Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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第三十九話 混沌の中から甦りしそれぞれの意志

 

 【スレートサンダー】が開示された時、 ホーンビー大佐に依頼した調査内容は主に二つ。

 

一つは、現在進行形で財団…あるいは財団本部に対して反乱を起こしかねない程不満を抱えている身内の部署。

 

そして二つ目…………規定世界に存在するカオス・インサージェンシーの各軍閥や武装グループの関係者の動向だ。

 

「以前、鳥丸百九とこの世界で対峙した時…ふと考えたんだ。一体、いつ、どのようにしてこの世界に来たのか……」

 

理雄は目の前の男を睨みながら話す。目の前の男……ダミアン・オコナーは、口元には余裕の笑みを貼り付けているが、その目の奥には揺らぎようがない憎悪が宿っている。

 

やがて彼は口を開く。

 

「続けろ」

 

「もし仮に…、俺たちをここに送った存在が時間なんて物に囚われず、あらゆる時代から好きな時に好きな人間を攫えるとしたら、財団の過去100年の記録に載っている全てのPOI(要注意人物)や脅威評価リストの連中が対象に含まれている……、考えてみれば、その中でこの世界のカオス・インサージェンシーを指揮できる人間なんて1人しかいなかったんだ…」

 

同じ要注意団体の人間でも、別世界から来たなんて言えば、そこらの下っ端の場合余所者として門前払いされるか、よくて新入り扱いだろう。

 

その言葉を待っていたとでもいうようにダミアンは表情に喜悦を滲ませる。

 

「聞こうか」

 

「それだけの力と人望を持っておきながら、1933年以降行方をくらませ、死亡すら確認出来なかった最後の反逆者…………ダミアン・オコナー」

 

「ご明察だ!!」

 

ダミアンは両手を広げ感嘆を露わにする。

 

「1933年にベラルーシで妙な存在と接触してね…、私は彼女を《プルアー》と読んでいる」

 

プルアー…'引き抜く者'?それに’彼女'……?

 

「ここに来る際、面白い特典がセットで付いてきてね…。それのおかげで私はこうして不老の身として80年以上生きてきた。いい時代になった物だよ。こうしてささやかながら生産工場も設けられた」

 

そう言ってズボンのポケットからスマホを取り出す。

 

画面を操作しアイコンのひとつをタップすると、聞き覚えのある音が聞こえた。

 

この音はあの時の……?いや、似ているが違う!

 

そう思った瞬間、光と輝きが世界を包んだ。

 

 

 

 

……ここは…?

 

気がつけば理雄がいた地下施設は、薄暗い街に変わっていた。

 

街といっても現代日本の街並みではなく、産業革命時の18〜19世紀のロンドンに似ていた。当時のロンドンは石炭の大量燃焼による煙や煤塵が霧と混ざり合い、スモッグが発生していたと聞く。

 

『1952年、ロンドンスモッグによって一万人以上の人間が死亡した---』

 

どこからかダミアンの声が聞こえてくる。

 

『私はこの景色を見ていない、だが私はこれ以上の地獄を見てきた……財団のヴェールというこの世で最も濃い霧に隠されてきたアノマリーを…。そんな私の意識……いや、想いが生んだのがこの【霧に包まれたセカイ】だ』

 

「セカイ…だと…」

 

だんだんと霧が晴れてくると、やがてその全貌が明らかになる。

 

奥に向かって歩いてみると、列を成して並ぶアパート群に人の気配はなく、試しに近くの建物に入ってみると、中には見覚えのある’硬質の卵'の殻が大量に見つかった。…おそらくあの鶏の産卵場として利用されているのだろう。辺りにはこの世で生まれ落ちた異形の怪物達の足跡が数百は確認出来た。

 

まさか街中を徘徊している…?この街のアパート全てから生まれた数千…いや、下手をすれば数万はいるかもしれない。

 

そう思うと背中に寒い物が走り、すぐさまここから離れなければとドアに向かって疾走する。

 

背後も振り返らずに全速力で霧の街を走り抜けると、辿り着いたのは大量の煤塵を煙突から噴き出す工場だった。

 

デカイ…造船工場にも匹敵するのではないかと思う。

 

まるで奴に誘導されているようで癪だったが、鶏が徘徊する街に留まり続けるよりはまだマシに思えた。

 

やけに大きくて重い扉を全身で押し開けると、まず目に飛び込んできたのは檻だった。

 

小学校の教室くらいの大きさの鉄の檻の中には、あの鶏の出来損ないみたいな奴の死体が転がっていた。痩せ衰えた物……明らかにサイズが小さすぎる物……腫瘍らしき物に体組織の大半が蝕まれた物や、原型を保ってすらいない物まであった。一応スマホで写真を撮っておく。

 

階段の隣にエレベーターを見つけ、動くのを確認してからカゴに入る。

 

…上昇するエレベーターはかなり古いモデルだったが、何故か異様なくらい揺れがなく乗り心地が良かった。

 

2階に着くと、人口の胎盤らしき物が見つかった。

 

鋼鉄の格納容器は石油タンク並みに丸く大きかった。幾つものパイプが繋げられたソレが胎盤として機能しているのか、時折蒸気を上げながら中から鶏の卵が排出され、ベルトコンベアで何処かに運ばれていく。従業員は見えず、全て無人化されているようだった。

 

…正直これ以上は見るに耐えない。写真だけ撮ってすぐに上の階に向かう。

 

3階は卵の材料となる素材を加工する場だった。一体これらの素材が何なのか、見た限りは分からなかったし、知りたくはない。

 

……血と得体の知れない何かの臭い…、呼吸すらままならない程の異臭に包まれたフロアだ。これだけでも気が遠のきそうだった。

 

最後に階段を登り、屋上に出る。

 

そこに待ち構えるようにダミアンが立っていた。

 

「どうかな?私のセカイは?」

 

「…ここが生産工場か、ここで作って無人の街で一次実験し、ある程度出来の良い個体をあの鉱山内の地下施設に送り、今度は実際の人里に放り込んで二次実験を行ってる…」

 

「工場の設計と建築は難しくなかった。だが財団から苦労して手に入れた3199の再設計と改良には随分時間を費やした。知ってるか?ここでは時間の流れという概念がない。人生の大半をここで過ごせば、老いなんて物とは無縁でいられる」

 

まぁ、代償として退屈という呪いには縛られるがね…とダミアンは肩を竦める。

 

その巫山戯た態度に冷めた視線を送る。

 

「で?コイツらは新商品か?第三世界のテロリストにでも売りつけるのか?」

 

「この期に及んでそんな事してどうする」

 

ダミアンの声が突如低くなった。瞳の中の憎悪が膨れ上がる。

 

「ここまで来たんだ、我々の目的はもう察しがついてるんだろう?」

 

「……ウチの情報将校に調査してもらった。お前らみたいなカオス・インサージェンシーの一部でしかない小規模なグループだけでこれだけの事は無理だ。バックについてるのは、蒐集院と日本支部関係者だ」

 

ダミアンは小馬鹿にしたように鼻で笑いながら「根拠は?」という。

 

「【D.I.G計画】…」

 

ダミアンの眉がピクリと動いた。

 

「その情報将校から聞いた時は驚いた…、まさかあの噂が事実だったとはな」

 

世界中で発生するアノマリー達、もはやそれらは既存の収容施設では収容しきれない。その為、より大規模な収容施設を造る必要があった。

 

しかし、地続きの欧米諸国では収容違反時に一般人が巻き込まれるリスクが高く、大量のアノマリーを詰め込んだ物はたとえ砂漠のど真ん中だろうと設置は躊躇われた。設置した国や地域との軋轢なども避けたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

------結果、財団本部は日本を生贄にする事にした。

 

 

 

 

 

 

 

「敗戦後、アメリカの統治から解放された後も、この国は’アメリカの犬'としての縛りからは未だ抜け出せていない。その気になればアメリカも財団本部も平然と日本を犠牲にできる-----しかも現代日本人の大半は平和ボケしているから、脅威という物に人一倍鈍感な傾向があるからな、……本当に、大した計画だよ…………クソ…」

 

とはいえバカ正直に『この国に世界中のアノマリー放り込むから宜しく』とは言えない。流石にそんな暴挙に出た暁には日本も日本支部も黙ってはいない、自分達だけ闇に呑まれろと言われたような物だからだ。

 

故に、財団本部はこう考えた。

 

 

 

『自分達が作った【アノマリー転移装置】を正規のSCPオブジェクトとして登録すれば、向こうも手を出せないのではないか』

 

 

 

 

後に財団本部によって作られた転移装置である人口アノマリーは、【SCP-1153-jp】とされ、各地の日本海溝に沈められた。これにより、本来世界各地に現れるはずのSCPオブジェクトが転移装置によって日本に送り込まれる事となった。…建前上、『転移装置はアノマリーだから危険だ、日本は一切接触しないように』という事で…。

 

 

「まぁ【SCP-1153-jp】は現時点で全て故障している。それは向こうもこっちも同じだ。……もっとも、故障する前に【D.I.G計画】の前身である【イワト・プログラム】が【タヂカラ計画】によって平和的に阻止されたがらしいが…」

 

蒐集院時代から収容されていたとされる【SCP-1154-jp】を用いた未確認のアノマリーの早期発見と確保の際、【SCP-1153-jp】と【D.I.G計画】の存在を知った日本支部理事会は冷静だった。本来なら財団本部と日本支部での抗争になってもおかしくなかったが、当時の理事会の幹部達は…

 

 

『私達は、財団である前に、人でなければならないのだ』

 

『私達の目的は、確保・収容・保護である、そこに犠牲の二文字はない』

 

 

『私達が望む物は敵対ではない、共存だ』

 

 

【イワト・プログラム】による日本の封じ込め、破壊行為を阻止するべく発動された【タヂカラ計画】は可能な限り多くの人間の保護であり、決して財団本部との敵対ではなかった。

 

【タヂカラ計画】による【SCP-1154-jp】を活用したオブジェクトの早期発見と効率的回収、【SCP-1154-jp-A】の独占による高度な独自裁量権の要求交渉、複数のThaumielオブジェクトを81地域(日本)内に確保する事による81地域破壊の牽制など……エトセトラ…エトセトラ…

 

「現在、【タヂカラ計画】はおおよそ達成された。日本支部は人間同士の争いを望まず、最後まで己の理念に則って戦った………たが、全ての人間がそれに納得をした訳ではなかった。…少なくともこの世界では直接行動を起こした連中がいたという訳だ」

 

ダミアンは黙って聞いていたが、やがてパチパチと手を叩く。

 

「素晴らしいよ君達は!思っていた以上に見抜かれていたのには驚いたが、まさかウチのクライアントまで調べがついていたとはな!」

 

ダミアンは『期待以上だ』とでも言わんばかりに歓喜しているようだった。…同時にそれは、胸の奥に蓄積してきた憎悪の爆発にも見えた。

 

「日本人とは素晴らしものだ。これだけの仕打ちを受けても財団本部に敵対せず、それでいて屈せず己の使命を遂行するとは…、いやはやその忍耐力、賞賛に値する。……まぁ、君の言う通り全員が平和主義者ではなかったがね、かつての我々のように」

 

「…どおりで武器が大量密輸される訳だ」

 

身内の上層部に裏切り者がいたのではどんな防衛手段も意味を為さない。

 

「我々の目的は財団本部の壊滅だ。蒐集院時代からの古参の一部は財団に吸収され日本支部となった後も、敗戦の屈辱を忘れていなかった。そして極めつきは【D.I.G計画】だ。彼らも堪忍袋の緒が切れたんだろうな、過激派として排斥された蒐集院残党を通じて南欧で活動していた私のセクトに話がきた…、まさにベストタイミングだったよ。丁度試作品の鶏たちも完成したからな…、デモンストレーションを兼ねて拠点となる場を設けるのには少々手間が掛かったが……」

 

「それが前回のサーキックか?」

 

「いかにも、間抜けな財団の目を引くためにこちらから多少の武器とエンジニアを送ったよ。まぁ、君達が彼らを屠った後、行っていた儀式が思ったよりも大掛かりだったのには驚いたがね」

 

数百人もの犠牲者を出しておきながら、まるで他人事のように語る。おそらく彼らにとって100の犠牲者も100万の犠牲者も大して変わりはないのだろう。

 

どちらにしろ、夥しい数の人間の血を啜って培った奸計に、自分が賛同できる余地などどこにもなかった。

 

「…これが、我々の想いの結晶、第二次財団内戦への勝利プラン-----【ダウンフォール・プロジェクト】だ」

 

理雄は思わず失笑した。

 

「大戦末期、アメリカ軍が本土決戦で徹底的に日本を消滅させる為に練られた【ダウンフォール作戦】か、…その作戦名を取って今度は日本からバケモノ放ってアメリカを駆逐するって?随分皮肉が効いてるな?」

 

「そう言うな、私が考えた訳じゃない、そも私はアメリカだけをターゲットにしている訳でもない」

 

「……何?」

 

「アメリカと財団本部打倒を依頼してきた日本人達には悪いが、私は鶏共を世界中に放つつもりだ」

 

…………一瞬、思考がフリーズした。それ程目の前の男の発言が信じられなかったのだ。

 

「……トライアドの理念はオブジェクトによる人類への貢献だろ、貴様…………世界を滅ぼすつもりか!?」

 

 

「トライアドはもう存在しない。そして……君は何かを勘違いしている」

 

「なんだと…」

 

「疑問に思わなかったのか?なぜ財団が我々カオス・インサージェンシーをterrorist(犯罪者)ではなく、insurgency(叛逆者)と呼ぶのか…」

 

「…何が言いたい」

 

どちらも同じではないのか…、というこちらの反応にやれやれといった調子で首を振る。

 

「この二つを君が同意義だと考えるのは自由だ、だが我々はあくまで叛逆者なのだよ。財団内戦敗北後、財団は我々を敗残兵の集まりであり蠅や蚤として見ていた---。だからなんだ?蚤なら蚤らしく戦うまでだ。彼らはヴェールというものに縛られている、これがヤツらの『秘密による苦痛』だ。分かるか?SCPと自分達の存在を隠す事に必死なんだよ。我々はそこを突く、世界中にある奴らの保安施設を襲撃し、奴らのアーティファクト、武器、装備を盗み、次の襲撃でそれらを奴らに向ける。それだけだ。

【9.11】の犯行グループの連中は紛れもないテロリストだが、やり方はまさに我々と同じ反逆者のそれだ。恐怖を引き起こすだけではなく、それを戦術の1つとしてアメリカを、世界を混沌の渦の中に落とし、疲弊の果てに自滅させる為にな…」

 

2001年に世界を揺るがした【9.11同時多発テロ】は、イスラム過激派組織アルカイダによるアメリカ本土攻撃であり、1941年の【真珠湾攻撃】から60年ぶりのアメリカが直接危機に晒された歴史的大事件であり、21世紀以降の歴史を大きく変える分岐点となった。

 

3000人以上の犠牲者を出したこの事件の後に待っていたのは、アメリカの暴走と世界の混乱だった。

 

【9.11】直後からアメリカ国内ではムスリム(イスラム教徒)に対する苛烈なヘイトクライムや、イスラム諸国への憎悪、何の証拠もなく『大量破壊兵器を所持している』としてイラクへの侵攻を開始したり、アフガニスタンに対する報復戦争を始めた。極めつきはアメリカ人牧師テリー・ジョーンズによる【国際コーラン焼却日】などという暴挙にまで走っている。

 

また、このテロ事件を動機にして、アメリカは国連協調を投げ棄てて一国独走主義の時代になり、冷戦時代の米ソ対立の構造の残滓も消え、世界の軸は無類の超大国一国によって動かされるようになってしまった。

 

……結局、世界中にイスラムへの憎悪を撒き散らしたアメリカは2021年、長らく続いた対テロ戦争に疲弊し、アフガニスタンからの米軍撤退という形で自滅している。

 

なるほど、それと同じ原理で財団を自滅に追い込む戦略か…、

 

「財団内戦時、トライアド……ウェストンと愉快なトリ頭達は財団と圧倒的な力の差がありながら、ファランクスを組んで真っ向勝負するなんていう時代錯誤した戦略を用いた…。犬の群れが熊の群れに噛みつきに行ってるような物だ、悲壮を通り越して滑稽だよ。だから戦略を変えた。予想不可能なタイミングで未知の力を用いた攻撃を行い、恐怖と不安を与えながら財団内部を消耗させる事にした。いずれO5が内部に潜んでいる我々を摘発する為に、身内を監視し、疑い、欺き、やがてそれは修復不能な軋轢を生む。機能不全に追い込むまで我々は何度でも奴らに噛みつき血を吸っていくつもりだった。……だが、この鶏を手にした瞬間、私のセクトはもうそんなチマチマした事をする必要は無くなった」

 

「おい…まさか……!」

 

全身が凍りつく。その瞬間、ダミアンはまるでシェイクスピアの歓喜のように両手を広げ叫ぶ。

 

「君がいたあの地下施設は『箱舟』だ!あの鉱山そのものが1つのロケット発射場となっている。全ての準備は完了した。後は世界に打ち上げ破滅の種をばら撒くッ、もうすぐこの世が混沌の渦の中心で炎を巻き上げる!混沌の代弁者である我々が滅ぼすッ、私が滅ぼすッ、誰にも止める事は出来ないッ!!」

 

刹那、太腿のホルスターからSIGをドロウし発泡、ダミアンの足元に弾丸が擦過する。これ以上は聞くに耐えなかった。

 

「……ゴタクは終わりかクソ野郎ッ…、もはや貴様に大義も理念もない!過去から現在まで、ただ財団を、世界を混沌の中で滅ぼす為だけに全てを殺すというのならッ……ここで貴様らを叩き潰すッッ!!」

 

敵を正眼に構え、HKを照準する。

 

「混沌の中で始まる戦いで、勝利した者だけが己の意志を最後まで貫ける!!来いッ!志熊理雄ォォォォォォォォォ!!!!」

 

 

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