Project Sekai SCP incident feat . 作:唯尊
学校のチャイムが鳴る。
宮益坂女学院の校門から三々五々に生徒が吐き出されて行く。
客員講師の理雄は他の正規教員と違って授業が終わればやることがなくなる。初日から志熊理雄は高い人望を集めることができたようで。下校する生徒たちからは笑顔で挨拶を投げかけられる。
「先生、さようならー!」
「明日の授業も楽しみにしています!」
理雄は彼女達に挨拶を返しながら、我ながらよくやったと思う。
宮女の生徒はお嬢様が多く、しっかりした生徒達のおかげでこちらも随分と助けられた。
「帰るか...。」
夕焼けの帰り道。カラス達の合唱を聴きながら理雄はふと思った。
自分が平和を守る側から享受する側の1日を過ごした。このような生活も悪くなかった。
「.........」
人外、時には人間と命のやり取りをする生活を苦と感じた事はない。
NABY SEALSに留学し、機動部隊選抜適性コードと戦術担当資格を得るまでの頃はともかく。20歳に初陣を迎えて以降、慣れて楽しめるようになるまでそう時間は掛からなかった。
「馬鹿か俺は...。」
望むかどうかなんて関係ない。俺はアノマリーと関わってから、すべてを忘れて民間社会で生きて行く考えを捨てた。記憶処理されてもアノマリーは消えたりしない。平和ボケした間抜け面であっさり人生と命を奪われてたまるか。
俺は’今’が一番だ。
’今’を戦い抜いて生きる。
明日もその次もその次もその次もだ!!
最後の最後に終わるまで抗い続ける。それが志熊理雄の矜持であり。
人類の守護者である財団の剣の切先として誇りであり。
この理不尽で不合理な世界への復讐でもある。
ただ...、
他に道があるとしたら、
俺にはどんなセカイが待っているのだろうか。
*
鬱陶しい思考を振り払うべく。近くのショッピングモールで憂さ晴らしをしようと入る。ゲームセンターのクレーンゲームでフェニーくんとかいうペンギンのぬいぐるみを取ろうと挑み、1番デカいやつをゲットすることに成功した。
「こんなモンとってどうすんだ...。」
この世界に来てから特に親しくなった人物はいない。プレゼントしようにも渡す相手がいないのではどうしようもない。このワタでできた可愛らしい友人は残念ながら戦場で命を預けるに足る相棒にはなれない。
どうしたものかと理雄はフェニーくんを肩車しながらモール内をうろつく。揺れる気持ちはまだ収まる気配がない。
放課後の中高生も多く来てるモール内。
そこに一発の銃声が響いた-
ー!?ー
聞き慣れた45口径の大きな銃声はかなり近く、理雄はすぐ近くに向かっていた。
モールの1階中央で男が銃を片手に人質をとっていた。
男は薄汚れた囚人服を着ており、右手に持ったコルトM1911を振り翳し周囲の人間を威圧する。
「来るな!こいつの頭撃ち抜くぞっ!!」
男は目を充血させ喚き、人質の少女に銃口を突きつける。周囲にいる警備員は銃を警戒し過ぎて動けない。もとより、スタンガンすらろくに持てない日本の民間警備員の彼らがこの状況で役に立つはずがない。
人質の少女は震えながら青ざめた顔をしている。小柄な少女は学生なのか、制服はー
(宮女か、これは助けないとまずいな。)
とは言え今の理雄は帯銃していない。当然だが日本で私人が銃を所持していれば警察に捕まる。財団職員の場合私服で帯銃すると警官の職質、その後の身分照会で面倒なことになる。ましてやこの世界の財団職員としての身分に不安がある理雄が所持できるわけがない。
どうする...。
すると肩に担いでいた役立たずの友人を思いだす。もしやただのワタ野郎と思っていた彼が、正義の救世主になるかもしれない。
「おい!聞いてんのか!早く携帯をよこせ!!」
理雄は男の背後に回り込み、銃口と引き金に注意しながら接近する。
銃口が上を向いた瞬間、理雄は行動に出る。
「おい、マヌケ。」
男が振り向いた瞬間、'強化済み'フェニーくんを投げつける。
グシェァッ!
ぬいぐるみとは思えない質量が男の顔面に直撃し、数歩たたらふむ。
その隙を逃さず理雄は大きく踏み込み、男の右手脇に挟むように組み付き、腕を捻り上げ背負い投げのようにしながら肩の上で肘関節を反対側に折る。
------ベギィッ!!
恐ろしい音と共に男の腕が折れ、銃が落ちる。トドメにそのまま
柔道の肩車で投げ飛ばす。ズダァァンッ!!と床に叩きつけられた男は全身のダメージと右腕の破壊で再起不能になる。
行動開始から10秒もたっていなかった。
「大丈夫か?」
「は、はい...。」
短い銀髪の少女、日野森志歩はまだ消えない恐怖と驚愕に半ばぼうぜんとしていた。いきなり人質に取られ、もう終わりだと思っていたら
いきなり謎の男に衝撃的な助けられ方せれたのだから無理もない。
「志歩!」
「志歩ちゃん!」
「シホちゃん!」
近くから彼女の三人の幼馴染が駆けつける。泣きながら抱きしめ合い、慰め合う彼女らの中に見覚えのある顔がいた。
「星乃さん?」
「理雄先生!」
涙ぐむ彼女を見て、この3人が件の幼馴染達だと理解する。
「とんだ災難だったな。」
「うっ.,.、グス」
泣き続ける彼女達を見守りながら、俺は制圧した男に近づく。
「どこに連絡するつもりだったかしらんが、残念だったな。お疲れさん。」
「まだ、だ...。」
「あ?」
「俺の情報を、サーキックに渡せば、俺は…」
全身の血液が凍りついたような感覚がした。
俺は倒れて動けない男の胸ぐらを掴み胸部と手首を確認する。
そこには...。
Dー58236
番号識別用のタトゥーが入っていた。
「お前っ!サーキックとか言ったな。一体どういうことだ!?」
理雄の激しい剣幕に一歌達は、ビクっ!と震える。「先生...?」と震える声が一歌の口からこぼれる。
「お前には聞きたい事が腐るほどある...一緒に来てもらうぞ...。」
男はしばらく困惑していたが、やがて理解したかのように小さく笑う。
「そうか...、お前もソッチの側の人間か。悪いが俺はもー」
刹那。男の頭蓋が弾け飛んだ。
男の脳髄と骨と血があたりにぶちまけられる。
一歌達が悲鳴を上げる。
それが狙撃手の仕業とすぐにわかった理雄はすぐさま動こうとし、足を一歩踏み出すと...。
そのつま先の近くに弾丸が撃ち込まれた。
-動くな、か…。
理雄は銃弾で穴の空いた大きなガラスの先に見える夕陽を睨むしかなかった...。