Project Sekai SCP incident feat . 作:唯尊
'イタバシ'にそびえ立つとある五つ星ホテル。30階を悠に超える高さを誇るホテルの出入り口の前に、2人の男が立っていた。
2人ともブラックスーツにサングラスという服装が、長身で筋肉質な彼らの体型にマッチしている。まさにSPのそれだ。
「緊急の警護任務って…大丈夫なんでしょうか…」
「…不安しかない。何せ、いきなり呼び出されてコレだからな」
30分程前、イタバシにある財団のフロント企業のオフィスに呼び出された理雄達は、「突然ですまんが、警護官の代理を務めてもらう」と一方的に言われ、用意してあったスーツに着替えさせられた後、警護計画も聞かされずここに送り込まれた。
「確か護衛対象って…」
「財団のお偉いさんの娘らしい…。それより、偽のIDの確認をしとけ」
「ちゃんと持ってますよ」
そう言ってスーツのポケットの中から警察手帳を出す。
警視庁公安部特事課から渡された偽物だが、一応コレがあれば銃器の所持と使用が普通に可能だ。手帳には自分の顔写真と『警視庁警備部警護課所属』と載っていた。ちなみに信孝は車の手配の為別行動中だ。
「…美羽さんはどうでした?」
「元気だよ。モデルの仕事も順調だそうだ。次の休暇で向こうに戻れるかもしれない。その時はゆっくり美羽の活躍を聞くよ」
悠間の言葉に理雄は驚く。
「え…帰れるんですかッ」
「隊長曰く、俺達の今現在の座標と向こうの座標を結びつけられたから、後は転送装置の稼働運転が上手くいけば問題ない…だそうだ」
「……」
正直意外だった。英牙から先の予定は未定な事が多いと聞かされていたから、早くても半年は戻れないと思っていたが…。悠間の妻であり現役のモデルとして活動している勇刃 美羽(いさば みう)は財団の存在を知らない。彼女は悠間の事を【海外派遣されている自衛隊の医官】と認識している。「彼女に嘘を吐くのはつらいが、守る為なら耐えられる」と以前悠間は言っていたが、こうして世界を隔てていても夫婦生活は順調の様だ。
「お…来ましたよ」
理雄の左側から道を曲がってきた黒色のバンが出入り口前に停車する。運転席の窓が開き信孝が顔を見せる。
「警察から受け取ってきた。護衛対象は?」
「もうすぐ来る…と、来たぞ」
信孝はバンを降り服装を正す。護衛対象の女性、新羅 雅弓(しらき まゆみ)がホテルの玄関エントランスから出てくる。
「新羅です。本日は急なお仕事をお願いして申し訳ありません」
18〜19歳くらいの穏やかな美人だ。理雄は同じタイプの人間である日野森雫を連想した。長い黒髪を姫カットにした落ち着きのある態度で理雄たちに対し謝礼を述べる。
「いえ、どうかお気になさらず。私共も全力で警護に当たらせていただきます。リムジンともう一台の警護車両は間も無く到着致しますので、しばしお待ち下さい」
今回は悠間をリーダーとした3人1組の警護チームで任務にあたる。悠間は
丁寧に対応しながら、自分達がバンの一台に乗り後方につき、もう一台が前方についてリムジンを前後に挟むようにしながら走行する事を伝える。
そうしている内にリムジンとバンが到着。中から自分達と同じ服装の財団職員が降りてくる。皆柔道の熟練者なのか、身長180cm以上 体重100kg以上の屈強そうな男が4人、バンの前で整列する。
「81管区評議会警務隊・第108警護中隊所属。薺 宏光3尉以下4名。只今到着いたしました」
その中で一番ガタイが良い男が響きの良い声と共に敬礼する。見た目は30代前半くらいに見える。
「お疲れ様です。こちらは代理で来ていただいたジュリエットチーム方々です。本日はよろしくお願い致します」
雅弓の紹介を聞いた瞬間、薺たちはキロリと敵意の籠った視線を一瞬見せるがすぐに姿勢を正しこちらに向き合う。向こうのリーダーである薺 宏光(なずな ひろみ)はこちらに手を差し出す。
「薺です。万が一の時はよろしくお願いします」
「…勇刃です。こちらこそ」
薺は微笑を浮かべているが目が笑っていない。それは我々ジュリエットチームが財団本部隷下の機動部隊だからだろう。
【異常存在の確保・収容・保護】をモットーにしている財団本部と異なり、財団日本支部は【異常存在との共存】を掲げている。この為、2つの組織の間には溝が存在し、81管区評議会は自分達独自の理念のために財団日本支部を創設したが、財団本部はその存在を認めていない。
故に彼らが我々を歓迎してくれるわけがなく、警護計画を聞かされていないのも我々を蚊帳の外に出すつもりだからだろう。
(政治的な腹いせか…くだらない…)
向こうの警務隊の実働チームが手一杯だからという事で、急遽我々が来る事になったわけだが、こうも露骨にのけ者されるとは…と理雄は呆れてしまった。
その後、リムジン一行はホテルを出発。走り始めて15分程経つと、理雄が信孝に疑問をぶつけた。
「そういえばお前…、なんであんな所で働いていたんだ?」
信孝にも自分同様、表の身分と職業が用意されたはずだ。何故あんなヘンテコな劇団とつるんでバイトなんかしているのだろうか。
「あぁ…、最初は小さなバーのマスターやってたんだが…」
聞いた所によると、ある日彼は気に食わない客と揉めて散弾銃をぶっ放し、またある日は酔っ払ってカウンター席で小便を撒き散らすという大問題を立て続けに起こし、警察と保険局から店は閉店に追い込まれ、その後釈放された信孝を待っていたのは、怒り狂った現地当局の人事担当官からの説教と、懲罰として【性犯罪の前科持ちの中卒の社会不適合者】という最低最悪の身分を頂戴されたらしい。
当然信孝は反発したが、「ならゲイバーで不眠不休で働くか?」という人事担当官の殺し文句と、筋骨隆々とした五分刈り顎髭の男どもがギッシリ並んだチラシを突きつけられて渋々了承…。
全てを失った世紀末破綻者は人生逆転を図り逆玉を敢行。たまたま近くにいた財閥令嬢のえむに接近(えむ本人にナンパされた自覚があったかは不明)したが、この間の着ぐるみに諌められた信孝が逆上。ジャイアントスイングで近くの川に放り投げ、応援に駆けつけた黒服50人の鎖骨や肋骨を3本以上へし折り叩き伏せた後、たまたまそれを近くで見ていた司がその大立ち回りに感激し、「俺達と一緒にやらないかッ!」と誘ってきて今に至るらしい。
「……ま、お前らしくはあるか…」
相変わらず滅茶苦茶やってるのはこの世界でも変わらない様だ…と理雄は呆れる。信孝はニヤけながら言葉を返す。
「ここは退屈しないぜ。基本平和で遊びやすいしな」
「お前…、任務地でよくそんな…」
「いいじゃねぇかよ。……ここはまだ平和なんだ。今はまだ…な」
その言葉に車内全員が沈黙する。
やがて理雄が口を開く。……低く重い口調で…。
「……この世界もああなると…?」
「この世界がどういうカラクリで成り立っているのかは知らねぇよ。だがな……同じ運命を辿るとしたら、時代から考えて…………………………お前の教え子達は遠くないうちに灰の下かもしれないぞ…」
「………」
車内が沈黙に包まれる。
悠間が場の空気を変えようと口を開きかけた瞬間ーーー。
轟音と共に全員の世界が覆された。