Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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※2026年、9月18日改稿。ストーリーの進行に変更はありません。あくまで不足した部分を補う形での部分改稿です。


第三話 繋がりを求める者たち 

  

 

 部屋のクローゼットにかけられていたブラックスーツを羽織り、綺麗に舗装された歩道を歩きながら、携帯端末を片手に宮益坂女子学園を目指す。元いた世界から愛用し続けている黒いスマホは耐久性に優れたカバーに覆われている。

 

 地図アプリを開きながら道案内に従っていると、正面の曲がり角から元気に溢れた小学生の集団が現れ、ランドセルを背負いながら自分の真横を駆け抜けて行った。

 

「……平和だな」

 

全体的な外観こそ自分の知る東京都渋谷区と大して変わらないが、人々の喧騒や鳥の鳴き声、高層ビルがあちこちに聳え立ち、まだ少し冷たい風が頬を優しく撫でる大都市の街並み。この穏やかな空気こそが、全く別世界の街であると肌で感じさせられる。

 

「もうそろそろ着く筈なんだが……」

 

歩き始めて既に数十分、スマホの画面から顔を上げた直後、突風に巻き上げられた桜の花弁が理雄の顔にかかる。

 

「うッ…」

 

スマホを持った右手で顔をガードすると、上から太陽の眩しい光が降り注ぐ。目線を向けた先には、整然と管理された広い敷地と、控えめながらも清廉された印象と落ち着いた気品のある校舎が屹立していた。

 

「ここが……宮益坂女子学園」

 

 宮益坂女子学園----------。中高一貫の私立校で偏差値は高め、全日制と単位制のクラスに分かれており、芸能活動を行う学生も在籍していると聞く。

 

 入学式の為か、新入生を中心に校舎の正面出入り口前には女生徒の集団があちこちで固まっており、正直言って入りづらい。しかも結構なお嬢様学校らしく、なんとなく敷居の高い雰囲気があるせいで、あの空気の中に割って入るのはそれなりの勇気を必要とした。

 

「ここでビビってどうする……」

 

我ながら情けないと嘆息しながら、校門を潜って玄関前の来客用インターフォンを鳴らす。

 

『------はい、どの様なご用件でしょうか?』

 

 呼び出しに応じた若い女性の声に対し、氏名と来校目的を告げると、『お入りになった後は当校の事務室に向かって下さい』と言われ扉の自動ロックを解錠される。

 

 職員用玄関で靴を履き変えると、そのまま事務室へと向かう。受付の窓口で学校事務の女性職員に必要書類を渡すと、不備が無いと判断され「これで問題ないので、このまま職員室に向かって下さい」と自分の名前と顔写真が添付された入校証を渡される。

 

「入校証は必ず見える位置に身につけて下さい。万が一紛失してしまった場合は速やかに再発行の申請をお願いします。入校証の着用が確認できない場合、通報される可能性があるので気をつけて下さいね♪」

 

屈託のない笑顔で微妙に恐ろしい忠告をされ、素直にカードホルダーに入った入校証を首から提げる。

 

 職員室へ向かう間も、廊下ですれ違う女子生徒達からは次々と奇異の視線を向けられる。

 

「誰?あの人」「新しく入った先生じゃない?」「へー、珍しいね。男の教師なんてウチじゃ全然見ないのに」「背、高ッ!どう見ても180cm以上あるよ」「カッコいいけど、なんか怖そう…」「でも顔綺麗だし、けっこうイケメンじゃない?」「うん、それに細いけど逞しそう。何かスポーツとかやってるのかな?」「映画やアニメに出てくるダークヒーローみたいだね」「試しに声かけてみたら?」「ちょっと止めてよッ、ルックスは良いかもしれないけど性格キツそうじゃん!」「あ〜…、確かに陰険そうな感じはするかもね」「意外とヤバい男だったりして?」「あり得る、あの目付きはかなり危険。もう何人か殺してるかも…」「え〜?マジッ?」

 

なんか色々と好き勝手に言われていた。今度から猫被りでもするべきだろうか……。

 

 溜息を吐きながら職員室の扉を3回ノックし、「どうぞ〜」という返事の後に「失礼します」と言って扉を開ける。待ち構えていたのは、この学校の理事長を務める壮年の女性だった。物腰の柔らかそうな雰囲気で左手の薬指に嵌められた指輪から既婚者だと分かる。

 

「お待ちしておりました。では早速で申し訳ないのですが、これから理事長室にご案内し、ここでのお仕事を説明します。それが済んだら、他の先生方と一緒に入学式へと参加しましょう」

 

 理事長室で職務の内容の説明を受け、自分は理事長と直接の契約を交わした上で学校での身分を保障される立場となり、客員講師として勤務する際は教師としてのモラルを徹底する様に言われた。

 

「私からは以上です。では今日から宜しくお願いしますね、志熊先生」

 

契約は成立した。笑顔で手を差し出され、互いに握手を交わす。その後は体育館で行われる入学式に向かったのだが……。

 

「…………(チラッ)」

 

「…………(チラッ、チラッ)」

 

「………………」

 

さっきから両隣の女性教諭から不躾な視線が何度も向けられてくる。分かってはいたが、やはり自分という存在はこの空間内では相当異質に映るらしい。100年近い歴史を持つ伝統校である宮益坂女子学園------、通称"宮女"は生徒から教師に至るまで、在籍する人間の殆どが女性だ。男なんて右を見ても左を見ても自分以外存在しない(理事長の話によれば自分以外の男性職員も勤務しているらしいが)。

 

「……ハァ」

 

 理事長兼校長が登壇し、新入生に対し歓迎のスピーチを行う中、完全アウェーとなった理雄は体育館の隅で佇立しながら居心地悪く溜息を吐く。

 

「…ふふッ♪」

 

 不意に、楽しそうな声が聞こえてきて視線を向けると、前列に並べられたパイプ椅子に座る高等部の新入生達……その内の一人に目が留まる。ピンクのグラデーションがかかったやや緩めの金髪をツインテールにした可愛らしい少女がほくほく顔で入学式に参加している。今年から高等部の一年生に進学した子の様だが、これからの学校生活がよほど楽しみなのか、さっきから表情が綻んだままだ。

 

 他に見る物も無いので、暫くご機嫌美少女を見つめていると、偶然こちらと目が合う。

 

「……(ニコッ)」

 

 太陽の様な明るく眩しい笑顔を向けられ、小さく手を振ってくる。それだけで先程の居心地の悪さなど瞬時に消し飛んでしまった。

 

---------なんか、素直で元気そうな子だな。

 

 ああいった人間は近くに居るだけで色々とエネルギーを貰える。笑顔が眩しい少女に小さく手を振り返し、そのまま入学式は終了となった。

 

 帰宅後、事務手続きのミスと諸々の調整から実際に登校するのは数日後になると連絡を受け、理雄はその間にこの世界----------シブヤの街を散策する事にした。

 

 流行ブームの過ぎたタピオカの店を訪れた時は、入学式で目撃した金髪少女が友人らしき黒髪の少女と楽しそうに放課後を満喫している姿が見受けられた。少し遠くから見ていたので言葉こそ交わさなかったが、顔は覚えられたのか、道路の反対側から幸せそうな表情で手を振ってこられた。

 

 この数日間、財団からの接触はおろか痕跡すら発見する事は叶わなかった。だがあの秘密IDや財団製特殊防弾スーツの存在から、この世界にも間違いなくSCP財団なる組織が創設されており、秘密のベールで自らを覆い隠しながら活動していると確信する。

 

そして明日、いよいよ客員講師としての本格的な一日が始まる。

 

「まさか俺が教師とはな……。ホント、生きてれば色々ある」

 

 どんな生活が待っているのか、若干の期待と不安を抱えながら翌日の朝を迎えた。

 

 

 

 

 宮益坂女子学園の入学式が終わってから数日後、自分が受け持つ1-Cの教室に担任に案内されながら向かう。

 

「しかし驚きました。まさか9ヶ国語を喋れる方が来るとは…」

 

 

「厳密にいえば7ヶ国語です。中国語とロシア語は苦手です」

 

 

 担任教師の女性教諭と会話しながら廊下を歩く。50手前の人物だが、引き締まった体躯と凜とした美しさを持った女性だ。

 

「当校は進学校ですので、あなたのような広い視野と智見がある方は生徒も心より歓迎するでしょう」

 

「ありがとうございます。女子校なので、正直不安ではありますが、そう言ってくれると助かります」

 

「大丈夫ですよ。皆優しい子達ですから」

 

 教室に入り、生徒たちを見渡す。高校生活がまだ始まったばかりだからか、皆、緊張気味の様子だ。

 

「志熊理雄です。皆さんの語学を担当します。客員講師ですが、海外での生活経験を活かして皆さんの力になりますので。勉強のこと以外でも遠慮なく相談してください。よろしくお願いします」

 

 

 普段とは露骨に口調を変え、爽やかで優しい笑顔と声を投げかける。自分でも気持ち悪いくらいの優男を演じる。

 

 生徒たちはそれを見て、優しいイケメンと認識したのだろうか。張り詰めていた教室の空気が比較的緩やかものになる。

 

 その後は簡単な自己紹介を行なった。好きな食べ物、動物といったよくあるものから、好きな異性のタイプや彼女はいるかといった女子高生が好みそうな質問を投げかけてきた。

 

「僕は寿司が好きだよ。特にホタテが好きかな」

 

「先生のこと何て呼べば良いですか?」

 

「お好きなように」

 

「じゃあ、りおちゃんせんせー!」

 

「そういう呼び方されるのこれで201回目なんだけど…」

 

 顔見知りとなった金髪をツインテールにした元気な女子生徒、天馬咲希の質問に苦々しい顔で答えると周囲から笑いが上がる。ちなみこれは本当の話だ。昔から名前と顔が女性的とみられ、それで良い思いも悪い思いもしたものだ。特に気にした事はないが。

 

 ホームルームを終わらせると、早速英語の授業に入る。

 

 

 進学校の生徒なだけあり、個人差はあるが、皆基本は出来ているので授業は進めやすかった。最初に当てた青髪ショートの生徒は特に優秀だった。なんでも元国民的アイドル(無論、自分が知るわけない)だったそうだが、多忙な身でここまで出来るとは正直感心した。

 

 その次に当てた黒髪ロングの生徒は心なしかボーっとしており、3回読んでようやく気づき、「ひっ、ヒャい!」となんとも間抜けで可愛らしい返事をした。

 

 授業が終わり、教室を出て廊下を歩いていると後ろから声をかけられた。

 

「あのっ!」

 

 

 振り返ると、さっきの黒髪ロングの生徒が立っていた。どこかで見覚えがあると思ったら、タピオカ店で咲希と一緒にいた子だ。何か覚悟を決めたような表情をしている。

 

「ボーッとしていて何か聞きそびれたかい?」

 

 少し意地悪に揶揄する。

 

「い、いえ……。授業中はすみませんでした」

 

 彼女は素直に頭を下げる。かなり真面目な性格のようだ。

 

「いや、別に……それで何か用か?」

 

 彼女は不安そうにしながらも真剣な表情で口を開く。

 

「私の……大事な友達のことなんです。」

 

 

 

 

 

 

 

彼女の名は星乃一歌。中学の時にすれ違いになった幼馴染達との関係を修復するべく奮闘しているらしいが、どうも壁に当たっているらしい。

 

 

「つまり、昔のように4人一緒にいたくても、お互い言えないことや諸々の事情で離れ離れになり、今も1人離れたまま……と」

 

「はい…」

 

 一歌は沈んだ様子で答える。彼女なりの努力で他の2人とはひとまず関係を持てるようになったものの、最後の1人が心にトラウマを負っており、接触すら出来ないらしい。

 

「……」

 

 理雄は考える。正直くだらないとは思う。自分の意見を相手に伝え、相手の意見をしっかり聞いてからお互いにすり合わせなければ事は運ばない。ただ、それを心身共に未熟な女子高生に伝えるには言葉を選ぶ必要がある。

 

「確認したいんだけど…」

 

「はい…」

 

「君は彼女らと一緒にいたいんだね?」

 

「はい!」

 

力強く答える。

 

「それは向こうも同じだと思うよ」

 

「…!」

 

「君達の仲は詳しくは知らない。けど話を聞く限りこのすれ違いはお互いの優しさ故に起きたんじゃないかと思うんだ」

 

「……」

 

「想いが同じなら、繋がりを求め合う者たちならまた一緒になれる。だから、まずは君の想いを伝えるんだ。そしたら今度は相手の想いを聞く。あとはお互いの絆を確かめ合うだけだ」

 

「私の想い……穂波の想い…」

 

しばらく自分の気持ちを確かめる時間を取ると彼女は意を決して立ち上がり、深々と頭を下げた。

 

「ありがとうございます。少し、答えが見つかったかもしれません」

 

「…そうか」

 

 相談に使っていた空き教室を出ると2人で教室に戻る。

 

 廊下をしばらく一緒に歩いていると、一歌がふと聞いてきた。

 

「あの……先生にも想いが同じ人っているんですか?」

 

「どうした?急に」

 

思わず聞き返すと、一歌は少し恥ずかしそうな様子で。

 

「いや…少し気になって…」

 

「…いるよ」

 

 理雄はシータ25-Jのメンバーを思い出す。一歌たちと比べたら汚らしく歪みまくりながらも、同じ誇りを持った絆で結ばれたジュリエットの剣たちを想う。

 

------あいつらは無事だろうか…。

 

 

 

「そうですか……あ、もしかして幼馴染…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「---------------------------------------」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼馴染(クズ) 金かしてー、宿題見せてー、あと金かしてー。

 

幼馴染(カス) エロゲーのあかりルート進めないから手伝ってー。

 

(ゴミの中のゴミ) その辺のjk攫ってきてよ。あそこに○○○して○○○するから。ハァ、ハァハァ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い出したくない連中を一気に思い出した--------思い出してしまった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せ、先生?」

 

フリーズした理雄を不安そうに見上げる一歌。

SCPー096の顔写真を見てしまった者のような絶望と諦念をまとった顔をしていた理雄はしばらくすると醜悪の冥府から帰還し、この世の優しさ全てで覆ったような聖人の笑顔を作ると--------、

 

 

「大丈夫。君の想いを伝えてあげるんだ」

 

 

 あまりに力強く、温かい優しさに一歌は幼馴染達への尊い想いも、ミクへの崇拝も忘れて惚れてしまいそうだったが、<教室のセカイ>のミクが

「想いを忘れちゃダメー!!」と涙目で叫んだような気がしてハッと我に帰り。顔を赤くしながら一礼して教室に帰って行く。

 

 

 志熊理雄は優しい笑顔でそれを見守り、そのだいぶ下に隠した虚な目で常識の外側で己の欲望をぶちまけている。魑魅魍魎どもを呪った。

 

 

 

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