少女と怪物が戦う世界で三十代教師が戦い続ける話   作:かの おずの

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21話 最強のうちの二人

 

 西先生が口を開く。

 

「禅苑先生、マスターに裏付けを取ってもらったんですが、軍の中で再侵攻に踏み切ろうとするという急進派の楽観論が」

 

 私の持ってたグラスにひびが入る、割れなくてよかった。いっけね、握りすぎちゃった。

 

「まあ落ち着きなよ、愛佳ちゃん。どうにも人が減りすぎたみたいでね。臆病者が生き残りすぎちゃった。主戦場を遠くに持って行きたいんだろうね。現行の安全圏の確立より、管理できない戦線の拡大に踏み切りたいらしい」

 

 呑気なことだ。現行の安全圏ですら、突発的な怪物の襲来で削られ続ける一方では無いか。

 そんな中で再侵攻に出せる人的余力などあるわけがない。

 

「彼らのあては、新兵器かな。人じゃなくてモノだよ。魔力工学の発展がめざましいから、魔装少女に頼らない兵器の開発に成功したと思っている」

 

 何回目だよ。期待の新兵器。

 

「それと、ここ数年で警戒体勢の拡充に成功したのも一因かな。怪物の捕捉、追跡、撃破がスムーズにルーチンワーク化されただろ?それで上は味を占めたらしい」

 

「まだ早いと学園から声明は出しているのですが。いまいち効果がないですね。どうも急進派が強引らしく...」

 

 かつて何度も計画された大規模反抗作戦。大きな被害を出しながら実行に移されたそれは、微々たる戦果を人類にもたらしていた。

 

「禅苑先生...」

 

...友達の故郷が奪還作戦の対象区域でさ、珍しく張り切ってたんだ。

 

 ピーナツをかじる。

 

 あと一歩のところで撤退することになって、引き際を間違えてたんだろうな。

 疲労と怪我で足がもつれて怪物に喰われて死んだ。暗い森の中で、私の目の前で。

 

「その話は俺も知っているよ。たしか最後の奪還作戦の話だね。あれからもう何年も大規模作戦は行われていない」

 

「たしかそれから禅苑先生は方針を変えたとか」

 

 私は戦うことしか出来ない。彼女の撤退に間に合わなかった過失があった。訓練でもっと色々教えてあげればよかった。出撃前に声をかけてあげれば良かった。

 

 酒を飲み干す。

 

 でも本当は、あの時本部が撤退の指示を早く出せれば、あの娘は助かったんじゃないのか、と

 

 マスターが声をかける。

 

「軍もバカではない。当時の責任者は更迭させた。反抗作戦の無茶は分かっている人も多い。信じてくれないか、君を助けようとする人たちを」

 

 西先生も私を心配している。

 

「私も貴方を支えます。幾つか手を打ってあります。こちらからも出来る事はやりました。余り気を落とさないでください」

 

 

 急進派の富士基地奪還計画は失敗に終わった。

 

 指令発令直前に司令部からの横槍と前線基地指揮所の制圧により独断専行の行動、そのほとんどは失敗に終わる。

 

 しかし、潜り抜けた一部が問題だった。持ち出して運用した新兵器。その兵器は怪物のエネルギーに着目した兵器であった。

 

 怪物のコアに相当する部位を中心に作られた自走砲で、小型の怪物なら魔力のない軍人でも殺せた。

 

 しかし、エネルギーが怪物のものと同種となれば、つまり怪物からすればエサに他ならない。

 

 怪物はそこに殺到することになる。

 

 富士中腹にある観測所では、富士五湖から溢れ出る異常な怪物反応を探知していた。

 

 富士山を背に魔装少女と怪物の大群との戦いが始まる。

 

 

 アラートが鳴る。

 

 端末に情報が浮かぶ。一級危険度を超えた緊急危険度の事案。場所は富士山あたりか。

 

 今の話と関係しているのかな。

 

「私は昔の伝手をかき集めてみよう。現場は混乱しているだろうから、後方に圧力をかけて混乱を収めさせよう。学園との情報共有も密に行わせる。第一は人命だ」

 

「私は学園ではなく軍と行動を共にします。そうですね、軍OBと学園との連絡役をしましょう。少しでも情報は多い方がいい」

 

 マスターは危険な状況を察して、力になると言ってくれた。西先生は軍とのパイプ役になってくれるらしい。

 

 すると、西先生が私と目線を近づけて、案ずる様に言った。

 

「先生、力まない様に。いつもの泰然とした態度はどうしました。落ち着いて下さい」

 

 それは無理かな。奴らを地獄に叩き落とさなきゃ気が済まない

 

 今日の私は気が立っている。仕事の時間だ。

 

 

 天気が悪くて富士山もよく見えない。薄曇りの空の下、後方指揮所に私は居た。

 

 なんで私は背後の陣地にいるのかなぁー!

 

 出撃したのはいいものの、私の受け持ちは防衛ラインギリギリ。なんで?敵をブチ殺す気満々だったのに。

 

「今回の作戦では貴方の[特殊技能]が邪魔になります。なるべく後ろの方で戦ってください。くれぐれも前線に出ないように」

 

 私のイライラした精神状態を慮ってのことではないらしい。指揮官から純粋に邪魔って言われた。

 

 西先生に大分カッコつけたのに。

 

「今作戦では北と東から最強戦力を移動させ、投入します」

 

 え!北東がら空きじゃん!そっちから攻められたらどうすんの!

 

「そのリスクを考えても、ここで投入するべき。というのが戦略室の決定です」

 

 こりゃ今回やべえな。少し頭も冷えた。

 

 私は最年長の魔装少女であって、最強では無い。

 

 小細工を皆に教授してきた私だが、真の強者とは小細工なぞ不要。

 

 最強のうちの二人が同じ戦場に立とうとしていた。

 

 

 山中湖が一望できる簡易キャンプ。二人の少女が並び立ち、端末から作戦指示を聞いていた。

 

『富士樹海に阻まれ、富士山近郊は敵勢力圏にありました。レーダーや生きている衛星を用いて偵察はおこなっていたのですが。今回怪物の大量発生が確認されました。富士五湖内部から発生しているらしく、事前の攻撃が間に合いませんでした』

 

『軍の急進派とされる一派は、新兵器を持ち出して逃走。その道中怪物と遭遇、戦闘が始まりました。場所が悪く、富士樹海の接近禁止区域に着弾。まもなく今回の大量発生が起きました』

 

「つまり例の急進派はやぶを突いて蛇を出したわけだ。見かけは少ない、楽に奪還できるだろうと」

 

『そうなりますね。ただ、これだけの群れがいたとなると、襲撃自体は行われていたと考えるのが妥当です』

 

「でも作戦を立てる時間はあっただろ?僕たち最強戦力を動かすハメになって、今空いた陣地を攻められたら人類滅亡じゃないか」

 

『相手が組織的な攻撃をしない事を祈るしか...』

 

「今回の急進派さんたちには僕からお灸を据えないとね、人類が滅亡してなければ」

 

「言えてる」

 

『今回は相手をキルポイントに誘導、大規模攻撃で一網打尽にします。戦線に長期間穴を空けられません。お二人には短期間に最大火力を持って戦闘を決定づけていただきます』

 

「言うのは簡単ね」

 

『怪物の生体総量からいって、昼夜を問わない持久戦では勝ち目がありません。相手の最大戦力をこちらの最大戦力で叩き、短期決戦を図ります』

 

「つまり増殖し切った状態で戦いが始まると」

 

『その密度を逆手に取り、初手で大きく数を減らします』

 

 

 例の兵器が湖畔に、無人で並べられていた。戦車の様な見た目だが、ハッチは開き、中には誰もいない。光が漏れている。

 

『起動!』

 

 遠隔から一斉に魔力炉が点火され、兵器が自爆していく。

 

 その音と魔力反応に目掛けて大量の敵が殺到してきた。

 

 富士五湖から湧き出たのは、一言で言えば昆虫人間。硬い外殻と3mを越す体格、頭からは二対の翅が生えていた。

 

 飛行能力もあるらしく、空一面を埋め尽くし殺到する。

 

「僕の出番かな」

 

 ショートヘアーの活発そうな高校生が大太刀を手に目を瞑る。構えは微動だにせず、ただ時を待っていた。

 

『京谷さん。20カウントです。お願いします』

 

 魔力が彼女と大太刀に集中していく。生徒百人の全力よりなお多い、その量に怪物も気付いた。

 

「遅い [獄炎切り]」

 

 彼女の振るった美しい剣閃が、赤く燃え盛り前方へ飛んでいく。

 距離を増すごとに炎は激しくなり、燃える範囲も拡大していく。

 

 空一面の敵は空一面の炎に焼かれ墜落していった。範囲だけでなく火力も凄まじく、硬い外殻ごと消し炭になっていく。

 

煌々と赤く光る空の下で、業火から逃れた怪物たちや、墜落したが生きているものが這いずる。

 また、目の前の山中湖から新たな敵が湧き出でてきた。

 

 「おい、氷野宮出番だよ」

 

 先ほど話していた片割れの生徒は足元を凍らせながら歩みを進める。持ったレイピアで、遠くの敵をなぞる様に指し示すと、氷の礫が飛んでいった。

 

 着弾すると敵が貫かれ、内部から爆散。氷の飛沫をあげたオブジェになっていく。

 

 ある程度倒したところで歩みを止め、目の前の湖に向けて足を踏み込む。

 

 突きを放とうかという態勢で集中し目を閉じた。

 

 青い髪が白く輝く。

 

 魔力が渦を巻き一点に集まる。剣の先に集まり、大気が軋みを上げる。

 

「 [氷結大陸]、発射」

 

 白い光が湖面に放たれる。かなりの広さを誇る山中湖が一面凍りついた。

 

「死ね」

 

 呟き、指を曲げる。水面付近に氷柱が突き立ち、這い出て飛んだばかりの怪物を刺し貫く。湖の中でも同様の現象が起き、怪物たちは急速に数を減らしていった。

 

 

 その後、動員された生徒達が残敵を掃討していく。残敵といってもかなりの数だったが、連携をとりつつ処理していった。

 

 ひと段落ついた頃、京谷と呼ばれた生徒と氷野宮と呼ばれた生徒は大きく息を吐いた。

 

「はあ、今日の僕たちの仕事はこんなものかな。この辺は愛佳先生のナワバリだったよね、挨拶していく?」

 

「嫌よ。私あの人嫌いなの、会わないことにしてる」

 

 心底嫌そうに眉を顰める氷野宮。

 

「またキツイこというなぁ。なんでまた?」

 

「昔話のシンデレラってあるでしょう?私あの話を最後まで読んだことないの。途中で読む気失せちゃって」

 

 目を細めて言った。

 

「私ね、可哀想な人間は嫌いなのよ、見ていられなくって」

 

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