少女と怪物が戦う世界で三十代教師が戦い続ける話   作:かの おずの

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TS要素消しました。詳しくは活動報告にて。
理由なくガサツなだけの禅苑先生をよろしくお願いします。


16話 光の少女たち、闇の大人たち

 

「禅苑先生って結婚してたんですか!」

 

「いや、先生にお相手はいなかったはず。生まれてこの方交際経験は無いって会報に。ま、ま、まさか、シングルマザー‼︎相手、相手はどこです、こ、ここ殺す!ぶち殺す!」

 

「落ち着け斧野!おい、誰か一緒に止めろ!姉御の親戚かもしれねぇだろ!獅子神も固まってねえで手を貸せ!」

 

 とりあえず説明の為に斧野小隊の隊室を借りる事にした。一番近かったから。当然中にいて鉢合わせた三人はパニックだ。あーあ、なんで?もうまとめて事情を説明する。

 

 みんな同情したような目で愛衣ちゃんを見ている。詳しい内容は飲み込めないが、なにやら酷い目にあって上手く喋れないことは分かったらしい。

 

「はあ、クローン。先生、その、草堂愛衣ちゃんに話していいか聞きました?結構デリケートな問題ですよ」

 

 全く許可とってない。

 

 振り返ると、状況が飲み込めていないようで、瞬きを繰り返す愛衣。

 

 目線を合わせて、

 

「えっと、私はここで先生をやっているんだ。この部屋にいるのは教え子で、信用できる人たちなんだよ。君の助けになってくれると思う」

 

 ええい、斧野小隊の人にも許可取ってないけど、もう巻き込んでしまおう。私が仕事中の時、学生同士で助け合わなければならない時もあるだろう。

 

 後ろをチラッと見る。

 

「先生、私たち斧野小隊に任せてください。先生だけでなく、愛衣ちゃんの信頼を裏切るような真似はしないと約束します。だから、わたしたちで草堂愛衣ちゃんを支えます」

 

 斧野ちゃん!加州ちゃんも、みんなも頷いている。

 

「やっぱり先生、少しは計画的に動いた方がいいのでは?草堂愛衣さんが可哀想です」

 

 やっぱり桜井ちゃんは冷静ね...

 

 

 アホの学園長に連絡して、しばらく私の仕事は緊急性の高いもの以外抑えた。

 

 あと私の部屋に生活用品と学生用のあれこれを運んでおくように指示。医療班ともすぐ連携が取れるように。

 

 「人使いが荒いな」という一言に私、激怒。お前が言うなや!普段こちとら残業し通しで、アラートが鳴ったら問答無用で出撃なんじゃい!

 

 頭に来たのでしばらく罵声を浴びせてしまった。

 

「禅苑先生、あんな感じで子供っぽい所があるんだけど、本人は隠してるつもりなんだよ。かわいいよね。だから、緊張せずにどんどんお願いするといいよ」

 

「姉御はカッコつけたがるから、欲しいものがあったら言うといいぜ。多分奢ってくれる」

 

「くろーん?だから、せんせにそっくりだけど、若かったせんせってこんなカワイイってこと?なんてゆーか庇護欲くすぐられっぱなし?いや、愛衣ちゃんだからだよね。せんせだったら、元気いっぱいで走り回ってそー」

 

「愛衣ちゃん。これ、お菓子たべよ?美味しいよ。ジュースはここに入ってるから、好きに取ってね。ここを自分の部屋だと思って良いからね」

 

「ちょっとみんな、草堂さん困惑してるでしょう。もっとゆっくり距離を詰めてあげなさい」

 

 おそるおそるお菓子とジュースに手をつける草堂愛衣。小動物じみた所作にときめく斧野小隊。

 

「ふふ、可愛いですね。そのうち一緒に『芝犬なでなで』できるといいですね。先生も電話、その辺にしたらどうですか?」

 

 クールダウンして、通信を切り一息つく。愛衣ちゃんは心なしか周りと打ち解けている。若干強引な優しさが功を奏したか。おやつを食べている様子を見て、少し安心した。

 

 それぞれ自己紹介を済ませたらしく、姦しい交流が始まっている。

 

「いでよ![忠犬八光]省エネ版!大人しいので触ってみます?」

 

 普通サイズの芝犬が出てきた。そんな小技をいつの間に...

 

「いきなりは難しいんじゃないですか?」

 

「これ、飾ってあったわたしのテディベア!芝犬よりもふもふ!これ持っていって!一緒に寝ると落ち着くよ!」

 

「距離の詰め方が強引すぎるって獅子神!桜井が言ってただろ。ゆっくり教えてあげるんだよ!」

 

 そのうち慣れそうだ。優しい人に囲まれると、雪解けせざるを得ないのが人の心だからね。

 

 禅苑愛佳の部屋への物資搬入が完了するまで、可愛がられる愛衣だった。

 

 

 翌日の全校集会で、とっとと転入生の名前とダミーの境遇を先に伝えておく。その後一緒に登壇してみた。精神的外傷で声が出ない設定にしておいた。

 

 なぜか二人並んでいる所が見られただけで、凄まじい悲鳴が飛んだが、わからん。愛衣も私もビックリしていた。

 

 

 先に関係を伝えてもこの悲鳴か。しばらくはてんやわんやだった。その後の、舞浜学園長のありがたいお話も全てかき消される喧騒だった。誰も聞いてなかったのは笑った。

 

 それからは廊下ですれ違うたびに視線を向けられ、挨拶され、飴を渡される愛衣。優しいけど押しが強いのがこの学園だ。徐々に慣れていってくれ。

 

 愛衣はしばらく医務室と私の部屋、時々斧野小隊室を往復して時間を過ごした。染色体異常やテロメアの修復がどうの、ということで治療を受けながら生活している。寝る時は私の部屋で寝ている。

 

 さて、二週間経過したんだが、幸い私は緊急出動もなく、愛衣と実質二人暮らしであった。

 

 二週間の内に発覚した問題が、私の料理のレパートリー。せっかくだから手作り料理で親交を深めたかったのだが、男料理しか知らない。袋ラーメン、具なしチャーハン、卵かけご飯である。急いで勉強する羽目になった。

 

 ある時、私が腕を振るってオムライスを作った。卵がボロボロ焦げ焦げ、ライスべちゃべちゃでスクランブルエッグ丼になった。

 

 愛衣は何も言わずに食べたんだが、突然静かに泣き出した。

 

 そんなに不味かったか!と私はオロオロしていたが、そう聞くと何度も首を横に振っていた。そんなに不味くない?ほんと?

 

 なんで泣いたのか確認していくと、どうやら心から安心したらしい。

 

 知識にあるが記憶にない料理ばかり食べてきた彼女が、初めて知識にも記憶にもない料理を食べたのだ。

 

 草堂愛衣はどうやら分かったみたいだ。本当に研究所は消滅して、辛い実験も無くなった。そして脳髄学習のまやかしではない、現実の人生が始まったことを。

 

 それからは少しだけ、少しだけ積極的に行動するようになっていた。

 

 私も少しずつ仕事を戻しながら様子を見ていこうと思う。

 

 

「では、緊急会合を始めます」

 

 盗聴対策が施された議場には、老若男女問わず様々な人間が集まっていた。

 

 人間だけでなく、会議用ライブ通信も繋いでいるらしい。

 

 sound only と書かれた画面から女の声がする。

 

「こちらの画像ファイルをご覧ください」

 

 中央のモニターに映された画像にどよめく議場。そこには数字と文字、二人の人間が写っていた。

 

「なんと言うことだ」

 

「これは事実か、12番」

 

「ええ、どうやら。これは由々しき事態です。他の研究所から移送されたようです。つまり他にも試験体が存在する可能性があります」

 

「まったく、魔力は既存の生物学を凌駕する法則で動いていることが分からんのか。老人どもは」

 

「ますます生き汚いですわね、生命を冒涜してまで行うとは。9番、993番。あなた方、処理は終わりましたの?必要ならわたくしから資金は出します」

 

 ガタイの良い角刈りの壮年が答える。

 

「ええ、無事処理は終わりました。そもそもこの技術自体、無理を押して構築されたものだったようで成功率は限りなくゼロです。関係研究所は全て破壊。データは全て破棄。技術ごと葬りました」

 

 髪を撫で付けた爽やかな青年が発言する。

 

「こちらも派閥整理が完了しました。もう切り捨てても問題ありません。暫くしたら一人ずつ表舞台から退場していただきます。政権に影響を与えることもありません。口座や不動産を抑えましたので、9番に情報共有します」

 

「おや、993番さん、珍しいですね。ありがたく頂きます」

 

「それで、現在はどこにいるのか。12番!まさか貴様が!」

 

「いえ、学園で保護はしていますが、私の元にはいません。オリジナルに保護させました」

 

「なんと!」

 

「あのお方に合わせたの⁈」

 

「なんたることだ...」

 

「きっとショックを受けたでしょうね、お可哀想」

 

 議場の皆も驚いており、ざわめきが広まる。

 

「さて、皆様にご協力願いたい。我々の女神は試験体に名前をつけました。自分の名前と母親の苗字、そしてもう一文字を与えて。自らの親戚として扱いたいというのが望みだそうです」

 

「なんて慈悲に溢れた...」

 

「更なる苦難の道を歩こうと言うのか。吾輩の財産を全て譲ってもかまわん!彼女に最大限の援助を!」

 

「私もおなじく」

 

「わたしもだ!是非支援を!」

 

「皆様、お気持ちは分かりますが落ち着いて下さい。彼女たちに必要なのは心の平穏と傷を癒す時間です。周りが波立てるのは感心しません。ただ平穏をこそ与えるべきなのです」

 

 議場が静まり返る

 

「私からも、12番さんと同様の意見です。あくまで様子見に止めるべきかと。制圧時に見ましたが、実験内容は実に恐ろしいものでした。時間をかけて心の傷を癒す必要があるでしょう。そこで、所感を実際に接したメンバーに聞いてみませんか?」

 

「は、発言します。7253番です。時々おやつを一緒に食べたりする仲ですが、彼女はまだ他人を信頼できる状態ではありません」

 

「そうか、境遇から言っても仕方ないな」

 

「ですが、少しずつ心を開いているような気がします。先生と暮らしてから二人の距離感が変わっているのは確かです。この間は、見知らぬ生徒とすれ違う時、先生の裾をギュッと握って...」

 

「な、なるほど。ところで!その瞬間を撮った写真とかは」

 

「2435番!言葉を慎め!写真に関しては本人が他人に公開しても良いと言ったものだけだ!」

 

「そうだ!恥を知れ!」

 

「ルールを破ることは許されないわ!」

 

 議場が揺れる。2435番と言われた中年男性は頭を何度も下げている。

 

「えっと、『他の人に見せても良いですか?』と聞いて許可をとった写真がいくつかあります」

 

「でかした!7253番!」

 

「やはり現役の方はいいですね。生徒の立場から直接言質を取れる」

 

(まあ禅苑先生もファンクラブの会報に使われるとは思ってないだろうけども。恥を知れ、と言ってたけど、ここにいるの恥ずかしくないのかな)

 

 ここは希望の魔装少女ファンクラブ、緊急議題会議場である。

 

 権力や財産を持った者や、重要な役職に就いた者も在籍する禅苑愛佳ファンクラブ。時に国家の舵取りすら行われる。

 

 本人に内緒でやっているストーカー集団だが、それぞれ放っておくと暴走するので相互に監視させて迷惑を防止する側面もある。

 

 今回は緊急会合なので、主要メンバーと学園長に無理やり連れてこられた斧野瑞稀こと、7253番のみ参加している。

 ちなみに、ここでの報告前に草堂愛衣を見て誤解したやつは必ず暴走する。

 

 そのため釘を刺すのが今議題の目的である。

 

 ファンクラブ番号12番こと、学園長 舞浜晶は面倒だとため息をついた。

 

 

 

 

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