Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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第九話 緋く萌える眼差し PART2

 公園から帰った理雄は自宅に着く。そこそこ大きい15階建のマンションの管理人のおばさんに挨拶し、エレベーターの前で暴力団のチンピラに挨拶し、13階で止まったエレベーターに乗り込んできたゲイバーのストリッパーのお兄さんに挨拶した。

 

 エレベーターを降り14階にある自分の部屋に鍵を回して入る。理雄はすぐにシャワーを浴びた後着替えるとテレビを点ける。ちょうど朝のニュースをやっていた。

 

 [……このように、シブヤを中心とした相次ぐ不審者による事件、事故が多発しており。警察は……]

 

 どうやら昨日の一件の事に触れているようだ。この手の事件、事故はジュリエットチームが来る前からかなり起きていたらしく。昨日で20件目になるそうだ。ニュースは最後に警察のトップが記者会見を開き、シブヤ周辺のパトロールや巡回の強化、市民への通報などの協力を呼びかける様子を映した後次の話題に移る。

 

(呼び出しが来るかもしれないな……)

 

 この騒動が財団と関わりがあるのなら高い確率で即応部隊派遣要請が来るだろうと理雄は冷蔵庫で冷やしていたウーロン茶を飲みながら思う。

 内容が天気予報の終わりになったあたりでテレビを切り出勤の準備に入る。

 

 理雄はブラックスーツに着替えると昨日注文してその場で財団の管理部から受け取った銃を確認する。

 

 脅威にいつでも対応できるように昨夜から帯銃することにした理雄だが、

 XDMでは携帯するには少し大きすぎる。その為、より小さく隠しやすい小型拳銃を必要としたのだ。そこで受領したのがアメリカのスターム・ルガー社製、ルガーLCPである。護身用……あるいは自決用としては悪くない銃である。流石に校内で発泡沙汰は避けたいが万が一の時はありとあらゆる手段で己と生徒たちを守らねばならない。たとえ……偽りの身分で自分達と接していた嘘吐きと彼女らに思われても……。

 

 

 

 [宮益坂女学院] 〜昼休み〜

 

 午前の授業が終わり。コンビニで昼飯を買おうと一階の購買の近くを通り過ぎると、

 

 

「あ……」

 

 一歌と出会った…………大量の焼きそばパンを抱えた状態で。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「……買い過ぎじゃないか……?」

 

「せ、先生もおひとつどうぞ!」

 

「いや欲しいわけじゃ……」

 

 目の前の黒髪イケメン天然美少女は理雄の言葉と視線をそのように受け取ったらしい。流石に生徒から焼きそばパンを奪うわけにはいかない。

 と言うか……。

 

 

「口出しする気はないが……。毎日そんなもん食ってるのか? 栄養偏るぞ……」

 

「そうですか? でも……おいしいですよ?」

 

 目の前のミク廃兼焼きそばパン中毒者は可愛らしく首を傾げてそう言った。

 

 

 

 

 理雄が校庭で昼食を摂った後。午後の授業の準備を終えた理雄は職員室から1-Cに向かう。廊下を歩いている最中、向こうから1人の生徒が歩いてくる。

 

「あ、先生。こんにちは」

 

「……こんにちは」

 

 一拍遅れて挨拶を返す。1年生ではない。2年生のその生徒は紫色の髪をポニーテールにした穏やかな美少女だ。名前は確か……。

 

「朝日奈さん……だったかい?」

 

「はい。私の名前ご存知なんですね」

 

「あぁ……校内では有名だからな」

 

「そんな……恐縮です」

 

 優等生の彼女は学年とクラスが違ってもこの学校にきてすぐに耳に入った。学年一の成績と思いやりのある人格は全ての生徒が見習うべきだと他の教員からも聞かされた。こうして会うのは初めてなのだが……

 

 

「…………」

 

「……? どうかされました?」

 

「……いや、なんでもない。授業頑張ってくれ」

 

 そう言って理雄は再び歩き出す。至って何事もなかったかのように。

 

(あの女……妙な違和感を感じる……。そう、まるで……)

 

 仮面を被っているのは間違いない。ただ理雄が違和感を感じたのはその奥にある彼女の素の感情だ。

 

 彼女はうまく誤魔化しているが、理雄は彼女の目の奥にある本当の人格の断片を垣間見た。あれは腐るほど見ているからよく分かる。それはこの世の不条理さを目の当たりにし、身をもって苦痛に苛まれ続けている人間の目。まさに……

 

(財団職員の目……に近い)

 

 理不尽に最後まで争おうとする財団の守護者達とは違い。彼女から自分の意思は感じられない。まるでマリオネットのようだ。理雄はそれを不気味に感じる以上に……。

 

 

 心の底から湧き上がる嫌悪感に表情を歪めないようにするのに精一杯だった。

 

 *

 

 

 朝日奈まふゆは廊下で理雄の背中を見送っていた。気のせいかもしれないが、まふゆは彼に自分の本性を見抜かれたような気がした。そして、一瞬ではあったが。

 

(凄く嫌な物を見るような目をされたように見えた……)

 

 侮蔑、厭悪、否定、とにかく関わりたくないという感情が一気に溢れている目だった。朝日奈まふゆという人間を根本的に否定し、拒絶していたようだった。あのような目を向けられたのは生まれて初めてかもしれない。

 

(……いや、面倒だからいい……)

 

 朝日奈まふゆは仮面の下の本当の自分。暗く感情が感じられない瞳で思考を放棄する。どのみち大して関わることのない人物だ。考えるだけ時間の無駄だと結論を出して自分の教室に戻る。あの目に見えた拒絶の感情に少し驚いただけだ。というか……

 …………

 ………………

 …………………………

 

 もう何も考えたくない。消えたい。

 

 

 彼女は今日も自分の生に絶望する。

 

 

 *

 

 

 放課後になって校舎を出ると、校門の前に一歌達が待ち構えていた。

 

「あっ、先生!」

 

「天馬さん……?」

 

 見ると天馬咲希が太陽のような笑顔でこちらに手を振ってきた。理雄は彼女らの近くに駆け寄る。

 

「どうした? みんなして……」

 

「改めて先生にお礼を言いたくて」

 

 一歌が4人の代表として前に出る。

 

「あの時、先生とミ……大事な先輩達に背中を押してもらったおかげで私達はまた一つになれたんです……。本当に、ありがとうございました!」

 

 一歌が頭を下げ、他の3人も同じように礼をする。いきなりの事に理雄は少し驚く。

 

「……そうか、良かった……」

 

 理雄は素直に喜ばしい気持ちになる。自分の助けで彼女らを望む未来に導く事が少しでも出来たのは誇らしかった。すると咲希がうれしそうに話し始める。

 

「実は私たち、バンド組む事になりましたー!!」

 

「そういえば前に言っていたな……バンド名は?」

 

「みんなで考えたんです。その名は〜……Leo/need!!」

 

 妙に芝居がかった調子でバンド名を口にする咲希。それに対し理雄はほぅと感嘆をもらす。

 

「えっと……昔皆で見た獅子座流星群のフランス語読みと、皆が必要って意味でそういう名前にしたんです」

 

 穂波が補足説明してくれる。……獅子座流星群……必要……か。

 

「……Ceux qui ont besoin les uns des autres sous la pluie de me'te'ores Leo」

 

「……?」

 

「(獅子座流星群の下に集いし求め合う者たち)……フランス語でな」

 

 いきなり流暢な外国語に一歌達は驚いていた。

 

「理雄先生ってどこで語学を勉強したんですか?」

 

 志歩に問われる。理雄は嘘と事実を織り交ぜて答える。

 

「……自衛官時代に米軍に留学した経験があるんだよ」

 

「え、理雄先生って自衛官だったんですか!?」

 

「通りで逞しいと思ったら……」

 

 元の世界の理雄の表向きの身分は自衛官だった。偽造ではなく正規の自衛官として海上自衛隊と日本国防衛省に登録されている。高校時代に訓練校で語学を本格的に勉強し始め、その後もNABY SEALSやジュリエットチームで試験を多数受けた。理雄にフランス語を教えてくれたフランス人戦闘員は2年程前にジュリエットチームとの共闘作戦で両足切断の重傷を負って戦術チームから除隊。その後は音信不通となっている。正直心配だ。

 

 

「いろんな人からいろんな事を学んだよ。皆俺の友人だ」

 

 シータ25の他の分隊のメンバーや他に世話になった人物は今どうしているのだろうか……。もう死んでしまったかもしれない。だが彼ら屈強な兵士がそう簡単にくたばるとは思えない。彼らの力強い笑顔を思い出して理雄はそう思っていた。

 

「ところで志歩ちゃん。いつから先生の事を名前で呼ぶようになったのかな〜?」

 

 咲希がニヤニヤしながら志歩に問うと志歩は少し恥ずかしそうな様子で。

 

「べっ、別になんだって良いでしょ……」

 

「ふ〜ん……じゃあ私もそう呼びたい!」

 

「え?」

 

 突然のことに理雄は抜けた声をだす。咲希は上目遣いでこちらに向き直ると懇願しだす。瞳を潤ませながら。

 

「お願いします。リオせんせ〜」

 

「だ、だったら私も!」

 

「私も……ダメ、ですか?」

 

 一歌と穂波も同じように懇願してくる。別に断る理由はないがこの状況には少し面食らう。元の世界で幼馴染達と一緒にいた頃以来だ。

 

「……どうぞお好きなように」

 

 そう言うと彼女らはキャッキャと喜び合う。咲希が嬉しそうに前に出て言う。

 

「改めて、よろしくお願いします! リオせんせー!!」

 

 

 *

 

 嬉しそうに咲希ははしゃいでいるが志歩はそれを複雑な気持ちで見ていた。何故自分がそのような感情を抱いているのかわからなかった。志歩は曖昧な自分の心を確かめるように理雄の顔を見る。しかし彼の目を見てそれとは全く別の感情が湧き上がってきてしまった。

 

(……理雄先生。なんで視線が穂波の胸にいってるんですか? こっちを見てください)

 

 志歩は緋く萌える……ではなく、赤く燃える鋭い眼差しを理雄に向けていた。それがどのような感情からくるものなのか、志歩からの視線に気付いた理雄は考えないようにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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