Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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第二十八話 誇りの為に

 

 「…これで全てか?」

 

「はい、昨日を以て私の任務は終了致しました。調査報告書のコピーとその他資料の全てがそちらになります」

 

宮益坂女学院の校庭の裏側、ボイラー室の陰に理雄たちはいた。管理人以外誰も来ない所で女子生徒とコソコソしている様子は、第三者から見るとただらぬ関係にあると思われそうだが、無論そんな事はない。

 

 桜 結衣(さくら ゆい)、この学校の3年生であり、財団日本支部から派遣されたフィールドエージェントである。彼女の様な現役の学生の方が目立たないという利点から、入学して以降学校を拠点とした情報収集を主な任務としている。【イタバシ襲撃事件】の調査を担当していた職員の1人であり、理雄は彼女に頼んで事件に関する情報を渡してもらったのだ。

 

「本当に助かる。この礼は必ずする」

 

「いえ…、あの、この事はくれぐれも内密に…」

 

「分かっている。君に迷惑はかけない……本当にありがとう」

 

小麦色の長い髪を後頭部で結った彼女に礼を言う。背丈は170cmを超えており、全体的に大人びている様に見えるが、切れ長の目はパッチリ開いており、どちらかといえば可愛い感じの顔立ちだ。

 

 メリッタから受け取った情報曰く、雅弓は宮女の出身であり、つい1ヶ月前までここの生徒だったらしく、結衣は雅弓の1年下の後輩だった。2人とも弓道部に在籍していた時から仲が良く、接点も多かったらしい。

 

…まさかどちらも財団関係者だったとは思わなかったが…。

 

 その後すぐさま結衣と接触した理雄は機密情報のリークに躊躇っていた結衣に対し、「親友の仇は俺がとる。その為に協力してくれ」と説得すると彼女は応じてくれた。

 

「ではこれで、弓道部の練習がありますので。……約束、守ってくださいね」

 

「あぁ、任せておけ」

 

「………何も分からず先輩が殺されるなんて、納得出来ませんから…」

 

 最後に彼女はそう呟き、理雄の前を去った。

 

(…今回の件は下手をすれば財団を敵に回す…。だが、これを見て見ぬふりは出来ない……それじゃ誇れないんだよッ)

 

胸元のロケットを固く握りしめる。中にはリリカの写真が入っている。

 

------ 彼女から受け取った誇りにかけて、この事件を暴き、その異常性を断ち切ってみせる。

 

理雄は誓いを胸に目を瞑った。

 

「……………………………先生」

 

ふと後ろから声が聞こえてきたので振り返る。しかし誰も見当たらない………と思って視線を下にずらした直後にギョッと仰け反る。

 

視線の先には一歌がいた。至近距離から理雄を見上げる彼女の目は虚になっており、綺麗な黒髪はパサつき、骨と皮だけになり目ばかりがギラついている彼女の口は、普段の涼やかさが完全消滅した枯れた声を垂れ流していた。

 

「……今日、昼に焼きそばパンを買いに行ったんです」

 

「……?」

 

いつもの事だがどうかしたのだろうか。

 

「売り切れてました……」

 

 「……」

 

「お財布も忘れてました…」

 

「……………」

 

「お昼に何も食べてません…」

 

「……カレーパン一つ余ってるけど食うか…?」

 

「それじゃ生命を維持出来ません」

 

「………」

 

「……午後は体育でした…」

 

「……………」

 

「体育担当の舞祭狗(ぶさいく)先生に2時間ぶっ通しで『ポジティブ・ダンスタイム』踊らされました…。あのブサイク老女ッ……!」

 

外面も内面もキャラ崩壊が激しすぎる。一歌とは思えない程口が悪くなっているが本当にどうしたのだろうか…。

 

「今すぐ焼きそばパンを食べる必要があります。出なきゃ今にも突然燃えるか爆発します」

 

「わかった!すぐに買ってくるから!だから手に持ってるライターをしまえッ!」

 

理雄は神速の風で近くのコンビニに向かう。今は誇りよりも、目の前の焼きそばパン中毒者の禁断症状によるテロを防ぐべく、その身に鞭打つのであった。

 

  

 

          *

 

 

 午後6時、理雄の自宅には4人の男がテーブルの上の資料を睨みながら唸っていた。メリッタや結衣の協力により集めた全ての情報だ。

 

「……今更ですけど、いいんですか?俺に付き合って…」

 

この場にいる理雄以外の英牙、悠間、初雪は苦笑しながらこちらを向く。

 

「本当に今更だな……、俺だってあの件は納得しちゃいない」

 

悠間が僅かな憤りを見せ------

 

「ガキ1人に任せられるか。俺らも手伝ってやる」

 

初雪が鋭い目で一瞥をくれ------

 

「俺たちは向こうの財団の指揮下にある。こっちの連中に遠慮する必要はない」

 

英牙が少し痛いくらいの強さで肩を叩く。

 

…やはり彼等となら自分は最強だ。

 

理雄はそう思いながら目の前の資料に目を向ける。雅弓の簡単な個人データだ。

 

    

   【事件記録4.20 補遺1.被害者情報】

 

名前: 新羅 雅弓

 

年齢: 18歳

 

性別: 女性

 

血液型: A型

 

身長 167cm

 

財団との関係: 直接的な関係なし。

 

略歴:

 

81管区評議会議員、新羅良雄の1人娘。宮益坂女学院卒業後、国立栄華大学に進学。現在1年生。弓道の有段者。母親の典子氏は出産直後に死亡。父子家庭。

 

父親との関係:

 

良雄氏の表の身分は不動産業者であり、雅弓氏本人もその様に認識している。

 

 

 

………………ごく普通のお嬢様…か。

 

少なくともこれからは大した情報は得られない。

 

「……なんだこれ…?」

 

悠間の声に全員が振り向く。悠間がテーブルに見ていた資料を広げる。

 

「押収された雅弓氏の日記だ。ここ最近の内容はごく普通だったが、このページを見てくれ」

 

悠間が指したのは10年以上前のページだ。彼女は当時7歳くらいだろうか。平仮名だらけだが字が綺麗な辺り、育ちの良さが伺える。

 

 

      【原文を一部抜粋】

 

      4月11日

 

きょう、'はつねミク'という人を見ました。ボーカロイドって言うらしけど、よくわかりません。けど歌がすごいきれいでした。また聞きたいです。

 

      4月12日

 

今日ミクに会えました!いっぱいお話していっしょに歌いました。'セカイ’っていうふしぎな場所はすごくきれいです。お父さんに話したら、むかしお母さんが好きだった場所によくにているって言ってました。今度はお父さんといっしょに行きたいです。

 

     【日付不明】

 

今日は…………、よく分かりません。きのう書いたこともよくおぼえといないし……。何かだいじなことをわすれている気がします。けどここに書かれていることって何?

 

 

     【以降、5月までの記録なし】

 

5月1日

 

 今までなにをしていたかおもいだせません。お父さんは何もなかったって言うけど、なんで4月ののこりが空白なんでしょうか。

 

 

     【以降は特に不審な点なし】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだこれは」

 

初雪は眉間に皺を寄せる。

 

「…答えはこれでしょうね」

 

理雄が新しい資料を広げる。

 

 

      【処理記録20○○.No.1452】

 

 4月下旬において、新羅雅弓のAクラス記憶処理を完了。雅弓氏の年齢故、健康上の問題を考えて処置には慎重かつ時間を要した。

 

 詳細は削除済み。 

 

 

 

 

 

 

 

「……分かっている事は少ないが…」

 

英牙が指を立てる。

 

「雅弓氏は幼少期にアノマリーに接触し、記憶処理を受けた……、それは間違いなさそうだ」

 

理雄が頷く。

 

「しかし、なぜカオス・インサージェンシーに狙われたんでしょうか……。これだけだと分かりませんね」

 

その後も調べ続けたが、結局彼女の過去に起きたアノマリーインシデントの記録は見つけられなかった。

 

すると悠間が怪訝そうな顔で口を開く。

 

「ここに書かれている'はつねミク'って…、初音ミクの事か?」

 

「まぁ、そうでしょうね。独特な名前ですし…」

 

「何で『初音ミク』なんだ?」

 

今度は周囲が要領を得ない様子を見せる。

 

「別に珍しくはないでしょう?人間の意識の中から何らかの形で顕現するタイプなら、知名度が伝播しやすい有名なマスコットなんかが出たりもしましたし」

 

「なら『ミッキー』でも『ドラえもん』でもいいだろ……………いや待て、そもそも初音ミクの事、お前らはどれだけ知っている?」

 

いきなりの事に若干困惑するが、過去の記憶からミクの情報を呼び起こす。

 

「えっと……確か2010年代にネットを中心に盛り上がった音楽生成ソフトの事ですよね?それを使った曲があって…」

 

そこで言葉を切る。

 

「……待った。ここでの今の時代から計算したら、当時はまだ出来上がったばかりじゃ…」

 

理雄の言葉に悠間は頷く。開発年が基底世界と同じなら、当時は名前すら殆ど知られていないはずだ。

 

「そうだ。ネットに触れる様な年でもない彼女がどこでミクの存在を知った?そもそもこの’自称初音ミク'は何者なんだ?」

 

「「……………………」」

 

その言葉に全員が押し黙る。日記からは直接暴露者や周囲の人間に害を与えるような物ではない様だが……一体これは…。

 

 

その瞬間、全員の仕事用携帯が鳴る。表示を確認してみる。

 

これは…………まずいな。

 

英牙が険しい顔つきで声を張る。

 

「コード412だ。財団職員が狙われている、全員ケツを上げろ!!」

 

 

 

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