Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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第三十一話 スレートサンダー

 

「…イッテェな…クソ…」

 

「平気か?」

 

「動脈には当たってないらしいが、平気ではないな…」

 

 財団の所有する救急車(外装は一般的なモデルで側面のボディには【東京消防庁】とプリントされている)の中で治療を受終わった義野圭一は時折痛みで顔を顰めるが、笑みを浮かべながら気丈に振る舞う。

 

 既に時刻は夜の9時に差し掛かっていたが、現場近くには報道陣と野次馬が押し寄せており、警察官が封鎖テープの後ろで彼等の侵入を防いでいる。理雄たちがいる場所はモールの影になっている所であり、報道陣からは見えない。今圭一を堂々と彼等の前に出せば、我先にと津波になって押し寄せて来るだろう。財団の存在を秘匿する上でそんなマネは出来ない。

 

「……なぁ、どうして今回俺は狙われたんだ?いつ素性がバレた?」

 

圭一が疑念を抱くのはもっともだ。財団に限らず秘密組織の場合、小グループの細胞を複数構築し、細胞間の情報の共有を最小限に留めることで情報の漏洩を防いでいる。余程バカをやらかさない限り、規定に従っていれば何も問題ないはずだ。

 

「今回狙われたのは【イタバシ襲撃事件】の調査に直接関わった人物だ」

 

理雄の言葉に圭一は愕然とする。

 

「バカな…あれは既に片付いた事案だ!アノマリーの存在もない、ごくたまにある要注意団体からの襲撃でしかない!!」

 

憤りが傷に響いたのか、呻きながら蹲る。モルヒネを渡すが、「大丈夫だ…」と断られる。

 

 理雄は圭一の目を射抜く様に見つめる。

 

「義野さん…。アンタ本当は分かってんじゃないのか?この件がそんな単純じゃない事くらい」

 

理雄の言葉に圭一は一瞬ビクッと震える。その後俯き暫く沈黙していたが、やがて重々しい口調で話し始める。

 

「…俺を含めこの件における現場捜査・分析を担当したのは4人…。フィールドエージェントの桜結衣、研究者の靫原幸太と南雲慎一博士だ」

 

理雄は黙って聞き、圭一はそのまま続ける。

 

「護送ルートと護衛対象の情報が漏れていた時点で何かおかしいのはすぐに気付いた…。だから捜査が打ち切られる直前まで徹底的に調べたんだ。それこそ危ない橋も渡った……………。結衣は……現場担当の1人は捜査が打ち切られた後も捜査を続行しようとしたが、俺が止めたんだ…」

 

「……婚約者だから…か?」

 

圭一が顔を上げ理雄を見る。

 

「知っていたか…」

 

「軽く調べただけだ…。……来年彼女が卒業した後、結婚する予定だったらしいな」

 

結衣は18、圭一は20歳だ。学生時代からずっと交際していたらしい。

 

「…殺されたのは結衣の先輩だ。彼女は仇を討つと言っていたが、上から睨まれたら俺達の未来にも影響が出る…。だから俺が説得して…」

 

そこで一旦言葉を切ると、やがて恐る恐る尋ねる。声は震えていた。

 

「なぁ…、他の3人は……?結衣は…どうなっている?」

 

圭一の目は怯えていた。最悪の結末を聞かされるのではないかと……だが理雄は、その最悪の結末を聞かせなければならない。

 

「……3人とも殺された」

 

その言葉に圭一の瞳が見開かれ、再び俯いた。

 

「そうか………………………わかった…」

 

消えいる様な声で応える。もしかしたら彼はこうなる状況をどこかで想定していたのかもしれないが、愛する人を失った現実を受け入れきれてない様に見える。

 

 その後、彼は救急車搬送された。向一が付き添いとして同乗した。理雄達はそれを暫く見送る。

 

「…俺が彼女を巻き込んだんでしょうか…」

 

 自分が結衣に無理強いしたせいで、彼女は命を落としたのではないかと思ってしまう。一度は圭一からの説得により諦めがついた彼女を自分が危険に引き込んでしまったのでは…。彼がそれを知ったら、彼は自分を憎むだろうか……。

 

「よせ、どのみち異常事態が起きている以上、犠牲が出るのは分かっていたんだ。……分かっていながら…な…」

 

意味深な言葉を初雪が呟く。それはジュリエットチーム全員が理解していた。

 

今回の件で確信した。敵は内部にも潜んでいる。財団職員の身元を特定され、すぐさま襲撃を受けた……内部の人間の仕業としか考えられない。それもかなり上位にいる人間だ。件の武器密輸も、イタバシでの襲撃も…全てを理解し裏で操っていた者がいる。職員の配置やセキュリティ等……あらゆる情報を握っている人間だ。誰が敵で誰が味方かわからない状況では、こちらも自由に動けない。少なくともこの世界の日本支部や81管区評議会は敵だらけと考えるべきだろう。となると……。

 

「…外部の人間に協力を仰ぐしかありませんね」

 

 

 

           *

 

 

サイト-8156 セクター4・B32ユニット【異常存在交流課施設】

 

暗闇に包まれた完全防音の部屋には、各部にLEDライトが幾何学的な模様を描きながら薄く光っている。ジュリエットチームの8名が取り囲む様に中心にある三角錐状の端末を見つめている。やがて端末の頂点から一筋の光が天を指し、それが広がる様にホログラムを構築していく。やがてそれは1人の白人男性を顕現させた。

 

 「気をつけ、敬礼!!」

 

英牙の号令に従い、全員が直立不動の姿勢で敬礼をする。ホロの人物も同じ様に返す。

 

『諸君、久しぶりだな。コーヒーとベーグルは……そこにはないか』

 

男は軽いジョークを交えながら笑みを零す。年齢は50代前半くらいだろうか。頭髪が後退し残った髪は全て白髪になっている。欧米人特有の高い鼻は手術で整形した跡が窺える。眼光は鋭く背はしゃんと伸びており、身長は確か190を超えているはずだ。財団の軍事部門の制服を着ており、階級章は大佐、右袖には【上級部所属】を記す徽章が張られている。

 

 

 ニール・ホーンビー大佐。

 

財団の上級監督情報将校であり、基底世界から通信を繋げている。このやり取りを知る者はこの部屋の中にしかいない。ニールはやや大きめのアメリカ英語で話す。

 

『要請は聞いている。要注意団体……カオス・インサージェンシーについての詳細を聞きたいとか…』

 

 英牙が声を上げる

 

「大佐殿、こちらでの財団の一部に不審な動きが見られます。事前の報告

通り、既に複数の財団職員が不審死を遂げています。現時点で財団の通常職務に支障をきたしており、こちらの機関への信頼ができない以上、其方からの協力を得るしかありません」

 

ニールは『ふむ…』と頷くと、しかめつらしい顔を作り厳かな声を出す。

 

『まず、彼らの基本情報は【ファイル#008956】を参照してくれ……といってもレベル1で閲覧できる一般的知識だ。君たちも当然目を通してるだろう」

 

すると三角錐の端末が置かれた机の上にホロディスプレイが表示される。表示されたのは秘密区分警告だった。

 

 

 

 

 

 

 

《警告、この文書には財団一般保安規約第02条第183節に抵触する、財団の保安に影響を与える情報が含まれています-----(以下略)レベル5クリアランスレベル及び指定された管理手続きを通した、書面での情報の受容による、特別な教化と許可を得た人物に限られています。

 

無許可のこの文書の視聴、所持、複製、及び/または頒布に対しては、財団保安一般規約第18条第2381節に従った処罰が与えられます》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは…

 

皆が警告文を見ながら息を呑む。

 

これはつまり、公式概要に載っている『カオス・インサージェンシーは無許可離隊した細胞によって作られた得体の知れないテロ集団の一つであり、詳しい事は何も分かってない』という説明は嘘だという事になる。

 

…逆に言えば、ここに載っている管理手続きさえ取れば、上層部が隠している連中の正体が分かるという事だ。

 

ニールが話を進める。

 

『今から諸君等の端末に秘密保持契約書を表示する。さて…、サインするか出て行くか選んでくれ」

 

ディスプレイに指紋認証が表示され、すぐさま全員がサインする。

 

『素晴らしい』とニールが手を叩く。

 

『ではしっかり見ておけ、これが秘密保持区分------【スレートサンダー】だ』

 

 

 

 

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