Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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第三十話 ホワイトアウト

 

 一体どうなっている…。

 

 大型モール備え付けの駐車場は灯が殆どなく、目が慣れてきたとはいえこうも闇に包まれていては状況が判らない。

 

 財団日本支部所属のフィールドエージェント、義野 圭一(ぎの けいいち)はM16A4ライフルを傍に数時間前の事を思い返す。

 

 

 

 

 

 

 

 午後7時、自宅で夕食の親子丼を作っていた圭一は、突如上司からの避難命令に当惑しながらも、身を守る為の武器を揃えて避難を開始する直前、婚約者に連絡を取ろうと携帯に手をかけた瞬間、窓が割れる音がして振り返り見た物は---------破砕手榴弾だった。

 

 

 

 

 

その後、自分を追ってくる武装集団との銃撃戦を繰り返しながら、パニックになる群衆をかき分けこの駐車場に辿り着いた。停められていたSUVの影に隠れながら、既に数時間周囲を逃げ回っている。腕時計を見てみると時刻は午後8時を回っていた。ライフルのマガジンを抜き残弾を確かめ項垂れる。

 

(弾薬も底を尽きそうだ…。応援が来なければ30分も持たない……)

 

 絶望的な状況に心が折れそうになるが、何とか繋ぎ止める。圭一には帰りを待つ人がいる。…彼女は無事だろうか。確かめる為にもここで死ぬわけには------

 

 直後、SUVの窓が割れる。

 

消音された銃声が辺りから轟き、静かにSUVの車体が破壊されていく。

 

(クソッ…!アイツら暗視装置でも持ってるのか!?)

 

闇に紛れて戦う敵の姿は見えず、消音装置を付けているのかマズルフラッシュも見えない。持ってきたライトを点けて確認する-----なんて事は論外だ。暗闇の中でそんな事をすればすぐに此方の正確な位置がバレる。殺してくださいと言ってる様な物だ。迂闊な発砲も同様である。

 

(とはいえある程度の位置は掴まれてる…。すぐに移動しないと)

 

銃撃がある程度収まると、隙をついて車の影から飛び出す。

 

 しかし敵はそれを見越していたかの様に------

 

------ビシュッ------

 

「………ッッ!!」

 

足に激痛が走り、前のめりに倒れる。見てみると右足を撃たれていた。

 

(野郎ッッ……!!)

 

怒りと殺意により過剰分泌されたアドレナリンが痛みを脳の奥に押しやる。ライフルを構え狙撃してきた方角に銃口を向けて引き金を引く。………が、弾丸は発射されない。

 

 ------故障!?

 

M16は最初期のモデルとは違い、現在は重大な異常を起こしたりしないのに……。

 

唖然とする圭一は己の頭部に敵の銃口が向けられたのを空気で感じる。

 

……これまでか…。

 

最後の一撃を撃ち込まれ、意識が冷たい暗闇に一生包まれるビジョンが脳裏を掠めた。

 

 

              *

 

 

降車後、速やかに戦闘隊形を取ったジュリエットチームは闇夜の駐車場に突入していた。静謐が支配するこの戦場は四方八方が車に囲まれていた。白いミニバンに、4WD……軽トラからベンツまで、多種多様な車が停められていた。

 

志熊理雄は足音を立てない様に慎重に足を進ませていた。小さな枝を踏んだり、銃のスリングの金具がカチャカチャと鳴る音は自分が思ってるよりも遠くに聞こえる。無足無音を絶対厳守とした移動は夜間での隠密行動の基本である。

 

 理雄達が今回装備しているPVSー31D暗視装置は、パッシブ光学方式の双眼式暗視装置であり、人間工学に基づいた薄型設計により、従来の単眼式よりも軽量かつ遠近感を把握し易い優れた状況認識能力を持つ。

 

ハンドルシグナルを送り合いしばらく進んでいくと、左手側に大型のショッピングモールが見えてくる。10階建で最近新装工事を終えたこの商業施設は、衣服店、食品販売店、ファストフード店など大小様々な店が並んでおり、週末は音楽イベント等も開催される有名店だ。理雄は自分が小さい頃、休日に両親に連れられて同じ様な所で遊んだ記憶を思い出す。確かあの時、自分が海外産のネズミ肉の缶詰が欲しいと駄々を捏ねて両親を困らせていたんだったか…。子供の頃の自分は好き嫌いがあまりなかった分、

変な食品にも興味津々だった。

 

一瞬物思いに耽りかけるも、すぐさま集中を取り戻す。

 

 

……相手は素人ではない。一瞬でも油断すればやられる。

 

 

すると、先頭にいた英牙が『停止』のハンドシグナルを出す。

 

『前方に敵を確認』

 

英牙が指した方をよく見ると、50m程離れた所に敵武装集団9人全員を確認した。1人1人が車の影に隠れながら、標的を追い詰めている様だ。英牙が再び手を挙げる。

 

『一列縦隊になり接近する』

 

全員がすぐさま列を形成すると、後ろから順に前にいる相手の肩を叩いて合図を送っていき、最終的にそれは英牙に辿り着く。

 

『GO』

 

影で蠢く死霊と化したジュリエットチームは車と車の間を縫う様に進みながら接近。そして敵との距離10mという地点で全隊停止。

 

相手の装備を確認すると、理雄は少し嫌な顔をした。

 

敵の兵士はサプレッサーを装着したAKを持っていたが、1番厄介なのは相手も暗視装置を装備している事である。これでは夜間戦闘でのアドバンテージがなくなり、互いに視界を確保した上での至近距離による銃撃戦という危険な勝負になってしまう。

 

しかし我らが分隊指揮官は何の迷いもなく指示を飛ばす。

 

英牙率いる4人を右サイド、もう4人を左サイドに着かせる。理雄は左サイドだ。

 

《総員、暗視装置を外して目を暗闇に慣らせ》

 

無線から発せられた英牙の言葉に全員が頭に?を浮かべる。

 

《暗視装置の弱点を突く、J-2、J-5…閃光弾用意》

 

その簡潔な説明に全員が秒で理解した。

 

(成程……そういう事か…)

 

奇襲態勢を整える中、救出対象が車の影から飛び出してくる。

 

(ッ…バカッ…!)

 

案の定、直後に足を撃たれ転倒。最早一刻の猶予もない。

 

《J-2---準備よし》

 

《J-5---準備よし》

 

《全隊攻撃用意…3‥2…1…やれッ》

 

英牙の無線からの合図で2人が閃光弾を投擲。凄まじい光が敵兵の暗視装置

の光量増幅機能によって一気に目に流し込まれ、視界は一瞬でホワイトアウトし、目を奪われる。直後にジュリエットチーム全員が突っ込んできた。

 

「武器を捨てろッ!!」

 

「今すぐ捨てやがれゴミどもがッ!!」

 

威圧する様な大声に対し、なす術もなく武器を捨て降伏する兵士達。しかし辛うじて目を守った2名が、隙を見て丸腰で逃走。

 

「J-7、追跡するッ」

 

理雄がその2人を追う。

 

 

           *

 

 

モールの中に逃げ込んだ2名を追った理雄は、廊下を歩きながら周囲への警戒を極限まで高めていた。既に目の前からは消えているが……

 

------奴らは近くにいる。逃すかッ

 

 

優れた空間認識能力を持つ理雄は、既にこのフロアの状態を細かく掴んでいた。直感的にではあるが、昼夜問わずあらゆる状況の異変を察知する目、鼻、耳……そして脳を持っている。僅かな風の流れ…気圧の変化…臭い…物音…物体の位置の変化…。志熊理雄の五感及び第六感とも言える力は、完全にこの場を支配していた。

 

………見つけた。

 

理雄は左手側にある倉庫に向かって進む。……誤魔化されているが、明らかについさっき何者かが入った痕跡を見てとれた。

 

壁側にピッタリと背を付け呼吸を整えると、意を決して中に入る。倉庫内はかなり広く、天井も高い。少し気を抜いただけでこの広い空間の膨大な闇に飲み込まれそうな感覚を一瞬覚える。

 

倉庫内には大型家電類などが所狭しと並んでおり、迷路の様になっている。高さ5メートル以上はありそうな大きな棚は、巨人が造った壁の如く聳え立っており、暗闇と相まって壮大に見える。この状況は【SCP-3008】を理雄に想起させた。この施設はIKEAではないが、報告書に記載されていた’スタッフ 'が今にも暗闇から突然飛び出してきそうだ。

 

そんな恐怖とも妄想とも言える様な思考を振り払うと、曲がり角に差し掛かる。CQBにおいて特に恐ろしいポイントだ。待ち伏せされやすい死角程恐怖を感じるものはない。

 

ゆっくり------慎重に-----

 

 

前方への集中が最大まで達した瞬間-----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後方の異変を察知した。

 

 

ガッ…!

 

「オオッ……!」

 

「くッ…!」

 

振り向きざまに後ろから組みついてきた獲物が銃を奪い取ろうとする。

 

暫く組み合い、右手を離した隙に右肘打ちを顔面に見舞い、相手が怯んだ瞬間に銃を構え直す。

 

反撃の猶予も与えず銃床で相手の顎を打上げ、倒れた後にトドメの1発を撃ち込む。

  

「ダァアアアアアアアッ!!」

 

直後、横から体当たりしてきたもう一匹に倒され、銃が明後日の方向に投げられる。

 

そのままマウントを取りパンチの連打を浴びせられ両腕でガード。

 

右パンチをキャッチし、そのまま取った右手を左肩上に引っ張るとともに左足を相手の右足にフック、左肩を支点に斜めにブリッジしてマウントを返す。

 

しかし相手も一歩も引かない。両足で理雄の体を挟み、腕を取り引きつけ体を回転。片足を頭にかけ十字固めを極める。

 

ミシミシと骨が軋む音がするが、まだやられはしない。

 

両手で相手の襟を掴んで引き寄せる。足を立たせ地面をしかと踏みしめると、足腰のバネで跳ね上げる様に持ち上げ、近くにあった組立前の木製ベッドに叩きつける。

 

バガァァァァァァンッッ!!

 

轟音とともにベッドが粉々になり、後頭部を打ち付けた最後の獲物は意識を手放した。

 

生きてる方の両手を結束バンドで拘束すると、

 

「済んだか?」

 

どこからか宮崎が現れた。応援に来たんだろう。

 

「人にノロマとか言った誰かは痩せた方がいいんじゃないか?装備付けただけで50m歩くのに30分かかる様だしな」

 

理雄は鼻で笑いながら今更きた援軍に悪態をつく。

 

デブ呼ばわりされた方はそれを一笑し…

 

「1人でアウトロー気取るからだろ。自己中姫」

 

 

 

 

 




 
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