Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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第二十七話 その言葉は命を断つ

 

 午後7時、すっかり日が落ちたシブヤの街からは活気が絶えなかった。街全体が街路灯や大型のスクリーンに映されるMCの光に照らされる中、早くも酔って千鳥足で歩く酔漢や、手を繋ぎ出掛けている家族連れを見ていると、別世界といえどもここが世界有数の大都市である事を実感させられる。

 

 風呂から上がり自宅のテレビを点け夜のニュースを映す。風呂上がりのサイダーの缶を開け飲みながら観ていると、

 

《昨夜からSNSを中心に世間を騒然とさせた【全裸パンツ男】がたった今、警察に逮捕されました!》

 

……ん?

 

女性ニュースキャスターの現場からの切迫した声が聞こえた直後に画面が切り替わる。

 

《逮捕されたのは、シブヤ在住の自称劇団員の男、宮崎信孝であり----》

 

「ブッ!!」

 

切り替わった瞬間、顔を真っ赤にしながら「まだ新記録更新していないんだッ、離せッ!」と焦点の合っていない目で喚く全裸の宮崎信孝が大写しになり、思わず口の中のサイダーを噴き出す。

 

遂にここでもやりやがったか…と理雄は眉間を押さえる。

 

そんな中、仕事用携帯に着信が入る。

 

おい勘弁してくれよ…

 

表示も確認せず理雄は通話ボタンを押し端末を耳に当てる。

 

「もしもし天城さんッ?俺風呂上がったばかりなんで、宮崎の引き取りなんて御免ですから----」

 

『……変態仮面の件じゃないんだがね…』

 

想定とは違った声が聞こえて表示を確認する。メリッタの番号だった。

 

「…スマン、今ニュースに出ているバカの後始末かと…で、どうかしたか?」

 

『例の事件の詳細が入った』

 

理雄の目が見開かれる。

 

「もうかッ?早いな」

 

向こうにいるメリッタはニヤついた笑みを浮かべているのだろう。口調からそんな感じがした。

 

『私の傑作をチラつかせたらすぐに調べてくれたよ。PDFにしたからそっちの端末に送る』

 

「助かる、…ひとつ貸しだな」

 

『お返しは君の瞳でいいかな?具体的には1つ抉り出して…』

 

「全力で断る」

 

通話を切ると直後にPDF付きのメールが送られてくる。早速開こうとすると、直前で再び通話が来た。発信者は天城だ。

 

「もしもし?」

 

『ニュースは見たか?あの変態仮面を引き取ってこい。お前以外みんな風呂上がりで行きたくないんだ。場所はシブヤ中央署だ。頼んだぞ」

 

----ブツリッ

 

一方的に通話を終えられる。溜め息を吐いてキッチンのナイフを見る。今すぐナイフを持って警察署に突撃したいが、生憎と自分は死にたいとは思ってないし、少年という年でもない。ウンザリした顔で支度を始めるのであった。この世界では1回目、元の世界から数えて通算69回目の引き取りである。

 

 

           *

 

 

(ったくッ…、なんでいつもいつも俺がッ!)

 

 

 新人時代から今までずっと宮崎の回収任務を押し付けられてきたが、まさかここでもヤツの尻拭いに付き合わされるとは……。

 

 とっとと終わらせて早く帰ろう、と足早に歩を進める。すると…

 

「通してくださいッ、会わなきゃ行けない人がいるんです!」

 

「まぁまぁ、そう堅い事言うなって…」

 

「近くで少しお茶していくだけだって、なぁ?」

 

女の子が2人組の男に絡まれている。ナンパだろうか…、

 

「これ以上手間かけさせんなよ…」

 

男の1人の声に苛立ちが混じる。ポケットに右手を入れたままにしている辺りが妙に膨らんでいる。おそらくナイフか何かだろう。

 

流石に刃傷沙汰は見過ごせない。無言で彼らに近づき肩を叩く。

 

「…なんだお前」

 

苛立たしげにこちらに振り向く男達。真顔でポケットから警察手帳を取り出すと、男達に見せつける。彼らはギョッとすると

 

「お、おい、行こうぜ…」

 

「おう…」

 

と、足早に立ち去って行った。理雄は鼻から息を吐くと、手帳を仕舞いナンパされた子を見遣る。年齢は遥たちと変わらない様に見える。短めの茶髪をツインテールに結った少女だ。妙に顔立ちが整っているが芸能人か何かだろうか。

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「怪我は?」

 

「あ、ありません」

 

「何よりだ、早くかえ…」

 

帰れと言い切る前に携帯に着信が入る。自分の個人用携帯だ。発信相手は

----

 

「---どうした、雫?」

 

「!?」

 

目の前の少女が驚愕の表情を見せる。

 

『遥ちゃんの様子がどうしても気になって…、先生は何か心当たりありませんか?』

 

「…いや、俺もよく知らない。本人も話したがらないからな…」

 

『そうですか…、すみません。いきなりお電話をかけて…』

 

「大丈夫だ。気にしてない。……あぁ、じゃあまた明日」

 

通話を切ると、ふと視線を感じた。助けた子がこちらを凝視している。

 

「…なんだまだ居たのか…、早く帰れ、また変な奴に絡まれるぞ」

 

踵を返してその場を去ろうとすると…

 

「…あっ、あのっ!」

 

呼び止められ振り返る。

 

「…さっきの、雫って人…、もしかしてCheerful*Daysの日野森雫さんですか?」

 

理雄は怪訝な表情を浮かべる。

 

「…だったらなんだ?君は誰だ」

 

変なストーカーとかじゃあるまいな…とこっそり腰のXDMに手を掛ける

訝しむ様な視線に気付いたのか、慌てた様子で両手を振る。

 

「違います!怪しい者じゃありません。私は同業者です。……元、ですけど…」

 

「…同業者?」

 

「はい、私は真衣と言います。アイドルグループ----ASRUNの元メンバーです」

 

           *

 

近くにあったファミレスに入りコーヒーを2つ注文する。

 

テーブルに出されたコーヒーカップに手をつけようとして、一瞬【SCPー198】の話を思い出し手が硬直したが、思考を振り払ってカップに口をつける。幸いごく普通のコーヒーで安堵した。何も混ざっていない嗜好品を嚥下すると、目の前の少女に向き直る。

 

「…つまり、君は桐谷さんに憧れASRUNに入ったものの、過度なボイトレが原因でアイドル生命が絶たれ、自暴自棄になって遥に八つ当たりした結果、それが原因で遥が辞めてしまった…と?」

 

「はい…」

 

 話をある程度聞き終え、理雄は苛立たしげに息を吐き睨みつける。

 

「…全て君の不用意な発言が招いた結果だろうが…。お前は『舌の剣は命を断つ』って習わなかったのか?」

 

険のある鋭い目と言葉を前に真衣は萎縮し黙り込んでしまう。厚生労働省が発表している日本の自殺者は年間2万人を超えている。この内誹謗中傷が原因で命を断つ者は年々増える傾向がある。彼女の苦悩や絶望は気の毒だとは思うが、だからといって彼女の行いは到底許容できるものではない。…下手をすれば、遥自身が命を断つ可能性さえあったのだ。

 

少し目を閉じ頭を冷やす。緊張を解いて真衣を見つめる。

 

「…で?君はこれからどうしたい?」

 

少し間を置き真衣は口を開く。

 

「……私は…、遥ちゃんに謝りたいです。あの時傷つけてしまった事も……アイドルを奪ってしまった事も…、私のせいで夢を諦めないで欲しいんです…!」

 

理雄は無言で彼女の目を見る。そこには後悔や罪悪感の他に、「謝りたい」という真摯な想いが感じられた。

 

暫くして偽りがないと判断した理雄は顔から険を消す。

 

「……いいだろう。微力ながら力になってやる」

 

「…!」

 

 理雄は携帯を取り出し連絡先に目を通す。さて…、この手の話に誰を呼ぶべきか…。

 

遥本人の番号は知らない。真衣は知っているかもしれないが、こういう時は電話ではなく面と向かってするべきだろう。

 

雫は………残念ながらこういう場合、天然な彼女が役に立つとは思えなかった。

 

愛莉とは連絡先を交換していない…、どうしたものか…。

 

ふと理雄の頭の上に電球が浮かぶ。

 

脳裏に浮かんだのはクリーム色の髪の少女…気軽に身軽にお手軽に信頼できる強かな彼女ならもしくは…。

 

時刻は午後7時半になっている。未成年を1人で呼び出すのは気が引けたが…

 

(まぁ、みのりなら多分大丈夫だろう…)

 

と、何の気休めにもならない事を口の中で呟く。

 

早速通話ボタンを押すと、3コールもしない内に相手が出る。

 

『はい、もしもし?』

 

「みのりか?突然すまん、今電話いいか?」

 

『はい!大丈夫ですよ!』

 

明るく快活な声が聞こえてくる。やはり彼女が適任だろう。

 

「遥の事なんだが…、確か君は他のASRUNのメンバーにも詳しかったよな?」

 

『え?はい…そうですけど』

 

「その1人の真衣って子が今こっちにいるんだが…」

 

『……………………えぇえッッ!!??ななななな何でじょんなゴトにぃッッ!?』

 

…何となく予想していた反応が返ってきた。スピーカーにした訳でもないのにみのりのゲシュタルト崩壊した悲鳴が店内に響く。

 

「……遥の事で話したい事があるそうだ。仲の良い君の力を借りたい。今出られるか?」

 

「はッ、ハイ!すぐに行きます!!」

 

最後にファミレスの住所を伝え通話を終える。

 

「今仲介人を呼んだから、謝る場を設ける事について……何だその顔」

 

真衣は驚きに目を見開いていた。まるで信じられない物を見る様な目だ。

 

「……何でそこまでしてくれるんですか…?雫さんの知り合いみたいだから、もしかしたら同じ学校の遥ちゃんの事も知ってるかもと思いましたけど…」

 

「…遥は俺の教え子だ。彼女の為だ」

 

「そうですか…、…え?教え子?」

 

「俺は宮女の教師だ。外部からの客員講師だけどな…」

 

「そうだったんですか……あれ?ならさっきの手帳は…」

 

「小道具だよ。以前ウチの生徒が嫌がらせを受けてね…」

 

理雄はそれらしい説明をする。あの警察手帳は前の任務で渡された物だ。

たまたま返し忘れていた為有効活用させてもらった。

 

         

          *

 

しばらく待っていると、みのりがファミレスに現れる。後ろからは何故か雫と愛莉もいた。

 

「はわわッ、ホントにいる!」

 

「三人一緒だったんだな」

 

「はい!さっきまで3人で話し合っていたので!」

 

愛莉もいるなら大丈夫だろう。彼女も元アイドルだ。この場では彼女の経験と胆力がみのりをサポートしてくれる筈だ。もはや自分は必要ない。

 

「じゃ、俺はこれで」

 

「ええッ?もう帰っちゃうんですか?」

 

「他に用事があるんだよ。詳しい事は彼女から直接聞いてくれ、……君なら遥を救える…」

 

「え…?」

 

「頼んだぞ」

 

みのりにその場を託し、ファミレスを後にした。

 

 

 

        *

 

 

 みのりには誰かを笑顔にして救える力がある。彼女は言った。誰かを笑顔にできるアイドルになりたいと、自分は彼女の想いを信じよう。彼女ならきっと…。

 

「アレ…」

 

…何か忘れている様な気がする……………………………まぁいいか。

 

2、3日放置していても死にはしないだろう。月曜の朝一に済ませればいい------。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、火曜の夕方に拘置所に迎えに行った理雄は、手続きの際に特事課の人間から嫌そうな顔をされ、信孝から「遅いんだよノロマッ!」と盗っ人猛々しい台詞を吐かれ、新たな懲罰として「お前はゲイバーで下宿になるそうだ。今住んでるアパートには暫く戻れないぞ」と命令書を突き出した。あの枯れた反応を見るに暫くはバカを控えるだろう。

 

 

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