Project Sekai SCP incident feat . 作:唯尊
AM 01:30
理雄達は関東上空で機上の人となっていた。
任務を完了したジュリエットチームは行きと同じ輸送機で埼玉県入間航空自衛隊基地に[自衛隊と協力関係にある民間機]の名目で着陸する。
機内では慶三郎と由那を含めた作戦参加者の一部が缶ビールを開けて無事の帰還と任務完遂を労い合う。
しかし、理雄だけはどこか浮かない顔をしていた。
「……大丈夫か?」
顔だけ向けると勇刃悠間が救急箱を片手に心配そうに理雄を見ていた。
「…いえ、別に…」
理雄は視線を下に逸らす。
「…傷の手当てをする。少しじっとしていろ」
「…? あ…」
今になって理雄は自分の頬から固まりかけた血が流れている事に気付いた。恐らく空爆の時にミサイルの破片か何かが飛んだんだろう。
「小さな傷でも、悪化すれば命に関わる。感染症はあのにくにくしいヤツだけじゃないからな…」
傷口を消毒しガーゼを付けながら悠間は言う。SCP-610接触感染以外では感染しないが、破傷風などの致死率の高い感染症は戦場には沢山存在する。手当てを終えるて悠間は隣のベンチに座り少し間を置くと小さめの声で話し始める。
「……思い出したのか?お前の幼馴染の事を…」
「……」
「…お前の事だ。特に心配はしていないが…、忘れるな」
悠間は理雄の肩を掴み強く握る。思わず振り向いた理雄の瞳に、サファイアブルーの輝きが悠間の瞳から直接差し込まれる。その輝きは想いに満ちた一歌の目によく似ていた。
大切な人を1人にしない。自分が繋ぎ留める…!という目だ。
「何処にいても俺達がついてる。いつだって傷つき刃こぼれしようと、俺達がお前を打ち直す。ジュリエットの優しく強い剣にだ」
「…!」
…そうだ…、この人はこういう所が凄いんだ…。
この人の言葉のおかげで自分は自分でいられるんだ。
「…ありがとう…。ユウさん」
親しみを込めた呼び名を返す。
悠間はもう大丈夫だろうと理雄の目を見て安心し、ビールを取りに席を離れる。
「………」
理雄は思い出す。愛しい彼女と過ごした日々、前向きで明るい言葉。励まされた自分。温かい肌のぬくもりも…唇の柔らかさも………。
あの笑顔も…もう見れない。
このセカイに来てからずっと、自分の内が揺れていた。だが変わらない本当の想いがあった。
それは…、もう叶わない望みだとしても……
(君にまた会いたいよ………ッ リリカ……ッ)
*
その後、入間基地の滑走路に輸送機は着陸した。彼らを真っ先に出迎えたのは、今回の件で傍に追いやられた財団日本支部の上層部の人間だった。
彼等は顔をピクピクさせながらも笑顔で「よくやってくれた」と1人1人握手を交わしていった。
土足で管轄を踏み荒らされた彼等の心中はお察しするが、不思議な事にその態度にはしっかりとした誠意と感謝が伝わってくる。下手をすれば日本も世界もあの悪腫に飲み込まれる危険性があるのは彼等もよく分かっていたようだ。
あの後現場には、日本支部の後方支援部隊と機動部隊イプシロン-6が事後処理に回った。
あの穴の中には巨大な地下空間が広がっていたが、調査の結果。つい最近出来たものらしい。どう考えてもアレだけのものがたった数ヶ月で完成するわけがない。他の要注意団体が関わっているようだ。地下にはロシアで見られたサイトBにあった時計塔がある教会が発見され、例の儀式を行っていたと見られる。理雄の推測通り、近隣の町から誘拐された人々が意図的に感染させられたり儀式の生贄にされたようだ。犠牲者は合計で800人以上と推定される。
鳥丸に関しては彼等も最後までその正体を知らされなかったようだ。一応内部部門による調査が入ったが、何か分かったところで最高機密として封じられるだろう。
最後に被害だが、幸い感染はあの場で食い止められたようだ。穴の中には第4形態がいた様だが、全て空爆で焼き払われたようだ。
セプター1は全滅…。ニュー7 六名 ゼータ9 二名がKIA(戦死)とされた。
彼等の遺体は感染体として焼き払われた。彼等の死が遺族に伝わる事はあっても、そこに真実は含まれていない。全ては闇に葬られる。
だが我々は忘れない。何も知らない人々が平和に暮らせるよう全てを犠牲にした英霊を、闇の中で誇らしく戦い抜いた戦士を…。決して忘れはしない……。
出典 http://scp-jp.wikidot.com/forum/t-785828/scp-610