Project Sekai SCP incident feat . 作:唯尊
フェニックスワンダーランド
20年前、鳳えむの祖父である鳳楽之介によって創設されたテーマパークであり、「世界中の人を笑顔にする」をモットーにしている。
休日なだけあって人もそこそこいるが、この時間帯は比較的閑散としている。
メリーゴーランド、ジェットコースター、ホラーハウス‥等々。
理雄が元いた世界でもよく見かけるアトラクションが稼働していたが、老朽化が原因なのか。所々に稼働停止中の物も見られた。
(遊園地なんて、最後に来たのはいつだったかな…)
記憶が正しければ、通信制高校に転学する前の高1の5月だった筈だ。’あの日’以前の最後の幸せな思い出…。リリカとの高校デビュー後の初デートで、一日中彼女に振り回された。
「ようこそ!フェニックスワンダーランドへ!!」
純真無垢な元気娘、鳳えむが歓迎の気持ちを声と体でダイナミックに表現する。子供のように飛び跳ねる彼女からは、宇宙誕生の瞬間の如きエネルギーと眩しさを感じた。
「せーのっ、わんだほーい!!」
「え…」
「ほら、せんせーも!」
「…わ、わんだほーい!」
突然謎の呪文を叫んだえむ。とりあえず同じ様に叫んでみる。
「うんうん!いい感じ!!」
後で聞いたのだが、これは「みんなが笑顔になりますように」という祈りを込めたおまじないだそうだ。
「………」
おまじないとは、本来神仏から力を借りて災いや病気を除いてくれるよう願う物だが。理雄が知る神にそんな良識的かつ役にたつ神はいない。
(まぁ、信じるという行為そのものに救われる人間もいるか…)
宗教など、信仰という物は善悪の判断基準であり、徳性や人格を養う物としての側面もある。神の存在の有無はともかく、「同じ信仰を持つ人間だから信頼できる」 「自分と同じ様に救われた人間だから共感できる」といった人との繋がりにもなる。
……その裏で侵略や民族浄化の手段として用いられたり、異教徒同士で対立するなどといった闇の歴史もあるが、タチの悪いオカルトで変な力を生み出すよりはまだマシに思う。
そういった連中が裏の世界にはウンザリする程蔓延っており、そいつらの始末も自分達の仕事になるのだから…。
いつの間にか暗い気持ちになりかけていたが、頭を振って思考を切り替える。ここは人類が創造した娯楽の世界だ。人を楽しませる場所でこんな事を考えるべきじゃない。ここの開発に関わった人達に失礼だ。
「せっかくだし、鳳さんのオススメを体験したいかな…」
「うん!任せて!」
えむに引っ張られて行き着いたのは、あるステージの前だった。
そこには準備中の役者らしき人達が何やら話し合っていた。
「…よし、ここで司くんを50m程飛ばそう!」
「待て類!俺の体はそこまで頑丈ではないぞ!!お前に安全への配慮という物はないのか!?」
「大丈夫だよ。特殊な大砲を使って打ち上げるだけだし、観客に危険がないよう完璧な作りになっているからね」
「俺の安全は!?」
「…ねぇ、まだ決まらないの?あんた達のこの手の話に付き合うのもう疲れたんだけど」
高校生くらいの男女が3人。何やら物騒な会話をしていた。
その中の1人、金髪の少年がこちらに気づいた。
「む…。えむか……
おおぉーーーーーーーい!!もう準備始まっているぞぉ!!!!」
ジェット機のエンジン音に匹敵する大声量がこちらに飛んでくる。
余りのバカでかい声に、孫と来園したおばぁさんがギックリ腰になり、
ビックリした鳩が脱糞し、その真下にいた8歳の少年が持っていたアイスクリームに直撃し、サラリーマンの男性の銀歯が抜け落ちた。
(うるさっ…!RPGの発射音かよ…)
とにかく声がデカい少年をよく見ると、顔立ちと髪色に見覚えがあった。
「君は…天馬司…くんか?」
「むっ、もしや貴方は…」
こちらに気付いた少年はこちらに駆け寄り、理雄の顔を確認するように見る。やがて何かを思い出したように…
「志熊先生か!咲希が話していた人だ!!」
天馬咲希の実兄、天馬司は嬉しそうに叫ぶ。
「貴方には是非お目に掛かりたかった!志歩を見事に救い出したと聞いている。咲希がお世話になっています!!!!」
咲希以上に芝居掛かった言い回しを無反動砲並の爆音で発する少年、天馬司は目上の人間に対する礼儀をしっかり弁えている様だが、聴覚の優れた理雄は少々勘弁して欲しいと思っていた。
兵士の耳は戦場における銃声や爆発音などで大抵悪くなるが、理雄の特殊能力ともいえる[感覚鋭敏]は聴覚、視覚、反射神経が非常に優れており、
他のメンバーと違って難聴に悩まされた事は無いが。彼の聴力破壊発声に耐えられる自信は無い。
「咲希から聞いたよ。ここでバイトしてたんだな」
「いかにも、ワンダーランズ・ショウタイムの座長といえば…天に駆ける馬と書いて、この天馬司の他にはいない!!」
「……」
…そういえば一歌たちの会話の中で、彼の名前が出る度に彼女達が苦笑いしていたな…と思い出す。
なるほど。こんなエキセントリックな男と幼少期から付き合っていれば、まだ自分が知らない奇天烈エピソードをたんまり目撃しているだろう。
「…ショーの準備中か?」
「えぇ、今クライマックスシーンの演出について話し合っているんです」
質問に答えたのは、紫髪と爬虫類めいた瞳が特徴的な背の高い少年だ。
「……」
「…?どうかされましたか?」
「いや、別に…」
何故だか分からないが……、コイツからは嫌な意味で懐かしい感じがする。確か…そう…………あの博士だ。
「ねぇ、そろそろリハーサル始めない?」
いつの間にかステージに登っていた薄緑の髪の少女が声をかける。
「君もキャストか?」
声をかけると、彼女はビクッとして幕の影に隠れてしまう。暗い喋り方と人見知りが激しそうな彼女は草薙寧々。この劇団の歌姫だと後からえむに聞いた。
(…まぁ、無理に接触することもないか)
彼女の態度と行動からステージに立って歌を披露する姿は想像し難いが、
もしかしたら人智を卓越した美声の持ち主かもしれない。正直興味はあった。
「ヨシ!ではリハーサルと行こう!最近入った新人にも見てもらうぞ!」
「新人?」
司の言葉に理雄は首を傾げ、司は「よくぞ聞いてくれた」と満足そうな笑みになり…
「紹介しよう。コレが我らがワンダーランド・ショウタイムが誇る期待の大型新人…、フローレンスだ!!!!」
大仰に手を振りかざす司。彼がこれほど豪語する大型新人とは何者なのか。もしやあのチャップリンすら腰を抜かす演出を披露するのか、理緒は大きな期待を胸に、その人物の登場を待った。
----が、いつまで経っても誰も来ない。
理雄は司の方を見ると、彼は軽く焦りながら「お、おかしいな、このあたりにいる筈なんだが……」と言って隣を見る。
「類、今朝のあいつ何処に行ったか分かるか?」
「僕も知らないんだ。今朝出勤したのは見たんだけどそれきりだったからね」
2人はあたりを探し始めたので、つられて理雄も周囲に視線を巡らせる。昼時だからか、このテーマパークは今や人っ子一人見当たらない。
----いや、よく見ると一箇所だけ人だかりが出来てる場所があった。
----ペンギンに子供達が群がっている。
正確には、ここのマスコットキャラクター、フェニーくんの紫モデルの着ぐるみめがけて、小学校低学年くらいの子供達が総出で蹴飛ばしたりぶっ叩いていた。
「シバケシバケ!」
「いい加減くたばれ」
「グヘヘ」
「壊れちまえ!」
なにがそんなに憎いのか、子供達は取り憑かれたような表情で一心不乱にフェニーくんを袋叩きにしている。周囲にいる保護者のお母さん達は、
「汚いから触っちゃいけません」
「そんな生き物に触れていたら地獄に堕ちますよ」
「さぁさぁ離れましょうね……シンデシマエ ゴミヤロウメ…ペッ!」
と口ではやんわり注意を促してはいるが、フェニーくんに対しては汚物を見るような視線で唾を吐きかけている。
どんな呪いをかけられたらあんなに嫌われるのだろうか。馬乗りにされて殴られているフェニーくんの可愛らしい顔の奥からくぐもった悲鳴が聞こえてくる。
寧々が嫌そうな顔をした。
「まさか……」
----「あああああああぁぁぁもう、大概にしろゴラァァァァッ!!」
突如、フェニーくんが信じられない程汚い言葉を吐いた。
子供達はピタリと動きを止めて周囲を見渡すが、当然他に人の姿など無い。
フェニーくんがむくりと起き上がり首に手をかけると、中から滝の様に汗を流した20代後半くらいの大男が現れる。ソフトな顔立ちの割に、目つきが悪くしかも枯れている。
「もう少し俺を労われ、ガキ共ッ。[ネコがいる]井戸に放り込むぞ」
最初子供達は茫然自失状態だったが、不意に大男の近くにいた子供から順番に、恐怖で失禁し始める。
「フェニーくんが死んじゃった〜」
「怖いよ〜」
「中からキショいの出てきた〜」
「おい泣くな!泣くなったら!フェニーくんは生きてるよ。『ほら、キュートにキメテ媚びまくるゼ⭐︎』…………ああクソッ!そうさッ、俺はフェニーくんの胸を突き破って生まれてきた新種のエイリアンの幼体かなにかだよ。リドリー・スコットの新作に出るかもなチクショウッ!」
大男がフェニーくんの首とステッキを地面に叩きつけると、ヨチヨチとこちらに歩いてきた------首から下はフェニーくんのまま。
まさかアレが期待の大型新人なのかと訝しんでいると、司が腕組みをする。
「遅いぞフローレンス!呼んだらすぐに来ないか!」
大男------もとい宮崎信孝はゲッソリした顔をしながら愚痴る。
「んなこと言ったって座長…、俺はアンタから「お前は俺達となら輝ける!俺達のステージに上がるといい!!」とかいう胡散臭い誘い文句にのってここに来たのに、どうしてくる日もくる日も施設の隅で人間サンドバッグをやらされているんだよ!」
「し、仕方がないだろう!?お前がステージに上がると何故か観客が総出でヤカンやらお鍋やら懐中電灯やらを投げつけてくるんだから!!」
理雄は泣いた。
年下の少年からヘンテコなあだ名をつけられ顎で使われている同期の惨めな現状に泣いた。
ちなみに[懐中電灯]というワードに理雄はデジャブを感じた。
------2年程前、アフガニスタンでUSSOCOM(アメリカ特殊作戦軍)協力の下、現地での異常物品回収の際の支援任務にて、替えの下着を忘れた信孝が無断で理雄の下着を穿いて出撃。その時に起きた戦闘での興奮で宮崎が脱糞。
前線基地に帰還後、宮崎はクソまみれのパンツを理雄のベッドに直に置き、[ありがとう。助かったよ]と書き起こしを残していくというとんでもなく汚い凶行に走ったのだ。
さすがの理雄もブチ切れ、備品個からタクティカルフラッシュライトを取り出し、食堂でカレーを食べていた宮崎に「次出撃する時はコイツでケツに栓していけッ、この脱糞ヤロウッ!!」と投げつけた過去があった。
「つーか、いい加減名前で呼べよ。フローレンスなんてくそダセェあだ名付けやがって」
「失礼だな…、お前の本名呼ぶと何故かアトラクションが謎の故障を起こしたり、観客が精神に異常をきたしたりするんだからどうにもならん」
理雄は泣いた。
もはや本名すら呼んでもらえず異常物扱いされる信孝が不憫すぎて泣いた。
「楽しそうだなお前ら…」
騒いでいると背後から落ち着いた男の声が聞こえた。
振り返ると勇刃悠間がいた。青のジーンズ、黒いワイシャツの上に紺のジャケットという、シンプルながら清潔感を感じる服装だった。
ダークブルーのイメージカラーを持つ中性的な顔立ちの美青年は、無言で腰の後ろ辺りを軽く叩く。「仕事の連絡を確認しろ」という合図だ。
仕事用のスマホを見てみると、任務参加を命じる旨とその詳細が添付されていたメールが確認できた。
「宮崎、仕事だ。イタバシで事案発生」
理雄がそう伝えると信孝はウンザリした表情をした。
「おい、ここシブヤだよな‥…車でも呼んでくれんか?」
理雄と悠間は、
「給料日前だ」
「手持ちが無い」
信孝は、視線を下に降ろすと、自分の首から下がフェニーくんなのを確認する。
「じゃあ手伝ってくれよ。これチャック壊れてて、中からじゃ開けられねぇんだ」
理雄と悠間が顔を見合わせると、意地悪そうにニタァと笑った。
理雄は生来のサディスティックな一面が見えたが、悠間のこの表情は珍しいかもしれない。
「よく似合ってるぞ、脱糞フェニーくん」
「よく似合ってるぞ、宮崎」
信孝が、がっくりと項垂れた。
「マジで勘弁してくれ…」
司達に「コイツの本業に呼ばれた」と言って走り出す。
えむは足の短い着ぐるみ大男の背中を二人で押しながら遠ざかっていくのを見ながら叫ぶ。
「次はすっごくすごっく楽しいショーを見せるから、またきてねー!!」