Project Sekai SCP incident feat . 作:唯尊
これは……本編とよく似た別世界で起きた、史上最低の’想い'が生んだセカイの物語…。
あらすじ
ある日、何処からか【SCP-1076]を1人連れ帰って来たまふゆの母親は、まふゆのシンセサイザーだけでなく、部屋にある物全てを捨て、その部屋をみすぼらしい見た目の女児に与えた挙句、「貴女なんかもういらないわ」と、原作で口にしたら何もかも終わるセリフを吐き捨て、その後見向きもしなくなった。
まふゆは今まで抱え込んでいたストレスとその他諸々の鬱憤が爆発し、神経がプッツンと切れてしまうと’全てから解放された本当の笑顔'になり、捨てられたシンセサイザーとその他機材をワイヤーで巻きつけて作った狂気と凶器を【ベノム】の高速リズムでモーニングスターの如く振り回し、「メッ♪」と同時に2人まとめて彼方の世界まで吹き飛ばし、その後帰宅した父親が「まふゆは既にちょっと錯乱している!!」と叫んでいる所をネットから流れた【財団神拳】の共振パンチで粉々にし、1076の確保に駆けつけた嵳神向一を’不気味な優等生スマイル'から’なんの偽りも感じられない狂気の笑み'で硬直させ、MG3を強奪しスマホからパニック気味に叫ぶ【何もないセカイ】の住人たちからの制止を無視して、やっと見つけた本当の想い……【気に食わない人間や物を破壊しまくりたい】という想いを見つけた事を奏たちに知らせたい!-----と思ったまふゆはどこぞのコマンドーよろしく、重機関銃を乱射しながら晴れやかな笑顔をさらし、堂々と家を出ていったのであった…。
志熊理雄は朝のニュースを見るべくテレビを点ける。画面にはシブヤのスクランブル交差点の惨状を青い顔しながら叫ぶ様に実況する女性キャスターが映っている。
…なんでも昨夜、トチ狂った女子高生の1人が機関銃ぶら下げて四方八方に乱射しながら往来を闊歩していたら、トラックがソイツの放った弾に当たって横転、運んでいたLSD(幻覚剤)が大量に漏れ、寝ている間に大勢の近隣住民がトリップしてしまったらしい。その為、シブヤの街は現在眠りし欲望を刺激されありもしない幻想に取り憑かれた近隣住民が朝っぱらか暴れ回っていた。
テレビに映し出されているスクランブル交差点では、現在リアルタイムで全ての元凶である女子高生らしき人物が笑顔で鉛弾をばら撒いていた。彼女は三千世界を破壊しながら少し遠くにいる一団を追っている。撮影スタッフも怯えているのか、手ぶれが酷くて確認しずらいが、白目を剥き泡を吹いて失神している不健康そうな少女を2人の少女が担いで背後から迫る鬼人から逃走していた。1人はなんだか承認欲求が強そうで、もう1人は現実逃避をしまくっている様に見える。
あの4人は知り合いなのか、笑顔で「待ってー!まふゆだよー!!」と叫ぶ追跡者から絶叫しながら逃げ惑う3人(1人は失神しているが)。一体彼女らに何があったのだろうか…。
理雄はテレビを消して溜め息をつく。
(そうか‥…幻覚剤か……………)
もっと早く知りたかったな…と、背後を振り返る。
背後にはベッドがあった…。
ベッドの上には一歌達が寝ていた…。
「すぅ…すぅ…」
「ん……」
「あん…」
「ん……う…」
一歌、咲希、穂波、志歩が一糸纏わぬ姿で眠っている…。
志熊理雄の部屋にはあどけない寝顔で穏やかな寝息を立てるLeo/needの少女達がいる…。
部屋には彼女らが身につけていた制服や下着が散らばっている…。
ゴミ箱には使用済みの避妊具や諸々の体液を拭き取ったティッシュが溢れている…。
志熊理雄は全裸である…。
…………完全にやらかしていた……。
(何故だ……何故こんなことにッ…)
*
全ては昨日の夜の出来事だった。
「…それでは!Leo/needの初ライブ成功を祝して--------カンパーイ!!」
理雄が住むマンションの一室にて、天馬咲希の天真爛漫な声が響き渡る。その場にいる5人が各々のグラスを互いに鳴らす。
「咲希、はしゃぎすぎ……」
「まぁまぁ…、今日は私達全員が嬉しいんだから」
「先生、わざわざありがとうございます。こんなご馳走まで…」
全身で喜びと達成感を表す咲希、それを少し呆れた様子で見つめる志歩、それを宥める一歌、理雄に丁寧に頭を下げる穂波の4人が理雄の自宅でテーブルを囲んでいた。テーブルの上には理雄が注文した大量のハンバーグ、焼きそばパン、寿司、ピザの他に、おやつとしてアップルパイ、ポテチなどのスナック菓子が並べられている。あとはその他のジュースだ。無論アルコール類は出していない。
今日はLeo/needが晴れてバンドデビューし、初ライブを完遂した日である。直接ライブハウスに赴き彼女らの演奏を生で聞いた理雄は、労いとして二次会を用意する事にしたのだ。どこで開くか若干迷った時、咲希が「せっかくだし、リオせんせーの家がいい!」と主張した。他の3人が「それは先生に悪い…」と少し難色を示したが、結局咲希の泣き落としで理雄のマンションに決定したのだ。
「いや、遠慮しなくていい。皆今日はお疲れ様……いい演奏だった」
今日初めて彼女達の曲を聴いた。【needle】………過去の後悔や、大切な人への想い、これから共に未来へ進む意志を唄った曲だ。歌詞も歌声も演奏も、彼女達らしい優しさと前向きさを感じた。
「作詞・作曲は一歌と咲希が担当していたんだな」
「はい!いっちゃんと一緒に一緒懸命考えたんです」
そう言う咲希はライブ後から心底嬉しそうだ。この笑顔を見ていると、気合いを入れてこの場を設けた甲斐があったものだ。
「いっちゃん曲が出来るまで一日中歌詞ノート見てたもんねー」
「ほー…、どんな歌詞書いていたんだ?」
「ん〜…、例えば『憂鬱なイングリッシュ…」
「わぁぁあぁぁァァァッッ!!!!」
突如、一歌が長い黒髪を振り乱しながら絶叫した。彼女のよく響き通るクリアな声は、理雄の耳を通して脳髄にダイレクトアタックを与える程の威力を誇っていた。どうやら相当そのノートの内容を聞かれたくないらしい。両手で耳を押さえながら志歩に目を向ける。
「志歩のベースも凄かった。演奏だけならやっぱり君が1番ずば抜けているよ…」
「あ、ありがとう‥…ございます…」
高い評価を貰った志歩は顔を僅かに赤くしながら、照れ隠しをするかの様に早めのペースでハンバーグにパクつく。その様子をニヤニヤした表情で見ながら咲希が口を開く。
「あれ〜?志歩ちゃん、リオせんせーの前では妙に素直なんだね〜」
「ブッ…!!」
食べていたハンバーグを喉に詰まらせ咽せる志歩に、「大丈夫!?」と穂波がグラスに注いだオレンジジュースを差し出す。受け取るや否や豪快にグラスを煽るとテーブルにドンッ!と叩きつけ、ギロリと咲希を睨むと----
「咲希、変な事言わないで。別に浮かれてなんていない。今日のライブには改善点が多いんだから…。まず咲希はリズムが合っていない、ちゃんと周りの音を聞いて。一歌は音が外れてる所が多いし、穂波は勢いで誤魔化していて……」
咳切った様にメンバーにダメ出しの弾丸をばら撒く志歩。バスッ…バスッ…と胸にクリティカルヒットする一歌達を見ながら「まぁその辺に…」
と言って宥める。この中で実力も意識も頭ひとつ上の志歩らしい言動だと理雄は思う。暫くして「ハ〜…」と一息吐いて落ち着きを取り戻した志歩は、ふと近くにあるテレビの下の隙間に薄い雑誌らしき物を見つける。
「何これ…」
「…ッ!!」
志歩がソレを手にした直後、理雄が動いた。
すぐさま脳内で高速演算が開始される。束の間、世界の進む速さが三千分の一まで遅く感じられ、標的との最短攻撃ルートが割り出される。理雄から見ればスーパースローよりもさらに遅い世界だが、実際は理雄の体感速度が限界を超えているのだ。
一歌達の眼球の動きよりも早く標的に接近---------完璧な間合いから必殺の貫手が標的(【巨乳少女ハーレムBURST!!】18禁・二次元もの)を貫く。そのまま衝撃がソニックブームを起こして窓ガラスを貫通し、夜道を愛犬(チワワ)と散歩していたお爺さんの頭に、男の巨乳少女に対する情熱と妄執を封じ込めた聖書が突き刺さった。
「え?、え?」
一瞬何が起きたか分からず、キョロキョロと視線を泳がす一歌達。
よかった……………………………。
男に生まれたことに誇りを持って生きている全ての紳士諸君の想いの結晶
を、女性の皆様方の残酷とも言える軽い興味心による侵害から自分は守ったのだ。
ありがとう………みんな……………。
志熊理雄は規定世界とこの世界から送られてきた熱いエールを感じ、心の中で彼らに(信じてもいない)神の祝福あれと祈った。
「…………………………………………」
しかしながら志歩だけはその本がどういう物なのか……一瞬とはいえ網膜にその卑猥な表紙のイラストを焼き付け--------硬直し----理解してしまった。
…今となっては人間を見る様な目をしていない。もうちょっと丁寧に隠すべきだったと反省した…。
「そ、そうだ!穂波もサインありがとうな!Leo/needのファン1号なんて凄く光栄だ!!」
志熊理雄は志歩からの冷たい視線を無視し、無理やり話題を変えた。
「本当に嬉しいよ!その…………………………………………………
…………………………………………わざわざイラストまで描いてくれて……」
「……………」
穂波は気まずげに顔を俯かせる。理雄の視線はタンスの上に置かれた色紙に向いていた。そこには油性ペンでLeo/needのサインとセットで簡単なイラストが描かれていた。デッサンが狂って顔面が異様に膨らんだ怪物が4体、口から内臓を吐き出し、目から眼球が飛び出ていた。もしかしてコレは、一歌達なのだろうか?
「うぅ………」
涙目になり今にも泣きそうな穂波を見て慌てた理雄は、「ジュースのボトル持ってくる」と言ってその場を離れた。そして冷蔵庫に手を掛けた瞬間、ふと目眩を感じた。
(あれ……、おかしい…酒は飲んでいない筈…)
間も無く目眩は熱に変わり、心なしかぼぉっとする。
「先生…」
背後から妙に熱っぽい声が聞こえ振り返る。
そこには頬を薄く赤らめ、潤んだ瞳で此方を見つめる一歌達がいた。熱に浮かされた様子でゆらゆらと近づいてくる。
「なんかここ…、暑いんです。なのに凄く暗くて……寂しい…」
一歌が呂律の回っていない声で制服の上着に手をかける。他の3人も同じ様に脱ぎ理雄に抱きついてきた。きめ細やかな肌と柔らかい質感がダイレクトに伝わってくる。
「今日は……一緒にいてくれませんか?」
普段から時折意識しつつも、未成年に手を出す訳にはいかないと----そうやって己の衝動を制してきた志熊理雄の理性はこの瞬間…………完全に吹き飛んだ。
*
そして現在、志熊理雄は己の過ちに打ちひしがれていた。
(最悪だ……)
未成年……それも教え子にこんな事をしてしまうとは…。
ふとゴミ箱を見てみると、自宅に常備しているコンドーム12枚全てを使い切っていた。しかしこのティッシュの量から考えて……
(絶っっっっっ対、生でもしてるよな……)
よく覚えていないが、大人と子供の中間にいるバランスの取れた肢体を持つ天使達に、優しく……時に激しく包まれた……という漠然とした感触しか…。
ともかく、コレは緊急事態である。まずは仲間達に連絡せねば…!
仲間の内2人からは確実にニヤケ顔で「俺たち遂に真の仲間だな!」と最悪な事を言われそうだが、事実なので仕方がない。
理雄は携帯を取り出し、ジュリエットの剣達に応援を求めた!
……が、誰も通話に出ない。どうしてだろうか、緊急の任務でもあったのだろうか。
仕方なく此方の世界で馴染みのある阿嘉二尉に連絡を取る。慶三郎は「テレビをつけて見ろ……」と聞くだけでゲンナリしている表情を容易に想像できる声を出す。言われた通りテレビを点ける。
『おっぱいが不足している!!もう限界だァァァァァァぁッッ!!!』
点けて早々、魂からの下ネタが4kテレビのスピーカーを通じて発せられる。画面には上半身裸で高熱を発しながら引っこ抜いた公園のベンチを振り回す桜庭悟が大写しにされている。
チャンネルを変えると、今度は厨二病を再発した小坂井初雪が高層ビルの屋上で『我はゴーストの王なりッ!!今日は冥界から貴様ら生者どもに贈り物を持ってきた………見ろッ!!大量のハチミツだぁぁ!!』とか言ってどこで手に入れたのか、オオスズメバチの巣をパラグライダーで街中に大量投下するというバイオテロを起こし…。
『10代の女の子をベッドにうまく誘いたい紳士諸君、俺のこのスピーチ
を聞けば世界も女も全て手に入るだろう!!』と蒼部龍一郎がどうやって共演を果たしたのだろうか、【SCP-1370】と共に電波をジャックして世界征服とナンパのテクを披露し…。
『自由だァァァァァァァァァ!!』といつも通り全裸で大通りを全力疾走する宮崎信孝が映り…。
『まだまだみなぎる…ッ!!俺は後20年は現役ダァァァァッ!!』と心の内で気にしていた年齢の不安を吹き飛ばすかの様に、どこかのマーベルの緑の巨人の如くタンクローリーを放り投げる天城英牙と、それを止めようとしてタンクローリーの下敷きになった勇刃悠間を見た後、理雄は静かにテレビを消した。
…トリップしたジュリエットチームがシブヤの街で暴れ回っていた。
『嵳神三等陸曹は何故か身体硬直状態で発見され現在此方の治療施設にいる…。頼むからこれ以上問題を起こすなよ』ブツリ…
そう言って一方的に通話を切ってしまった。
「…………………」
この状況で仲間を頼れない……。これを絶望的と言わずして何というのだろうか。
(いや……まだだッ!!)
諦めるなッ、志熊理雄。
お前は…サーキックカルトの連中を倒した。
お前は…鳥丸百九も倒した。
お前は…元の世界でブライト博士の作った触手生命体もなんやかんや倒した。
『リオなら大丈夫だよ。私の好きなその強さが痴情のもつれを打ち砕く』
志熊理雄の脳内にあの時の幼馴染の声が改竄されて蘇る。
目を閉じ深呼吸をして肺に酸素を取り込み、落ち着きを取り戻す。
…目を開け前をまっすぐ見る。
心は………決まっていた。
よし………………
.
……逃げようッ!!
志熊理雄はたった今この瞬間、男として…大人としての思考と責任を放棄し、史上最低の決断を下した。
※今回登場したSCP
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1076
次回、『逃亡犯、志熊理雄』