Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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第三十六話 ヨルムンガンド

 

 朝8時、朝食を食べ損ねた理雄と悟は、近くのコーヒーショップでコーヒーとドーナツを購入し、ここまでの移動に使ったセダンの中で食べながら待っていた。

 

…証拠の回収に来る敵を…。

 

「ここのコーヒー美味いな。お前はどう思う?」

 

「…さぁ、眠気覚まし程度にしか飲まないので…」

 

大昔から世界中で愛飲されている黒曜石の様な色をした嗜好品のカップを片手に理雄はぼやく。個人的にはコーヒーと酒の魅力がイマイチ理解出来ない。酒はよく使う消毒用アルコールと大差がない様に思えるし、コーヒーはブラックでもラテでも味の良し悪しが分からない。せいぜい眠気覚ましにガッツリ濃くしたブラックをアイスで一気に飲むくらいだ。

 

「そういやお前は烏龍茶が好きなんだったか」

 

「肉でも菓子でも何にでも合いますよ、それに健康にもいい」

 

「機能美を好むお前らしいよ」

 

そんな談笑を続けていると、周囲に動きがあった。

 

「…来た」

 

死体安置所の前で、一台のトラックが停車した。大きさは引越し用トラックと同じくらいの一般的なサイズで、車体後部のコンテナブロックには【不死鳥運輸】という文字と炎を纏った赤い翼がプリントされていた。

 

運転席から2人の人間が降りて来て、建物内に入っていく。黒い作業着を着た男2人組だ。

 

「押さえますか?」

 

「いや、あいつ等がどこに死体を持っていくのか確かめたい。トラックが発車次第後を追う」

 

理雄は黙って頷くと、再び前方を見据える。

 

しばらくして、大型の電動担架に白い大箱を乗せて回収者が出てくる。

 

回収者はコンテナの近くまで行くと、周囲を警戒する素振りを見せた後、扉を3回ノックする。すると扉が開き中から3人目が姿を見せる。

 

(…何故コンテナに乗っている)

 

理雄の疑問を他所に、3人掛かりで大箱を運び込んでいく。理雄側からはコンテナの奥が影になっていてよく見えないが、一瞬、何かが光に反射してキラリとした輝きが見えた。

 

「…今の見ました?」

 

「…?なにが?」

 

「…いえ、なんでも」

 

理雄の目の錯覚だろうか、だがもし見間違えでなければアレは…

 

やがて搬送を完了した3人はトラックに乗り込み、エンジンを吹かせて鈍重に走り出す。

 

「追うぞ」

 

相手が十分に先行したのを確認して、こちらも動き出す。

 

しばらく追走していたが、トラックは特に不審な動きを見せなかった。接近しすぎることもなく、かといって引き離されることもなく、車はやがて

国道を逸れて高速道路に入る。

 

だが、ETC(有料道路自動徴収所)を越えた所で急激な変化が訪れた。

 

突如トラックが右の車線に移って急加速。慌てて加速して追うが、かと思うとトラックは急に減速する。

 

不審な動きに2人して眉を顰めるが、次の瞬間愕然とする。

 

------嵌められた。

 

トラックの運転手は尾行者に気づいて誘いを掛けたのだ。

 

次の瞬間、トラックが爆発的に急加速。今度は速度を一切緩めず6車線ある車列を縫う様な蛇行運転を繰り返してみるみる遠ざかっていく。

 

「悟さんッ」

 

「解ってる!」

 

アクセルを踏み込み、セダンのV8エンジンが唸りを上げて加速する。スピードメーターは100キロを超え、じわじわと高速道路の法定限界速度に迫りつつあった。

 

みるみる加速し、先行する車を捉え、際どいハンドリングで追い越す。

 

僅かにハンドル操作を誤れば大惨事になるのは火を見るより明らかだった。

 

火を噴きそうな程の轟音を上げてエンジンが唸り、ようやくトラックを射程圏内に捉える。

 

重いコンテナを背負ってる相手と違って、身軽なこっちの方が分がある。

 

隙を見てコンテナ左側面に回り込むが、突如トラックが猛烈な速度で幅寄せしてくる。危うい所で速度を落として回避、ガードレールとコンテナにすり潰される幻影が一瞬脳裏を過り、恐怖で冷や汗が流れる。

 

だが、真の恐怖がコンテナの中から現れた時、束の間………呼吸が止まった。

 

2人を瞠目させた黒鉄の龍は、車載用に床面に固定され、獰猛な銃口をこちらに向けていた。

 

旧ソ連製・NSVT重機関銃。

 

第二次世界大戦後、DShk38重機関銃の後継として開発された怪物級の銃器であり、装甲車を蜂の巣に出来る50口径の12.7×108mm弾をフルオート出来る凶悪さを誇っている。

 

…少なくとも、まともな運搬業者が持っていいものではない。

 

敵がコッキングハンドルを引いて、発射可能な状態にしたのが目に入ると、背筋が凍り付いた。

 

「伏せろッ!!」

 

悟の叫びに助手席に乗っていた理雄は座席を後方に倒してうつ伏せになる。

 

龍の顎から放たれた閃光と銃声。 

 

直後、車体が急激に揺れる。右にハンドルを切って放たれた凶弾を回避する。

 

シートにしがみついていた理雄は、一瞬バックミラー越しに後方を走っていた一般車が被弾、エンジンが粉々になり、燃料タンクが漏れて引火、爆発炎上しながら無様に横転する。

 

高速道路はパニックになった一般車両が暴走。

 

銃撃を回避して並走する車やガードレールにぶつかる車両。

 

急ブレーキをかけた車両に後ろから追突する車両。

 

後方に引き返そうとして逆走し、玉突き衝突を起こし、車体前面が潰れる車両。

 

エンジンブロックごとを撃ち抜かれ爆発炎上し、悲鳴じみたスツール音を撒き散らしながらスピンしていく車両で溢れかえる。

 

「クソッ、あんなのどう倒せっていうんだ!」

 

そう言ってる間も敵はNSVTを乱射してくる。

 

道路のアスファルトを抉りながら線状に放たれる。

 

悟は決死の思いでハンドルを握りながら、それらを紙一重で躱していく。

 

「理雄、応援を呼べ!俺達だけでどうにかできる相手じゃないッ」

 

「もうやってます!」

 

なんとか携帯で天城たちに連絡をとり終えたものの、彼らが到着するまで、時間を稼ぐ必要がある。

 

理雄は脇のホルスターからXDMを抜くと、スライドを引いて初弾を薬室に送り込む。

 

「敵の足を止めます!出来る限り近づいてッ」

 

「アレの射程はッ?」

 

「対地仕様なら2000mです!」

 

「チッ…、掴まってろ!」

 

弾幕を潜り抜けながら接近していく。その間も、何発かがドアミラーやタイヤの近くの路面を抉り取っていく。それでもなんとか20mまで近づく事に成功する。

 

窓から頭と銃を握る右手だけを出して、タイヤを照準。

 

引き金を引き40口径のややキツめ反動を手首で押さえ付ける。

 

激しく揺れる射界の中、1発目は至近弾。2発目はバンパーに命中。やはり片手でこの状態で当てるのは至難の技だ。それに高速で走行している為、弾丸が風の影響を受けやすい。

 

それらを計算した上で更に3発発砲。2発が命中したが、2発とも豆鉄砲の様に弾かれ目を見開く。

 

「他に武器積んでませんか!?」

 

「車体後部にUMP45がある!」

 

一旦距離を取り、弾丸の雨を回避する。

 

回避運動により激しく揺れる車内、頭や肩をそこかしこにぶつけながらもなんとか座席下から短機関銃、UMP45を取り出す。25連マガジンに45口径弾がフル装填されているのを確認すると、マガジンを叩き込み、ボルトを引いて初弾を装填。

 

「いつでも!」

 

「取り付けるのは3秒だけだッ、死ぬ気で仕留めろ!!」

 

再び死の追走を始めるセダン。敵の重機関銃は絶えず火を噴き続け、周囲の一般車を容赦なく巻き込み、その多くを血祭りに上げていく。

 

再び窓を開け、今度は身を乗り出しストックを展開して肩付けして構える。H&K社が開発したクローズドボルト方式のサブマシンガンのアイアンサイトを合わせる。射界は相変わらず最悪だ。

 

距離30…28…25………今ッ!!

 

射手を直接狙える様な状態ではないので、コンテナ入り口からタイヤにかけてなぞるように撃つ。

 

放たれた45ACP弾は、拳銃ならいざ知らず、サブマシンガンで両手で構えればなんのことはない。

 

フルオートでバースト射撃を行い、何発かはコンテナ内、残りはバンパーとタイヤに命中するが、全く歯が立つ様子がない。

 

「…ダメだッ、ただのトラックじゃない!」

 

「クソッ…、完全防弾の装甲車かよ…」

 

NSVTだけじゃなく、あんな物まで用意しているとは…、全く予想していなかった。ここから射手を仕留めるには最低でもHKが必要になる。拳銃や短機関銃の様な銃身の短い銃では、自分の腕では到底無理だ。

 

どうする…迂闊に近づけばスクラップにされる…どうすれば…

 

その時、上空からヘリのローター音が聞こえ目線を上げる。

 

地上から50mの空域にステンレス塗装が施された漆黒のブラックホークが2機、オーバルの中にフィールドと内向きのスリーアローズが描かれた財団のシンボルマークを付けて飛行していた。

 

『J-7並びに5!おい!聞こえてるか!?』

 

突如、車内無線からドスの効いた声が聞こえてくる。理雄が応答する。

 

「J-7よりJ-2!当該車両は完全防弾仕様!重機関銃の搭載を確認ッ」

 

『了解、以後そちらのコールサインをマコ-1、上空の追跡チームをパパ-1、2とする。引き続き追跡を続行せよ!』

 

「了!」

 

距離をとって敵の射線を回避することに集中して動く。NSVTの有効射程を考えると正直躱すだけでも過酷だが、悟がいれば暫くは大丈夫だろう。

 

この状況を覆すのは簡単ではない…だが……、

 

今までありとあらゆる修羅場を逆転させてきた男が、この空にはいる。

 

上空を陣取った覇者の前では、7つの大陸と海を飲み込んだヨルムンガンドでも、その身を這つくばせるしかなくなる。

 

 

 

 

小坂井初雪はヘリの上空から敵のトラックを眺めていた。

 

朝っぱらから叩き起こされたかと思えば、いきなり重機関銃を乱射しながら高速でカーチェイスしてるバカどもを黙らせろと言われて駆けつけ見れば、自分がこの世界で食ってる肉を運んでるとこの会社が、トラックに装甲くっつけて走路に屍山血河を築いていた。

 

(よくもまぁ…、公道でこれだけの事を…)

 

今すぐにその巫山戯た面に鉛弾をぶち込んでやりたいが、手にしているM110ではコンテナの装甲を破れない。

 

「……」

 

試しに運転席を狙ってみるが、窓も扉も強化されているらしく、全く貫通しない。エンジンブロックは大きく余裕のある構造だからなのか、当ててもあまりダメージにはならないし、前面の装甲が大部分を防いでしまってる。

 

さて、どうするか…と考えていると、コンテナ上部に四角い’穴'が現れる。

 

よく見ると、それは追加されたハッチであり、中からPK汎用機関銃を取り出した敵兵がこちらを照準した。

 

「まずい!離れろッ」

 

同乗していた信孝の声にパイロットが操縦桿を切る。すんでの所で回避し、曳航弾の光が線状に軌跡を残していく。

 

「おい!これ’ヘルファイア’積んでないのかッ」

 

「ざけんなッ、高速道を吹き飛ばせってのか!」

 

信孝とパイロットが怒鳴りあう中、初雪がこの場にいない英牙の代わりに指揮を執る。

 

『全展開部隊に次ぐ、既に一般人への被害は壮絶な物になっている。これ以上の被害は隠蔽の点から考えても防ぎたい。パパ-1は敵車両制圧に備えろ。マコ-1は援護、パパ-2は目標の足を止める』

 

通信を終えると、パイロットに敵車両の全面に回り込む様指示、敵車両のフロントガラスをリューポルド社のマーク5HD 3.6-18×44スコープから覗き込む。

 

理雄達の報告通り、敵は3人。うち1人は運転席、残りは対空と対地で銃座に着いている。

 

(まずは運転手…強化ガラスといっても…)

 

フロントガラス越しに運転手を狙い、発砲。1発目でヒビをいれる。

 

2発目を同じ所に当てる……ヒビが大きくなり、運転手の顔色が変わる。

 

3発目------貫通。

 

運転手は眉間を撃ち抜かれ昏倒、速度が大幅に落ちる。

 

『制圧用意』

 

パパ-1は車体上部のPKを黙らせるべく、速度を合わせて近づく。

 

『J-3、小うるさいのを黙らせる』

 

銃身の長いHKでPKの射手を仕留めると、降下の体勢に入る。しかし…

 

『おい、まだ1人いるぞ!』

 

パイロットの声にハッチ上部を見ると、死体を引きずり出してもう1人の敵兵が現れる。------伏兵ッ?

 

「向一、拳銃貸せッ」

 

HKを捨て向一からSIG SAUER P320を左手に、自分のホルスターから抜いた同じ拳銃を右手で構える。高度…風速…いけるッ。

 

「ケーブル頼む!」

 

「え?ちょっとッ」

 

向一の制止を無視して降下ケーブルがホイスト装置についてるのを確認し、ケーブル先端のフックをカラビナに付け------機体から跳んだ。

 

宙に投げ出される感覚が一瞬全身を襲い、直後に猛烈な勢いで地上が迫ってくる。

 

「くたばれぇェェェェェェッ!!」

 

2丁拳銃から放たれた9mmパラベラム弾が重力の加重を載せて降り注ぎ、車体上部と伏兵に大量な穴を穿つ。火を噴き続ける拳銃がホールドオープンし、弾切れを知らすと、既に鼻先にまでトラックが迫っていた。

 

「間に合え…ッ!」

 

ケーブルの反対先を掴み、掌の皮膚が焼けるのも厭わず力いっぱい引く。

 

車体上部と顔面が激突する直前------龍一郎の体が宙で静止する。

 

速やかにフックを外し、トラックに降り立つ。

 

腰のカラビナに吊り下げられていた攻撃型手榴弾を取り出し、ピンと抜き、安全レバーを外してコンテナ入り口に放る。

 

鉄棒の逆上がりの様な体勢から投擲した瞬間、NSVTの射手の唖然とした顔が見えた。

 

------------終わりだ。

 

トラックを飛び降りた直後、強烈な爆風と熱がコンテナを破壊、比較的装甲が薄かったのか、コンテナ上部が内側からひしゃげ、炎が火山の如く噴き上がる。

 

やがてトラックは停車し、ブスブスと鉄とガソリンが焼ける臭いが撒き散らされる。

 

ようやく追いついた理雄達は車から降り、銃を構えながらゆっくりと、警戒しながら近づく。

 

…どうやら生きてる敵は残っていないようだ。しかしまずい事になった…。

 

「鶏の死体まで消し飛んだのかよ…」

 

これじゃ何の為に死のカーチェイスを繰り広げたのか------

 

『J-2よりオールジュリエット、ご苦労だった。今さっき、英牙が例の鶏の別個体を押さえたらしい。死体フルセットだ』

 

「「……………」」

 

悟と顔を見合わせる。

 

……本当に何の為のカーチェイスだったのか…と深いため息を吐いた。

 

 

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