Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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第三十八話 日立鉱山内攻防戦

 英牙と悠間が別行動を取り始めたのは、高速道路での機関銃乱射事件発生直前の事だった。

 

 信頼できる情報筋と協力者を、昨日の時点である程度確保していた為、例の鶏の発見と討伐にはそこまで苦労しなかったそうだ。

 

「…で、メグロで確保したヤツと同じ個体の死体がこれだ」

 

サイト-8156の作戦司令室で、40代後半の日本人男性が机に何枚かの写真を並べる。

 

中肉中背で、大きな目と彫りの深い顔立ちが特徴的なその男は、この世界において自分達ジュリエットチームの司令塔に相応しいと思えた。

 

それが、前回のサーキックでも世話になった人物……阿嘉慶三郎ニ等陸尉である。

 

彼と彼と深い付き合いのある田上由那も、信頼のおける人物として今回の件に協力してもらったのだ。

 

並べられた写真には、胴体が大きく損傷し、上半身と下半身に真っ二つに別れ、壮絶な表情で息絶えている醜い鶏が写り込んでいた。

 

「茨城と千葉の県境で発見されたんだ。俺のチームと英牙たち7名で討伐した」

 

「本部には?」

 

「無論了解は得ている。必要に応じて武力行使を許可され、日本支部の要注意団体との癒着…あるいは反乱の可能性があると見た極東作戦司令部は、『全ての事態を明らかにし、それまでは日本支部を味方と認識する必要はない』だそうだ」

 

 日本国内における財団の活動は、主に財団日本支部とその管理組織である日本支部理事会が主だが、かねてより、日本支部の存在と独立を認めていない財団は、彼らの監視、あるいは必要に応じて実力介入を図るべく、本部管轄の前進基地として、サイト-8156を建設した。……建前上、『日本の同志を直接支援するため』という名目でだ。

 

 当然、勤務する職員は全員財団本部に籍を置いており、慶三郎と由那も同様の立場である。

 

「1匹だけだったからな、AT-4で1発だったよ」

 

「……あの【シャイガイ】で使われた?」

 

「そうだ。……そっちの世界でも起こったのか?」

 

 少し聞きづらそうな顔を此方に向けてくる。

 

「えぇ…まぁ…、アイツの場合全く歯が立たなかったようですけど…」

 

「…こちらと同じか…」

 

 AT-4 ヘッドランチャーは、スウェーデンのサーブAB社が開発した単発使い捨ての滑腔式無反動砲であり、主にアメリカ軍やNATO加盟国の間で使われている。

 

 改良したHP成形炸薬弾頭は、最大600mmの装甲を貫通でき、現代戦車ですら紙屑同然に破壊できる威力を誇っているが、【SCP-096 シャイガイ】……己の顔を見た者を地の果てまで追い詰めて殺害する人型オブジェクトが収容違反した際、捜索と確保を担当したズール9は、1000発ものAT-4をシャイガイに撃ち込んだものの、当時の現場指揮官曰く、『ケロっとしていた』らしい、結果、ズール9はその指揮官1名を除いて全滅した。

 

…この世界でも似たような事態が起きたらしい。

 

「…話を戻そう、南雲博士の研究ファイルにも載っていたが、コイツはやはり3199を元に再構築された生命体だ。知能はオリジナルとそう変わらないが、脳の構造が催眠剤系の薬物に対してかなり弱い、やはりこれは敵の作った兵器化オブジェクトか…」

 

「しかし、この短期間で同型の未確認オブジェクトが2体ですか…」

 

「おそらく試運転だろう、ちゃんと使い物になるかどうか試したんだろうな…」

 

悠間の呟きに英牙が反応する。試運転だけでこれだけの被害が出ている、だが1番最悪なのは…

 

「こいつら………量産されてますかね…」

 

理雄の呟きに全員が押し黙る。それは現時点で最も危惧するべき事だ。こいつの1番恐ろしい所は…

 

「最悪な事に、ご自慢の繁殖能力は健在のようだ」

 

「他に一体でも野に放たれれば、世界はコイツらに食い尽くされるッ…、Kクラスが起きるぞッ…!!」

 

悟が恐怖と憤りの混じった声を漏らす、理雄の脳内にも、一歌たちがヤツらの吐き出す強酸に溶かされ、流動食のように食い貪られる姿が浮かんだ。

 

…敵の目的は一体なんだ、これ程の汚穢……一体だれが仕組んだというのかッ。

 

「コイツらどこで作られたんでしょうか、工場見つけて吹き飛ばしに行きましょうッ」

 

「これらの死体の爪から、興味深い物が見つかった」

 

そう言って慶三郎は新しい写真を取り出す。机に出された顕微鏡写真には何かの砂と鉱物の粒のような物が写っていた。

 

「調べた所、旧日立鉱山の含銅硫化鉄鉱だと分かった」

 

「では…!」

 

「既に俺のチームが現場を確保している、すぐに向かうぞ」

 

「「了解!!」」

 

そうと決まれば早速そこに巣くう蟲ケラ共を焼き殺しに行こう。そう動き出した時------。

 

「待て」

 

慶三郎から声をかけられる。手には【極秘】と書かれた書簡を持っていた。

 

「お前らの’外'の上官からだ」

 

「ホーンビー大佐から!?」

 

「あぁ、君達だけに見せろという命令だ……扱いには気をつけろ」

 

忠告も程々に書簡を受けると、封を開け以前依頼した調査報告書を見る。

 

そこには…………。

 

 

 

 旧日立鉱山は、茨城県日立市に存在した鉱山であり、1981年に閉山されるまで約3000万トンの粗鋼を採掘し、日本の近代産業史に大きな足跡を残した。

 

 この世界でも大まかな歴史は基底世界と同じであり、今現在、理雄達が立っている場所はかつての本山にある日鉱記念館からだいぶ離れている。

 

 1905年から様々な竪穴が掘られており、その大半は崩落の危険性があるとして封鎖されている。2007年に経済産業省が『京浜工業地帯の重工業化と地域の経済発展を支えた常磐地域の鉱工業の歩みを物語る近代化産業遺産群』に認定した日立鉱山には、記念館に訪れる観光客も少なくないが、この様な危険地帯に踏み込むものはいない。

 

 車で東京から移動したジュリエットチームの面々がいるのはそんな場所だ。麓の辺りとはいえ、周りはゴツゴツした岩と妙に捻れた木しか見えない。

 

 すると、林の奥から5人の完全武装した兵士が現れる。先頭の1人が右手を差し出す。

 

「ジュリエットチームの皆さんですね。自分は阿嘉二尉の指揮下にあります、第352緊急即応旅団の中島唯信三等陸尉です。コードネームは【ヴァルゴ】」

 

「ジュリエット-1の天城だ…、状況を」

 

「財団の衛星の熱画像によれば、やはりこの鉱山の地下に敵の生体兵器工場があると思われます。これがかなりの規模で……中にどれだけの敵がいるか」

 

「斥候は?」

 

「既に我々が侵入路を確保しましたが、トラップの類や死角となるポイント、敵の人数や装備等……やはり把握するのは困難で…」

 

やはりか…と天城は溜息を吐く。こんな状態で穴蔵に入るのは自殺行為でしかないが…。

 

「敵の動きは?」

 

「それが不気味な程静かで…、一応緊急対策として航空支援をいつでも呼べる様にしてありますが………どうします?」

 

英牙は少し間を置いて考えると…

 

「…入るしかない、盛った鶏をこれ以上柵から出すわけにはいかない」

 

「了解です。以後、我々のコールサインはチャーリー1から5とします」

 

「よろしく、チャーリー1」

 

耐久性が高い鶏と接敵する可能性も考慮して、M320グレネードランチャーやM32グレネードランチャー等を装備して行く。となると当然弾も持っていかなければならないのだが、ただでさえ重くて邪魔なのに、狭い坑道内で爆発物を使えば崩落や爆風に巻き込まれるリスクがある。まぁ5m以上あるアイツが迂闊に坑道内を動けるとは思わないが念の為だ。

 

そして…

 

「ほら理雄、お前の新しい彼女だ」

 

そう言って初雪からM32とそれに使う擲弾を12発程受け取る。

 

リボルバー拳銃のようなシルエットに、同じく6発入りの回転式シリンダーを持つこの武器は、市街地やジャングルでは非常に役に立つアイテムだが、まさか坑道内に持ち込む事になるとは…、

 

(まぁ、RPG担いでいくよりはマシか…)

 

教本にはコンパクトで軽量だなんて書かれているRPGだが、あれは実物を担いで1日何十キロも歩いた事がない評論家の意見なので宛にならない。

そもそもあんな物を坑道内でぶっ放せば、この鉱山が全員の共同墓地なる。それに比べてコイツは本当に軽くて小さい!…………まぁどちらにせよ持ちたくないし、使えば最悪自滅する諸刃の剣だが、擲弾手の自分の本領を発揮する時だと気合いを入れ直し、シリンダーに擲弾を装填していく。

 

「全員、用意は出来たな!」

 

懸垂降下用のクレーンと電動ウィンチワイヤーの取り付けが完了し、カラビナを付けて縦穴からの降下を始める。次に地上に出る時は、死体袋の中かもしれない。地上の光景をしかと目に焼き付けて、理雄たちは六道輪廻の最下層に向けて身を投じた。

 

 

            *

 

 坑道内は想像以上に狭く、古い所だと数百年前に掘られたような所もあった。時折天井に見える鉄骨は頼りなく、戦闘なんか起きなくても今にも崩れ落ちそうだった。照明なんかない為暗視装置を使っている。

 

しかし、そんな不安を感じる時間はかなり短かった。

 

坑道内に入って15分程経つと、目の前に南京錠で施錠された鋼鉄扉が見える。レーザーカッターでこじ開けると、その向こう側は全くの別世界だった。

 

壁も天井もコンクリートや鉄骨で隙間なく補強されており、空調が機能しているのか、今まで自分達の目と鼻を蝕んだ砂塵や土埃が完全に消滅している。

 

「おい、コレ…」

 

「あぁ…」

 

誰かに向けた訳でもない信孝の声に龍一郎が返す。

 

似ている------北海道でのサーキックの地下壕と作りが同じように感じた。

 

さらに進むと、明らかに放棄鉱山に似つかわしくない電子錠付きの強化扉が現れる。パスクラッカーで再びこじ開けると、そこは完全にこの鉱山の時代と逆行していた。LEDライトで辺りは薄く照らされている。

 

辺り一面が鏡のように研磨されたタイルで覆われ、異様な程清潔だった。最先端の技術で作られたこのフロアは、各部屋にコンピューターがずらりと並んでおり、食堂や手術室らしき部屋まであった。コンピューターのハード内は全ての情報が消去されており、何らかの生物の実験に用いられた手術室の中は特に凄惨で、解剖台の上にぶちまけられているソレを見て、思わず吐きそうになった。

 

「研究所…でしょうか」

 

「多分な…、しかしいくら何でも静か過ぎる。あらゆる証拠を消してここを放棄したのか?」

 

「……いや」

 

理雄が無言で天井の一部を指差す。そこには明らかにまだ機能している監視カメラがあった。

 

隠れてないでとっとと出て来いッ……。

 

「次で最後のフロアの筈です」

 

中島三尉の声に全員が振り向き歩を進める。

 

その時、理雄だけが殺意を肌で感じ取った。

 

「ッッ!隠れろ!!」

 

その声に全員が反応。すぐさま壁の凹みや廊下の角、部屋の内側の隅に身を隠す、直後に1秒前まで自分達が歩いていた廊下に銃声の歓迎が一斉に鳴り始めた。

 

「12時の方向!アンブッシュ(待ち伏せ)だッ!!」

 

理雄の声に全員が前方の曲がり角や柱の陰から銃撃してくる敵兵を視認する。

 

すぐさま全員が撃ち返し始めるが、腐っても向こうもプロだ。無謀な突撃などせず、遮蔽物から正確なバースト射撃を行っている。

 

前方の敵に気を取られていると、いつの間にか背後から別動隊が現れ攻撃される。

 

「ガッ…」

 

背後から撃たれた味方が1名倒れる。

 

「チャーリー3ダウンッ」

 

「ジュリエット-5が助け出し、ジュリエット-7は援護しろッ」

 

天城の命令に、理雄は閃光弾を取り出し後方に、悟は前方に投擲する。直後に発生した強烈な光と音に敵が怯んだ瞬間、2人が敵に身を晒す。

 

理雄は背後の敵に牽制射撃、英牙が前方をカバーする。

 

悟が素早く柱の陰に引きずってきた隊員を見遣る。

 

「彼はッ」

 

「損傷なし、ヘルメットで止まってますッ!」

 

NIJ(アメリカ国立司法省研究所)規格タイプⅢの最新の防弾ヘルメットが、敵の弾丸を止めたのだ。とはいえ軽い脳震盪を起こしている。すぐには立てない。

 

「まずは正面から片付けるッ、閃光弾投擲後、ジュリエットチーム全員で前方の敵を排除、後方はチャーリーチームがカバーしろッ!」

 

悟、理雄、初雪が前方に、向一と龍一郎が後方に閃光弾を投げる。

 

爆発後、一瞬出来た隙をついてジュリエットチームが前進する。

 

「撃て!撃ちまくれ!!」

 

信孝のMINIMIを先頭にありったけの火力を前方に集中、反撃しようと身を晒した敵は穿たれて死に、隠れていた敵も身動きが取れないまま射殺される。

 

その後Uターンする様に後方を援護するチャーリーチームに合流し、射撃を継続する。

 

「柱の陰だ!捻り潰せッ!!」

 

天城の指示に、向一のMG3が耳をつんざく怪音をあげて柱を削り取っていく、そのストレスに耐えられずに飛び出した敵兵はそのまま脳天を撃ち抜かれた。------9名を始末した。

 

「よし、前進ッ」

 

再び前進を開始しし次の曲がり角までくると、またもや苛烈な銃撃を喰らった。

 

そして再び背後から敵が現れる。

 

「ゴキブリ共がッッ」

 

機転を効かせた信孝が背後の敵兵3人を血祭りにあげる。直後に50発入りのベルト給弾マガジンが空になる。

 

「カバーするッ」

 

信孝が装填する間、理雄が彼を援護する。装填が済むと理雄の肩を叩いて合図し、再び射撃を再開する。

 

また背後を取られた。敵はこちらの動きを把握している様に見える。

 

すると理雄の脳内に先程の監視カメラの記憶がフラッシュバックする。

 

「カメラを狙え!敵に見られてるぞッ」

 

理雄が近くの一台をHKで破壊、初雪が少し奥行きにある一台を破壊する。

 

ここのポイントの監視カメラは全て破壊した。

 

「よし、ジュリエット-2ッ、手榴弾!」

 

初雪の投げたM67手榴弾が放られ、曲がり角の敵兵が四散する。

 

その後も順調に前進を続けたが、階段の辺りで下から銃撃してくる敵に苦戦し、チャーリーチームの2名が負傷、チャーリーチームは負傷者を守る為ここで足を止めた。

 

そして、最下層フロアに着いた。

 

目の前には最新のプロテクトが掛けられた強固な扉が進入を拒んでいる。

 

「おい早くしろよ!」

 

「黙ってろ!クソッ、コイツらに協力したエンジニアを張り倒してやりたいぜ…!」

 

信孝に怒鳴り返しながら悟が目の前の鉄壁のシールドの制作者に毒づく。

 

そんな中でも、敵の攻撃は止まなかった。背後から30人以上の敵がAKを手に銃弾を浴びせてくる。

 

悟を守る為に全力で他のジュリエット達がカバーする。

 

遮蔽物から上半身と銃だけを出し、HKのセレクターをセミオートに変え、奥の廊下から湧き続ける敵兵を撃ち続ける。

 

時折投げられてくる手榴弾を投げ返し、隙を見て銃撃と共に突撃してくる敵兵を薙ぎ払う。

 

「早く!弾が尽きそうだッ」

 

龍一郎が叫ぶが悟の方は悪戦苦闘してる最中だ。扉を爆破しようにも大量のグレネードを運んできたせいでC4は持ってきていない。

 

すると、再び敵の突撃が波となって押し寄せてくる。

 

「8人だ!殺れッ」

 

向一のMG3が火を吹くが、敵の援護射撃も激しくなる一方だ。

 

やがてその内の1発が向一の左腕に吸い込まれていった。

 

向一が膝をつく。

 

「J-8被弾ッ、カバーだ!」

 

理雄が目の前まで迫った4人を射殺したが、直後に弾が尽きる。

 

目の前には敵兵、銃口がこちらの心臓を照準している。

 

------殺られる。

 

そう感じた直後、脳内で高速演算が開始され銃口と射線の向きを読み取り、体を沈ませ下から神速の捌きでクイックドロウ(抜き撃ち)、銃撃を回避しながらSIGを打ち上げるようにして敵の顎を撃ち抜く。

 

「ゲァッ…」

 

妙な断末魔をあげて倒れる。地面にはソイツの脳漿が飛び散り毒々しい華を咲かせていたが、気にする余裕はない。

 

英牙が30m先の援護射撃をする敵兵3人の頭を連続で撃ち抜くという驚異的な射撃能力を見せた後、悠間が向一を治療する。

 

「軽傷です!」

 

「残敵は僅かだ!殲滅しろ!!」

 

残り15人程度となった所で、敵に新たな動きが見えた。

 

指揮官らしき男が小型端末らしき物を操作する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、奥の壁が破壊され、5mの巨躯が雄叫びをあげながら突進してきた。

 

 

ヴモォォォォォォォォォォォォ!!

 

 

ヘッドセット越しでも耳をつんざく悲鳴じみた叫声に全身の血流に悪寒が走り抜ける。

 

「J-7ッ、M32を使え!!」

 

こうなったらやむを得ない、最後の切り札を使うべくその醜い体に直接照準をつける。

 

シュポンッという軽い発射音と軽いショックの後、当てやすい大柄な的の上半身が吹き飛び、中身を盛大にぶち撒ける。

 

しかし、その後も鶏達の襲来は続いた。奥から銃弾とセットで鶏達が迫ってくる。数は確認出来るだけでも5体、とにかく焼き尽くさんばかりに撃ちまくる。

 

「おい!コイツで扉吹き飛ばさないかッ」

 

「バカ言うな!何トンあると思ってんだッ、指向性爆薬で爆風をコントロールして向こう側に飛ばさないと枠から外れて落ちるだけだ。そんなんで撃ったら数トン級の障害物を作って終わりだ!」

 

解除が進まない悟から怒鳴り返される。やはりここで食い止めるしか…、

 

「クソッ…鶏風情が!」

 

悪態を吐きながら撃ち続けるが、6発なんてすぐに尽きる。

 

尽きた瞬間、弾幕を突破した一体がこちらに突進してきた。

 

まずいッ。

 

1番近くにいた龍一郎は、相手の眼球を打ち抜こうとしたが、ヤツの動きはオリジナルより早かった。

 

大木程もある剛腕が振りかぶられ、龍一郎の体がくの字に曲がる。右の壁に叩きつけられ、コンクリ壁が陥没し、力無く倒れ込む。

 

「リューッ!クソ援護しろ!!」

 

悟がHKの銃身下部に取り付けたM320にM576 4号バックショットを装填、敵弾の雨の中を駆け抜けながら近くにいる龍一郎を巻き込まない様に40×46mm散弾を太い足の膝裏に撃ち込む。

 

関節稼働部故に比較的防御力が低く、足から出血を起こして前のめりに倒れる。

 

そのまま遮蔽物まで引きずっていくと、初雪がHE(高性能炸薬弾)を頭部に撃ち込んでトドメを刺す。

 

装填を終えた理雄は再び構えて撃ちまくる。

 

「鶏は今ので最後だ!雑魚を片付けろッ」

 

銃弾とグレネードの雨を浴びせ、なんとか残敵を掃討した。

 

英牙が周囲の敵の殲滅を確認し、ようやく一息吐く。

 

「被害報告!」

 

「J-8が軽傷、J-3は重症です!肋骨が潰れて内臓と肺も潰れかけてます。

すぐに搬送しないと!」

 

見れば龍一郎は変な咳をしながら血を吐いている。意識もないようだ。

 

「…J-1、2、5、7は任務を続行、残りは負傷者をトリアージ後一緒に地上に戻れ!」

 

「この状況で戦力を分散するのか?」

 

英牙の判断に初雪が疑問を呈する。

 

「敵の封じ込めとその為の兵站が必要だ。すぐにかかれ!」

 

「「了解!!」」

 

引き上げ組が撤収の準備をする中、理雄は英牙の判断が正しいと思っていた。

 

ここは地下故に無線が通じず応援も呼べない、これ以上鶏やそれを作った連中を地上に出す訳にはいかなかった。

 

ふと廊下の奥を見てみると、人間と人間以外の死体の山が築かれていた。見た目はこの世の地獄だが、幸いというか、空調設備が完備されているおかげか、強烈な血臭やその他異臭はしない。

 

-----その中から何かがムクリと起き上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ息があった敵兵がRPG26を構えていた。

 

 

 

 

 

それを見た時、全身の筋肉が硬直した感覚を覚え、伏せろ!と叫んだ時と、悟が扉のシールドを破ったのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

            *

 

 

「う……」

 

全身の激痛で目を覚ました時、揺れる脳内の記憶を整理しながらフラフラと立ち上がる。確か自分は敵のRPGが天井に命中して、崩落に巻き込まれる前に扉の向こうに飛び込んだのだったか……。

 

無線を使ってみるが応答はない、扉を押してみるが開かない。おそらく瓦礫が押し留めているのだろう。

 

…仲間が心配だ。だが残酷なことにそれを確かめる術はない、今の自分の使命を全うしなければ……。

 

そう自分を叱咤し、最終フロアに足を進める。

 

しばらくすると階段が見えてきた。かなり高く百階分あるのではないか、地上から風が通ってるのか、ブォォォォと亡者の唸りに似た音が直上から下界に降りていく。この下に全ての真実がある…。

 

新羅雅弓…薺宏光…桜結衣…南雲慎一…靫原幸太…、知ってる人間だけでも5人が殺されたこの事件の黒幕と真相は…、この惨劇が引き起こされた理由を突き止める必要がある。

 

ようやく最下層に辿り着いた。ここに来るまで中はずっと薄暗かったが、目の前にはブレーカーらしきレバーが見える。

 

暗視装置を上げ、ブレーカーを下ろすと、辺りが強力なライトに照らされ思わず視界を腕で遮る。

 

やがて光に目が慣れてきて顔を上げる。そして、薄暗さ故に気づかなかった物を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…それは、初めは何か分からなかった。だが、落ち着いてソレらをよく見てみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一見葡萄の房のように天井からぶら下がっていたソレは、半透明で緑に光る繭のような物の中には…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…鶏の幼体が詰まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光に照らされ、その醜さがよく分かるそれらは、房だけでも数十個、個体にして数百体はいた。

 

 

成熟していない彼らの内臓や眼球が時折、ドクッドクッと脈打つ様に蠢く。体表まで半透明な故に、数十メートルの高さがあっても、理雄の目と耳にはその悍ましさが全て映り込んでいた。刹那、その内の一体と目が合った気がした。

 

「ウブッ…!」

 

思わず嘔吐する。こんな…ことが……!

 

 

 

 

 

 

 

「-------気に入ってもらえたかな?」

 

別の階段から1人の男が降りてくる、初老の白人男性で顔つきはアイルランド系白人に見える。ソイツの蔑みと憎悪が宿った瞳と釣り上げた口元を見た瞬間、腑が煮えくり返るような激しい憤激が丹田から湧き上がる。

 

「…随分悪趣味な葡萄園だな、え?……ダミアン・オコナー少佐」

 

元は財団の機動部隊指揮官であり、トライアドを混沌の中の灰からカオス・インサージェンシーとして蘇らせた第一人者……そして、時代と世界を跨いでこの惨劇を世界にばら撒こうとしている魔人が、そこにいた。

 

 

 





 次回、『混沌の中から甦りしそれぞれの意志』
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