少女と怪物が戦う世界で三十代教師が戦い続ける話   作:かの おずの

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27話 決戦昆虫人間 3

 

 戦いの終わりを感じ取り、駆けつけた私は猛烈に感動していた。

 

 あの斧野小隊がリベンジを果たした。

 

 かつて大型の竜に殺されかけた彼女達が、大型の敵と戦い鍛錬の果てに打ち勝ったのだ。

 

 一度負けると負け癖がつく。

 スポーツみたいな話ではなく、死の間際に追い込まれると、トラウマのようにフラッシュバックを起こすことは珍しくない。

 

 似た状況から負けた時を連想してしまい、身体がうまく動かずキレが悪くなる。そしてまた劣勢に追い込まれるのだ。

 

 今回彼女達はそれを乗り越えた。敵にも勝ち、自らの記憶と心にも勝ったのだ。

 

 手前味噌ながら、私の訓練も一助になれたかな?だったらうれしいな。

 

 学生の彼女達がこんなに頑張ったんだ、私も頑張らないと。

 

「禅苑です。敵ボス個体の討伐を確認しました。司令部、五人の撤退補助を通達してください」

 

「司令部、了解しました。貴方も撤退してください。後詰めは交代要員を送ります」

 

「いや、私は残敵の掃討に移ります。まだやり残した事があるので」

 

「それはどういうこ」

 

 通信を切っちゃった、てへ。

 

 ボス個体を完全討伐したのは斧野小隊だ。チームワークと信頼で、人類の危機を救った。彼女達に花を持たせたい教師心よ。

 

 遠くに斧野小隊が見える。肩を支え合い、体を引きずりながら歩く五人に手を振る。

 

「おーい、おつかれさま!もう戻っていいってさー」

 

 顔をほころばせる五人。一言、教師として言っておこう。

 

「良くあの敵を短時間で倒せましたね。連携技も見事でした。日頃の鍛錬の成果ですよ、自分達を誇っていいと思います」

 

 とにかく褒めちぎる。やさしく丁寧に褒めまくる。調子に乗るタイプじゃないから褒めて伸ばす。

 

 あっ、桜井ちゃんと斧野ちゃんは泣いている。そんなに?まあ、壁を乗り越えた達成感だろう。桜井ちゃんは鍛錬で体を鍛え、作戦立案で頭を使って成長した1ヶ月だっただろうから。

 

「ほら、魔力空でしょ、迎えの部隊が来たから早く戻りなさい。あとの残敵確認は私がやるから」

 

 全員で一礼して走り去って行った。礼儀も正しい、いい子達だ。私が守らねば。

 

 

 あれだけの規模の破壊から生きている怪物などいない。ふつうなら。

 

 今回の敵は防御と自己増殖に特化していた。死に際の悪あがきで自らの命と引き換えに何かを生み出している。謎の確信がある。

 

 巨大な亡骸を前に、警戒体勢で立ちつくす。片足を前に、少し膝を曲げ、両手で片刃剣を握る。半脱力でじっと前を見る。

 

 なんの魔力反応もなく、気配もない。10分ほど待ちぼうけ。突如亡骸に異変が起こる。中心部から爆発、衝撃波がこちらに飛ぶ。

 

 冷静に回避。今度は横薙ぎの斬撃が飛ぶ。風の[特殊技能]のような攻撃だ、遠距離攻撃を学習したか。屈んで紙一重で回避。目は開けたままで風を掻い潜る。相手の姿を捉えた。

 

 大剣を真似たか、トンボの羽を大きくしたような長い刃物を握った昆虫人間が。

 

私と同じ背丈で、赤いラインが全身に走っている昆虫人間。昆虫人間の最終兵器といったところかな?風のオーラが全身を覆っている。気配も今までと違う。

 

 相手がトンボの大剣を振ると風の刃が飛んできた。

 

 なるほど有翅型の飛行能力は、魔力で風を操っていたのか。それを武器にしてしまえと。柔軟な発想じゃねえか。

 

 避けてたら、一瞬で距離を詰められた。トンボ大剣と片刃剣が音を立ててぶつかり合う。

 

 ええい斬りづらい。風を纏って強化してやがる。かまいたちで私の体に切り傷が出来ていく。さらに力が強い。受け止めた私の片刃剣ごとへし折る気だコイツ!

 

 ただ、力比べにおいても私の方が一枚上手。拮抗状態を作り、あえて一瞬脱力。敵の力んだ瞬間に合わせて魔力斬り。トンボ大剣を真っ二つに切った。

が、敵も読んでいたのか、一気に至近距離へ入り込まれた。敵の振りかぶった拳はメリケンサックのような甲殻が付いている。腹をぶん殴られた。トゲトゲが刺さる。

 

 いっってぇ!また腹に小さな穴が空いた。

 

 ラッシュを決めてくる。片刃剣で防御するが、衝撃までは殺せない。フィニッシュブローで吹き飛ばされる。地面とキスするハメに。おえっ。

 

 転がって起き上がる。飛び膝蹴りが頭のあった位置に刺さる。膝から何か生えている。棘みたいな角みたいな突起。殺意が高い。

 

 回し蹴りが来る。後ろに回避、いや、迎撃する。

 

 片刃剣を合わせると風の刃が幾重にも重なりぶつかる。受け止め切れずまたぶっ飛ばされる。まるでサッカーボールだよ。いたい。

 

 にしても、ただの蹴りだと思って回避してたら風の刃で細切れになっていた。あっぶね。

 

 起き上がると二刀流で突っ込んできた。お前普通の刀も持っとったんか。片刃剣を構え直す。

 

 ギリギリ打ち合えた。前より速い!連撃が進むにつれてかわしきれない傷が増えていく。二つの刀を隙なく振り回されると防御しかできない。

 

 フェイントまで入れる始末。ええい厄介な。

 

 くそ、器用なやつめ、こちらから隙を見せるか。適当に片刃剣を一振り。回避した敵は隙だらけの私の頭を狙ってる。タイミングを合わせて片刃剣を手放し、

 

真剣白刃取り!

 

 刀を手前に引き寄せて、膝を支点に刀をへし折る。もう片方の刀が迫るので、のけぞって回避。リンボーダンスみたいだね。楽しくないけど。

 

 片刃剣を拾い上げ、またチャンバラが始まる。掬い上げ、切り下げ、横一文字斬り。相手も私も、使う技が一緒だ。相手も一刀流のほうが練度は高い。

 

 そして相手の方が速い。魔力を風に変換して推進力にしているみたいだ。斧野小隊からもなんか学んでない?学習熱心な虫だ。

 

 打ち合いでも押され、攻撃は躱され。高機動型とでも言うべきか、速いし強い。また地面に転がされた。泥と血の味がする。ぺっ。

 

 こっちの手の内も知られているので、斬撃が適切な技で返される。突いても逸らされ、薙いでも弾かれる。

 

 スペックで負けるなら、後の先を取る。

 

 こちらの構えに反応して突きを放つ相手。私は構えを崩して突きを迎え撃つ。敵の動きを誘導して制限、そこを斬る。

 

 あれ?相手が突きから切り払いに変えた!しまった、先の先を取られた!

 

 相手の狙いにまんまとハマった。私の作戦も相手に誘導されていた。

 

 一瞬の読み合いに負けたわたしは肩口から大きく斬られ、辺りに鮮血が舞った。視界が白くなる。失血性ショックだ。でもまだ死ねない。

 

 虫の口元が自慢げに開いた。

 

 

 いま わたしを わらったな

 

 

 私は片刃剣を投げつける。不意打ち気味に投げたそれは相手の左胸に当たり、甲殻に弾かれる。薄い欠けしか入らない。避ける必要もなかったらしい。

 

 片足で踏ん張る。身体を弓のようにしならせて、飛びかかる。相手の刀の内側へ。振られる刀より速く組み付く。

 

 左手で抜き身の刀身を、右手で敵の左足を掴み、地面へ相手の背中を叩きつけた。

 

 相手の刀を素手で握り込んだ。手が切れて血が流れ出す。相手が暴れる。甲殻についた棘で引っ掻かれ、また傷が増えた。血が流れる。ぶん殴られた。

 

 気にせず殴る。膝で相手の重心を抑え殴る。敵は何故立ち上がれないのか分からないだろう。柔術だ、相手の重心は完璧に抑えた。

 

 力任せに暴れるが、甲殻の鋭い突起が細かい傷を作るだけだ。体勢は変わらない。そのまま殴り続ける。左胸の甲殻は硬く、一向に効いた手応えがない。

 

 刀を握り直した敵は、私を貫こうと必死だ。笑える。生憎刀身の内側なので、刃を握ってコントロールすれば大したことはない。殴る。殴る。

 

 敵の空いた片手でこちらの首を掴んできた。へし折る気だろうが、魔力で防護。首は締まるが致命傷にはならない。殴り続ける。

 

 気道が閉まって酸素が足りない。両手が痛い。片手は刀を握り込んだ切り傷、殴り続ける握り拳の両方が痛い。でも殴る。

 

 相手の口が横に開き、唾液を飛ばしながら威嚇してきた。うるさい。殴った。

 

 殴り続けると相手に変化が。威嚇の喚き声が高くなった。全身を細かく震わせている。お?効き始めたか?殴る。

 

 こちらの拳が割れそうになった頃、相手の甲殻にヒビが入った。思わず笑みが溢れる。敵は一際高い声で鳴いた。首を絞める力が強まる。

 

 思いっきり振りかぶり、魔力を込める。ずっと首を絞められている、酸素も足りない。私の首が折れそうだ。これで最後だろう。私が死ぬか、お前が死ぬかだ。

 いつもこんな戦いだな私。

 

 魔力のこもった一撃で敵の甲殻を貫通、殻の内側の筋肉が剥き出しになる。叫ぶ昆虫人間。ぴいぴい鳴いてんじゃねえよ虫ケラが。筋組織をちぎり捨てる。

 

 力も魔力も剣の才能もない私に負けるなんて、こいつも思ってなかったはずだ。

 

 手刀を突き込み核を握りしめる。そのまま握りつぶした。

 

 か細い鳴き声が響いて、止んだ。

 

 

「残敵、処理、終了。はあ、はあ、しんどい」

 

 声がガラガラだ。

 

 首をさする。ずっと絞められていた。跡も残るかも。血流と呼吸が止まって気絶しそうだった。

 

 服を捲る。

 

 肩口から斜めに切り下ろされた跡は血が絶え間なく流れる。見た目より浅いけどグロい。

 

 メリケンサックで殴られた腹は青あざになり、小さい穴から血が流れている。

 

 魔力の風を剣で受け止めたが、腕までとどいていたみたいで二の腕までボロボロ。

 

 背中に敵の膝蹴りが当たっていたみたいだ、触るとなんか凹んだ跡がある。穴が空いてる。

 

 簡易テントで縫ってもらった裂傷も開いている。当然かな。

 

 ちょっと今回の敵は一対一で仕留めさせてもらった。特性上、打ち合えない人が何人いても戦力にならない。首を切られる巻き藁を献上するだけだ。生徒を守るためにはしかたない。

 

 よって、タイマンができる私が適任だった。一人も犠牲者を出さずに終わったぜ。

 

 それに、斧野小隊の完全勝利に水を刺されたくなかった。あくまで残敵の一体として処理させてもらった。

 

 あと個人的に腹の刺し傷のリベンジもあったし。

 

 指揮官に相談なく戦ったわけだが、無事勝利。学習した個体群は根絶やしに出来た。一点を除き完璧。

 

 その一点は、これからどうやって帰ろうという事...もう一歩も動けないし、なんか眠くなってきた。

 

 寝てもいい気分だなぁ。

 

 敵の排除で魔力が減衰していく。戦闘続行は敵が近いと効果を増し、遠いと減少する。ゼロにはならないから魔力もちょっとは湧くけど、再生には足りないかも。

 

 応急処置セット出さなきゃ。めんどくさいなぁ。

 

 まぶたが重い。仰向けに倒れる。あ、通信切ってたんだっけ。

 

 迎えに来て、もら、お、う...

 

 かくして意識は闇の中。

 見栄張って死にかける阿呆が1人。

 

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