少女と怪物が戦う世界で三十代教師が戦い続ける話   作:かの おずの

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28話 病床に

 

 また失敗した。

 

 先生はあの後一人で戦いに赴いたらしい。残敵の掃討だなんてうそぶいて、結局一番危険な敵と戦ったらしい。

 

 私たちは足手まといにしかならないらしい。遠距離ドローンからの望遠映像には超人の攻防が映っていた。

 

 私たち斧野小隊も再度の出撃を志願したが、許可が出なかった。

 

 巨大な敵との戦いは一撃一撃が必殺の衝撃になる。防御と回避の連続で身体はガタがきていた。魔力の残量も心もとない。分かっている。そんなことは。

 

 禅苑先生捜索部隊は実力者揃いで、禅苑先生の援護に耐えうるメンバーだった。

 

 しかし、闘いの場に近づくことさえ許されなかった。敵の強大な力量から、ただ先生の気を散らす事になると判断されたためだ。

 

 彼女らはボロボロになる先生を眺めることしか出来なかった。戦闘が終わり次第、応急処置が出来る生徒が回収したようだが、先生の傷はひどいものだった。

 

生徒達はみな、何もできなかった。

 

私たちも血濡れの先生に何も言えなかった。

 

あの人におかえりを言いたかった。

 

あの人に傷ついてほしくないだけだったのに。

 

私たちは結局何も守れなかったようだ。

 

 

 ここは特殊集中治療室。魔力再生技術を投与することが可能な特殊病室だ。

 

 そのベッドを最も使用する女の名から、通称「愛佳の別荘」と呼ばれている病室。

 

 私、学園長の特権で、かなりの金銭と技術を注ぎ込んで作らせた。諸々の手札を公開する事になったが仕方ない。

 

 私の旧友は教師になった途端、大怪我が増えた。魔装少女の治療にテコ入れするしかなかった。

 

 広い部屋と大型の最新機械。機械も頻繁に取り替えられており、その時の最新のものになっている。魔力再生医療も日進月歩。日々新しい技術が開拓されているからだ。

 

 窓は、隣接したスタッフルームと家族関係者控え室につながっている。

 

 学園長室からここまで来るのも慣れた。とりあえず見舞いの品を置いていくが、本人の意識は戻っていない。

 

 機械に繋がれた女。

 

 手術着に隠されているものの、全身は包帯に包まれ、体のあちこちからチューブが生えていた。液体が絶え間なく行き来している。

 

 内臓の機能が一部停止しているらしい。

 よってチューブに繋がれた外部の機械で、その機能を代替しているらしい。

 

 よくもまあ生き永らえているものだ。

 

 この部屋には通常の医者はこない。トップクラスの腕を持った医師か、魔力組織再生の専門家が新技術を試しに来る。全員身元は洗った。

 

 やつは昔からこの病室を使っていた。自分は回避盾だ、トドメ担当だとか言っておきながら、身を挺して他人を守るのだ。大した防御力も無いくせに、その身を差し出して庇うから生傷が絶えない。

 

 時に刺し傷で死にかけ、時に毒で死にかけていた。

 

 切り傷、火傷、凍傷から致死毒まで多くの怪我をこの部屋で治療し、その情報を人類に還元していた。

 

 図らずしも魔装少女の治療法に多くのサンプルを提供していた彼女。研究者たちによってサンプルから効果的な治療が確立されていた。

 

 治療法は全ての支部と学園に共有され、魔力再生技術と合わせて、若人の治療に生かされている。

 

 結果として多くの若い命を間接的に救っていることに、本人は気づいているんだろうか。

 

 ある種の英雄的行為。奴はそんな欲求を持った殊勝な性格だっただろうか。いや、違う。

 

 真の英雄は見返りを求めない。一挙手一投足が自然と人類の希望となる。まさに彼女のことでは無いか。

 

 思考が変な方向に飛んでいた。意識が目の前の光景へと戻る。機械が不快な電子音を鳴らし始めた。医療スタッフが血相を変えて集まっている。

 

 窓の向こう、禅苑愛佳が痙攣している。口と肩から血が吹き出す。人工呼吸器が真っ赤に染まる。

 

 どう見ても命に関わる発作だが、私は信じている。

 

 人類を導く英雄がこんな所で死ぬはずはない。

 

 握りしめた両手は爪が食い込み、鬱血していた。

 

 

 病床からこんにちは。ボコボコにされた禅苑先生でーす。

 

 医者、司令官、学園長、西先生、生徒たちにマジで怒られた。寝起きで、映像通信越しに皆から説教された。しゅん。

 

 でもさー!しょーがないじゃん!あれ放置してたら、昆虫に人類が敗北してたかもしれないんだからさぁ!

 

 一応心配かけたので謝ったが、正直私が悪いと思っていない。ちっ、うっせーな。反省してまーす、くらいなもんである。

 

 だってだって、ここでアイツを取り逃すと、猿の惑星ならぬ虫の惑星ですよ!

 転生してきて1番のファインプレーだった説あるよ!命懸けの奮闘の甲斐あったわ!

 

 遠距離攻撃の学習はかなりまずい。うん、なんとか水際で防げた。

 

 そして現在、学園直通の大病院の集中治療室にて集中治療中。意識を取り戻すと魔力で体組織再生ができるんだが、気絶中はそうもいかない。

 

 生死の境をさまよい、だーいぶギリギリだったらしい。お医者さん達には感謝。

 

 命を繋ぎ止めるための大手術は一大スペクタクルだった、外科医達の現代最高のパフォーマンスを楽しめた、魔力技工師との連携は芸術だって?よく分かんない。

 

 どういうこと?あの変な髪型の外科医は感性が独特。説明されても何言ってるかわからん。

 腕はいいんだが性格が変。入院の時の友達なんだが。

 

 あの戦いから一週間ほど、大かがりな機械に繋がれている。包帯は何時間かに一回取り替えられるし、特注のゲルを塗っていた。怪物の技術を使った試作品らしい。

 

 五日ほどで目を覚まして、魔力の体組織再生技術で大分良くなった。だからさ、

 人工呼吸機もう外していい?ダメ?そう...

 

 今回の富士五湖・富士樹海戦乱では私が一番重体だったらしい。つまり死人はゼロ。頑張った甲斐があったというもの。

 

 ただそれを加味しても私の傷の重さでお釣りが来るとかなんとか。どういう意味?三人分の致命傷ってなに?

 

 あと、お医者さん達が私の状態を見て首を傾げていた。なぜあの状況で生きてるんだ?みたいな。

 

 私、いま病院では不思議生物扱いだ。だれがプラナリアじゃい!変なあだ名つけんなや!噂話は広がって、看護師さんから技師さんまで広まっていた。陰口が辛い。

 

 この集中治療室だが本来意識が戻らないレベルの患者が入る部屋?らしく、立ち入りは禁止。

 

 私は重症に慣れてるので、重体だろうが意識の戻りは早い。意識が戻れば瞑想で魔力再生ができる。すぐ退院できるんじゃないかな。

 

 ドアが開いて看護師さんが入って来る。あ、軍のお偉方が窓から見える。

 

 家族付き添い用の別室にいる、私付きの事務員さんに頭を下げていた。可哀想に、タカ派の暴走で信用に傷が付いたのだろう。軍関連各位は謝罪行脚に忙しいらしい。学園長が教えてくれた。

 

 まあ今回の敵が暴れた原因だからねぇ。ただ、あくまで刺激しただけで敵自体は存在していた。ほっといてもいつかは攻め込んできた事だろう。

 

 看護師さんが首の包帯を取り替えてくれた。ありがと。まあ声も出せないし指一本も動かせないけどね!まばたきで合図出しとく。覚えようモールス信号。

 

 看護師さんが会釈して出ていく。窓から見えちゃった。軍人さん土下座している。私が目を覚ましていて起きていることは内緒なので、学園の事務員に土下座している事になる。こりゃよっぽどだな。

 

 でもやらかした人たちは更迭済みで、頭を下げるのは残った人達というのがなんとも悲しい光景。これが社会か...

 

 関係者以外には意識が戻ったのは内緒にしている。

 

 私、これでも結構名が売れているのだが、意識不明のほうが学園にとって都合がいいらしい。戦力の低下を理由に予算と人を引っ張るらしいよ。悪いこと考えるね学園長。

 

 学園長と意識が戻ってすぐ話したんだけど、結構おこ。激おこ。眉間のシワが凄いことになっていた。

 

 政府や軍に無茶振りしないか心配である。ほら、役目は違えど一応仲間なわけで。いい人もいっぱい居るしさー。

 

 戦いの直後の話。

 

 不審に思った指揮官が加州ちゃんと護衛の生徒に私の捜索を依頼。回収した時は血溜まりに沈んでいたそうで、応急処置後ここに担ぎ込まれた次第。

 

 芝犬の背中で血まみれのボロ雑巾みたいになっていたそうな。

 

 加州ちゃんと表腹ちゃんにお礼のパフェ奢る件、もっと報酬追加しないとな。何足せばいいんだ?回らない寿司とかか?お見舞いにもきてくれたらしいし。シェフが鉄板で焼いてくれる焼き肉とかか?ドレスコードのあるコース料理とかか?

 

 

 加州寿は山の奥深く、滝に打たれていた。

 

 偉大な先生。大恩ある先生。かの人の願いならなんでも叶えたい。

 

 どうやら女学生と教師の仲の良いやり取りを望んでいるのでそのようにしているが、わたしの、わたしの全てを差し上げたい。

 

 無力と絶望に沈んでいたわたしを慰め、後ろ姿で導いてくれた。

 

 戦い振りは理想そのもの。怪物相手に一歩も引かず、不退転の覚悟と勇気を示し続けている。まさに武士道の体現だ。

 

 時に愚かで蒙昧な人々から邪魔され、大怪我を負う姿も見た。それでも人類のため怪物と戦う姿に忠義と信念を見た。涙がこぼれた。

 

 そんな彼女の癒しになれればと思って喋り方や所作を身につけ、忠犬八光にも過酷なしつけを施した。その甲斐あって、彼女はリラックスしてくつろげているようだった。

 

 私と会って話すこと。それが彼女に少しでも日常の安らぎを感じさせれば幸いなだけ。

 

 今回の富士騒乱は少々堪えた。

 

 応急処置は仲間が行い、私は救急搬送を担当したが、1秒ごとに愛する生命が抜け落ちていく感覚。二度と味わいたくはない。

 

 私もそろそろ「卒業」が近い。どこまで刀を極めれるか。敵を屠れるか。

 

 滝からは冷たい水が流れ落ち、体を打ちつける。冷えていく体と澄んでいく思考。感覚を集中させ、打ちつける衝撃を耐える。

 

 ただ見ていることしかできなかった。

 

 今はただ力が欲しい。

 

 そしてあの人の愛が欲しい。

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