Project Sekai SCP incident feat . 作:唯尊
休日、理雄はバスから降りる。
1時間ほどバスに揺らされたどり着いたのは、東京郊外にある某山林地帯。
かつて召集を受けた財団施設。サイト-8156に向かっていた。降りたバス停から例の防空壕までかなり距離がある。30分ほど山道を歩くと、見覚えのある古びた穴蔵が見えてくる。
中に入り、以前教えてもらったパスワードとその他の認証手順を済ませ、地下の施設内に入る。
廊下を含め一面真っ白な空間は、ついさっきまで自然が生い茂る緑を散々見てきた自分の目には、急激な世界の変化に見え、少々気味悪く感じた。
廊下をしばらく進むとエレベーターが見えてきて、乗り込んだ理雄は[B21]のボタンを押す。しばらく降りると地下21階に着き、エレベーターを降りる。
理雄の目の前には、清潔に掃き清められた空間にある無数の部屋と、そこで各々の仕事に取り掛かっている職員達が存在した。
廊下を進みながら各部屋を横目で見ていく。
防護服に身を包み、モルモットのウサギに何かの薬物を注射している研究者達。
一見普通に見えるコンピュータ(おそらくskip)を特殊な検査機を使って調べている作業員。
全身緑色の人間型アノマリーを拘束台に繋ぎ、絶叫している(ガラス越しにはその様に見えるが、完全防音された部屋なのか、こちらには何も聞こえない)本人を無視して、腕をノコギリで切断している研究者等。
様々な仕事に取り掛かっている彼らを見ながら先に進む。途中、廊下の向かい側から武装した警備員2名(装備は防弾ベストとSIG SAUER P226と
MP5と見られる)に手錠でつながれたDクラス職員1名が歩いてきた。
その後ろからは、台車に固定された鋼鉄製の特殊格納容器が運ばれてくる。よく見ると、容器の中に何か入っているらしく、小刻みに震えていた。
その後、施設内の研究ブロックを抜けると、上級職員のオフィスルームがあるブロックにたどり着く。
その内の一つの部屋に理雄は向かう。部屋には[八代博士]と書かれていた。ドアをノックすると、中から「どうぞ」と比較的若い男の声が聞こえてくる。ドアを開けると、白衣を着た細身の男性が微笑を浮かべながら出迎えた。
「はじめまして、志熊さん。私はこの[セクター21]の統括管理を任されています。八代 海と申します」
「志熊です。お忙しい中すみません、八代博士」
30代前半の茶髪の男は、握手を交わしながら丁寧な辞儀を述べる。やや太めのフレームの眼鏡が似合う優男だった。
「どうぞ、こちらにおかけください」
応接ソファに腰をかけ、対面する様に座る。
「こちらのサイト管理者から最大限協力するように言われています。私に出来る事があればなんなりと言ってください」
コーヒーを差し出しながら笑顔を向けてくる。理雄は出されたコーヒーを一口啜ると、早速本題に入る。
「八代博士。昨日そちらにお話した件で、今日は伺いました」
昨日、メリッタから聞いたカオス・インサージェンシーの武器密輸方法について、サイト-8156の研究機関に「どの様な手段を用いたか分かるか?」と聞いてみたのだ。調査中との事だったが、向こうもある程度予測
はついているらしく、詳しく聞きたいと言ったら、「では明日、こちらでお話の場を設けます」と言われ、こうして足を運んだのだ。
八代博士は飲んでいたコーヒーカップを応接机に置くと、真剣な面持ちになる。
「…私共も現在調査中ではありますが…、今考えられる可能性は3つ」
八代は指を3本たてる。
「1つ目、彼等が強奪したskipを用いた…」
理雄は腕を組んだ。
1924年に財団から無断で離脱した元機動部隊。彼等が何故財団に反旗を翻したのか、その先の目的は何なのか。何一つわかっていない要注意団体。それがカオス・インサージェンシーだ。
彼等は離脱する際、財団から多くのskipを強奪しており、その異常物の大部分の詳細は不明だ。彼等が独自の研究で異常性を解明し、利用する術を身につけた可能性がある‥という事だろう。
「…ミーム汚染‥…でしょうか?」
[タンカーは周囲の人間に見えない物]と周りに伝達させるか、あるいは[タンカーをタンカーと認識できない]という認識災害を起こすのだろうか。
「えぇ、ただ[反ミーム部門]からミーム汚染の報告は上がっていません。あくまで今の所は…ですが」
「2つ目は?」
「現実改変が彼等の手により起こされた…」
「ありえません」
理雄は言外に却下する。
「[スクラントン現実錨]を用いた防衛手段が確立されて以降、都合よく[武器が日本に運び込まれていた」なんて事はないでしょう」
'向こうの世界'も'この世界'もかつて、現実改変による武器の密輸事件があった。それ以降財団は、簡単に現実が改変されないよう[スクラントン現実錨]によるヒューム値の維持を特定のエリアで行っている。仮に向こうに現実改変能力者がいたとしても、よほどヒューム値が高くなければ不可能だ。
‥そんなのがいたら武器密輸どころじゃ済まない。
「…まぁ、それは私共もすぐに気付きましたがね…」
八代はため息をつく。
「3つ目は?」
「財団の一部、その他警察組織が買収、もしくは脅されている…」
理雄は頭を抱える。
それを言っては何もかも終わりだ。自分達ではなく保安部の仕事になるだろう。
‥時間を無駄にした。
八代が申し訳なさそうな表情になる。
「申し訳ありません。可能性だけなら'この世界'…、いくらでもありますから…」
「…まぁ、そうでしょうね」
'常識'なんてものはこちらの世界ではとうに死んでいる。
現場で即応する理雄たち機動部隊と違って、研究者の八代たちは無数の可能性と謎に立ち向かわなければならないのだ。自分だったら頭がパンクする。
結局この日、成果らしい成果は得られなかった。