Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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 祝!百話突破ッ!ここまで来れたのも皆様の応援のおかげです。引き続きご愛読お願いします!


第七十四話 Vivi te salutant

 

 向一のMG3が毎分1,150発という高速レートで銀の銃弾を撃ち続ける。7.62mmNATO弾の暴風雨が黒い影を次々と薙ぎ払って行くが、突撃が収まる様子は一向にない。押し寄せるSCP-1983-2の群れは次第にその数を増していくばかりだった。

 

「クソッ、どれだけ湧いて来るんだ!」

 

悟が悪態を吐きながらHK416のセミオート射撃でSCP-1983-2の心臓を正確に撃ち抜いていく。殺害された人型の影は小さな硫黄の跡を残し蒸発するが、いかんせん数が多すぎる。最初の第一波の攻撃ではせいぜい数十体程度だったが、現在の第二波襲来では数百体に上る個体群が監獄の通路を埋め尽くし、絶望的な人海戦術を繰り返してくる。

 

「近寄らせるなッ!奴等に触れられた瞬間に心臓を引き抜かれて終わるぞッ、撃ちまくれッ!!」

 

怒声を上げながら初雪がM870を撃ち続ける。ポンプアクション式ショットガン特有の銃身の下にある手持ち部分(フォアエンド)を手動で前後にスライドさせて排莢と次弾の装填、発砲を何度も繰り返す。

 

「おい!グズグズしてないで早くそのクソ野郎を転送しろ!」

 

「多少乱暴に扱ってもいいぞ!息さえしてりゃ十分だからなッ」

 

「言われなくてもそのつもりだッ!」

 

背中から英牙と信孝に怒鳴られ、往生際悪く暴れ続ける盾壁を棺の中へと押し込める。

 

「大人しくしろってんだッ、クソッタレ…!」

 

足で蹴り込みながら無理矢理盾壁の身体をねじ込み、棺の蓋を閉める。

 

「完了だ!!」

 

「よし!残弾が尽きた奴から順番に離脱しろッ!」

 

 鉄格子の隙間からサプレッサーを装着した銃口を突き出し、銃撃を続けていた悠間のHKがボルトを後退させたまま止まる。

 

「ジュリエット4残弾ゼロ、離脱する!」

 

悠間が棺へと向かい、戦列を離れる。

 

「これでも喰らいやがれクソどもッ!」

 

D-14134こと、フレディ・I・ヴォーンがコルトガバメントの引き金を引く。拳銃弾の中でも弾頭が大きく重く、炸薬量も多い45口径弾の強烈な反動が掌に伝わる。しかし所詮は装弾数の少ない拳銃、連続の発砲を数回行っただけでホールドオープン、弾切れを知らせる。

 

「クソッ、もう弾がない!」

 

「デッドストック*1!コイツを使え!!」

 

悟が腿のホルスターからフルマガジンのVP9拳銃を手渡す。理雄は思わず目を疑った。Dクラス職員の大半は死刑囚や自殺志願者で構成されている。彼ら一人一人の事情や背景はどうであれ、そういった負の側面から一般職員の信頼などまず得られない。そもそも規則上、Dクラスへの武器貸与は原則として禁止されている。悠間がガバメントを返した事といい、いくら英雄的活躍をしたからといっても、背中から撃たれるリスクを犯してまで彼を信用する判断に驚きを隠せなかった。

 

ドイツの銃器メーカー、H&K社が2014年に開発したポリマーフレームのハンドガンを前に、フレディは当惑する。

 

「おいおい、なんだこの銃ッ?見た事ないんだが!?」

 

「基本的な使い方はガバメントと同じだ!口径は9mm。装弾数は15発。外部安全装置(マニュアルセーフティ)が無いのとハンマー式と違って不発時の再撃発に手間が掛かるからスライドは必ず引け。注意するのはこの二つだ。引き金のキレの悪さは我慢しろ!」

 

見慣れぬストライカー式撃発機構を備えた自動拳銃に戸惑う中、悟が簡単なレクチャーを行う。

 

 弾切れを起こしたガバメントを腰に戻し、スライドを少し引いて薬室(チャンバー)に初弾が装填されている事を確認すると、両手で構えて銃撃を再開する。

 

 その数分後に、ようやく第二波を退ける事に成功した。

 

「各自、状況報告!残弾を確認しろッ」

 

 英牙の指示に、各々が携帯する武器弾薬類をチェック、継戦能力の有無を確認する。

 

「ジュリエット2。12ゲージバックショット弾、残弾4…」

 

「ジュリエット5!5.56mmワンマグ、残弾39発!」

 

「ジュリエット6、残弾50…。チクショウ、やっぱ棺に収まる量の弾じゃ全然足りねぇよッ…!」

 

「クソッタレ……!これじゃジリ品だ。第三波が来る前に離脱するぞ!」

 

「待て英牙」

 

不意に、初雪が落ち着いた声音で話す。

 

「なんだ、どうした?」

 

「おかしいと思わないか?」

 

「何がだ」

 

「さっきから攻撃を仕掛けてくるのはSCP-1983-2ばかりだ。見た所統率も何も取られていない。集団としてのコントロールがないまま無謀な突撃を繰り返すばかりだ」

 

「それがどうした?どのみちこの調子じゃ俺たちの方が押し負けるッ」

 

「コッチには盾壁がいるんだぞ?取り戻す気があるなら理性のある人間の傭兵かイソギンチャクの看守を寄越す筈だろ。なのに連中はブチ殺す気満々のアノマリーしか送り込んでこない。アレに敵味方の区別が出来るとは思えないし、手当たり次第に人間の心臓を引き抜こうとする生き物だ。そんなモンを使えば盾壁も巻き添えを喰らうに決まってるッ」

 

「待て、何が言いたい?」

 

「……ヤツら、最初から盾壁を切り捨てるつもりなんじゃないのか?」

 

「…………」

 

 初雪の灰色の瞳が鋭く細められ、英牙を見据える。

 

「考えてみれば、いくら奇襲作戦とはいえここまで上手く行きすぎている。MC&Dが本気で盾壁を守る気があるなら、ここよりももっと見つかりにくい場所に隠すべきだ。そうしないという事は------」

 

「おいッ!また次が来るぞ!!」

 

 応急処置を終えた虎徹が叫ぶと、二人が振り向いた先から影の軍団(レギオン)の第三波が殺意の咆哮と共に波状攻撃を仕掛けてくる。先程の倍以上の軍勢だ。

 

 馬鹿な……第二波の攻撃終了からまだ2分と経っていない。だというのに------。

 

「すり潰されてたまるかよッ!」

 

初雪と共にひたすらトリガーを引き絞るが、もとより僅かな残弾で対処できる物量ではない。二人同時に、一瞬で残っていた携行弾薬の全てを使い果たしてしまう。

 

「理雄!弾倉(マガジン)を寄越せッ!」

 

「はい!」

 

タクティカルベストのマガジンポーチから30発入りのポリマー製マガジン(PMAG)を一本取り出し、英牙に渡す。

 

「死にやがれぇッ!!」

 

 信孝が咆哮と共にMINIMIによる掃射を続ける。消音装着(サプレッサー)で消音されているとはいえ、乾いた銃声と銃口から噴き出る硝煙までは消せない。銀の弾丸を軽快に射出し続ける軽機関銃(ライトマシンガン)の旋律が----------突如として途絶えた。

 

「…ッ!?クソ!排莢不良(ジャム)だ!!」

 

不測の事態に慌てる事なく、冷静なまま急いで弾詰まりを解消しようとするが、コンマ数秒後に最悪の事態が起きた。

 

「クッ…!銃身が…!」

 

殲滅の咆哮を轟かせていた向一のMG3が弾薬の大量消費による銃身の加熱を引き起こし、速やかな銃身の交換を必要としていた。つまり、撃ち続ける銃の中で一番火力のある機関銃が二丁とも沈黙したのだ。しかも不運は立て続けに発生し、他のメンバーが撃つ銃も続々と弾切れでダウン、自然と正面火力が薄くなっていく。

 

「どうする!?撤退するかッ?」

 

「無理だ!この人数が離脱するには誰かが第三波を押し留めないとッ」

 

「俺がやるッ」

 

 悟と初雪が叫ぶ中、理雄が前へと出る。使い切った他の面子と違って弾薬は十分にある。あと必要なのは----------。

 

「死ね!死ねぇぇぇェェェェェェッ!心臓の燃えカスどもがアアアアアアアアッ!!」

 

修羅の形相でフレディがVP9を乱射するが、拳銃の制圧力(ストッピングパワー)では歯が立たない。セレクターをセミオートのまま固定し、迫り来る怪異(アノマリー)の軍勢を照準。

 

 ゴァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

 

 膝撃ち(ニーリング)の姿勢で鉄格子の隙間から銃口を突き出し、静かに目を閉じる。

 

 かつて、『ブラックロッジ事件』で大切な人達の生命を理不尽に奪われ、神への信仰心を失くし、世界への信頼を失った。"祈る"という行為は"縋る"のと同意義だと思った。だから自分以外の何者も信じず、縋らないと決めた。己の力のみを信じ、他者を頼るのを止めた。何かに縋った所で、守れるものは何一つない。他者の力に運命を委ねた瞬間、全てを失うと思い知らされたからだ。

 

 そんな考えを変えてくれたのは、これまでに出会った仲間たち……。彼らが此方を信じ、未熟な自分を守ってくれたからこそ、自分も彼らを信じる事が出来た。

 

 ジュリエットや他のシータ-25の同胞達、そしてSA-5000-2(あの世界)で出会った一歌やみのり、えむといった人々の絆や想いの強さを目の当たりにして、志熊理雄はある一つの結論を出した。

 

 "祈る"という行為は、"信じる"という意味なのだろう。ジュリエットの仲間達を信じ、一歌達を信じ、莉梨歌達を信じた様に----------。自分もまた、彼ら彼女らに信じられている。その想いが祈りとなって、自分に力を与えてくれていた。

 

 その事実を、元の世界で思い出す事が出来た。だから---------!

 

----------俺は、皆んなの信じる心(祈り)に報いるッ。想いに応える為にも、俺は彼女達を信じるッ。

 

 誰かを心から想う信念が祈りとなり、弾丸となって薬室に装填され、活眼ッ-------!

 

 トリガーを引いた瞬間にカートリッジが撃発、弾頭を射出。祈りの込められた銀の銃弾(シルバー・ブレット)が銃口から高初速で飛び出し、先頭のSCP-1983-2の頭部に命中。一瞬で消滅させる。

 

------効いたッ!

 

 更に連続で発砲し、今度は足元を狙う。最前列の個体群に殺さない程度のダメージを与えると、転倒。後続の集団が足元を取られ前方に倒れていく。破竹の勢いが止まった------。

 

「今だ!ありったけの銀の弾丸を撃ち込んでやれッ!殲滅しろォォォォォォォォォォッ!!」

 

英牙がVP9をドロウ、銃身交換と給弾ベルトの再装填を終えた向一のMG32が火を噴き、弾詰まりを直した信孝のMINIMIがそれに続く。戦列に加わる全員の銃から祈りの弾丸が放たれ、心臓の塊から生まれし怪物を撃ち抜いていく。

 

 次々と力尽きていくSCP-1983-2の悍ましい断末魔が監獄内に響く中、英牙が怒鳴る。

 

「あと何体だ!?」

 

「60体だ!59……48…!」

 

初雪がカウントし、信孝、向一、悟が続きを引き継ぐ。

 

「47……35ッ」

 

「29……18…!」

 

「12……4…!!」

 

 理雄が最後のマガジンをHKに叩き込み、ボルトキャッチで装填。

 

「残り……1ッ!!」

 

残った敵を排除しようとトリガーを引き、ストックを通じて肩に鋭い反動が伝わるが、ライフリングによる高速回転をもって放たれた5.56mm弾は、SCP-1983-2による縦横無尽の回避運動によって全弾回避される。集団としての壊滅により、通路が開けた空間を自由自在に動けるようになったのだ。

 

 そして、敵との距離が残り10mを切った時、HKに装填されたラストのマガジン残弾が底を尽きた。

 

「チィッ…!」

 

『ヴォアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

雄叫びを上げながら黒い鉤爪を突き出し、鉄格子の隙間を縫って理雄の胸腔を狙う。

 

「うぉおおおオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

裂帛の気合いと異形の叫びが交錯した瞬間、一発の銃声が木霊する。

 

「ハァ、ハァ、ハァッ…!」

 

上体を捻って鉤爪の攻撃を紙一重で躱すと同時に、右手でホルスターからVP9をクイックドロウ(抜き撃ち)(ゼロ)距離から撃ち放たれた弾丸は狙い過たずSCP-1983-2の心臓を撃ち抜いた。

 

『ア……アァ…』

 

短い断末魔を遺して、SCP-1983-2は影も残さず消滅した。

 

「第三波………殲滅ッ…!」

 

「すぐに離脱だ!全員離脱ッ、急げ!!」

 

英牙の指示に全員が棺へと集まる。向一を先頭に悟、信孝、初雪、英牙が現実世界へと帰還していく中、最後に理雄の番となる。

 

「…………」

 

「…?どうした?蓋は俺たちが閉めてやるから安心しろ。この棺は次の作戦にも使うらしいから、ちゃんと壊さず残しておく」  

 

 棺の前で動きを止める理雄に虎徹が言うと、二人のDクラスの方に振り返る。

 

「アンタらは……ここに残るのか?」

 

「あぁ、俺達にはまだやるべき事がある。……向こうに戻っても、誰も帰りを待つヤツなんていないしな…」

 

「…………」

 

視線を落とす理雄に対し、フレディが自嘲する様な表情で軽く肩を叩いてくる。

 

「気にするな、俺達とお前らは違う。……俺達は弾丸だ。不幸にも心臓を貫き、飛び出しちまった銀の弾丸。ここには怪物を殺すヒーローなんていない。あるのは、ただ怪物から人々を護る意思……それだけだ。そして俺達はそんな意思持つ財団(機械ども)の武器。……それにも満たない馬鹿な鉄砲玉なんだよ」

 

フレディの青い瞳はひどく冷たく、乾いていた。その奥に感じるのは義務感------或いは唯一の使命感にも似た激情だった。

 

「俺達は人殺しだ。下賤で薄汚いただの殺人鬼に過ぎない。野良犬にも劣るこの生命(いのち)だが、それでも俺には、祈り(想い)を託されたヒーローがいる。だから扉を閉め続ける。コイツが鍵を壊し続ける様にッ」

 

 自らに十字架を背負わせたのは、他でもない彼ら自身だ。救われる日は一生訪れない。未来なんて大層なものは身に余る。二人の最期は、使い捨ての銃弾としての惨めな終わりだけだ。一度銃口から放たれた弾丸が二度と戻らないように------。

 

「俺も……アンタらと同じだ。いや、同じだった(・・・・・)

 

 怪物を殺す銃弾としての宿命を自らに課したのは、理雄や英牙達も同じだ。事情はどうであれ、終わりなき戦いに身を投じるという意味では、自分も彼らと同じ、銃弾としての役割りを全うする兵士でしかない。だが---------。

 

「俺には守らなきゃいけない人達がいる。その人達の生命も、想いも……。全てを守るには、ただ降りかかる脅威を払うだけじゃ足りないんだ。彼女達の望む未来に辿り着くには、この世界を撃ち抜く銃弾である必要がある」

 

「世界を……撃ち抜く…?」

 

「その為に、俺は変わると決めた……強くなると誓ったんだ!いつか地に落ちる銀の銃弾じゃない、全てを守れる最強の銃弾にッ!!」

 

 それは途方もなく非現実的で、幻想とも言える決意。二人ともアノマリーの脅威を正しく理解しているだけあって、理雄の目標は常識を超えた、滅茶苦茶な誇大妄想に聞こえた。虎徹とフレディは此方を見たまま暫し呆然と立ち尽くしていたが、やがてフレディが小さく口を開く。

 

「最強の銃弾、か………一応聞いておくが、ソレ、なんて名前の弾だ?完全被甲弾(フルメタルジャケット)拡張弾頭(ホローポイント)?」

 

「まだ分からない。だが……この戦いを乗り越えたら、その名前が分かるかもしれない」

 

「そうか……。分かったらいつか聞かせてくれ。お前の………銃弾としての名を」

 

 右手をゆっくりと差し出してくる。

 

Morituri te salutant(死にゆく者より敬礼を)

 

かつてエージェント・バークレーが最期に遺した、ラテン語のフレーズを口にする。古代ローマの歴史家、スエトニウスの記録によると、西暦52年にクラウディウス皇帝が臨席したフキヌス湖での模擬海戦(ナウマキア)の際、死刑囚や捕虜などの参加者が皇帝に送った挨拶とされる。

 

 同じ言葉を返そうとして、一旦口を閉じる。

 

「…Aut non(いや、死なないかもな)

 

 理雄がニヤリと小さく笑うと、当時の皇帝が剣闘士達に返した言葉を口にする。フレディも虎徹も少し驚いている様子だった。

 

Vivi te salutant(生ある者より敬礼を)……最後の最後まで、お互いみっともなく足掻こうぜ、銃弾の兄弟よ」

 

 固い掌を、強く握り返した。

 

 

 

*1
Dクラス職員の俗称、いくらでも消費できる"余剰品"という意味

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