫じゃなかっただろうな、だが俺にはアルフォンスがついている。

「大丈夫だ、安心しろ。俺に任せておけ」

そう言って、俺は倉橋から離れた。

「ねぇ……朝倉」

「どうした?改まって」

「私さ、色々と朝倉に迷惑かけちゃってるじゃない……?

私にもさ、なにか出来ることないかな……?朝倉に――――」

「お前が俺に出来ることなんて何もない」

彼女の言葉を遮るようにして

俺はそう言葉を発した。

「――――ッ!」 

「お前はお前のことだけ考えておけばいい、わかったらもう

お前も寝ろ。ゆっくり休め、

明日は組織の連中とも会うんだからな」

そう言って俺は居間を出て寝室に向かう。

居間の扉が閉まる最中、倉橋が何か言いたげに俺を見ていたが俺は見えないふりをしてそのまま扉を閉めた。

寝室までの短い道を歩きながら、俺はもう一度決心を固める、彼女を守る決心を。

倉橋、俺は知ってるんだよ。

お前が俺と初めて会った

あの時、お前が自分の身よりも先に侵入者である俺の身を

案じてたことを。

おおかた俺にかけようとしてた洗脳も俺をあの場から逃がす

洗脳だったんだろ?

眼や仕草や反応を見ればだいたいわかるんだよそんなのは。

……まぁ、それはそれとして

状況が意味不明だったから

ナイフを首もとにやって脅しはしたがな。

そんな自分よりも他人を気遣うお前だから

助けてやりたいって思うんだよ。

きっと昔の朝倉明人でもそうする。

お前は俺がちゃんと守ってやる、一般人にも戻してやる。

だから安心してくれ。

俺に任せろ。

 

13

 

「……」

朝がやってきてしまった。

体は疲れてたはずなのに、久しぶりに安全な場所で身体を休めることが出来たはずなのに、考えて考えて考えすぎて、眠れなかった。

「……お前に出来ることなんて何もない、か」

ショックだった。

……だけど何も言い返すことが出来なかった。

だって私は、彼に何にも返してあげれてないんだから。

命を何度も助けられて、お金も貸してくれて、ご飯も作ってくれて、こうして寝床まで用意してもらって……。

挙げ句の果てには、自分の

ところの組織にまで嘘を吐かせて……!

本当に、本当になにもかも……。

「……っ!」

涙ぐんでくるのを必死で堪え、

私はベッドから身体を起こす。

「あきらめんな、私」

自分で自分の頬を叩き、気合いを入れる。

今に見てろよ朝倉!

私だってやれば出来ることを見せてやる!

そう自分を鼓舞して私は寝室を出て身支度をすませる。

そして居間について、

朝倉と挨拶をかわした。

「おはよう、朝倉」

「あぁ、おはよう。よく眠れたか?」

「えぇ、久しぶりによく眠れたわ」

「……嘘をつけ、クマがひどいぞ」

本当、こういうことには

すぐ気付くくせになんでこいつは……!

「ごめん、ちょっと緊張しちゃってさ」

そう言って取り繕うと、朝倉は

「そうか」とだけ言った。

「朝食を用意した、それが済んだら向かうぞ」

そう言って朝倉はベーコンエッグとトーストを私に持ってきてくれた。

私は彼に「ありがとう」と一言伝えた。

「……あれ?そういえばモニカちゃんは?」

「モニカは学校に行った、ついさっきな」

……そっか、モニカちゃんは 小学生だったわね。

今は学校か……。

「あの子はあの年で能力が完全に制御出来て、かつ暴走させる心配もない。だからPaxの管理下でも人並みの生活が保証されているんだ、俺が監視して教育するという条件付きでな」

「……Paxって、あんな小さな子供相手でもそんな風に監視とかするのね」

「そうだ、超人である以上俺達は明確に人とは区別され

管理される必要がある。ライオンを檻も枷も無く街中に放し飼いにするわけないだろう?それと一緒なんだ」

……つまり人間扱いされてないんだな、私たちは。

「超人の存在自体は何も知らなかった一般人の私でも話し

ぐらいは知ってた。でも、私の

思ってたよりずっと超人って

世の中にたくさんいたんだね」

「まぁな、おかげで俺達は

毎日忙しい思いをしてるのさ」

朝倉はそう言って肩をすくめた。

「……ねぇ、そもそも超人って

なんなの?私もつい最近

超人になっちゃったわけだけどさ、なんでいきなりこんなことになったのか全然わかんないんだよね。ある日いきなり気づいたらこうなってたとしか……」

朝倉は少し考えこんだそぶりをした後、私のほうを見て言葉を発した。

「……話してやってもいいか。

お前も気になるよな」

そう言って彼は話を始める。

「超人の正体、それはとある

ウイルスの感染者だ」

朝倉が、衝撃の真実を私に告げた。

「ウイルス……?」

「そうだ、超人の発生は今から100年ほど前の時代から

確認されている。その当時

歴史的な大事件があったのは

知ってるな?世界中が大パニックになったあれだ」

100年前に世界中が大パニックになった事件……。

それってあれかしら?

「巨大隕石が地球に衝突するってなったあれ?

でもあれって結局のところ

大したことなかったのよね?」

そう言って首をかしげる私に

向けて、朝倉は言葉を発する。

「そうだな、隕石は地球に衝突する前にその大部分を失い燃え尽きた。確かに隕石による直接的な被害はほとんど無かった。直接的な被害は、な」

含みのある言い方をしながら、朝倉は言葉を続ける。

「隕石本体よりもそれに付着していたウイルスのほうが問題だったんだ。その日からゆっくりとこの世界は壊れていった」

「……そのウイルスに感染したのが私達?」

「そうだ」

朝倉はそう短く答えて言葉を続ける。

「そのウイルスは人間を含むほぼ全ての動植物に感染することがわかっている。

ただ、人間以外に感染することは希だ。

感染した生物は体を作り変えられ大体は死に、体の作り変えに耐えることの出来たごく一部は生き残り他の生物とは一線を

かくした超生命体へ生まれ変わる。

……そして、一生そのウイルスを撒き散らす存在となる」

もしかしてあの時の風邪って……!

「そのウイルスに私は打ち勝ったのね……!だから超人に」

「あぁ、その通りだ。だけど

お前は運が良かっただけだぞ?

中には体の作り変え自体には

耐えたが理性や正気が消え体が異形の物に変わるケースもあるんだからな」

その言葉で、私の背に冷たいものが走った。

「……それって?」

「そうだ、UMAもこのウイルスが原因で生まれてるんだよ。

たまにニュースで報じられているあいつらも元は人間だったんだ、その大半はな」

私も、一歩間違えればUMAに

なってた可能性があった……?

……あの人とは似ても似つかない化物に?

「……ひどい」

「……そうだな、本当にひどい話だよ」

そう言って彼は私の肩をぽん、

と叩いた。

「飯、冷めるから早く食べてくれ」

「あ、ごめん」

私は一言だけそう謝ってから、

朝倉の作ってくれた朝食を食べ初めた。

衝撃的な話を聞かされたせいで動揺しているのか、味があまりわからなかった。

「……そのウイルスってさ、予防する方法とかって無いの?」

「無い、というよりはするだけ無駄だ。もうウイルスはこの

世界の至るところに拡散し

今も犠牲者を増やしている。

UMAが増えれば増えるだけ、超人が増えれば増えるだけ

ウイルスの繁殖と拡散は増大する。

この地球上に逃れられる場所はもはや存在しない、だからするだけ無駄なんだ」

「そっか、もう手遅れなんだ……」

私はそう言って噛っていた

トーストをお皿に置く。

そして一呼吸おいてから彼に言う。

「……じゃあ朝倉のお仕事って

永遠に終わらないわね、ウイルスが消えて無くなる日なんて

一生こないものね」

朝倉は一瞬だけ考えるそぶりをして、すぐ私に言葉を返す。

「……まぁ、そうなるな。

俺はこの体が朽ち果てる

その日までUMAと超人達を

相手にして、そしてどこかで

人知れず死んでいくんだろうな」

「――――っ!」

「どうした?」

「……いや、なんでそんなこと

言えるのかなって思っただけ。まるで他人事みたいじゃない?……自分のことでしょ?」

なんで、なんであんたは

なんでもないことみたいに

そんなこと言えるんだっ……!

「朝倉ってさ、死ぬのとか怖くないの?」

辛くないの……?

あなたは、辛くないの……?

寂しく、ないの……?

「んー、死ぬときにならなければわからんかもな。

あまり考えたことはない、

それこそいつ死んでも

おかしくないからな。

そんなことを考えていたら

命取りになる」

言いながら彼はゆっくりと

私から離れていき、さらに言葉を続ける。

「俺は支度を済ませてくる、

お前も早く食事を済ませてくれ」

そう言って、彼は自室に足を運んだ。

「……完全に頭にきたわ」

居間に一人残された私はそう呟き、人知れず覚悟を決める。

朝倉……!私、あんたの思い 通りになんて動いてやらないんだからねっ……!

 

14

 

東京都内某所、

とあるオフィス街の地下に

朝倉の所属する組織はあった。

超常超人対策機関Pax、

その暗部となるもっとも

危険で暴力的な部隊

Under taker(アンダーテーカー)。

その拠点に私は案内された。

地下の照明は暗く、道は狭くて、どことなく息苦しい。

葬儀屋、その名に恥じぬ雰囲気が辺りに漂っている。

朝倉は何も言葉を発さずに

私の前を黙々と歩く。

私はただ彼の後を着いていく。

そんな静かな時間がしばらく続いた後、朝倉が急に足を止めた。

「ここだ、先に入れ」

私は促されるまま、眼の前の扉をガチャリと開けた。

広がるのは開けた空間、

そこには三人の男女が居た。

一人は薄青髪の体格のいい男、

年は朝倉と同じくらいだろうか?

男は私と朝倉を見るなり笑顔を作り、言葉を発する。

「おっす朝倉!久しぶりだな!そっちの女の人が例の人か?

すげー美人じゃん」

朝倉が彼に答える。

「そうだ、この人が倉橋瑠実だ。くれぐれも粗相の無いようにしてくれ」

「わかってるって!俺だって

ガキじゃねぇんだからさ」

「……あの」

「あぁ、すいません。俺は羽柴龍巳(はしばたつみ)って言います。以後、よろしくお願いします」

ぺこりと彼は頭を下げて、私に自己紹介をする。

「こ、こちらこそ……、よろしくお願いします」

つられてつい私もそんな風に

挨拶をしてしまう。

なんか調子が狂うわね……。

悪い人じゃ……無いんだろうなきっと。

「あの、倉橋さん。私も自己紹介いいかな?」

声の方向に目線をやると、そこには少女が居た。

艶のある綺麗な黒髪のポニーテールに血のように紅い瞳、

白のシャツに黒のミニスカート。

そんな出で立ちの可愛らしい

少女が興味津々といった様子で

私の前に立つ。

彼女はにこりと微笑むと、私に言葉を発した。

「私は神宮薫(じんぐうかおる)。女同士よろしくね倉橋さん!」

「えぇ、よろしくね神宮ちゃん!」

あぁ~!可愛いなぁ!

なんか妹第二号って感じがするわ。ちなみに一号はもちろんモニカちゃんよ!

「ところで倉橋さん、ちょっとこっち来てもらっていい?」

「え、えぇ」

彼女に手を引かれ、少し離れた場所にまで移動する。

そして神宮ちゃんは私の耳元には口を近付けて、こそこそと

耳打ちをした。

「……聞いたんだけどさ、今朝倉のとこでお世話になってるって

本当?」

「うん、本当よ」

「大丈夫?なにもされてない?いくらモニカちゃんもいるとはいえ心配だよ」

……むしろなにかしてほしかったんだけどな。

そう言いかけたが、理性がそれを拒否した。

「なにもされてないわ、むしろ彼にはお世話になりっぱなしよ……」

「なにかおかしなことされたら言ってよね、私力になるから!」

……あぁ、この娘本当にいい子だなぁ!

本当に可愛い!

「あいつを血祭りにするから」

……そう言ってみせた彼女の

眼光は朝倉と、いや朝倉よりも恐ろしかった。

この子マジだ……!

マジで殺る気だ……!

「だ、大丈夫よ……!心配しすぎだってば」

言いながら、私はみんなのいる場所にまで戻る。

後を追うようにして、神宮ちゃんも戻った。

「どこ行ってたんだお前ら」

朝倉が私達にそう言葉を投げかける。

「男共に聞かれたくない話をしてたんだよ」

そう言って神宮ちゃんが朝倉を適当にあしらう。

朝倉は朝倉でそんな神宮ちゃんを気にもとめず、残る三人目の男と話を始めた。

金髪の彼、アルフォンス・ダシルヴァ。

彼のことは朝倉から事前に話を聞かされている。

朝倉の作った虚偽の報告書を

本物にするための鍵、それが彼だ。

心を読むことの出来る能力、

その能力で朝倉が嘘をついていないと証言をすることで虚偽の報告を本物にする。

……それで私はPaxから狙われることはなくなるという算段。

本当にこんなので上手く行くのだろうか?

そんなことを考えていると、

朝倉とアルフォンスさんが私に近付いてきた。

「倉橋、わかっているな?

お前は打ち合わせどうり何も喋らず黙っているんだ」

「そうそう、後は俺と朝倉で上手くやるからよ。大船に乗ったつもりでいてくれ、嬢ちゃん」

そう言って彼は笑う。

……ふーん、何も言ってこないんだ?

この人、私の企みに気付いてないんだな。

安心した。

あなたが普段から能力を使って人の心を盗み見るようなそんな

デバガメ野郎じゃなくて本当によかった。

でも念には念をいれて、この

人には洗脳をかけておこう。

私の心を読むのを禁ずる、と。

……よし、これで私の準備は整った。

「ところで、例の話しはいつ始まるの?」

「予定では10時だ、あと10分ほどだな。今のうちにしたいことがあったら済ませておけ」

そう言葉を発する朝倉の顔には、緊張の色が伺えた。

……ごめんね朝倉。

でも私決めたから、自分の意思で。

――そして、時間は約束の10時になる。

 

ギィ。

そんな軋んだ音がして、部屋の奥の扉が開く。

扉から眼鏡をかけた男がゆっくりとこちらに歩みを進める。

「お待たせしました皆さん、

この度は全員ご足労いただき

まことに申し訳ない。

初めましての方もいらっしゃいますので軽く自己紹介をして

おきます。私の名は楠直(くすのきなお)。以後お見知りおきを」

眼鏡の男は、生気の無い声で

そう呟くように喋ると私の方に眼を向けた。

「あなたが、倉橋瑠実さんですね?」

……なんだろう、なんなんだろうこの人は。

なにかとんでもなくヤバい奴な気がする……!

この男を見てから、背筋の震えが止まらない。

「……は、はい」

震える声をなんとか搾り出すようにして私は返事をする。

楠という男は私の返事などどうでもいいのか、私から目線を外すと次は朝倉へと眼を向ける。

「では、朝倉くん。さっそくですが今回の任務の報告をよろしくお願いします」

「わかりました指令。では、

さっそく始めたいと思います。今回の連続大量行方不明事件は――――」

朝倉が報告書を見ながら皆に

説明する。

遺骸人形(ドール)のことと私

倉橋瑠実の置かれていた状況の説明をする。

本当の事と嘘を交えながら、

話が破綻しないように説明をする。

口八丁、嘘八丁。

羽柴くんと神宮ちゃんは朝倉の

報告書の内容を聞いて

明らかに動揺していた。

遺骸人形(ドール)とそれを造っている男の存在は彼らからしてもとんでもなく強大でかつ邪悪なものだったらしい。 

怒りと憎悪で、二人の顔が歪んでいく。

ふと、そんな神宮ちゃんと

目が合う。神宮ちゃんは私を

見てとても悲しそうな、哀れむような表情を浮かべていた。

……この子は、本当に優しい子なんだな。

そんなことを考えている間に、朝倉の報告も佳境に入る。

「以上が遺骸人形(ドール)と

それを造る男ピグマリオン。

そして倉橋瑠実の置かれていた状況になります。先ほども説明したことですが、彼女は

ピグマリオンに利用されていただけです。能力も様々な条件や特殊な状況を用意しない限りは危険性も低く、脅威にはなり得ません」

朝倉が言葉を続ける。

「ですので、彼女の処遇は保護観察が妥当かと思われます。

ピグマリオンを撃破するまではPaxで身柄を保護し、撃破後は

定期的にこの朝倉が彼女の様子を報告します」

朝倉が報告を言い終える。

――そして、アルフォンスさん。

彼が間髪を入れずに発言をする。

「指令、朝倉の報告なんだけどよ。こいつ嘘は吐いてなかったぜ、能力で見たから間違いねぇ」

アルフォンスさんは言葉を続ける。

「それと朝倉の提案には俺から

修正案がある。ことが終わった後もこんな雑魚能力の

お嬢ちゃんまでいちいち俺ら

で管理しなきゃなんねぇ

とか体がいくつあっても

足りねぇよ。

保護観察すらいらねぇんじゃねぇか?雑魚だし」

そう言って、彼はうす笑みを浮かべた。

「…………」

指令と呼ばれている男、楠直は

朝倉とアルフォンスさんの

言葉を聞いてもただ黙っていた。

何を考えているのか何を思っているのかはその表情から一切伺い知ることが出来ない。

……ただ、彼を見ているとどうしようもない不安に駆られるのはなぜだろうか?

「……報告は本当にそれで終わりですか?朝倉くん」

――ゾクリ。

指令の、楠のその言葉に全員の身体が震えた。

周りの温度が一気に10℃ほどは下がったような、そんな強烈な悪寒に襲われる。

「……どういう意味でしょうか?」

朝倉が指令に問い返す、その顔には冷や汗が浮かんでいた。

……朝倉、もういいよ。

本当にありがとうね。

楠直、この男は間違いなく嘘に気付いている。

少し予定とは違うけど、ここで動かなかったら朝倉とアルフォンスさんまで危ない。

……動くなら今だ。

「ひざまづきなさい」

私は能力を使い、この場にいる指令以外の人間を皆地面に這いつくばらせた。

4人分の短いうめき声が聞こえた。

その光景を見て、始めて楠という男はその表情を変えた。

「……なんだこれ?体が……!」

「動かない……!」

「嬢ちゃん!なに考えてんだっ……!」

「倉橋……。お前……!」

ごめんね、みんな。

「いい加減にしろっ……!調子にのんなよ……!」

神宮ちゃんが怒りの表情で私を睨む、だがその表情はすぐに驚きのものに変わる。

「うそ……!なんで能力が……?」

「ごめんね、私はみんなの能力の発動を封じてるわ」

「「「「っ!?」」」」

4人の顔が驚愕の色に染まった。

「少し話があるから、みんな喋らないでね。喋りたくても喋れないでしょうけど」

「これは、いったいどういうことですか……?」

困惑の表情を浮かべる彼、楠を

眺めながら私はゆっくりと朝倉の方に足を進める。

そして地面に這いつくばる

彼をもう一度洗脳し、今度は

四つん這いにさせる。

その上に私は腰を下ろした。

「朝倉明人、彼は私の能力を誤認していたんです」

そう言って私は椅子がわりにしている朝倉の頬を指先でなぞる。

そのようにしながら、私は言葉を続けた。

「私の能力はもっとずっと

恐ろしく強大で、危険なものです。朝倉くんもこの通り、私に逆らうことも出来ません」

「……そのようですね。それで、あなたはなにを企んでいるのですか?私だけ能力の影響を受けていないようですが」

楠は冷静に、しかし確かな怒気を携えながら私に問う。

返答しだいでは殺す、そんな

言葉が言わずとも伝わってくる。

「……単刀直入に言います。

私をUnder takerの一員に加えてください」

「「「「「……!?」」」」」

全員の、息を飲む音が聞こえた。

「楠直さんでしたよね?

私の能力、使えると思いませんか?役に立つと思いませんか?私、超有望だと思いますが?」

「……ふふ、はははははっ」

楠は笑い声を上げ、拍手をする。

パンッ パンッ パンッ

そんな乾いた音が辺りに響く。

「……素晴らしい、今日はなんと素晴らしい日なのでしょう」

楠は喜びの感情を隠さないままそんな言葉を口にする。

その表情には、狂気のようなものが宿っていた。

「もちろんお受けいたします、断る理由などあるわけがない。

倉橋瑠実、あなたは今日からUnder takerの一員です」

言いながら、彼は今だ地面に

這いつくばる仲間達を見て、

さらに言葉を続けた。

「朝倉くんとアルフォンスくん、あなた方は彼女に感謝したほうがいい」

そう言葉を投げ掛ける楠の

声は、恐ろしいほどに冷たかった。

「アルフォンスくん、あなたは常日頃から能力を使い人の心を丸裸にするようなそんなデリカシーの無い人だったでしょうか?私の知るあなたは人との距離感をとても大事にする人だったはずです。それがなぜ、今回は朝倉くんの心を読み挙げ句には嘘を吐いていないなどと

私に報告したのでしょうね?

とても不思議だ」

指摘され、アルフォンスさんの顔はたちまち青ざめていく。

続いて、楠は朝倉を見て言葉を続ける。

「朝倉くん、あなたは成り行きとはいえ一度倉橋さんと応戦しているはずです。あなたの戦闘センスや状況の判断力、敵の能力を把握する洞察力は天性のものです。それなのになぜ、今回のあなたの推察はこうも的外れなものになったのでしょうね?あなたらしくありません。……それとも、全て知っていたけど彼女の能力を弱く報告しなきゃいけない理由があったのかな?あ・さ・く・らくん」

「…………っ!」

……やっぱりこの男には全部バレていた……!

私、どちらにせよ逃げ場なんて無かったんだわ……!

「お二人がなにを企んでいたのかは追求はしません、必要がありませんからね」

言いながら、彼は奥の部屋へと帰っていく。

「……今日は素晴らしい日だ、本当に素晴らしい日だ。強力な力が手に入った」

呟くように言って、奥の部屋の扉がバタリと閉まる。

楠直はこの場からいなくなり、部屋にいる人間は5人だけになった。

「ごめんねみんな、いま能力を解除するわ」

朝倉の上から退いて、

私はみんなにかけた

洗脳を全て解く。

むくり、と洗脳を解かれた4人が起き上がる。

「……あのクソ眼鏡最初から全部気付いてやがった!」

「すまない倉橋……!守ると言ったのにこの様だ」

アルフォンスさんと朝倉が私に詰め寄る。

その表情は見ているこっちが辛くなるような、心痛なものだった。

「……あのさ、何がなんなのか

全っ然わかんないから説明

お願い出来る?」

「……俺もお願いしてぇな、さっぱりわからねぇ」

神宮ちゃんと羽柴くんが

そう言うと、朝倉は事の

あらましを二人に説明した。

 

15

 

「……なるほど、倉橋さんをPaxから引き離したかったのか。

それで二人は裏で協力してたと」

「お前らなんで俺らには教えてくんなかったんだよ~!」

朝倉の説明を聞いた二人は

朝倉とアルフォンスさんを睨むようにして言葉を発する。

朝倉はそんな二人をなだめるように言った。

「すまなかったな、説明する時間がなかったんだ」

「……まぁ、それは置いとくとしてさ。どうするの?倉橋さん、Under takerに入っちゃったよ……?」

「あぁ、わかってる。取り返しのつかないことになってしまった……!」

「すまねぇ嬢ちゃん!俺が

不用意な発言をしたばかりに」

全員が全員心痛な顔で、辛気臭い顔で私に話しかける。

……ふん、どいつもこいつも

私の気持ちも知らないで

やいのやいのと好き勝手言っちゃって。

私を舐めないでよね。

「……お前を守ると言っておきながら結局お前に庇われてしまった。……情けない気持ちでいっぱいだよ。本当にすまん、

倉橋」

「あんたら、なにか勘違いしてない?」

心痛な顔をする有象無象を嗤うように、私は吐き捨てるように言葉を発した。

「私はね、どちらにせよUnder takerに入れてもらう気だったのよ。庇ったみたいな形になったのはたまたま、偶然よ」

「なんだと……?」

朝倉の、いや朝倉達の表情が驚きのものに変わる。

「仮にあんたらの計画がうまく行ったとしても私の気持ちは変わらなかった。だからあんた達が気に病む必要はないわ」

「お前、どうして……!」

困惑する朝倉に詰め寄って、

私は言葉を発した。

「……全部あんたが悪い」

そうだ朝倉。

全部あんたが悪いんだ。

「……意味がわからん」

本当にわけがわからない、

そう言いたげに彼は頭に手をやり考えこむ仕草をする。

面を食らっているのがよくわかる。

狼狽えてるのがよくわかる。

……そんな彼に、私は説明する。

彼の犯した罪を。

「あんたが私に優しくするだけ優しくして、私に何にも返させないのが悪いんだ」

「……?」

彼は相変わらず困惑している、

そんな彼を他所に私は言葉を続ける。

「朝倉、あんた昨日私に言ったこと覚えてる?私があんたに

たいして何か出来ることは無いかと聞いた時よ。……あんた、私に出来ることなんて何もないって言ったわよね?私、あれを言われたときすごくショックだった」

「違う!あれはお前に余計なことを考えてもらいたくなくて、自分の問題にだけ集中してもらいたかったんだ。

……お前を軽んじたわけじゃない」

「……あぁ、そうだったんだ。

やっぱり優しいんだね朝倉は。じゃあさ、私がそんな朝倉の優しさに潰されちゃいそうになってたのは知ってた?」

「……?」

わけがわからない。

相も変わらず彼はそんな顔をする。

そんな彼の顔を見ていると、

少しずつ自分の眼から涙がこみ上げてくる。

「……私はね。あんたから受けた恩が、優しさが、重くて重くてどうしようもなくて、潰されちゃいそうになってたんだよっ!

ずっと、しんどかったんだ……!」

涙が頬を伝うのがわかる。

私は、こいつと出会ってから

ずいぶん泣き虫になったな……。

それもこいつのせいだ、全部

朝倉が悪いんだ。

「恩だのなんだの、本当にわけのわからんことを言うやつだなお前は。甘んじて受けていればいいだろうそんなものはっ!

俺が勝手にやっていることだっ!」

「そんなわけにはいかないっ!

そんなことしたら……、私は

一生あなたを見るたびに申し訳ない気持ちになりながら生きていかなきゃいけなくなる。

……そんなの対等な関係じゃない。私はあなたと対等な関係でいたいんだよ」

「……お前」

朝倉は哀しそうな、少し怒っているような、そんな色々な感情が混ざったような表情をした。

「……なんか、俺ら邪魔みてぇだな」

「……俺もそんな気がする」

(……マジか、倉橋さんマジか)

一方その頃、二人の会話に全くついていけない若干3名は

遠巻きに朝倉と倉橋を見つめていた。

だが二人はそのことには気付かない。

まだまだ二人の会話は続く。

「私の能力はあなたの役に立つはずよ。いや、立ってみせるわ」

「……お前はそのためにUnder takerに入ろうと思ったのか?」

「それもあるけど、それだけじゃないわ」

私は言葉を続ける。

「ふと想像しちゃったんだ、

あんたがいつもみたいに

Under takerの仕事で外に出て、そのままいつまでも帰ってこない様をさ。そんでモニカちゃんが私に言うんだ。「アサクラ、帰ってこないね」って。

私はそれに何も答えることが出来ないんだよ、朝倉がもう死んじゃってることをいつまでもモニカちゃんに打ち明けられないんだ」

「お前は、いったい何を言っているんだ……?」

「……そうね、ひどい想像よ。

でもいつか起こりそうな事じゃない?あんた、自分の生き死に無頓着だもんね。そんなあんたは私達をいつか置いていっちゃうんだ」

「……っ!」

……あぁ、なんだ。

少し安心したわ、あんたちゃんとそんな顔も出来るんじゃないか……!

泣きそうじゃないか……。

「……はっきり言ってやるわ

朝倉っ!あんた自分が人知れず死んでいくとか言ったわよね?

そんなノラ猫みたいな死にかたありえないからっ!絶っ対にさせないからっ!!私が!あんたを守るからっ!!あんたが私を守ってくれたように私だってあんたを守れるって証明してやるんだからっ!!!」

声を張り上げる、遅れて喉が痛みを訴える。

でもそんなことは知ったことじゃない、まだ私はこいつに言いたいことがあるんだ。

「だから私を頼りなさい、死にたくないって心の底から思ってちょうだい。……あんたが死んで、悲しむ人間がちゃんといることを知ってちょうだい。

少なくとも、モニカちゃんと私はギャン泣きするんだから……!」

そこまで言って、私は疲れからか立ちくらみをおこし倒れそうになる。

そんな私の肩を、朝倉は抱き止めてくれた。

「やれやれ、俺を守るだのなんだの言った矢先にこれか?全く笑わせてくれるな」

「朝倉……?」

あれ、あんた……まさか泣いて……!?

「ありがとうな、倉橋。お前の洗脳がよく効いたよ。本当に恐ろしい能力だな、それは」

「私、洗脳なんてかけてないわよ……?」

「いや、お前はかけたよ。強烈なのをな」

「……?」

わけがわからない、私は本当に能力を使ってない。

朝倉、あんたいったい何を言ってるの……?

「絶対に死なないでって洗脳、俺にかけてくれただろ?」

そう言って、朝倉は笑う。

普段の彼からは想像出来ないぐらいの、とびきりの笑顔。

あの時私の心を殺した、虜にした笑顔。

その再来――。

「~~~~~~っ!!!」

恥ずかしくなり、

私は慌てて彼から離れる。

「か、顔が近いわっ!びっくりするじゃない」

「す、すまん」

朝倉も少し気恥ずかしくなったのか、言って私から眼を背けた。

「……あの~、お二人さん?もう話しは終わったかな?」

ふと気付くと、神宮ちゃんがおずおずとした様子で私達に話しかけてくる。

 

 

 

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