「なんだっ……?なんなんだお前っ……!」
「じたばたすんなよオッサン、
手元が狂っちまう」
東京都内とある駅近くの路地、
そこで俺はようやく獲物を見つけた。
俺は今、小太りの中年男性の
胸ぐらを掴み持ち上げてるとこだ。
「オッサンさぁ、ヤクの売人でしょ?あ、いいんだ答えなくても。俺は知ってるから」
「……お前警察か?一般人に
言いがかりつけて挙げ句
こんなことまでして
ただで済むと思ってるのか?」
「左のポケットか」
俺はオッサンのスーツから例のブツを取り出す。
「ただの飴玉だ!早とちりしやがって、お前訴えてやるからな!」
「あぁ、確かにただの飴玉だ。
成分検査をしても何の異常も出ない。……でもなぜか中毒症状はバッチリでるんだよな?」
オッサンを睨みつけながら俺は言葉を続ける。
「これを作ってんのは誰だ?」
オッサンは答えない、でも大丈夫だ。
俺にはわかるんだ。
「同元組ね、なるほどなるほど」
「……?!」
オッサンの顔がみるみるうちに青ざめていく。
おもしれぇなぁ、オッサン
今ガミラス人みたいだぜ?
「オッサンさぁ、わかる?
この飴玉のせいで今を平和に
生きてる大勢の人の人生が壊れてんのがさ、お前責任取れんの?」
「し、知らない!俺はただ飴玉売ってただけだ!」
「そうだな、ただ飴玉を売ってたんだよな。1つ原価10円もしない安っぽい飴で百人以上も
人を壊したんだよな?」
俺は言葉を続ける。
「お前から最後に飴を買ったのは女子中学生だったな?集中力が上がる飴だのなんだの謳って
なんも知らないガキを破滅させんのは楽しかったか?」
「知らない!知らない!そんなのお前の妄想だ!」
「なぁオッサン、いい加減気づこうぜ?俺に嘘は通用しねぇんだよ。オッサンが今心で考えてることを言ってやるよ」
俺は、目の前青ざめた音の出る
ゴミに言ってやる。
「俺はいったいどうなる?殺されるのか?嫌だ嫌だ嫌だやめてくれっ!……だろっ?」
ゴシャ。
言い終わりと同時に、俺は音の出るゴミを生ゴミに変えた。
「さーて、同元組ってどこにあんだっけか?」
俺は自作した位置情報アプリで
目的地を探す。
「あー、なるほど。あの辺か」
案外近いな、こりゃ今回は楽かも知れねぇ。
俺は早速目的地に急ぐ。
人混みの間を針の穴を通り抜ける糸のように進み、ビルとビルの間を跳躍し最短距離で向かっていく。
誰も俺の存在に気付きはしない、そんなヘマ俺にはありえない。
そうこうしてる間に目的地に着く。
時は昼、この任務が終わったら俺も飯にするとしようかね。
「いやー、しかし日本の治安も悪くなったもんだねぇ。今時は
ヤクザも超人を雇うんだもんな」
目の前のご立派な作りの門を蹴り破り俺は同元組の中に入る。
「……なんだてめぇ!どうやって入った!?」
あっという間に黒服達が俺を取り囲む。
「あー、失礼。ちょっとゴミ
掃除の依頼が入ったもんでさ。
ちょいと死んでくれ」
言うが早いか、男達が一斉に
拳銃を取り出し俺に向けて発砲する。
拳銃なんかで殺せるほど超人は甘かねぇーよ。
俺は放たれた弾を見切りすべてを最小限の動きではたき落とす。
この程度のことはたぶん倉橋の嬢ちゃんにも出来る。
こいつら、超人を雇ってるくせに超人の怖さを何も知らねぇんだな。
「なっ?!」
驚愕の表情に染まる一同。
次の瞬間その一同の表情は赤い華に変わる。
顔を無くした黒服達が音を立てて崩れ落ちる。
「超人はどこだぁ?もしかして今留守か?」
適当に辺りをブッ壊しながら
眼についたヤクザ共を殺していく。
同元組よぉ、お前らマジで取り返しのつかないことしちまったぜ?
Paxの、Under takerの眼に睨まれるような真似をするなんて
自殺行為でしかねぇ。
なにより俺をここまでキレさせた。
皆殺し確定だよ、同情の余地は一切ねぇ。
心を読める対象がいなくなった、1階は殺りつくしたな。
じゃあ次は2階だ。
ゆっくりと階段を昇る、
ヤクザ共がありったけの銃火器を持って俺に挑む。
すかさず殺す。
そのうちの1人が浅ましくも
命乞いをする、当然構わず殺す。
それを繰り返す。
そのうち2階からも心を読める対象がいなくなる、つまり生きているやつがいなくなる。
「ここも外れか、もうなんか
同じことの繰り返しでめんどくせぇな」
皆殺し確定だし
守らなきゃいけねぇやつも
いねぇし手に入れたい情報も
特にねぇ。
ちょっと雑だが
手っ取り早くやるか。
それに、こんなゴミ共の命なんて
雑に適当に扱われるのがお似合いだ。
俺は懐から自作のアイテムを
取り出し、それを投げる。
それが地面に着地する前に
俺は近くの窓から飛び降り
道元組の敷居から出る。
ーーそして遅れて大爆発。
道元組は建物ごとこの世から消えた。
さすがは俺のカラミティボムだぜ。
いい花火を作ってくれた。
「さて、超人なら今の爆発程度生きてると思うがどうかなー?」
時間とともに煙が晴れていく。
そして微かに感じる、心の声が。
「お、やっぱいんじゃん」
俺は目当ての超人に近づき、
瓦礫の山に埋まったそいつを
引っ張りだす。
そいつは爆発の影響で下半身と左腕が吹き飛んでいた。
「……っ??……ひっ!」
絶望と困惑と痛みに支配された男、俺はそんな男に質問をする。
「こんにちはお兄さん、お兄さんだよね?ヤクを作ったのは」
「……っ!」
「やっぱりお前か。へぇ、自分の手のひらで包むことの出来る任意の有機物に他の有機物の
性質や特性を与えることの
出来る能力かぁ。おもしれぇなぁ、使い方はちっともおもしろくなかったが」
「な、なんで……!?」
ドガッ!
「……ぐぁ!?」
俺は男の鳩尾に拳を叩き込む。
「喋んなくていいんだよ
次喋ったらぶっ殺すぞ?わかったか?」
「……っ!」
無言で男は頷く。
そして俺は言葉を続けた。
「突然だがクイズだ、お前の
作ったヤクでいったい何人が
中毒死したと思う?」
「……!」
ドガッ!
もう一度俺は男の鳩尾に拳を叩き込む。
そして男は痛みに悶え苦しむ。
「そんなに少ねぇわけねぇだろ馬鹿かよ、正解は68人だ。
被害者の半数以上がお前の
作った馬鹿なおクスリのせいで悶え苦しんで死んだんだおわかり?」
涙を流し心の中で俺に命乞いをする男。
こいつはさっきから自分のことばかりだな、被害者への謝罪の気持ちなんて1つもねぇ。
……まったく胸くそがわりぃ。
「お前にそんなむしのいい話しはねぇよ」
言いながら、俺は男の口に
カラミティボムを突っ込む。
そして上空へと放り投げた。
遅れて、爆発とともに男の体が粉々になる。
「たーまやー!お前の最期の
晩餐にカラミティボムはちと
勿体なかったな。地獄の底で
永遠に詫びをいれ続けろ
クソ野郎」
さて、今回も無事片付いたな。
昼飯食ってからUnder takerに戻るか。
24
「さーて、嬢ちゃんは今日も頑張ってっかなー?」
最近、俺ことアルフォンス・
ダシルヴァには楽しみが増えた。
倉橋瑠実、つい昨日入ってきた新人のことだ。
俺はもうあの女のことを気に入っている。
なんせあの朝倉をあそこまで
骨抜きにした魔性の女だ。
気にならないわけがねぇ。
「朝倉ぁ、まさかお前があんな風になるなんて思ってなかったなぁ」
昨日のあいつを思い出すと自然と笑みが溢れるのがわかる。
いつも怒ったような仏頂面をしたTHE殺人鬼って感じの奴が あんな表情を見せるなんてな。
確実にあいつの中でなにかが
変わり始めている。
俺は正直もう朝倉のことは諦めていた、記憶なんか戻んなくても性格だって少し変わっちまってても別にいいと思ってた。
過去の朝倉が失われるのは
確かに悲しいがあいつが
今楽しくやれてんなら
それでいいと
思うようになってきたんだ。
けれど、昨日のお前は違う。
昨日のお前は五年前の朝倉明人の笑顔をしてた。
「本当に心底嬢ちゃんに惚れてんだろうなぁ」
まったく隅に置けねぇ奴だ。
そんなことを考えているうちに
運動場に着く。
さて、嬢ちゃん達はいるかなぁ?
「いだだだだだっ!!?離せっ!朝倉離せっ!!頭が割れるっ!!」
んー?この声は薫ちゃんか?
なにやってんだ?
「昨日は倉橋をずいぶんと可愛がってくれたそうじゃないか?ん?後輩いびりは楽しかったか?」
「いびってないー!むしろ優しくしてたぁー!」
……目の前の光景に俺は絶句する。
薫ちゃんが朝倉からアイアンクローをかまされていたのだ。
「鍛えてやってただけだろうがっ!」
朝倉との身長差でぷらんぷらんと宙吊り状態になる薫ちゃん。
あらら、しかも左手でやられてら。
あれじゃ能力も使えねぇ。
「やかましい。こいつが二度と肉の食えない体になったらどうするんだ?お前のスムージーが完全にトラウマになってるんだぞ?」
ギリギリという音がここまで聞こえる。
「く、倉橋さんこいつを止めて!あんたの彼氏だろっ!?
……ぎゃあああっ!?力を強めんな頭がところてんみたいになるっ!」
「朝倉、もうやめてあげて?
神宮ちゃんも悪気があったわけじゃないから……!」
「ふん」
嬢ちゃんの制止を聞いて
ようやく朝倉はその手を離す。
そして一言。
「次倉橋をいじめたらこんなものじゃすまさんからな。覚えておけ」
薫ちゃんの体が死にかけの虫のように痙攣する。
……おいおい結構強めにやったなお前。
「……ちっ、頭の形が変わったらどうしてくれるんだよっ!」
そう毒づきながら薫ちゃんが立ち上がる、さすがの回復力だ
もうダメージが無い。
「よぉ、楽しそうだなお前ら」
俺はやいのやいのと騒ぐ面々に声をかける。
「ん?アルフォンスか、お前
今日任務だったんじゃなかったか?」
「それはさっき終わらせたぜ、サクッと終わった」
「ねぇアルフォンス、ちょっと血の匂いすごいよ?倉橋さんいるの忘れてない?」
あ゛っ、やばっ……!
指摘されて嬢ちゃんの方を見る。
嬢ちゃんは、恐怖と困惑の色を混ぜた表情をしていた。
あぁ……、さっき入った飯屋の客や店員が妙な顔してた原因はこれか。
いけねぇな、もう完全に殺しが日常に溶けてて違和感すら覚え無くなってたわ。
……さっき皆殺しにしてきたばっかだからなぁ、昨日まで一般人やってた人間にこれは刺激が強すぎる……!
嬢ちゃん、当たり前だが人なんて殺したことねぇもんな。
「……幻滅したか倉橋?これが俺達の仕事だ、人を殺すことなんて珍しくないんだ。口で説明されるのと実際に殺人の痕を
見るのとでは違うだろう?」
「えぇ、正直少しショックだったわ。けど大丈夫よ……!
私は自分の意思でUnder takerに入ったんだ。泣き言は言うつもりないわ。殺さなきゃいけない時は永遠に来ないでほしいけど、殺るときは殺ってやる……!」
そう言って肩を震わせる嬢ちゃん。
あぁー……!あきらかに無理してんなぁこりゃ。
「倉橋、言っておくが俺は
お前に誰かを殺させる気はないぞ?
必要がないからな。
お前の能力はUnder takerの
誰よりも優しい能力だ、お前だけは殺さずに相手を無力化出来るだろう?……その手は綺麗なままとっておけ」
「うん……、ありがと。朝倉」
そう言って、嬢ちゃんと朝倉は手を握る。
……んー?
なんか、昨日よりさらに距離が近くなってねぇかあいつら?
まったく見せつけてくれるね
本当に。
「そういやよ、嬢ちゃんのトレーニングは順調か?」
「順調、とは言いがたいな。
いかんせん素の能力が低い、
地道に根気よくやるしかないだろう」
「……あのよ朝倉ぁ、トレーニングで嬢ちゃんの基礎を上げんのはいいことだけど
もっとスマートなやり方あんだろうが、足りねぇものを補う手っ取り早いのが」
俺は視線を嬢ちゃんに移し
言葉を続ける。
「嬢ちゃん、俺と嬢ちゃんの
能力には共通する弱点がある。能力が直接的な破壊力に結びつかねぇことだ。はっきり言うとこのUnder takerで嬢ちゃんの次に弱いのは俺だ。
……なにも使わなければ、な」
俺は、不敵に笑い、相棒の名を叫ぶ。
「来い!対超人戦闘用強化外骨格、クレイジーリンクス!」
手に持ったアタッシュケースを投げ捨てる、アタッシュケースから煙が出て相棒が姿を表す。
空を飛ぶ相棒が、俺の四肢に装着される。
おぅ、そうだよ嬢ちゃん。
いい反応してくれるじゃねーの。
「人間は頭を、道具を使ってなんぼだぜ?お前ら」
「アルフォンスさん、それは……!?」
「まぁ、ようはパワードスーツだ。とある超人との共同開発で作った俺の相棒さ。これを使うことで俺のフィジカルは飛躍的に上昇する。見てな」
言って俺は、運動場を縦横無尽駆け巡る。
どうだ?速ぇーだろ?猫のようなしなやかな動きがウリなんだ。
実は色々形態変更も出来る。
……ただ、これ使っても朝倉のスピードには敵わねぇんだがな。
あいつはマジの化物だ……!
適当にスピードを御披露目したあと、俺は朝倉達のもとに戻る。
「どうよ?なかなか速かったろ?」
「……す、すごいわっ!アルフォンスさん!私もそれほしいっ!」
嬢ちゃんの眼が爛々と輝き、
子供がはしゃぐようなテンションで言葉を発する。
おっ~~!思ったとうりの反応だぜぇ~!
なんかここまで喜ばれると
こっちまで嬉しくなってくんな。
「もちろんそのつもりだ、嬢ちゃんにも俺のとおんなじのをーー」
「無理だな」
「「え゛っ」」
朝倉が突然そんなことを言う。
嬢ちゃんと俺の眼が驚きでまん丸くなる。
「うん、無理だね」
「「……!」」
薫ちゃんまでっ……!なんなんだいったい。
「あんなスピード倉橋が耐えられるわけないだろ……!」
「倉橋さんの貧弱さを舐めすぎだよ、空中でバラるよ?
マジで」
え゛ぇーーーー!!?
……マジ?マジで嬢ちゃんそのレベルなの?
ーーカトンボかよっ……!
「パワードスーツを使うこと自体は賛成だ、ただ性能を倉橋が耐えられるレベルにまで落としてくれ」
「……あ、あぁ。わかった、嬢ちゃんには性能を抑えたクレイジーリンクスを渡ーーーー!」
ゾクッ。
……ん?なんだぁ、なんか強烈な殺気を感じるんだが……?
殺気の方角に俺は眼をやる。
ーー殺気の主は、朝倉だった。
な、なんだぁ?お前……!
「……???」
なにがなんだかわからず、俺は能力を発動して朝倉の心を読む。
ーーーーすると。
(倉橋にクレイジーリンクスを渡すだと……?こいつまさか倉橋とペアルックを狙っているのか?ふざけるなよ俺だってまだやっていない。というかなんだこいつやけに倉橋によくしようとしてるじゃないかまさか倉橋に気があるのか?ふざけるな
お前にはやらん!そもそも倉橋
お前もお前だなんださっきの
はしゃぎっぷりは俺のときにはそんな反応見せてくれなかったじゃないかっ!)
……………………………………。
……なに、なんだこの朝倉の
形したよくわかんねぇ生物は?
朝倉……?朝倉なんだよな
お前……?
「……嬢ちゃんにはクレイジーリンクスよりもっといいやつがあるな、そのうち作って渡すわ」
「え、いいじゃないクレイジーリンクス。私格好いいと思うわよ?」
……俺が朝倉に殺されるからやめてくれ。
25
「さて、休憩も終わったしトレーニングの続きいくぞ」
昼食を済まし、俺はトレーニングの再開を宣言する。
神宮とアルフォンスはもうここにはいない。
アルフォンスは俺がムカついたから追い払ったし
神宮は私もお昼食べてくると言ってどこかへ消えた。
倉橋は俺の作った弁当を食べた後、ゆっくりとベンチから立ち上がり開幕俺に言った。
「ねぇ、私ちょっと試してみたいことがあるの。能力と武器無しで手合わせってルールだったけど私能力使わせてもらっていい?」
「ダメだ、お前主旨がわかっているのか?これは洗脳が効かない相手と自分を狙う相手により速く気づいて対処出来るようにするためのトレーニングだぞ?」
「それはわかってるわ、違うの。今回洗脳をかけるのは
相手じゃなく自分よ」
「なに……?」
自分に洗脳をかけるだと?
こいつ、そんなことも出来たのか。
「……うん、大丈夫。自分に
洗脳をかけたのは初めてだったけどいけるっぽい、いつでもいいわ朝倉」
その言葉をスタートの合図にし、俺は走り出す。
自分にかけた洗脳とやらの力、見せてもらおうか!
俺は倉橋の後ろに回り頚を狙う。殺気は昨日よりもかなり
抑えてある。倉橋は知らない、本来昨日のトレーニングのように殺気や害意を
あそこまでむき出しにしながら攻撃を仕掛ける馬鹿はいない。
あれぐらいむき出しにしないと
倉橋は敵への悪意に気づけないと俺は踏んでいたのだ。
倉橋には自分がどれ程弱いか知ってほしい、そして学んでもらいたい。
最終的には相手の視線や周囲の音や気配、微細な振動すらも
感知して攻撃に対処出来るようになってもらわないと困る。
だから、すまんな倉橋。
今日も痛い思いをさせてしまうがやられて覚えていってくれ。
そう謝罪しながら、
俺は倉橋の頚に手刀を繰り出した。
――ヒュン。
繰り出した手刀は、倉橋の頚を捉えーーられなかった。
ギリギリギリギリ。
……なに?
左手首に痛みが走る、倉橋は
俺の左手から繰り出された
手刀を完全に見切り、逆に俺の左手首を握っていた。
「予想以上にうまくいったわ……!」
「ーーッ!」
倉橋の手を振りほどき、
俺は再度彼女に襲いかかる。
今度は、気配を完全に消して動いた。
体勢を低くし、彼女の視界から消え、彼女の左膝を狙いローキックを繰り出す。
そのローキックを彼女は華麗に躱す。
そして俺の顔を見て
どんなもんだと言いたげな
笑みを浮かべる。
かわいい……。
……って、違う!
トレーニングに集中しろ!
倉橋、お前なにをしたんだ?
動きも反応も別人じゃないか、
これなら超人としての強度はBは楽にある。
これなら足手まといにならない程度にはやっていけそうだ。
そう、思った矢先だった。
グギッ、メキッ。
……倉橋から嫌な音が聞こえたのは。
ドサリと音がして、倉橋が仰向けに倒れる。
「……い、痛いぃぃ~~!!!」
大粒の涙を流しながら絶叫する彼女。
……なるほど、これが自分にかけた洗脳か。
「無茶をしたなお前、自分に
体の負担を考えず限界を越えて動けとでも洗脳をかけたんだな?」
「……えぇ、あとは極限まで集中しろって洗脳をかけたわ」
彼女は言葉を続ける。
「あーあ、失敗だったか。
こんなに早く限界が来るんじゃ使えそうもないわっ……!」
「いや、これは使えるかもしれん」
俺は先ほどの倉橋の洗脳に一筋の光明を見いだしていた。
「倉橋、お前がさっきの状態で動けてた時間はざっと1分だ。
これではさすがに短いから
持続出来る時間を伸ばそう」
「え、さっきのやつ朝倉的には成功なの?」
「成功でもあるし失敗でもある、あの状態のお前は以前の
お前とは比べ物にならない強さになっていた。ただやはり
これは諸刃の剣だ、乱用は許さん本っっっ当に、ここぞという時に使えっ!」
俺は言葉を続ける。
「さっきの状態、呼称をブーストとでもするか。ブースト状態を最低でも3分は維持出来るくらい強い身体になるようトレーニングで鍛えるぞ」
「……え゛ぇ~~~!?」
あからさまに嫌がる素振りを見せる倉橋。
……すまんな倉橋、本当はお前にブーストなんて使わせたくないが背に腹が変えられん。
無茶を強いる俺をどうか許してくれ。
俺は彼女に近づく、
そして彼女の上に腰を下ろした。
「な、なに」
「お前まだブーストの影響で
全身がひどい状態だろう?この程度超人ならすぐに治るがそこに俺のマッサージを加えてさらに回復を速める。今は1分1秒が惜しい」
言って俺は、彼女の上半身に手を触れる。
「いたっ、痛い、ダメ、そこ痛ぃ……!」
「我慢してくれ、俺だって人にこんなことをするのは始めてなんだ。少なくとも五年の間にはない」
「ちょ、嫌ぁっ!ダメっ!やめてってぇ!痛いんだってばぁ……!」
「大丈夫だ、すぐに気持ちよくなってくるはずだから俺を信じてくれ」
「やぁぁん!朝倉ぁ!朝倉の馬鹿ぁー!」
倉橋の声が辺りに響く。
そして、背後に人の気配を感じる。
振り返る、そこには神宮と羽柴の姿があった。
「あ、あああ朝倉お前ぇ~~~~~~!!!!!」
紅潮し金魚のように口をパクパクさせながらそんなことを口走る神宮。
「おい嫌がってんじゃねぇーか!!俺大事にしろって言ったじゃねぇかよっ!優しくしてやれ!」
同じく紅潮しながら俺を怒鳴りつける羽柴。
……はて、二人はいったいなにをそんな興奮してるんだ?
「こんなとこでおっぱじめようすんなっ!死ね変態っ!」
殺意に満ちた神宮の拳が俺に向けて放たれる。
当然、俺は避ける。
そして即座に後悔する、倉橋が神宮の攻撃の余波で吹っ飛ばされたのだ。
「倉橋っ!」
……あぁダメだ、あいつ気絶した。
しばらく起きんぞあれは。
「俺も加勢する!あいつの性根を叩き治してやるぜ!」
「おい、お前までどうしたんだ?」
「「自分の胸に手を当てて考えてみろっ!」」
……わけがわからん。
息のあった二人の連携を俺はなんとか躱し続ける。
そして、この後二人の誤解が溶けるまで20分ほどの時間がかかった。
26
「まったく、あいつらは俺をなんだと思っているんだ……!」
俺は倉橋とは清く正しい交際をしていくつもりだ。
俺は結婚するまでは彼女に手を出す気はない!
……それをあいつら!
俺をケダモノ扱いしよって!
俺がどれだけあいつを大事にしてると思っているんだ!
「……清く正しい交際、か」
言いながら俺は考える。
倉橋とそうやって付き合っていくためには色々と必要なものがあるな。
まず、爆発で失われた彼女の
身分証やらなにやらを何とかしてやらんといけない。
トレーニングが落ち着いたら
もろもろを再発行しよう。
幸い彼女の前住んでいた貸しアパートに住民票は残っていたからな。
あとは安全な住処だ、
ピグマリオン達に狙われない住処。
うら若い女性がいつまでも
俺の家に住むわけにもいかんだろう。
……べっ、別にあいつが俺と
これからも同棲したいなら俺はかまわないが、
あいつにもプライベートは必要だ。
一人の時間をちゃんと用意してあげたい。
神宮と羽柴に気絶した倉橋の
介抱は任せてある、というか命令した。
つまり、俺は今一人で行動出来る。
やれることを今のうちにやってしまおう。
……あまり気は進まないが、
司令に頼んでみるか。
Under takerの中には寮もある。空いた部屋を使わせてもらえるよう申請をしよう。
早速、俺は司令のいる部屋に足を運ぶ。
「司令、お話があります。今お時間ありますか?」
ノックをして、俺はドア越しに言葉をかける。
すると少し間をおいて、司令から返事が返ってくる。
「どうぞ、お入りください」
その言葉を聞いて、俺は扉に手をかける。
ゆっくりと扉が開き、俺は中に入る。
「お時間いただきありがとうございます。司令」
「いえ、構いません。今日はどうしたのですか?」
「Under taker内の寮を貸して頂きたく思います。可能でしょうか?」
司令が、楠が首を傾げながら
俺に言葉を返す。
「構いませんが、あなた自分の家を持っていたはずでは?」
「いえ、必要なのは私ではありません。昨日入ってきた新人に貸してやりたいのです」
「なるほど、彼女にですか」
楠は、うす笑みを浮かべながら
俺に言葉を返す。
「どうぞご自由にお使いください、まだまだ寮に空きはたくさんありますからね」
「ありがとうございます。
では、私はこれで失礼します」
そう言って、俺は司令室を後にしようと振り返る。
その時だった。
「少し待ちなさい、朝倉くん」
引き止められ、俺は冷や汗を流す。
俺は思い出す、つい昨日とった俺の行いの顛末を。
……この男は、楠直は、俺とアルフォンスのやろうとしていたことを全て知っていた。
おそらくだが、あそこで俺や
アルフォンスが尚もしらを切るようなら、倉橋がもしも行動を起こさなかったら、
倉橋は殺されていただろう……!
俺達もただではすまなかったはずだ……。
振り返り、俺は楠を見る。
すると楠は、一言。俺を見て言った。
「あなた変わりましたね。
よほど彼女が大事なようだ」
「……っ!」
わからない……!
この男の考えていることが、
本当にわからない……!
この男からは考えてることが本当に読めん……!
「早く彼女を鍛えあげなさい、必要です。彼女の力が、このUnder takerにはね」
そう言って笑う彼の表情からは、確かな狂気がにじみ出ていた。
……楠直、お前がなにを考えてるかは知らないがひとつだけ
心に決めたことがある。
もしもお前が倉橋を利用し、
彼女を傷つけ彼女の心を踏みつけにするようなら、俺はお前を殺してやる。
「……期待に添えるよう善処いたします」
そう言って俺は、今度こそ司令室を後にした。
27
「ごめんね倉橋さん、
私達が勘違いしたばっかりに」
「本っ当にすいませんでした……!」
意識を取り戻した私に二人が
深々と頭を下げながら謝罪する。
私はそれに対してため息まじりに答える。
「あんなに吹っ飛ばされたのは初めてだわ……!鳥になった気分よ」
いやー、よく死ななかったな私。
攻撃の余波だけで私ああなっちゃったわけだけど、実は
神宮ちゃんってめちゃくちゃ
力が強いのかしら?
それとも、あれが神宮ちゃんの能力なのかしらね?
「ところで、二人は今暇なのかしら?よかったらあなた達も
ブーストを使ったトレーニング
に付き合ってほしいんだけど」
「「ブースト?」」
そう首をかしげる二人に、私は
ブーストの説明をする。
説明を聞き終わる頃には
二人の顔は
嫌悪のものに変わっていた。
「ようはリミッターを外して
無理矢理に動きまわるってことか……!えっぐいなぁ……!」
「……それ、大丈夫なんすか?」
少しだけ怒りを、そして心配を込めた声で羽柴くんが私に問いかける。
……うーん、やっぱりこんな反応になるか。
「大丈夫なものにこれから
変えていくのよ、私も使う度に
体がぐちゃぐちゃになるのは
嫌だわ。だからもっと洗脳を
細かく設定して体が壊れない
ギリギリを探りたいの」
私は言葉を続ける。
「私だって多少の無理をしなきゃあなた達に追い付けないことぐらいわかってるのよ?
だから……ね?お願いだから
協力してちょうだい」
私は、そう言って深々と二人に頭を下げた。
「……まいったなぁ、本気だこの人」
「さすがは朝倉が惚れた女だけのことはあるねー。ネジがぶっとんでるよ」
やれやれとでも言いたげに
笑い、二人は私に向き直る。
「仕方ないなぁ、協力しますよ。でも倉橋さん、ギブするときは早めに言ってくださいね?」
「少しでもヤバそうになったら即ストップかけるから、その
つもりでいてね」
「えぇ、わかってるわ」
二人の言葉に頷きながら、
私は答えた。
「じゃあ早速始めましょうか、
朝倉とのトレーニングで
一対一は経験してるから
今回は多対一を想定した
トレーニングでいきましょう」
羽柴くんがそう言うと、
運動場全体の温度が一気に下がるのを感じる。
冷気が辺りを包み、5体の氷で出来た彫像が姿を表す。
「俺の能力を見んの倉橋さんは初めてでしたよね?
ルールは簡単、俺が作った
こいつらの攻撃を掻い潜って
本体に攻撃を一発いれてみてください」
「ちなみに本体役は私ね、
基本的に私は逃げ回ってるけどたまに状況を見て攻撃もしてくるから常に警戒してね」
言って、神宮ちゃんが一定の距離を取る。
二人の顔から笑みが消え、本気の表情に変わる。
それが、スタートの合図だった。
瞬間、彫像達が私目掛けて突っ込んでくる。
「……くっ」
急いでブーストの設定をし、
私は自身に洗脳をかける。
極限まで集中しろ。
肌感覚を極限まで鋭敏にしろ。
体の負担を考えず限界を超えて動け。
体が壊れそうなときと自壊したときは耳鳴りで報せて
体の限界を超えて動く洗脳を取り消せ。
体が自壊する際の痛覚を遮断しろ。
体が自壊した場合、自壊した
部位の回復を優先しろ。
自壊した部位が回復したら
体の限界を超えて動く洗脳を再開しろ。
かけた洗脳は7つ、これでどうなるか……!
「はぁ!」
私は向かってきた彫像のうちの一体を殴る。
ガキィン!
衝撃を加えられはじけとんだ
彫像は、他の二体の彫像を巻き込み
粉々になった。
「――っ!」
「……へぇ、あれを壊せるようになったのか」
二人が驚きの表情で私を見る。だが……!
「~~~~っ!?」
私の右腕に激痛が走る。
私の右腕は、ガチガチに凍りついていたのだ。
「それ壊せたのはすごいけど、俺言いましたよね?
避けろって」
なるほど、こうなっちゃうわけね……!
でも、激痛が走るってことは
少なくとも自壊はしてないわけだ。
全力で殴らなくてもある程度は
火力が出せることもわかった。
耳鳴りもまだ来てない、まだ
どこも限界は来ていない。
考えているうちに
残った二体の彫像が私に迫る、
その彫像達を私は――――。
凍った右腕で殴りつけ、
右腕ごと彫像達を粉砕した。
「「……え゛っ!!」」
「なに驚いてるのよ?こんな
使い物にならない腕なんて邪魔でしょ?」
凍ったままの右腕なんて
再生の邪魔になるじゃない、
とっとと自壊させたほうがいいわ。
そして耳鳴りが鳴る。
限界を超えて動く洗脳が解けた、これで腕が再生するまでは普通の状態で動かなきゃいけなくなった。
……だけど、負ける気はしていない。
だって今ので彫像達は全滅したんだから!
私は神宮ちゃんを追いかけ始めた。
「くっそ……!」
神宮ちゃんが逃げる。
……うーん、やっぱり今の状態じゃ追い付くのは難しいわね。
素の能力の低さを痛感するわ。
神宮ちゃんもたまに「あれっ?」みたいな顔でこちらを振り返ってくるし……!
やっぱ遅いよね私。
腕、早く再生しないかなぁ。
そんなことを考えていると
神宮ちゃんがこちらに振り返る。
「こっちからも攻撃させてもらうから、覚悟しててよ!」
そう言って彼女は、空中に拳打を放った。
刹那、私の本能が死が迫って
来ていることを知らせる。
風圧が、迫る。
ヤバい、これさっき私が気絶させられたやつだ!
そう思うよりも速く、私は本能で動く。
ブースト!
体の限界を超えて死ぬ気で攻撃を回避しろっ!
死んでもあの攻撃を食らうなっ!
ビキビキッ。
体が軋む音がする、でもかまわない。
避けることに全神経を使え!
私は彼女の攻撃の範囲から全力で抜け出し、そのままの勢いで彼女に突っ込む。
「え゛っ!?ちょっ、いきなり速くなっ――――!!」
――ズダンッ!
私は、神宮ちゃんの体に全力のタックルを浴びせた。
「一発、入れさせてもらったわっ!」
「あ゛っーーー!もうっ!!負けちゃったじゃん!!羽柴が
もっとあのゴーレム達強くしとかないからだぁーーー!!!」
神宮ちゃんの絶叫が、辺りに響いた。
28
「私の洗脳、やっぱり強力ね」
あれから二人に色々手伝って
もらって気がついたことがある。
まず、私の洗脳は私が解かない限り効果が永続する。
重ねがけの上限も特に存在しないみたい。
そして二つ以上の矛盾した
洗脳をかけた場合は、
より強く念じた洗脳のほうが優先される。
ブーストのデメリットである
痛みも自壊という限界も疲れも洗脳である程度無視出来る。
私、自分の能力をまだまだ全然知らなかったんだな。
「……倉橋さん、俺達もうそろそろ行っていいかな?」
「さすがに疲れた……!」
神宮ちゃんと羽柴くんが
グロッキー状態になっている。
……まぁ、無理もないかな。
「……ぐちゃぐちゃになった体のまま何度倒しても立ち上がってくんのマジでホラーだからもうやめてね?……夢に出る」
「あんた昨日まで一般人だったとか絶対嘘だろ……?覚悟が決まりすぎててドン引きだわ、
てか怖い。ストップかけても
平気とか言って動きだすしさ、俺達いま頭にきてるのわかりますか?」
「ご、ごめんね二人ともっ!
一回ちゃんと自分の限界を知っておきたかったのよっ……!」
今の私は痛みも疲れも感じなくなっている。
体が壊れないようセーブをしてブーストをすれば結構長時間
動けることが判明したから、
次は逆に全く制限を
設けずに全力でブーストをかけてみたのだ。
その結果、二人を完全に怒らせてしまった。
「1つ忠告しておく、そんな戦いかたしてたらいつか死ぬから。そのブーストマジでヤバイよ?
自壊して体が悲鳴をあげてるのに無視して動くとか正気じゃない」
「使うな、なんて綺麗事は言えねぇけどもっと自分を大事に
してほしい。朝倉だって悲しむ」
「えぇ、肝に命じておくわ」
……本当にごめんね二人とも、
ちょっとやりすぎちゃったわ。
「倉橋さん、超人の再生力だって無限じゃないんだ。……今まだブーストかかってる?」
「えぇ、まだかけてるわ」
「解いてみて、体にどれだけ
負荷がかかってるか身をもって
知れるはずだから」
神宮ちゃんに促され、私は洗脳を解く。
するとーーーー。
「~~~~~~っ!?」
激痛が走るのは予想どうり、
倒れこむのも予想どうり、
体がぴくりとも動かないのも
予想どうり。
ただ1つ予想外だったのは、
とてつもない飢餓感に襲われたことだった。
「……やっぱり。身体中のエネルギーを使い果たしてるんだよ、あんだけ傷を負って血を流して破壊と再生を繰り返してたら
そりゃこうなるよ。はっきり言うよ、今あんたは死にかけてる。限界なんてとっくに越えちゃってるんだよ」
嘘……、私いまそんなひどい状態なの……?
「倉橋さん、今のそれが俺達
超人の限界だってサインだ。
その状態だとまともに再生力が機能しない。このままなにもしなければ緩やかに死んでいく」
「ど、どうすればいいの…… ?」
私は二人に問いかける。
「答えは簡単だよ、食べて寝ろ」
言いながら、神宮ちゃんが
私の口にプロテインバーを突っ込む。私は死にもの狂いでそれを咀嚼した。
「……はぁ、はぁ」
「少しは落ち着いた?じゃあ
私達は行くから、後は彼氏さんによろしくしてもらって」
「めちゃくちゃ怒ってるから
覚悟しておいたほうがいいよ。すげぇ顔してるぜ」
「えっ……?」
なけなしの体力を振り絞り、
私は近づいてくる足音の主を探る。
足音の主はーーーー。
「お前は馬鹿なのか……?」
やっぱり朝倉だった。
倒れこむ私を抱きかかえ、彼は
私の口に液体を流し込む。
この味は、栄養ドリンクかな?
私がドリンクを飲み干したことを確認すると、朝倉は私を抱きかかえたまま歩きだす。
「すぐに処置をする。そのあと説教してやるから覚悟しろ」
言いながら、彼は近くの部屋に私を連れ込んだ。
「ここは……?」
「Under takerの寮だ、今日お前が使えるよう申請をとっておいた。とりあえずそこで寝てろ」
言って、彼は私をベッドに寝かせる。
「急いでなにか作る、待ってろ」
「……ごめんね、朝倉」
「お前から眼を離した俺も悪い。今は喋るな、体力を温存しとけ」
彼は言いながら、テキパキと
料理を始めた。
何分くらい経ったんだろうか、
しばらくすると美味しそうな
匂いが鼻腔をくすぐりだす。
……空腹感が加速した。
「よし、出来た」
そう言って彼が用意してくれたのは、卵粥だった。
「口を開けろ、食わしてやる」
言われるがまま、私は口を開ける。
……なんか、照れちゃうな。
パクりと、朝倉の作ってくれたお粥を口にする。
「……っ!」
自然と、涙が溢れだした。
「あまりがっついて食べるなよ?たくさん作ってある、ゆっくり食べて体を休めろ」
私はゆっくりと、彼の言葉に対して頷いた。
29
「……ねぇ朝倉、もういいかな……?」
「ダメだ」
朝倉の看病のおかげで体力が
回復し、命の危機を脱した私。
そんな私は今、彼に抱き締められていた。
「そろそろ離して、ね?お願い」
「ダメだ、却下だ」
「……ねぇ!この状態じゃなんも出来ないんだってばっ!」
「これはおしおきだ、お前にはまだまだずっっっとこのままでいてもらう!俺の気がすむまで俺から離れるなっ!」
「恥ずかしいんだけどっ……!」
もうかれこれ30分くらいこの状態なんだよな私。
「……怒ってるよね?」
「当たり前だっ!体の危険信号全部無視して滅茶苦茶に動き回りやがって!ブーストに耐えれる体を作れとは言ったが使って死ねとは言っていないぞっ!!」
朝倉が声を震わせながら言葉を続ける。
「自分を操り人形みたいにデタラメに動かして俺が喜ぶとでも思ってたのか……?」
「ごめん……」
「どうもお前は頑張りすぎる気がある、今日はもう休め」
そう言うと朝倉は、抱き締める力を少しだけ弱めた。
「でもさ朝倉、これから先命を賭けなきゃならない状況なんていくらでもあるんじゃないかしら?」
「なにを知ったような口を……!
まだ実戦すら経験していないくせに生意気なことを言うな」
「そうね、でも当たってるでしょ?初めて私がブーストを見せた時にもう使うなって言わなかったのがいい証拠よ」
「……っ!」
やっぱり図星じゃん、普段の
あんたなら絶対もうするなって
言うはずだもんね。
全部わかってんだぞあんたの思考なんか……!
それぐらい切羽詰まってんだろ今。
「すまん、あそこで俺がちゃんと止めなかったせいだな……!
だからお前にこんな無茶をさせてしまった……!」
「朝倉、あんたわかってないな本当に」
言いながら、私は朝倉を抱き締め返す。
「私は死ぬつもりで戦うわけじゃない、必ず勝ってあんたのとこに帰るために戦うの。私はね、あんたのとなりに
居るためだったらなんだって
する覚悟があるのよ?まぁ確かに今回はちょっとやりすぎちゃったけどね」
「倉橋……!」
「あんたの惚れた女はね、激ヤバゲロ重女なのよ?ちゃんと私の愛受け取りなさいよ」
言いながら、私は朝倉をベッドに押し倒した。
「……おい、なにするんだお前っ?」
「女の子あんなふうに抱き締めちゃって、なんも起きないと思っちゃってるのかな朝倉くん♪……私だってムラムラしちゃうんだぞぉ?」
私は朝倉に馬乗りになり、彼の胸板を指先でなぞる。
「ややや、やめろっ!なにを考えてるお前っ!早くそこをどけっ!」
「はいはい、うるさいからちょっと黙っててね」
私は洗脳で彼の動きを止める。
そうして静かになった彼の額に、私は口づけを交わした。
「今日はこれで勘弁してあげるわ、次はもっとすごいことしてあげちゃうんだからね」
言って、私は朝倉にかけた洗脳を解く。
朝倉は、放心状態のまま動かなかった。
「お前、俺を不整脈で殺す気か……?」
「それはお互いさまよ、私だってドキドキしてるわ……!」
「あー、はははっ、ははははははっ!!」
朝倉が、突然狂気を含んだ笑い声を発する。
私はそれに驚き、つい朝倉から離れた。
「な、なに?どうしたのよっ?」
「いや、早くお前と結婚したいなと思ってな」
「ーーえっ!」
ーーーーけ、けけけ結婚っ!?
ちょ、ちょっとぉ……!
き、気が早すぎるよぉ……!
自分の顔が真っ赤になっていくのがわかる。
朝倉の顔も、少し赤くなっていた。
「……覚悟しておけよ?色々すごいことするからな?我慢しないからな?」
ーーヤバいっ!
眼が、眼がマジだわっ!
「な、なにする気なのよっ……!この変態っ!」
「結婚してからのお楽しみだ、首を洗ってまっておけ。言っておくがな、俺だって相当に愛が重いんだぞ?それをたっぷり教えてやるよ」
そう言って彼は、不敵に笑った。
私はというと、ドキドキで死にそうになっていた。
30
「準備は出来てるな?」
「えぇ、いつでもいけるわ!」
あれから一週間が経った。
倉橋のトレーニングも一段落
つき、基礎能力の向上が確認出来た。
そしてアルフォンスのパワードスーツも完成し、調整も終わった。
そろそろいい頃だろう。
そう判断した俺は、倉橋と任務に出た。
今日は記念すべき倉橋の初陣だ。
「ここがそうなの?」
「あぁ、間違いない」
広島県某所、海上に浮かぶ
巨大施設。
とあるテロ集団の兵器が、この場所で作られている。
俺達の今回の任務はその兵器の回収とテロ集団の殲滅だ。
「テロ集団の兵器がこんなところで作られてるなんて信じられないわ」
「ふん、そう珍しいことじゃないさ。今は全国各地、世界各地どこも治安が終わっているからな」
だが、ここまで大規模となると
生半可な団体の資産でやれる範囲ではない。
間違いなくどこかから莫大な
支援を受けているな。
政治家か、あるいは国か。
……まったく面倒だ。
「夜のうちに済ませたい、手早くやるぞ」
言って俺は、施設の扉を切り刻む。
そうやって施設に入るや否や、俺は警備の人間達を一瞬で気絶させた。
「ーー!」
一言も発する暇もなく倒れこむ
警備達、ついでに両手足の間接も外しておく。
これでこいつらはもうなにも
出来なくなった。
「……相変わらず速いわね、眼で追うのがやっとよ」
「今のが眼で追えたのか?やるじゃないか、進歩しているよ」
言いながら、俺達は歩きだす。
「倉橋、わかっていると思うが今回の任務はテストでもある。俺は監督はするが極力手は出さんからな?」
「わかっているわよ、あなたは高みの見物でもしてるといいわ」
笑いながら彼女が言う。
やる気はばっちりみたいだな、
今日はお前の勇姿をしっかりと
瞳に刻み込ませてもらうとするよ。
適当に歩き、目につく人間を制圧及び洗脳で無力化する。
洗脳した人間に兵器のありかへ案内させる。
そうしてたどり着いた先の
無機質で巨大な扉を俺は切り裂いて中に入る。
間髪いれず中で作業をしていた人間達を倉橋が洗脳で制圧する。
なんとも簡単な任務だ、順調過ぎてあくびが出てくる。
「さて、これが例の兵器かな?」
俺は工場内にある鉄のかたまり達に眼をやる。
それは、人が搭乗するタイプの
人型のロボットだった。
大きさは大体3、4メートルといったところか。
「災害救助や土木建築で使われているタイプの人型重機を改造したものか、ゴツいのがついてるな」
「まさかこれ使って暴れようとしてたの?」
信じられないといった顔で彼女が言葉を発する。
……見たところ強化金属が使われているな。
Pax、お前らまさか……!
「倉橋、Paxに裏切り者がいるかもしれない」
「え゛っ!?Paxって私達のいるとこじゃないっ!!そこに
裏切り者がいるのっ!?」
「まだ疑惑だ、確定ではない」
強化金属はPax独自の製法で作られている。
それがここにあるということは、考えられる線は2つある。
1つ、製法がどこかから漏
れた。
2つ、裏切り。
そういえば
倉橋がピグマリオン達に
拐われた時にこいつの手足を
拘束していた枷も強化金属だったな。
ピグマリオンほどの技術力で
あれば強化金属などわけなく
作れると思っていたが、まさかあれもそうだったのか?
……ふざけてやがるな。
自分の中に凄まじい怒りが生まれるのを感じる。
落ち着け、まだ疑惑だ。
「とにかくこいつらを回収するぞ、司令部に繋げ。輸送機を手配するんだ」
言うと、彼女は通信機で会話をしだす。
しばらくして会話が終わり、通信が切断された。
「1時間ほど待ってくれって言ってたわ」
「ふむ、まだ時間があるな。もっと色々見て回ろう」
言って、俺達が工場を後にしようとした時だった。
「「ーーっ!」」
突然こちらに向かってとても
小さい何かが投げ込まれた。
それを俺達は察知し、その場を飛び去る。
直後、その何かが爆発し周囲に衝撃が広がった。
(今のは爆弾か……?)
そんなことを思っていると
女の声が聞こえた。
「避けたのか、やるじゃない」
爆風の中から女が姿を表す。
遅れて、女の後ろからハゲ頭の大男が姿を表した。
ふむ、見たところ超人だな。
そこそこ強そうだ。
「ずいぶん乱暴なご挨拶だな、
お前ら義務教育は受けたのか?」
「人の敷地を踏み荒らしといて言うことはそれぇ?常識を疑うわね」
「……!」
女とハゲ頭がこちらを睨む。
中々いい殺気だ、少し遊んで
やりたい気分になるが今回俺は
手を出さない約束だ。
任せたぞ、倉橋。
「倉橋、わかってるな?テスト開始だ」
「了解っ!」
意気揚々と、彼女が前に出る。
俺はというと彼女の洗脳を受けた作業員のうちの一人を座布団のかわりにして腰を下ろした。
「もしかして一人で戦う気?」
「あなた達程度私一人で充分よ」
倉橋のその言葉に、女と男は強い不快感を露にし襲いかかる。
「……舐めやがって!」
言いながら女が腰に着けた
ポーチから何かを取り出し投げつける。
……あれは、ビスケットか?
倉橋も正体に気づいたらしく
驚いた顔をしている。
そして、爆発するビスケット。
だがその爆発も爆風も倉橋を
捉える事はなかった。
「……俺をわすれるな」
爆発するビスケットの猛攻を
躱し続ける倉橋の背後に男が
回り込む。
そして彼女にその太い腕を叩きつける。
グシャリ。
そんな鈍い音がして、
男の顔が痛みと恐怖に色づく。
「ーーっ?!」
「あれ?思ってたより力が出てたわ、ごめんね」
振り下ろされた男の腕は、倉橋によって逆に吹っ飛ばされていた。
「ふん、やるじゃないか」
今のはブーストだ。
ブーストを使って男の攻撃に合わせてカウンターの拳を叩き込んだんだ。
結果、男は腕を無くし倉橋の腕は自壊すらしていない。
トレーニングの成果がちゃんと出ている。
「……なっ?」
男がやられ、驚愕の表情を女は見せる。
その隙を彼女は見逃さなかった。
一瞬で女に近づき、顎に掌底を浴びせる。
女はそのまま天に舞った。
「……このアマぁ!」
腕を再生させた男が倉橋に襲いかかる。先ほどと同じように
打ち込まれる拳、それを再び
倉橋が破壊しようとカウンターを浴びせる。
……が、次に腕を破壊されたのは倉橋の方だった。
「……ん?」
意外そうな顔をする倉橋、だがその表情はすぐに元に戻る。
「なるほど、さっきの本気じゃなかったんだ?」
彼女が言い終わるや否や、
男は勝ち誇った顔で言葉を発する。
「そうだ!さっきのは手加減してやっていたんだ!俺の能力は硬化だ!もうお前の攻撃なんて効かねぇぞっ!」
男はもう一度倉橋に向けて拳を放つ。
倉橋が最小限の動きでそれを躱す、大きな衝撃がして地面に
クレーターが出来上がった。
ふむ、あの男は見た目どうり
パワーが強いな。
今の倉橋では普通のブーストじゃ力で競り勝つのは難しそうだ。
……というか倉橋よ、さっきから思ってたがそのスカート丈が少し短いんじゃないか?
下着が見えてしまいそうでドキドキするぞっ……!
「うーん、もう少し頼らないでいけると思ったんだけどなぁ。仕方ないか」
彼女はそう呟き、続けて相棒の名前を叫んだ。
「スマッシュキャット起動!(エンゲージ)」
その叫びに応え、
スマッシュキャットが起動する。
彼女の腰に付けられた箱状の 機械、普段は折り畳まれ
コンパクトにまとまっている
それらが彼女の四肢に、背に、頭に装着される。
「なんだそれは?」
男の顔が困惑の色を見せる。
「私の相棒よ、かわいいでしょ?」
うん、お前はいつだってかわいいぞ倉橋。
そのスマッシュキャットも猫のコスプレみたいでかわいい。
アルフォンス、お前いい仕事をしたぞ。
「そんなおもちゃで何が変わるってんだぁ!」
猛烈な殺気を放ちながら
男は攻撃を加える。
おそらくは全力の一撃だ、
この一撃で彼女を殺すつもりなのだろう。
だが、その程度じゃこいつには勝てないよ。
天と地がひっくり返ってもな。
「スマッシュキャット、モードシザーハンズ」
彼女が、終わりの言葉を発する。
「ーーっ!?」
そして、男の体から四肢が切り裂かれる。
遅れてボトリという音が聞こえ
男が床に落ちる。
スマッシュキャットの五指部分から飛び出した刃が、男の体液で赤く染まっていた。
「……うわー、切れ味えっぐいわこれ。バラバラじゃない」
「バカな、硬化した俺の体がこうも容易く切られるなんてっ……!」
うん、いい太刀筋だ。
教えたことを着実に覚えてくれて嬉しいぞ倉橋。
「朝倉、この人もう戦闘不能ってことでいいわよね?」
「あぁ、適当に洗脳をかけて
もう歯向かえないようにしてやれ」
言いながら俺は新しい座布団の上に座る、
こいつらとは少し話がしたいからな。
「お前座り心地が悪いな、固い」
「ふざけんじゃねぇこのガキっ!」
芋虫がじたばたともがきながら吠える。
そんな芋虫に、俺は問いかける。
「お前らはなぜこんなテロ集団に与してる?思想でも合うのか?」
「俺達は用心棒として金で雇われてるだけだっ!」
ふむ、至極単純な答えだな。
納得した。
「用心棒ねぇ、そのわりには弱いな。女一人にここまでいいようにされて恥ずかしくないのか?」
まぁ、俺の自慢の倉橋相手じゃ無理もないがな。
ははははっ。
「お前なにか勘違いしてねぇか?俺達はまだ負けてねぇぜ」
男が言うと、前方から爆発音が聞こえた。
ほう、あの女もう意識が戻ったのか。
案外タフだな。
「……そいつから離れろっ!」
激昂した女が俺に向かって吠え、猛スピードで迫る。
……先ほどよりも随分と速い、
まるで倉橋のブーストのようだ。
なんだあの能力は?
物体を爆発物にする能力じゃなかったのか?
「倉橋、油断するなよ」
「えぇ!わかってる!」
激昂する女を、倉橋が相手取る。
高速で移動し、爆発するビスケットを投げる女。
そしてそれを避けシザーハンズで切り裂く機会を伺う倉橋。
素早さでは今倉橋がやや負けているな。
スマッシュキャットを使った
倉橋にスピードで勝つとは中々やるじゃないか。
「おい、あの女の能力を教えろ」
「答えるわけねぇだろバカかっ!」
「まぁそう言うな、取引といこうじゃないか」
その言葉に、男は興味を示したようだった。
「お前らここにいる人間達を見たか?全員生きていただろう?俺達は殺すつもりで来たわけじゃないんだ。そのつもりならとっくにそうしてる」
俺は言葉を続ける。
「お前達も殺す気はない。
命の保証をしてやるから、答えろ」
「……っ!」
男は少しだけ考えるそぶりをし、俺に言葉を返す。
「……確かにお前らに勝てる気が
微塵もわかねぇ。
あいつだけでも見逃して
もらえるんならこんなにありがてぇ話もない、喜んでうけさせてもらいたい」
「懸命な判断だ」
俺はそう言って笑うと、座布団代わりにしていた男から立ち上がる。
そして男の散らばった手足を集め、男の元に戻る。
そして、切り裂かれた箇所に
散らばった手足を押し当てた。
「なにしてるんだ?」
「わからんか?治療だよ、
このまま手足が生えてくるのを待っていたんじゃ時間がかかるからな。欠損部位が残ってるんならこうしたほうが再生が早い」
「……そりゃどうも」
男は苦笑しながら、俺の治療を受けた。
そうこうしている間に
倉橋達の戦いにも進展があった。
「あんたさっきから食べ物を
無駄にして腹立つわ!
ビスケットに謝りなさいよ!」
「ちゃんと理由があるんだよ!見てろっ!」
言って、女は例の爆発するビスケットを口に頬張る。
「あれはなんだ?」
俺は男に問いかける。
男はにやりと笑うと、言葉を返す。
「あれがあいつの能力の真骨頂さ、見てりゃわかる」
言うや否や、女の様子が一変する。
女のスピードが、パワーが、
更に上がったのだ。
(食べることで身体能力が向上しただと……?)
さっきのスピードもこれを使ったからか。
これは厄介だな。
「……ちょ、な、なによっ!」
縦横無尽に飛び、走り回る女。
倉橋はその動きに翻弄される。
「あの能力はなんなんだ?」
俺に男に目線をやり問いかける。すると男は俺にこう答えた。
「あいつの能力は手に触れた
物体に自身の生命力を分け与える能力だ、そうして分け与えた生命力はあいつの意思で好きな時に破壊のエネルギーに変換することが出来るのさ」
なるほど……!
あの女、あらかじめ自分の
生命力をビスケットに与え
それを大量に所持し爆弾として
使っていたんだな。
そして追い詰められた際には
そのビスケットを摂取することで生命力を回収し、自身の身体能力を向上させれるというわけか。
面白い能力じゃないか。
「なぁ、そろそろストップをかけたほうがいいんじゃねぇか?あいつまだお前らが敵だと
思ってるからあの嬢ちゃんヤバイぞ?」
「はは、面白い冗談を言うな」
倉橋を舐めるんじゃないこの
クソハゲがっ!
「あの程度は敵じゃない、黙って見ていろ」
ビスケットの爆風が晴れる、
倉橋はまだ立っている。
俺の大好きな覚悟を決めた眼をしたまま。
「あー、まどろっこしいわっ!朝倉っ!もう私あれ使うからっ!」
言って、彼女の雰囲気が変わる。
周囲の空気が震えるの感じた。
「オーバーブースト……!」
短くそう呟き、一瞬だけ彼女の動きが眼で追えなくなる。
ーーそして。
上空を飛ぶ女の体が、倉橋に
よって地面に叩きつけられた。
衝撃でクレーターを作りながら、女は潰れたトマトみたいにグチャっとなっていた。
「ーーヤバいっ!もしかして殺しちゃったっ!?」
……あー、うん。
よかったな倉橋、そいつが生命力を高められる能力持ってて、
じゃなきゃこれは死んでたかも知れん……!
「鶴っ!!」
男が泣き叫びながら女に走り寄る。
……すまん、本当にすまん。
俺こそ倉橋を止めるべきだった……。