Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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第三十七話 計画

 

 警視庁本部庁舎には、事実上の秘密警察である警視庁公安部の中でも、特に情報が秘匿……というより、存在すらあやふやにされている部署がある。

 

それが警視庁公安部特事課である。

 

…もっとも、公安部に所属する警官は自分の職務はおろか、「公安に所属している」とすら家族に言えない。それはどこの部署でも同じであり、特段自分も他部署の人間から、'得体の知れない物’扱いされる事は少ない。せいぜい『胡散臭い公安の中でも'少しばかり'気味が悪い部署』‥という扱いだ。

 

そんな特事課から派遣された刑事、犬塚善己は、シブヤ中央署の中でも1番奥に存在する’特殊な取調室'の中にいた。

 

角刈りで鯨の様な大きな体をしており、体育会系の典型のような見た目をした犬塚は、目の前に座る男を黙って眺めていた。

 

スペイン人らしいが、体型は170cm程度で体重も軽そうに見える。白人にしては小柄な方だ。

 

今現在、取調を行っている内容が内容だけに、録音・録画が通常の警察上層部に渡る事はない、許可なく接触した者はたとえ警察関係者だろうと厳罰に処されるという通達が効いたのか、取調室の外には誰も近づこうという気配すらない。廊下を歩く警官達は、その部屋に近づいた瞬間、まるで神隠しに会い、2度と表社会に復帰出来なくなるという謎めいた確信を持っていた。

 

目の前の男は俯いたまま一言も喋らず、まるで貝のように口を閉じている。既にこの状態が3時間以上経過しており、犬塚は段々苛立たしげに人差し指をスツール机の上でタップさせる。

 

「…なぁ、いつまでそうしてるつもりだ?いい加減なにか言ったらどうだ?」

 

ギロリと鋭い視線で睨みながら顔を近づける。

 

スツール机の側面には、通訳の若い警官が座っていたが、犬塚の迫力に萎縮するばかりだった。ただでさえ狭い取調室が、犬塚のせいでさらに狭く感じた。

 

「お前とお前の仲間達は【シブヤモール駐車場乱射事件】で、駐車場につくまでに大勢の市民を巻き込んで銃を乱射した…そうだな?」

 

通訳がスペイン語に訳して伝えるが、男は身じろぎひとつしない。

 

「目撃証言によれば、お前たちはある男を追ってこの騒ぎを起こしている。何故そいつを狙った?」

 

再び通訳される。……男は答えない。

 

「お前たちは使っていた銃を何処で手に入れた?どうやってこの国に持ち込んだ?」

 

すると、男はようやく顔を上げる。暗い金色の瞳がこちらの姿を写す。

 

「Todo se mantendra'en silencio hasta que llegue el abogado.」

(弁護士が来るまで何も話さない)

 

その言葉を訳された時、憤怒の形相で犬塚が立ち上がり机を両手で叩いた。

 

「何なんだその態度はッ!お前は自分の立場が分かってるのか?今朝の高速道での機関銃乱射事件、お前らも何か関わってるんじゃないのか!?あんなモンどこで手に入れた!お前らがカオス・インサージェンシーの一派なのは分かってるんだ、あれだけでもホトケが8人、重軽傷者が20人以上出ているんだッ、絞首台で最期を迎えたくなきゃ全部吐け!!」

 

男は再び沈黙の殻に籠る。

 

それを見た犬塚は怒りのあまり体を震わせ、やがて表情に嗜虐的な笑みが浮かぶ。

 

「決めたぞ…お前らは死刑にはしないッ、俺が纏めて光の届かない井戸の底みたいなブタ箱にぶち込んでやる。そこがお前らの墓場だ…」

 

その時、背後の出入り口からコンコンとノックされる音が聞こえる。

 

チッと舌打ちして、「誰だ一体…」と苛立たしげに扉を開け対応する。

 

途端、「あ、いやこれは…」と突然犬塚の遠慮した声が聞こえる。通訳は何だ?と思って扉の向こう側に向かうと、目の前の人物を見て驚愕。

 

そのまま部屋の外に出ると、「しかし…」「それはッ…」といった短い口論が聞こえた後、やがてシンと鎮まる。

 

再び扉が開いた時、現れた刑事は犬塚ではなかった。

 

30代前半の男性で細いフレームの眼鏡が特徴的な長身の刑事、線が細く仕立ての良いスーツからかなり高い階級の人間だろうと察しがつく。男はおもむろに両手を広げて微笑む。

 

「君を守りにきた」

 

日本語が解らず眉を顰めるスペイン人戦闘員------コンセプシオン・シャベース・ゲラは目の前の優男を見遣る。

 

男は自身のスマホを机に置き、翻訳アプリを起動させ話を続ける。

 

『駐車場での件は聞いている、現場にいた君の仲間は全員無事だ。君には少し聞きたい事がいくつかある』

 

「…Quie'n eles?」

(お前は誰だ)

 

男は「これは失礼」と大仰に、芝居がかった様子で右手のスーツの裾を捲る。

 

すると、男の上腕二頭筋あたりに刺青が見えた。

 

六芒星の内側に光が集まり、中心で宇宙誕生の創世の光の様な意匠が施されているタトゥー。コンセプシオンはどこか見覚えがあると思い、よくよく目を凝らして眺めていると、脳の奥の記憶に合致する。

 

(蒐集院か!)

 

コンセプシオンが目を見開いたのを確認すると、男は誇らしそうに笑う。

 

『篤樹秀治と言う、君の上官と話はついている。私が聞きたいのは、君達を易々と制圧した財団の部隊について何だが------』

 

 

 

 取調室から出ると、篤樹を待っていたのは初老の白人男性だった。カールした金髪は年齢により黒みがかかっており、白人としては平均かもしれないが、身長は篤樹と同じ183cmはある。

 

「俺の部下の様子はどうだった?」

 

「心配なら直接確認したらどうだ」

 

男はフンと軽く鼻を鳴らしながらタバコを取り出す。禁煙だと告げると舌打ちしながらライターと【ラッキー・ストライク 】を懐に戻す。

 

「まぁ、奴はあまり使える兵隊じゃないからな…、他の連中も似たり寄ったりだ」

 

「始末していいのか?」

 

「構わんよ、所詮は囚人兵だ。代わりなんざ幾らでも効く…」

 

流暢な日本語で冷たく笑う男の目は鋭い、数多の戦場を渡り歩いてきた歴戦の猛者は、ある時、偶々スペインで大量に雇った囚人兵をあっさり見捨てた。情報漏洩を防ぐため、篤樹にとってもその方がありがたいのだが、命を命と思わない者同士であるにも関わらず、直接手を汚してきた者とそうでない者とでは絶対的な差があるようで、篤樹は目の前の男に知らず背中に冷たい物を感じた。

 

「…【シブヤモール駐車場乱射事件】の犯人である彼らには、留置場で首を吊って死んで貰う事になっている」

 

「秘密は漏れないか…」

 

「そうだ。それと…」

 

男を目で促し、廊下を歩きながら非常口を開け非常階段に入ると、監視カメラがないのを確認して話を続ける。

 

「駐車場に派遣された機動部隊、どうやら例の’外部協力者’らしい…」

 

「ほぉ…」

 

男の眼の中に、獣じみた狂気の光が宿る。

 

「裏でコソコソと我々の計画を探ってるらしい…、現時点で彼らが最後にして最大の脅威だ……奇しくも同じ日本人でありながら、財団本部の隷下の連中だ」

 

男は皮肉っぽく笑う。これはまた妙な巡り合わせだ。カオス・インサージェンシー…81管区評議会の一部…蒐集院…同じ目的で協力態勢にある自分達の最後の敵が、別世界の財団本部とは…。つくづく運命めいた物を感じる。

 

「忘れるな、我々の最大の敵はアメリカの財団本部だ。…それを邪魔する人間はどこの誰だろうと排除しろッ…!それがお前たちの役割だ」

 

口元を引き上げながら壮絶な笑みを浮かべる男は篤樹に向き直る。

 

「次が最終決戦って訳だ…、場所は自由に決めていいな?」

 

「好きにしろ、ただし計画に支障をきたすようなマネだけはするなよ」

 

「……計画…ねぇ…」

 

「…何だ?」

 

物憂げな態度でぼやく男の態度に篤樹は眉を顰める。

 

「本当に今更だが…、裏切った新羅を殺すのはともかく、娘の方まで殺す必要あったのか?」

 

篤樹は押し黙る。

 

「……得体が知れない女だ、これ以上計画を変更するような事態になってみろ、それこそ全てご破算だ」

 

男は小さく溜息を吐くと手を振り、了解した---という素振りを見せる。

 

しかし………

 

「別世界の人間か…」

 

「……お前と同じ所からかもしれん」

 

「かもな…」

 

---------------------面白い。

 

 

誰だろうと捻り潰してやる………後輩共…。

 

 

 

 

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