少女と怪物が戦う世界で三十代教師が戦い続ける話   作:かの おずの

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4話 悩める桜井と二人のクセ強

 

「先生もさやも出ていっちゃったね」

 

「とはいえ、フォローを頼まれたから慰めなくちゃ」

 

「ほんっとどうしたんだろうな桜井、らしくねぇよなぁ」

 

 さや抜きの三人で廊下を歩く。根は真面目なさやのことだ、すぐ冷静になって隊室に戻っているのではないだろうか。

 

 何よりあの禅苑先生から、この斧野瑞稀へ直々に頼みこまれたのだ。この依頼、やり遂げなくては。なんとかさやを元気いっぱいにして先生の元に連れて行こう。

 

「凛ちゃんが入院してるから焦っちゃったのかな」

 

 動揺はあると思う。帰ってからもなにかを考えていたようだし。あの思い詰めた雰囲気に気づいていればフォローできたかもしれない。

 

「確かに袖部が居たらなぁ、あれでムードメーカーな所あったし。そうでなくても、べったりだったろあの二人、凛とさやはズッ友、ニコイチ、BFFみたいな。袖部の退院はいつだっけ?」

 

「四日後だよ美華ちゃん」

 

「魔力使った再生技術があるとはいえ、速いなぁ。ケガしたの見た時は、血まみれでゾッとしたぜ。重症だったけど、治るもんだな」

 

「みんな命が助かって良かったね。輸送機を迎えに行った私の気持ちも考えてよね!びっくりしたんだから」

 

「姉御のおかげだ」

 

 なぜか得意げにうなづく美華。お前は先生の何なんだ。こいつの立ち位置が分からない。

 

「お見舞いに行く時間も無さそうだね」

 

「それを選んだのは私たちだから、その時間で強くなるために努力するの。コツは掴んだから精度を上げるだけよ」

 

「そうだね!わたしもがんばるよ」

 

 ましろの元気な返事を聞きながら、階段を降り隊室の前で立ち止まる。

 

 ドアを静かに開き、隊室を覗くと頭を抱えたさやの姿が。やっぱり我に帰ったか。現在後悔中みたいだ。一人でドツボにハマらないように慰めてあげよう。

 

 

 厄介ごとに面倒ごとをぶつけて対消滅を図る。

 

 これが私の考えた頭の良い解決法である。桜井さやちゃんの問題と、面倒な人探しを同時にこなしてしまおう。まさに一石二鳥。

 そしてさやちゃんの不満も私は見抜いている。それは...

 

 必殺技を教えてもらえなかったことだ!

 

 急な特訓といえば、すなわち必殺技の修得フラグ。地味な鍛錬を見せられてやる気がなくなるのもさもありなん。やっぱりここぞという所で一撃を決められると生存率が違う。

 

 もっと学生に寄り添うべきやったな禅苑っつーことよ。

 私もこの世界で練習したもん、なんとか波ーって両手出したり呼吸法試して集中したり、衝撃の瞬間拳から魔力流したり。結局、必殺技の習得は出来なかったけど。

 

 特殊技能で近しいことができる子はいるらしい。羨ましすぎる。つまりそういうこと。

 

 憧れの気持ちは痛いほど分かるので、変わり種の特殊技能の子に合わせてみよう。なんとかなるかもしれない。世の中甘く無いぜ!でもいいし私もいつかあんな能力が!でもいい。

 

 焦りを除ければ何だっていいのだ。どうなるかは分かんないけど、なんとかなったらいいな。

 

 さやちゃんに会わせる二人の技能は人探しにも向いてるし、私の任務も同時に終了する。我ながら素晴らしい案だ。

 

 善は急げ、関係者に連絡を入れ輸送機の手配、滑走路の予約、シフトの変更を済ませる。

 

お仕事がんばるぞい。

 

 

「なぁ一緒に謝ってやるからよーそんな気落ちすんなよ、な?わたしも昔駄々捏ねちまってさぁ、周りに迷惑かけたのに一緒に謝ってくれたんだぜ?優しいんだから許してくれるって」

 

「うん、私もそう思うかな、先生も許してくれるよ。どうも先生は生徒の機微に疎い気がするし。私のことも気づいてくれないし」

 

「わ、わたしも一緒に謝るよ!元気だして!」

 

 期待を持って話しかけた分、落胆してしまった自分。普段声を荒らげる事なんてないのに思わず叫んで訓練室を出ていってしまった。あんなの普段の桜井さやではない。

 

 自分から訓練を頼んでおいて、あんな失礼なことをしてしまうなんて。困惑と驚きを感じる自分がいる。

 

「でも、私、ついカッとなって、いっぱいいっぱいになっちゃって、あんな失礼な」

 

「そんなこと気にしやしねぇって姉御だろ?」

 

 その熱い信頼はなんなのだろうか。ただ、あの問題児として有名だった氷野宮美華をここまで大人しくさせるほどの何かを持っているのだろうか。

 

「私、両親が怪物に殺されたって、前話したの覚えてる?」

 

「えぇ、たしか小学生の頃に」

 

「私、その仇が取りたくてここに来たのに、なかなか強くなれなくて、それで焦って」

 

 ここに居る全員が神妙に俯く。沈黙が続く。

 家族を怪物によって失う。今時珍しくもない話だが。そしてこの学園ではよく聞く話でもある。

 

 復讐を志し、魔装少女として戦う学生は多い。破壊と殺戮をもたらす怪物への、強い怒りと憎しみは心に深く刻まれる。そこから抜け出せない私もその一人だ。

 

 皆が何を言おうか悩んでいた時。

 

 バン!沈黙を破るように、大きな音が隊室に響く。

 

「さやちゃんでかけるよ!準備して!」

 

 突然ドアを開き、現れたのは例の禅苑先生。今なんて言った?出かけるってどこに?そう言うと先生はにっこり笑いながらこういった。

 

 君の悩みを解決してあげよう、着いてきなさい

 

 

 ブリーフィングは輸送機内でやろう。

 

 そう言われて滑走路に連れられて、輸送機の中。気付けば離陸している。

 相棒の片手剣型の武具も一緒だ。勢いに流されて、先生には未だ謝罪もお礼も出来ていない。

 

「これから、とある生徒達の討伐任務を手伝います。敵は群体型、捜索も任務内です」

 

「その後、私の捜索任務を手伝ってもらう手筈になっています。任務のお手伝いをして、その代わり助力を得ると。向こうの任務終了を待つのも面倒だから、さっさとね」

 

 あの、できればもっと詳しい説明を...

 先ほどのことは何でもなかったかのように、そう話しかけてくる先生。しゃ、謝罪しなければ。

 

「ぜ、禅苑先生。さっきは...」

 

「これから会うのは、異なる方向性の索敵スキルを極めた二人。桜井さんの先輩だよ。きっと君の悩みを解決してくれる。」

 

 ニコニコした笑顔に、出鼻をくじかれた私はその後沈黙を選んだ。

 

 

 着陸した輸送機、どうやらベーステントの近くに降りたようで、二人の生徒が迎えてくれた。

 

「「禅苑先生ー」」

 

 細身で足が長い女子と、小柄で毛先を緩くカールさせたベージュの髪の女子だ。

 二人ともこちらに向けて大きく手を振っている。

 

「表原さん、加州さん。今日はよろしくね」

 

「いえいえ、私たちも手伝ってもらっちゃって、おっとそこの君は例の後輩かい?」

 

 細身の生徒が私を見つけ自己紹介する。

 

「私は表原莉子 [棒倒索敵]という能力です」

 

 どういう[特殊技能]?ぼう たおし 索敵?

 

「わたしは加州寿、[忠犬八光]って特殊技能です」

 

 全く分からない。が、先生は地図を広げる。

 

「早速だけど表原さん、よろしくね」

 

「まあ時間もないみたいですし、急ぎましょう。そこの後輩、見ててくださいね。いきますよ」

 

 表原先輩は折り畳んであった槍型の武具を展開した。

 

「てきはーどこかなーぼうたーおし!」

 

 彼女が手から離した槍、その先端が不自然に揺れ始めやがて槍が倒れる。表原先輩は地図と方位磁針を手に、メモを始めた。

 

 え、まさか

 

「この棒が倒れた方角を進んだ先に目的の怪物がいます」

 

え、本当に?適当に道を選ぶときのやり方では?

 

「それでは、加州寿いきます! いでよ[忠犬八光]!」

 

 加州寿と名乗った小柄な少女が、小太刀型の武具を掲げる。どこからともなく光が集まってきて、2mほどの球体に固まる。すると光がほどけ、出てきたのは体高2mの芝犬だった。え2mの芝犬?で、でかい。

 

 しばらく混乱から硬直していると、三人は話をまとめたらしい。

 

「これから敵の正確な位置を確かめよう。加州さん、よろしくね」

 

「はい、先生!任せてください!」

 

 笑顔で巨大柴犬の上に乗る加州先輩は嬉しそうに先生の顔を見つめている。

 

 一方、表原先輩は私の肩を叩き

 

「きみ、どうやら説明無しで連れてこられたみたいだね。私達や輸送機の段取りは完璧なのに、本人に説明忘れとは。あの人も相変わらずだ」

 

 同情されている。だったら代わりに説明していただいても。

 

「私たち二人とも、禅苑先生にはずいぶん良くしてもらってね。見返りなく先生の仕事を手伝っても良かったのだが。先生のゴリ押しでこの作戦を手伝ってもらうことになった。我々にもメリットを作りたいらしい。とりあえず、私たちの任務を手伝ってもらうよ」

 

 先生のやりたい事は分かった。この討伐で私に何かを学ばせたいのだ。そのついでに先生の任務に二人の力を借りたいと。

 

 説明が足りない!

 

「はいはい、生徒達、みんないくよ!」

 

 ただただ、あの笑顔が憎らしい。

 

 

「こっちとあっち、それとここみたいですね」

 

 先輩二人は地図に丸をつけていく。どうやら3カ所に大、中、小規模の巣がそれぞれあるらしい。

 

 途中で止まって棒倒ししたり、でっかい芝犬に匂いを嗅がせ、目を合わせ微笑んだり。何をしているのかはさっぱり分からなかったが。 

 

 というか、2mの芝犬と並走することになるとは思わなかった。なにあれ。

 

 あと、移動中に敵について軽い説明を受けた。敵は群体で四つ腕のオランウータンたち。首から上はなく、代わりに大きなツノが生えている。掴んだ相手をツノに突き刺す怪物のようだ。食事の真似事をしているらしい。

 

 先輩方は今日、討伐前の索敵をする予定だった。群体型の敵は討ち漏らさないよう、念入りに下準備をするのが常識だ。

 

 本討伐は後日のはずだったが、完了まで半月はかかるので禅苑先生が助力を申し出たそうだ。確かに、待つのが嫌だと言っていたが。

 

 もしかして部隊で半月かかる任務を四人で終わらそうとしている?

 

 何かを考えていた、先生がついに口を開く。

 

「じゃあ中位の集落は私が。小型の群れには三人が。大きい巣には合流した四人でいこう。大きい巣に連絡が回る前に叩きたいね。では行動開始!」

 

 言われるままに部隊を二つに分け、というか一人で中サイズの巣に走っていく先生。一人で大丈夫なのだろうか。

 

 私たちは打ち合わせをしながら走る。時間のあった輸送機の中で、二人について教えてくれなかった先生のせいだ。

 

「わたしの[忠犬八光]は戦闘能力があります。これに乗って遊撃に回るので、表原さんは」

 

「あぁいつものように、いや、今回は積極的に前衛か。後衛は頼むよ後輩ちゃん。いや、桜井ちゃんか」

 

 加州先輩は遊撃、表原先輩は前衛で私は後衛か。バランスは良いのかもしれない。問題は二人の戦闘能力を知らないことだが。

 

 加州先輩が控えめに声を掛けてくる。

 

「わたしはさやちゃんって呼んでもいいですか」

 

「は、はいもちろん」

 

 緊張する。先生曰く、わたしの[特殊技能]面でも先輩らしいが。これと私の望みに何の関係があるのだろうか。

 

「あ、私の[忠犬八光]も挨拶したいみたいなんですけど、いいですか?」

 

 でっかい芝犬が鼻を近づけてくる。犬は好きだが、巨大なのでとにかくドキドキしている。恐る恐る手を近づける。甘噛みされたら腕ごと無くなるサイズ感だが。

 

 わ、頬擦りしてきた。こっちを窺いながら、指先を少し舐めてきた。ぐいぐい来ない優しさを感じる。顎を撫でてあげる。

 

 かわいいかも。

 

「ふふ、[忠犬八光]は賢いんですよ。お手!」

 

 お座りしてお手してる。小柄な少女に、2mの芝犬がお手。その様子はシュールだった。

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