Project SEKAI SCP INCIDENT feat . 作:唯尊
光の眩しさに閉じられた瞼が、再び開けられた時、目の前には別世界が広がっていた。
「こ、れは…」
「…………」
理雄と英牙が立っているのは、広大なテーマパークの中心地だった。辺りを見回すと、カラフルな外観で彩られた多種多様なアトラクションが至る所に設置されている。ポップな曲調を奏でるオルガンの旋律と共に回るメリーゴーランド、空まで届きそうな高さの観覧車、轟音を上げながらレールを疾走するジェットコースターの車体が地上と上空を縦横無尽に駆け巡っていた。
視線を上に向ければ、晴れ渡る空を大量の風船と紙吹雪が埋め尽くし、蒼穹の彼方まで支配しそうな勢いである。
「まさに、絵に描いたような夢の世界ですね」
「あぁ、俺達には一番縁遠い世界だ」
皮肉混じりに英牙が肩を竦めると、キョロキョロと周囲に視線を巡らせる。
「コレがあの女が言っていた、他人のセカイってヤツか?」
「その一つ……なんでしょうね。IAの話が本当なら、こんなのが幾つも存在するのか…」
興味深げに辺りを観察していると、おや…、とある異変に気付く。
「おかしい…」
「今更だろ、こんな訳の分からない空間に放り込まれるなんざ、前にも---------」
「そうじゃなくて、アレですッ」
理雄が指差した方向を見て、英牙も怪訝そうに眉を顰める。
「なんだ…?」
二人が視線を注いだ先には、壁の塗装が剥がれ落ちたかの様に、景色の一部が不自然な形で消失していた。まるで、この空間を構成するパズルのピースが欠けてる様に見えた。
「アレも異常の一種……なのか?」
「分かりません。ただ、このセカイはどうにも普通じゃない。元々は馬鹿みたいに明るくて人を楽しませる事が目的------いや、その想いが創り出したセカイの様に思えます。ですがこれは……」
テーマパーク特有の喧騒どころか、人っ子一人存在しない。アトラクション類は稼働していても、どこか寂しげというか、このセカイに必要な決定的な何かが欠けている気がした。
「何でしょうね、この違和感…」
「さぁな、それより、問題はこれからどうするか------」
お互いに非武装で英牙に至っては病院着姿。文字通り着の身着のままの自分達をこんな所に放り込んで、IAは何がしたいのだろうか。そもそも、本当にこのセカイにえむが関わって------。
「------ッ!?天城さん!」
「あぁ、誰か来るッ」
その時、背後から何者かの気配を察知する。距離こそ離れているが、英牙も接近してくるアンノウンに気付き、後方に視線を向けると------。
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
巨大な頭を持つ人型の怪生物が、絶叫しながら理雄達の方へと吶喊してくる。
「な、なんだァ…!?」
場慣れしたベテラン格の英牙も、異様に膨張した頭部を左右に振り回しながら突撃してくる様は相当不気味に映ったのか、仰天していた。すかさず理雄が前へと躍り出ると、身体中に走る激痛を無視して右脚を跳ね上げる。放たれた前蹴りが怪物の頭部にクリーンヒット。真正面から強烈な一撃を喰らい、謎の生き物はもんどり打って背中から倒れる。そのまま膝を鳩尾に突き込んで身動きを封じると、『ぐげぇッ…』と轢殺された蛙の断末魔みたいな呻き声を上げる。押さえつける膝から伝わる感触に、ふと既視感を覚えた。
「着ぐるみッ…!?」
いつの日だったか、公衆の面前で白昼堂々と理雄を誘拐犯扱いしてきたフェニランの着ぐるみ野郎を叩き潰した時と同じ感触だった。眼前で抑え込まれる珍妙な生物の正体は、『ミクダヨー』と呼ばれる『初音ミク』の被り物だった。
『く、苦しい……よ…』
呼吸を妨げられた着ぐるみが喘ぐ。取り敢えず此方への害意は無さそうだったので、身体の上から膝を退けると『ゴホッ、ゴホッ…!』と軽く咳き込みながら『ミクダヨー』は起き上がる。
「何なんだお前は……」
『そ、それより助けて!』
ド迫力の顔面のまま此方に詰め寄ってくると、先程まで走ってきた道の方向を指差す。
『ゴガァァァァァァァァッ!!」
指し示した方向から、人型の黒い影が群れを成し、憎悪の咆哮と共に押し寄せてくる。その数は二百体を軽く超えており、ゾンビ映画のワンシーンの様だった。
「1983-2ッ!?」
「馬鹿な……なんでこんな所にッ…!」
『ねぇ!早く逃げようよッ!』
得体の知れない着ぐるみに急かされる形で、三人は逃走を開始する。しかし、負傷した理雄や英牙よりも、着ぐるみ女の方が遥に移動速度が遅い。
「おいッ、そんなモン被ってたら逃げられる訳ないだろ!早く捨てろッ!」
英牙が怒鳴るが、『ミクダヨー』は首を横に振る。
『無理無理無理ィ〜!頭の部分がはまって取れないんだから〜!』
「はぁッ!?」
冗談ではない、お荷物を抱えたままアノマリーから逃げ切るなど不可能だ。
「理雄!スマホの『untitled』をタップしろ。それで元の場所に戻れないか!?」
英牙の指示にはたと気づき、ポケットからスマホを取り出しアイコンをタップしたが------。
「ダメですッ。何度やっても一切反応しません!!」
「クソッタレ…!」と英牙は忌々しそうに吐き捨てる。
「あの女……今度は俺達をバケモノが暴れる空間に監禁しやがったッ!マズイぞ……離脱も出来ない、完全に逃げ場がなくなった!!」
*
足手纏いになりつつある着ぐるみを半ば引きずる形で全力疾走するが、ほんの数メートル走るだけでも傷口が開きそうで死ぬ程痛い。このまま走り続けても、やがては追いつかれ、最終的に奴等の餌食になるのは目に見えていた。
「クソッ、天城さん!取り敢えずあのジェットコースターに乗りましょうッ」
そう言って進路上に見えてきたジェットコースターの出入り口を指差す。
「コイツを乗せてかッ?車体からはみ出るぞ!」
「無理にでも押し込むしかないでしょ!このままじゃ三人仲良く心臓抜かれて終わりですよッ!」
「あぁチクショウ!分かったそれで行くッ」
理雄と英牙は着ぐるみを連れてジェットコースターの乗り場へと向かう。そこへ足を踏み入れた瞬間、それまでジェットコースターと思われていた物の車体が、前時代的な蒸気機関車を模している事に気付く。いや、車列の先頭を務める機関車の煙突から白い煙が濛々と吐き出されている所を見るに、童話の世界に登場する様な文字通りの空中機関車であった。
「少なくとも、コイツを乗せるスペースはありそうだな…」
理雄が一人でに呟くと、後ろ襟の辺りを掴まれた着ぐるみが憤慨する。
『"コイツ"じゃないよ!ミクダ---------』
「お前は黙ってろッ!」
『あ、ハイ。ミク黙ってます……』
英牙に怒鳴られ着ぐるみがシュン…とする。急いで車列の後方に連結されている客車の扉を開け放つ。
「な---------!?」
客車の内部を目の当たりにし、またもや衝撃を受ける。客席や荷物置き場、場所を問わず、車内の凡ゆる所に大勢のぬいぐるみ達が乗車していたのだ。しかもその全てが自らの意思を持っているかの様に動いており、驚愕と怯えの表情で此方を見てくる。誰もいないと思っていたが、まさか今までずっとここに隠れていたのだろうか。
「おい!今はそんな奴等どうだっていいだろ!」
英牙が二人の背中を押し強引に乗車させると、自身が乗ったのを最後にそのまま客車の扉を閉める。直後、客車の
「俺はバリケードを作る!理雄、お前は先頭車両に向かって列車を出発させろッ。一応聞くが動かせるんだろうなッ!?」
「操縦出来る様に見えます!?まぁこんな状況ですし、やってやりますよ!!」
英牙が周りの客席を無造作に掴むと、馬鹿力に任せて無理矢理引っこ抜き、バリケードの材料とする。負傷した左手が使えないので、バリケードの構築を隻腕のみで行っている。怪我人とは思えない行動に内心呆れるも、理雄は先頭車両を目指す。
「邪魔だ!どいてくれ!」
通路を塞いでるぬいぐるみ達をかき分けながら、急いで先頭の機関車両へと走る。車両は全部で五両編成となっていた。
「今すぐ出せ!早くしないと------」
ようやく辿り着いた機関車両の中に飛び込むと、そこに見知った人物達がいて絶句する。中にいた二人も理雄を見て驚愕の表情を浮かべていた。
『き、君は…!?』
「志熊さん…!?」
一人は男性ボーカロイドのKAITO、もう一人は長い灰緑髪の少女------。
「草薙寧々……だと?」
よもやこの様な場所で彼女と対面するとは思わず、数秒の間硬直していると、先頭車両の外側から車体装甲をガリガリと引き裂く悍ましい音がする。
---------マズイ…!このままだと車内に侵入されるッ。
「ど、どうしてここにッ…!?」
「さぁな、悪いが説明してる時間はないッ」
私服姿の寧々を横目に、KAITOへ詰め寄る。
「いいかよく聞けッ、お互い色々と聞きたい事はあるだろうが、外にいる連中は俺達全員を一人残らずブチ殺そうとしてくる奴等だ。逃げる為にはこの列車がいる。動かせるかッ?」
理雄の気迫にKAITOは若干気圧されながらも首を縦に振る。
『あ、あぁ、準備は整ったからすぐにでも出せるよ。たぶん一番高い所まで行けば------』
その時、背後の後部車両からガラスが激しく割れる音がする。どうやら想定される状況の中でも最悪の事態が発生したらしい。
「チッ、侵入されたか…!俺は時間を稼ぐ、二人はすぐにコイツを出してくれッ!」
『時間を稼ぐって……、どうするつもりだいッ?類……友達も自作の武器やら道具やらで色々抵抗したけど、結局どれも歯が立たなかったし、丸腰のままじゃ返り討ちに遭う!』
「何もしなければ
『…ッ!わかった!』
KAITOは
ギギギ…と動輪が軋む音を上げながら、空中機関車は鈍重に動き始める。発車した事を確認すると、理雄は揺れる列車の中を駆けながら最後尾の車両まで走る。
到着した時には、既にガラス窓は破壊され、扉もバリケードも破られかけていた。
「全員、前の車両に移れッ!最後尾は切り離す!」
英牙の指示に従うまでもなく、ぬいぐるみ達は我先にと前部車両へ逃げる。全員が乗り移ったのを確認すると、英牙は客車間を繋ぐ連結部に視線を向ける。デッキの端から伸びている解放テコと呼ばれる自動連結器のロックを外すクランク状の金属棒を手で掴み持ち上げようとするが、流石の英牙でも片腕だけではビクともしない。
「理雄!手伝えッ」
言われるまでもない。理雄が隣に並ぶと、両手でレバーを握り、万力を込めて持ち上げる。レバーが完全に引き上がった所でガシャンッ、とロックが外れ、重い金属音が鳴り響く。繋ぎ止めていた
『ガァァァァァァァァッ!!」
最後尾の車両と距離が開けた瞬間、崩壊寸前のバリケードが完全突破される。瞬く間に夥しい数のSCP-1983-2が車内に侵入し、蠢く蟲達の如く反対入り口まで到達すると、凄まじい進撃速度を維持したまま車外へと跳び出す。黒い羽虫の大群が群がる様に、理雄達の車両へと跳び移ってくる。
「中に入れッ!」
英牙と共に車内へ飛び込むと、すぐさま扉を閉じようとする。しかしそれより先に、車外から扉へとドロップキックを繰り出した1983-2に木製のドアごと後方へと蹴り飛ばされる。
「理雄ッ」
英牙に呼び掛けられながら、背中と傷口に伝わる激痛に顔を顰めながら視線を上げる。
『フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ…!!』
獣の如き唸り声を上げる影の兵士が、眼前に迫る。黒い鉤爪を振り上げた瞬間、己の死を予感した----------。
「その人から離れてッ!」
刹那、空気の抜ける様な音と同時に円筒状の小さな塊が後方から飛来、1983-2に命中するも、煙を撃ち抜いたかの様に影の身体を虚しく通り抜けていく。地面に転がったのは、コルクの弾丸だった。
「------草薙!?」
「ハァ、ハァ、ハァ…!」
背後を振り返ると、震える脚のまま空気銃らしきライフルを構える寧々の姿があった。次弾を装填しようとするが、緊張と恐怖で手が震えており、再装填に手間取っていた。
「は、早く…早くッ…!」
『……………』
文字通り擦り傷にもならないとはいえ、攻撃を受けた事により排除対象を変えたのか、振り上げた鉤爪を下ろすと、ゆっくりと寧々の方へと歩を進める。
「こ、来ないで!」
えむが叫びながら銃口を向けるが、1983-2が振り払った腕に軽く叩き落とされ、手放した空気銃が床に転がる。
「あ……」
武器を失い、抵抗する術が無くなった寧々は瞳に絶望を浮かべ、一筋の乾いた涙を流す。心臓を簒奪する絶死の腕が寧々へと伸びる------。
「草薙ーーーッ!」
彼女の元へ向かおうとするが、別個体の1983-2に阻まれる。見れば、車内に五体、車外には十体以上の敵が取り付いていた。排除しようにも戦う術の一切を持たない以上、この状況を打開する事は叶わない。
この場で一方的に殲滅され、蹂躙される未来が確定しようとしたその時------。
『理雄!英牙ッ』
不意に、何処からか少女の声が聞こえてくる。気が付けば、奥の入り口付近にIAが立っていた。両手に握られているのはハンドガン。人間の業……或いは"想い"が生み出した冷徹な
『受け取って!』
二丁の拳銃を同時に宙へと放る。放物線を描き、此方側へと落ちて来るのを肉眼が捉えた。その内の一丁へ手を伸ばし、銃身の部分を掴んだ瞬間---------掌の内でXDMを回転させ
カートリッジ底部の雷管が撃発され、40口径の強烈な反動が手首へと伝わる。焼ける様な硝煙臭と共に空薬莢が排出され、銀の弾頭がライフリングを通じて高速回転。狙い過たず1983-2の胸部を穿ち、貫いた。
「え…?」
それまで不死身と思われていた怪物が目の前で消散していく光景を前に、寧々が呆然と呟く。英牙も投げ渡されたFN HiPerを手に銃撃、
『なんだか悲惨な状況になってるけど、私がコイツらをどうにかする。準備が整うまで、君達で時間を稼いで!」
それだけ言うと、IAは再び光の輝きの中へと消えていく。
「クソッ、勝手な事を……!理雄!俺は車内に侵入した奴等を叩くッ。お前は車外から内部に侵入しようとする連中を駆逐しろッ!」
「了!草薙、立てるかッ?」
英牙に車内の敵を任せ、腰を抜かしへたり込んだ寧々に手を差し出す。
「は、はい…」
震える声のまま、理雄の手を借りて何とか立ち上がる。刹那、奥の車両から複数の悲鳴が聞こえてくる。どうやら他にも自分達が知らない乗客がいるらしい。
「MEIKO…!それにリン!」
寧々が血相を変えて叫ぶ辺り、赤の他人ではなく知り合いの様だ。つまり、見捨てる訳にはいかない。
「草薙!俺の半径1メートル以内から離れるなよ。ついて来いッ」
「は、はい!」
寧々に上着の裾を掴ませながら、奥の車両へと移動する。
「天城さん!ここをお願いしますッ」
「分かった!そいつと一緒に行け!!」
英牙のHiPerによる援護を受けながら、寧々と共に奥の車両へと向かう。途中、列車の壁や天井を破壊して1983-2が侵入してくるが、XDMが放つ銀の銃弾の前に悉く撃ち倒されていく。
目的の車両に到着すると、座り込んだ黄色の短髪の少女を庇う様に立ちはだかる同じ色の髪の少年と、栗色の髪をショートヘアにした成人女性の姿が目に映る。客車の壁に穴を空け乗り込んできた1983-2が三人を取り囲んでいた。
「三人とも伏せろッ!」
「「「ッ!?」」」
理雄の怒声に反射するように三人がその場に屈む。直後、トリガーを連続で引き、1983-2の集団を排除する。
「大丈夫か!?」
『え、えぇ…、助かったわ…』
『けど、君は一体…!?』
改めて彼ら全員の顔を見回す。鏡音リン、レン、そしてMEIKO……やはり全員バーチャルシンガーだ。先程のKAITOと同じで服装や外見的特徴がネットの広告で頻繁に目撃する姿と若干異なる。
「本当にどうなってんだ、このセカイとかいうのは……」
そういえば、あの時も『夕暮れのセカイ』で自然と歌いたくなる衝動に駆られたりしたな、と今更ながらに思い返す。
『ね、ねぇ!また入ってくるよ!?』
リンの悲鳴じみた声に反応して視線を向けると、車両の損傷箇所から再び1983-2個体が侵入してくる。速やかにXDMの銃口を向け発砲するが、銀の40口径弾を数発撃ち込んだ所でスライドが後退したまま固定される。弾切れを起こし、ホールドオープンと呼ばれる状態のまま唯一の武器が沈黙した。
「クソッ、このタイミングでかッ…!」
予備の弾倉はない。まだ敵は大勢残っている。眼前に迫る脅威を前に、ジリジリと後退するが、元より列車内に逃げ場などない。
こうなったら、自分が囮となって寧々達を別車両へと逃すか------。決断を迫られた所で、突如車内全体にKAITOの声が響き渡る。設置されたスピーカーを通じて音声が流されていた。
『皆んな!今から列車に取り付いた怪物達を振り落とす!乱暴な動きになるから、急いで何処かに掴まって!!』
車内放送が終わった瞬間、暴力的な機動で車内が激しく揺さぶられる。
『うわッ!?』
『きゃああああああ!』
出鱈目な動きに床から足が離れ、洗濯機に突っ込まれた様に全身がグルグルと回転する。全員が座席などにしがみつく中、車内に居たSCP-1983-2は次々と車外へ放り出されていく。強烈なGが内臓を揺さぶる中、必死に座席の角を掴んで耐える。
「あぁッ…!?」
しかし、強引な急降下や急旋回に身体が振り回され、手を離してしまった寧々が穴へと吸い込まれていく。
『寧々!ダメー!!』
リンが叫ぶより先に、理雄が動いた。壁を蹴り、車外へと放り出された寧々の元まで辿り着くと、彼女の華奢な手を取り、反対の手で穴の空いた箇所を掴む。轟々と吹く風に晒されながら、寧々の手を離さない様しっかりと握る。
「志熊さん…!?」
恐怖で目を閉じていた寧々が、理雄の信じられない行動に目を見開く。その時になってようやく列車の動きが落ち着きを取り戻し、あとは彼女を引き上げるだけだと胸を撫で下ろした直後、最悪の事態に直面した。
「ッ!?あの野郎まだ残って…!!」
先程の列車の機動で全て振り落とされたと思っていた1983-2が、一体だけ車両の外側の壁に蝸牛の如く張り付いていたのだ。
『ヴヴヴヴヴヴヴヴヴッ…!!』
亡者の唸り声と共に四本の手足を使い、ゆっくりと此方へ這ってくる。もはや万事休すかと思われたその時----------。
「理雄ォォォォォォッ!」
突如、頭上から野太い声が浴びせられる。上を向くと、英牙が筋肉質で丸太の様に太い腕を差し出していた。よく見れば、背後には落ちないよう不気味なぬいぐるみとバーチャルシンガー達が必死に彼の身体を固定している。
「ソイツを、こっちに……寄越せェェェェェェェェェッ!!」
「ぐっ……オオオオオオオオオオオオッ!!」
気合いの声を張り上げながら、全身全霊の力を以って寧々を引き上げる。英牙達に彼女を渡した直後、間髪入れずに英牙からHiPer拳銃を受け取る。
残弾は一発のみ------これで決めるッ!!
『アアアアアアアアアッ!!』
跳躍した1983-2が理雄へと飛び掛かり、簒奪の右腕を伸ばしてくる。理雄の胸壁へと鉤爪が届くまで残り1センチ----------その僅かな距離を詰めるより先に、HiPerの銃口から飛び出した必殺の