Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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第十八話 想いだけでも、誇りだけでも…

 教室に入ると、クラスの生徒達から先程と同様に顔色を心配された。今までの授業は1-Cでのみだったが、理雄の講師としての能力は本人が思っていた以上に高く。本日から他の学年やクラスの授業も担当することになった。

 

 フルタイムという訳ではないが、緊急事態発生の呼び出しと掛け持ちするのは少々きつい。とはいえそれほど信頼される様になったのはやはり嬉しかった。

 

 放課後も希望する生徒には可能な限り勉強や生活について相談に乗っている。中には理雄にお近づきになる為に来る者もいた。

 

 理雄としては泣きたくなるほど嬉しい事ではあったが、[生徒に手を出している]と思われては本末転倒なので。そういったケースには紳士的かつ素敵な対応で受け流している。

 

 いくら女好きの自分でも1人の大人として、人に智識を授け助ける者として。生徒に手を出す訳にはいかなかった。

 

 

      *

   

 

「what do you usually keep in mind ?」

(君が普段から心がけている事は?)

 

「Yes.I try not to forget the feeling of thinking about others and helping them.」

(はい、私は他者を想い、助ける気持ちを忘れないようにしています」

 

 

それから数日後のある日、3限目。2-Bにて英会話の授業をしていた理雄は、まふゆとの日常会話を英語で行っていた。

 

 (確かによく出来ている…、発音は流暢だし受け答えもしっかり出来ている…。ユーモアのセンスも悪くない。高校生でこのレベルか…)

 

訓練校時代(高校時代)の理雄ほどではないが、彼女の学力は間違いなくこの国の同年代のトップに入るだろう。海外でも普通に通用すると聞いていたが、どうやら眉唾ではないようだ。

 

 

…………初対面の頃から感じていた嫌悪感は変わらないが、授業には一切持ち出さない。彼女が自分をどう偽ろうが、彼女の自由である。しかしなぜ彼女はそこまで優等生である事に拘るのか。

 

 (まぁ…、理由は大体察しがつくが…)

 

ここ数日間、彼女との会話である程度あちらの事情は推測がついた。どうやら母親との間に確執の様なものがあるらしい。

 

 (それでストレス溜めて自分を見失った…、そんなとこだろ…)

 

 具体的に何があったのかは知らないし興味も無い。

 

思春期の頃にはよくある事だ。

 

 財団職員の中にも鬱病やPTSD(心的外傷後ストレス症候群)患者なんて山程いた。

 

自分も過去に精神疾患を患った事があるからその辛さは分かる…。

 

だが…、体験したからこそ知っている。

 

その惨めさと、後になって時間を無駄にした後悔を…。

 

 

 

 

 

 

 誰も助けてくれはしなかった。'自分は自分でしか救えない'。

 

信頼出来る仲間がいなかった当時の理雄は、そう思い知らされた。そうするしかなかった。

 

だが自力で立ち上がってみせた。

 

 

 …自分も自分で救えない人間は無価値だ。

 

 

 理雄は本気でそう思う。だから理雄は無力無価値な過去の自分を呪い………、その同類を厭悪する。

 

 時間を無駄にした…ッ、愛してくれた人からもらった誇りを…自分を見失い何もしなかったあの時のガキを…ッッ!!

 

 

 (………ましてや自分の母親が原因で壊れる奴なんざ…)

 

 力になろうと、遠回しに相談を持ちかけた事もあったが…。

 

 [大丈夫です。私とお母さんはお互いを大切に思ってますから]

 

という決まり文句を偽りの笑顔で返してくる。

 

 …助けすら自分で呼べない有様だ…。

 

 ここまでくると怒りを通り越して呆れてしまう。今となっては彼女のあの作り物の笑顔を見るたびに吐きそうになる。

 

 世界には助けを求めていても、求められない人間がいる事は知っているし見ている。

 

 だが朝日奈まふゆという人間を気の毒とは思っても同情はできない。

 

好感を持てない人間をどう救えというのだ…。

 

 (雫…、俺は君が思ってるほど優しくないんだよ…)

 

 いくら誇りの為でも、アレを救う自信も気力も理雄には無かった。

 

…その誇りをくれた人が傍にいてくれれば、また違った結論を出したかもしれないが…。

 

 

 '想い'だけでは救えない…。'誇り'だけでは動けない…。

 

 

 本当の想いが見つかっても、それが叶わない今…。

 

 

 理雄のセカイは無機質のままだ……。

 

 

 

 

 

 




まふゆというキャラの闇と、理雄というキャラの闇を比較する様な描写となりました。「消えたい‥…」というまふゆの感情とは異なりますが、理雄の内側にも虚無感や喪失感に近い感情が広がっています。理雄のまふゆに対する嫌悪感は所謂、同族嫌悪に近く。理雄はまふゆに対して「生きたいならどうぞ。死にたいならご自由に…」と、もはや見るのも嫌がる状態になっています。理雄にとっては自分すらまともに活かせない人間は不快にしか感じないのでしょう。何故理雄がその様な哲学を持つ様になったのか…、今の理雄を理雄たらしめたのはなにが原因なのか…。今後とも深掘りしていきますので、引き続きお楽しみください。
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