少女と怪物が戦う世界で三十代教師が戦い続ける話   作:かの おずの

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6話 殺戮の渦、迷いなき桜井

 

 渦だ。

 

 怪物を吸い込み、死体に変える渦だ。小高い丘の上から見渡す。窪んだ低地に大猿の群れがひしめいている。怒りか執着か、猿の群れは一点に向かって突進している。恐らく禅苑先生がいる地点だろう、きらめく魔力の光と、飛び散る怪物の体液が遠くからでも確認できる。

 死体を残しながら渦は少しずつ移動していく。

 

 遠くに一際大きな死体が打ち捨てられている。ボス個体も討伐済みとは。あの人の能力は一体?

 

 渦の中心はどうやら中規模な群れと大きい群れの中間点あたり。二つの群れが合流してしまったのか、戦闘中に位置がズレて行ったのか。一人の魔装少女にとって恐怖を感じる光景が広がっている。もし私が囲まれたら、あの数では突破も退却も困難だろう。

 

 先生が巨大な敵を危なげなく倒しているのは知っていたが、群体型の怪物も倒せるのか。数的不利、それも大群と一人で戦うのにどれほどの研鑽を積んだのだろうか。

 私が呆けている一瞬、先輩方は走り出していた。

 

「先ほどと同じフォーメーションで、敵の数を減らす。恐らく先生に殺到している敵を背後から刺す形になるだろう。寿と芝は個別に戦おう、パワーダウンするが頭数を増やして討伐数を増やそう」

 

 二人は手慣れたように打ち合わせをしながら走る。先生との共闘も何回かこなしているらしい。あの様相の戦場に飛び込むには慣れが要る。

 

「わかった、先生の負担を軽くしないとね。効率がいいなら[忠犬八光]から降りて別々に戦うことにするよ。行って!」

 

 敵の背後から芝犬が襲いかかる。爪や牙の威力は少し落ちたが、急所を的確に抉る。なし崩し的に始まった戦闘だからか、上手く気持ちが入らない。

 いや、早く合流しなくては。自分と先輩、暴れるでっかい芝犬の立ち位置を調整しながら、三人で敵の数を減らす。

 

「落ち着いてね。いろんなことを考えて、落ち着かないみたいだけど。自分が大切にしてるものを考えると落ち着くよ」

 

 加州先輩が気遣ってくれる。大切にしてるもの、復讐心?いや、私が最も動揺したのは...

 

 [索敵]で全体を俯瞰しつつ無心で戦う。思考も洗練されていく。そうか、私が望んでいたことは...

 

 戦闘に参加してしばらく経った、もう猿の怪物は半数以上が倒されている。これから先は撤退する敵を殲滅しなくてはならない。そう考えて指示を仰ぐ。

 

「せんぱい!敵の追撃についてですが」

 

 戦いの音に負けないよう声を張る。

 

「その必要はない!敵は禅苑先生から離れないから、確実に殲滅可能だ!それが彼女の[特殊技能]だ!」

 

 そうなのか?そういえば全く先生の[特殊技能]を知らない。

 隣に降り立った加州先輩が、短刀を強く握り、私に話しかける。

 

「さやちゃん、先生の[特殊技能]は[戦闘継続]。戦いから敵を逃さず、先生もまた戦い続けなければならない。そういう能力なんだよ」

 

 

 戦いは各個撃破が基本。数的不利は避けるように。

 

 そう生徒たちに授業したやつの戦場か、これが。

 ミスって二つの群れが合流しちった、てへ。可愛く誤魔化したいが、歳考えろと言われると黙るしかない。

 

 位置取りに気をつけるのは鉄則。完全に私のミスだが、誰も近くに巻き込んでないし。全員殺せばヨシ!

 

 首から大角が生えた、四つ腕の猿。私は一人なので掴まれた時点でアウト。ただ私の方が速いので、掴まれる前に掴んで投げ飛ばす。頭がそもそもないので首を切って終わり、ともいかない。

 

 急所を刺し腱などを切りつけ、別の敵に向かって蹴り飛ばす。時々両手両足を広げて飛びかかってくるので、胴体を真っ二つにする。スッキリストレス発散だぜ!最近硬い敵が多くてさぁ。

 

 凄惨な戦いを背後に繰り広げながら進む。真っ二つにすると猿の体液がかかりそうになる。かかるとすごい嫌、すぐその場から離れる。その場から離れる行動をした結果、戦場が徐々にズレてこんな大乱闘になってしまった。しんどい。

 

 もっと無駄な行動を減らさないといけないんだが、真っ二つにしたり、つい武具を振り切って残心してしまう。カッコつけで死んでは元も子もない。ばかかな?

 

 そんなこんなで戦っていると、遠くででっかい柴犬が猿に噛み付いてた。うわでた可愛い!昔犬飼ってたんだよね、今世では出張が多くて飼えないが。切ない。

 

 あの巨大芝犬、自律して動くらしく、私と楽しく遊んでくれる癒し存在なのだ。腹毛に顔を埋めたり、頭撫でたり。現在そんなワンコの口から血が滴っているが。爪で敵を踏み潰して血の海を進んでいるけど。

 

 どうやら三人も合流したらしい。馬鹿な先生に呆れてないだろうか。約束の場所に待ち合わせすら出来ない、情けない大人で申し訳ない。

 

 敵の頭数を減らしてくれている。すごい助かる。ほどほどの距離を維持しながら戦う。二人は手練だし、一人は冷静だから察してくれるだろう。

 

 武具だけでなく四肢をフルに使って戦うやり方から、武具中心に切りつけるやつに変える。殺傷効率はこっちのが良いんだけど、隙がでかいので、戦い毎にスタイルを選んでる。三人のおかげで効率優先の戦い方に変える。

 知ってるか、剣ってのは両手で握った方が強いんだぜ...

 

 なんせ私の近くにいる怪物は、私をターゲットに取りつづける。群体型とか多頭型とか不定形とか、その対策にいくつか戦闘スタイルを身につけている。

 

 苦労してせっかく身につけたのに引退するしなぁと思ってたら、引退する事なく今でもその技術使うし、私の授業のネタになってた。披露するとウケが良いのでよく見せてる。芸は身を救うというやつだ。

 

 効率の上がった構えで猿の群れを切り捨て、切り上げ、突き殺す。続けているとだいぶ数が減ったらしく、三人と合流できた。

 

「先生、相変わらずめちゃくちゃですね!巻き込まれる身にもなってください!」

 

 笑みを浮かべながら表原ちゃんが茶化してくる。ちゃうねん、私かてミスしたくてしてる訳じゃ。

 表原ちゃん初対面は人を寄せ付けないピリピリした人だった。なんかの拍子に話してみたんだけど、なんか雑談したら打ち解けたみたい。何言ったっけかよく覚えてない。仲良くなれたのでオッケーです!

 

「ま、まあ早く終わりそうで良いと思いますよ。わたしは先生のためなら頑張ります!」

 

 加州ちゃん!フォローしてくれて優しい!ほんますこ。推せるよね。時々この人は仕方ないなぁみたいな目で見られる気もするが、受け入れてくれるから...もしかして俺のママだった?芝犬と共に家庭を築こう...

 

 クソキモい妄想を悟られないように受け答えをする。フォーメーションの確認とケガの有無、残魔力量(私は関係ないが)を共有して、討ち漏らした敵にみんなで突っ込む。

 

 戦いってのはなあ、ノリがいい方が勝つんだよ!

 

 

 あれほどの群れを一匹残らず壊滅させてしまった。息が上がって立てない。先輩方のサポートという形で負担はかなり少なかったはずだが、それでも疲労は溜まっていたようだ。

 

 先輩方は周辺に討ち漏らしがいないか確認し終えたようで、何か話している。先生はあちこちに指示を出しているようだ。端末と通信機を忙しなく操作している。この後先生の任務も待っている。

 

 身体は疲れているが、頭は冴えている気がする。不思議な体調だ。無心で武具を振るう中で一つ仮説が立った。

 悩みの原因。私の本当の望みについてだ。敵への怒りや憎しみ、自分への不甲斐なさからパニックになったのだと思っていたが、違うのかもしれない。

 

 もっとシンプルな感情。目の前で凛が血を流し倒れた光景。私はただ大切な人が傷ついてほしくなかっただけかもしれない。

 恥ずかしいが、両親の復讐や自分のことより、凛と仲間の方が重要になっていることに気付いた。

 

 私は知らないうちに過去より現在を強く大切に思っていたのだ。

 

 先生にお礼と、一つお願いをしなくてはならない。

 

「先生、その、失礼なことをしたのにいろいろ便宜を図ってくれて。私の悩みのこととか、ありがとうございました。それと一つお願いがあって、私を凛のいる総合病院に行かせてくれませんか?急で申し訳ないんですが」

 

「悩みは解決しそうね、よかった、いいわよ。さっき、うっかりミスで輸送機を二台手配してしまったの。片方に乗って病院に行って来なさい。連絡しておくわ」

 

 先生ほどのベテランがそんなミスをするはずがない。私が次に何をしたいなんて予想内だったのだ。先生には頭が上がらない。輸送機の起こす風を背中に受け、深くお辞儀する。頭をあげて

 

「先生!禅苑先生!ありがとうございました!」

 

 今は一刻も早く凛の顔が見たい。そして話すのだ。自分の思いを。

 

 

 病院付近の滑走路で降りて、タクシーで病院まで移動。なんか落ち着かない。

 戦場帰りの格好のまま、勢いにまかせてここまで来てしまった。どういう言葉にしようか考えあぐねていると、病院の前でタクシーが止まる。病院のロビーで許可を取り、凛のいる病室まで急ぐ。遂に扉の前に来た。ノックをする。

 

「はいはーい、どうぞー」

 

 扉を開けると、明るい笑顔がベッドの上から迎えてくれた。

 

「あれ!さやさやじゃん!わざわざお見舞いに来なくても良かったのに〜もうちょっとしたら授業に参加できるくらい良くなってるんだよー」

 

「顔色も良さそう、良かった」

 

「ん?どうしたん?なんか深刻な顔して、魔力再生医療ってすごいよ、すぐ傷が塞がって元通り!だからあんまし気にすんなって!むしろ私は助けてもらったんだから!」

 

 凛は私が気に病んでた事を予期していたんだろう。でも今私が伝えたいのはそうじゃない。

 

「凛、貴方が意識無く倒れているのを見て私は頭が真っ白になった。仇討ちなんてどうでも良くなるくらい」

 

「ど、どしたの。さやちゃんいきなり」

 

 右手で凛の手を取る。真面目な雰囲気に凛は唾を飲み込む。

 

「そして今、分かったんだ。何がしたいか。私は誓うよ。私は凛を守るって」

 

 左手で凛の手を包み込む。

 

「私頑張るから。だから見てて」

 

 顔を近づけ、凛の目を覗き込み微笑む。

 

ガラガラ

 

「私と一緒にいてくれる?」

 

 頬を真っ赤に染めた凛が小声で返事をする。

 

「は、はいぃ」

 

 凛を、大事な友達を守る誓いを立てることができてよかった。ん?ガラガラ?振り向く。

 

「あーお見舞いにきたぜ。そのー桜井が居るって知らなくってさ、ごめんな、ムード壊しちって。お見舞いの菓子ここ置いとっから。はは」

 

 顔が真っ赤な氷野宮美華。

 

「すぐ帰るから気にしないでね、うん」

 

 耳が赤い斧野瑞稀。

 

「んーんーんーすごいとこ、みちゃった」

 

 顔を手で押さえて悶えている獅子神ましろ。

 

 三人とも何を言ってるのだろうか?

 

 友達への決意表明だが、そんなに困惑されるとは。

 

 

 

 

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