少女と怪物が戦う世界で三十代教師が戦い続ける話   作:かの おずの

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5話 棒倒しと桜井の想い

 

 加州先輩は巨大な芝犬の上から指示を出し、猿型の怪物の群れを蹂躙している。爪が一撃で皮膚を切り裂き、犬の顎門がツノごと噛み砕く。あの芝犬あんなに強かったんだ。可愛い動作しか見てなかったので認識を改める。さっき先輩にお手してたのに。

 

「あっこら!逃しませんよ!」

 

 猿が一体群れから逃げ出す。一体でも逃すと増殖してしまう為、確実に殺し、逃してはならない。

 そう思っていると、加州先輩は芝犬の上から飛び降りて、逃げた猿の背中に着地する。追撃の一閃を放つと猿は崩れ落ちる。一撃でトドメを刺したらしい。短刀型の武具であの切れ味は凄まじい。

 

「はっ、はっ、破あぁ!」

 

 表原先輩の槍が猿を貫く。軽い握りから放たれた振りが加速して猿のツノを打った。遠くに吹っ飛んでいく猿を尻目に突きが猿を貫通し、二匹目の胸を撃ったところで停止する。

 

 槍を猿の体から引き抜く、先輩の隙を狙って一匹の猿が四つ腕を広げ突っ込む。単体では大したことない四つ腕の猿だが、捕まれ、組みつかれて引き倒されたら終わりだ。我々は数で囲まれ、無惨に嬲れるのを待つしかなくなるだろう。

 

 私が間に入り、気持ち悪い猿の四つ腕を掻い潜り、切り付ける。毛も硬く、致命傷とはならなかったが、もう二度切り付けると倒れた。先輩たちの撃ち漏らしや、隙を埋めるのが後衛の私の仕事になる。[索敵]で全体の敵の配置を見て立ち位置を調整すると、それに合わせて先輩も動いてくれた。

 

 しばらくすると動いている敵が一つもいなくなった。軽く状況を確かめ合って、合流場所へ三人で急ぐ。十体ほどの群れだったが、三人で適正な危険度といったところだった。

 先生は、そしてこれから向かう大規模な群れは大丈夫だろうか。

 

「ありがとう、先生が連れてきただけのことはあるね。危なげない立ち回りだった。どうだい?心配事は片付きそうかい?」

 

 表原先輩はそう言った。二人は私の悩みについても、軽く説明を受けたそうだ。心配げに私を見る加州先輩。先生には私の悩みくらいお見通しだったわけだ。二人に相談するのも良いかもしれない。

 

 先輩方は索敵向けの特殊技能のはずなのに、戦いぶりも一級品だった。でっかい芝犬を呼び出して戦った加州先輩ですら、短い刀身の一振りで怪物を屠っていた。

 表原先輩は軽く握った槍で、大きく怪物を吹っ飛ばしていた。その後の立ち回りも上手かった。恐らく撃破スコアは相当なものだろう。

 

 それに比べて私は、先輩の取りこぼしを倒すことしか出来ていない。手負いの怪物は傷に打ち込めば攻撃が通るため、比較的倒しやすいのだ。情けなくて悔しい。

 

 両親を喰われた私の復讐心と、殺されかけたままならない現実、目の前で倒れた親友、その相談を二人にする。

 

「おい、寿...」

 

「聞いてた話よりもハードですね...」

 

 話は聞いていたのでは?どういうことだろうか?

 

「まあ私たちの話をしながら合流場所へ急ごう、私の[特殊技能]見ただろ?あんなふざけた技能しか発現しなくてね、一時期一人で腐っていたんだ。そんな折に先生に会ってね」

 

「私も[特殊技能]の成長前に、自分の力不足を痛感してたことがありまして。なやんでたところ、先生に相談したらなんとかなりまして」

 

先生は二人の話を聞かせたかったのだろう。先生は何を聞かせたかったんだろうか。

 

 

 こんなに戦いに向かないしょうもない[特殊技能]だとは思わなかった。[棒倒索敵]という四文字技能に目覚め、これ以上の成長は見込めなくなった。

 

 朝露に濡れた草花を踏みつける。靴が汚れて不快だ。大剣を担ぎ直し、受け持ちの地区まで走る。

 

 [棒倒索敵]と名付けられたこの技能、人類には多少貢献できるかもしれないが、私は自分の手で奴ら怪物を縊り殺したかったのだ。前線を張れなくなるなんて冗談ではない。サポート役で魔装少女を終えたくはない。

 

 一人で毎日出撃し続けている。いくら大剣を振ろうとも、攻撃向けの能力者より殲滅速度は遅い。一人だけの出撃ではなおさら。理解しているだけにイラつく。

 

 討伐範囲が他の人員と被ったようで、物音が聞こえてきた。今回の怪物は小型の竜だが、油断すると骨を噛み砕かれる強敵だ。私の足手纏いにならないと良いが。

 

 学生服を着ていない、自分より少し小柄な人影が、一刀のもとに竜を切り捨てていた。小型とはいえ、鱗も甲殻もある竜を一刀で切り捨てるとは驚きだ。

 

 ただ立ち尽くし、彼女の奮戦を見守る。手助けの必要なく全てを切り伏せた。

 

 鬼神のような活躍をした彼女に話しかける。

 

「え?なんで強いのか?いや、[特殊技能]もちの人のが強いわよ?[獄炎切り]とか、[光線射]とか」

 

 気安く答えてくれた彼女は訳なく答える。そんな特殊な[特殊技能]を挙げられても。

 

「それはそうだが、てっきりそれに準ずる補助能力かと、[高速]とか[剛力]とか」

 

「これね、基礎の練習とイメージの活用でこのくらいイケるのよ。皆んなあまり使ってないテクニックなんだけど。そういうあなたの能力は?」

 

 自分の能力を説明する。棒を倒して敵の場所と距離を示す技能。どう闘いに応用すれば良いのか。思わず自嘲してしまう。私の望む闘いとは程遠い役目しか、今の自分には果たせないのか。

 

「それってどの棒にも掛けれるの?」

 

「ええ」

 

「一部だけかけたり?」

 

「はい」

 

「数キロ先の怪物に力場がはたらくのか。磁石みたい...」

 

ハッとした顔で彼女が言う。

 

「あなた槍の練習してみない?」

 

 

「それで槍に持ち替えてみた。彼女の言ったように、穂先に能力をかけながら敵を殴るとだね。面白いように敵が吹き飛ぶんだよ。穂先が敵に近づくと加速が突然激しくなるんだ。

 先生曰く、ネオジム磁石を参考にしたらしい。戦前の、魔力が普及する前の実験だそうだ」

 

「その人物が生徒ではなく先生、一般人でなく『希望の魔装少女』だと知ったのが後の話でね」

 

 それが先輩の分岐点。あの先生が。

 

「継戦能力と魔力の効率が段違いに上がって、攻撃型の[特殊技能]に引けを取らない撃破スコアになった。たった一言で、だ」

 

「まさに人生を変える一言だった。聞けば先生は私と同じように補助向けの能力で、しかし応用が効かないらしい。あの柔軟さはどこからきたんだろうね」

 

「視野の狭さと殺意で殺す手が鈍ったんだ。結局私はね。こんなものかな、私の話は」

 

でも私の[特殊技能]は...

 

「君の悩みは多分私と違う。私は敵を殺して殺して、殺し尽くしたかった。私が思うに、君は別の想いがあったんじゃないか?」

 

 私が抱える復讐以外の想い?本当に?私の望みは力を手に入れることではない?混乱する。

 

 強化した脚力で大地を踏む。息の上がらない速度で走る。脳まで酸素が回ってないのか、上手く考えられない。

 

 急に、走る芝犬の上から加州先輩が声を挙げる。

 

「二人とも、先生が大集団と戦闘を始めてます!」

 

 先生!悩む時間くらいください!

 

 

 

 

 

 

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