Project Sekai SCP incident feat .   作:唯尊

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第四十話 第二次財団内戦

 

 理雄はHK416Cを、ダミアンはカラシニコフ・コンツェルン社製、AK105を構える。どちらの得物も各部にライトやレーザーサイト、スコープ等のタクティカルアクセサリーを装着しており、ダミアンの銃は西側のマグプル社製のレール付きハンドガードや低反動ストック、人間工学に基づいた設計をしたグリップが目立つ。

 

互いにオリジナルカスタムを施した愛銃を手に、相手を見据える。

 

呼吸でコンセントレーションを高める。

 

グリップを握る手に汗が滲み、視界が3フィートまで狭まる。

 

極限まで高まった集中力と生存本能により、相手以外の余計な存在が全て己の世界から弾き出される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………殺してやるよ。

 

 

 

 

 

 

霧に包まれた世界に互いの殺意が充満し………爆ぜた。

 

 

 

 

ダミアンはAKを腰だめにフルオート連射しながら右に、理雄も同じ様に撃ちながら左に走る。

 

理雄は屋上の排気筒の陰に隠れ、ダミアンは非常口の陰に身を隠す。そのまま体を極力晒さない様にしながら銃撃戦を始める。

 

「君とこうして戦うのは久しぶりだな!今度こそお前の喉にあの鶏のクソを詰めてやる!!」

 

「ついにボケたのか?そのまま召されろよ【オールドマン】!」

 

「フンッ、私をあの悪趣味極まる腐った老害と一緒にするな」

 

非常口の陰から撃ち込まれる弾丸が排気筒に刺さっていく、身を隠した後素早く撃ち返すと、撃ち返される。

 

そんな中、理雄の近くに閃光弾が転がってくる。

 

咄嗟に目を瞑り耳を押さえると、凄まじい音響が炸裂した。直後にダミアンは身を翻し逃走に移る。

 

「どこ行くつもりだ死に損ないッ」

 

非常口から階段を降りていくダミアンを撃ち合いながら追跡する。

 

ガキィィィィィィンッ!!

 

咄嗟に頭を引っ込めた直後、階段の手摺りを敵弾が掠め火花と共に耳をつんざく跳弾音が響く。

 

すぐさま下の階に向け撃ち返し、そんな攻防戦を繰り返しながら3階に辿り着く。

 

加工工場には人が3人は入れそうな黒色大型のボックスらしき装置や、パイプ類が地面から天井までビッシリ茂っており、それ等から吐き出される蒸気がフロア全体の温度と湿度を上げており、さながら熱帯雨林のジャングルの様になっていた。

 

米兵を追うベトコンの様に走る理雄の目には、遮蔽物に紛れた標的を探し求めていた。

 

右手側の死角に着く、タクティカルフラッシュライトを点けCQBの態勢に入る。このライトは周囲を照らすだけでなく、接近時の照射により相手の視界を瞬時に奪う事ができる。

 

一瞬、急激に高まった緊張感を押し殺し、サプレッサーの先を突き入れるように角に入る-----------刹那、銃口が下に払い落とされ喉元にナイフが突き出される。眼前には野生獣の獰猛な笑みを浮かべたダミアンが迫っていた。

 

電光石火の捌きでナイフを振るった手首を掌で弾き上げ、そのまま左手でキャッチ、HKのグリップを握っていた右手を放しナイフを掌底で落とそうとするが、すんでの所で右手を空いた手で掴まれる。

 

両手での組み合いになる中、ダミアンが金的蹴りを放つが両膝を閉じブロック、そのまま体をダミアンの下に潜り込ませる様にして、足で腹を蹴り上げながら後方に投げ飛ばす。柔道の巴投げだ。

 

「ぐッ」

 

肺から息が絞り出される音が聞こえ、跳ね上がる様に振り向きSIGを抜き照準------する前に、すぐに起き上がったダミアンから三日月蹴りが放たれ、SIGが宙に弾き飛ばされる。

 

息つく暇もなく抜かれたダミアンのマカロフPMの銃口が此方に向けられる。

 

ゾッとして体を沈ませた直後に発砲炎が見え、理雄の側頭部を掠める。

 

膝立ちのまま奴の膝裏を蹴り刈り倒す。

 

転倒したダミアンのマウントを取りマカロフを取り上げようと揉み合う。揉み合いの最中も引き金は引かれ続け、耳元に響く銃声に鼓膜が破れそうになるが何とか堪える。弾切れを起こしスライドがホールドオープンした状態のマカロフをダミアンは捨てると寝技に入り、自分の上に乗る理雄をブリッジで押し上げ両足を抜く。

 

自由になった足で理雄を蹴りつけながら距離を取り、奥襟を取って引き寄せると、そのまま背後に回り頸に右手を絡める。

 

「ぐぁぁ……!」

 

体を回され理雄が仰向けになった状態で背後から裸絞めを食らう。

 

意識が刈り取られる前に肘打ちや裏拳で顔や脇腹を殴りつけるがどうにもなら、ない…。

 

(マズイ……落ちるッ…!)

 

必死にもがく中、自分の体をロックする足が目に映った。

 

ダミアンの右足首を掴み万力を込めて捻りあげる。

 

激痛に耐えられず悲鳴をあげ絞めが解かれると、咳切って跳ね起きダガーナイフを抜き、顔面目掛けて振り下ろす。

 

しかし、相手の方が早かった。

 

瞬時に指を虎の手を模した形にし、その5本指が目に打ち込まれる。

 

「ぐぁッ!」

 

目潰しを喰らったと気付いた時には、ダミアンは既に目の前から消え去っていた。

 

落とされたHKを拾い状態を確かめ構える。

 

 

どこだ、どこにいるッッ。

 

 

 

 

 

 

 

ふと、背後に絶望的な程の悪寒が走り、体を沈ませる。

 

直後に背後から迫ってきた凶弾が線をなして先程までいた場所を擦過する。

 

震えた空気だけで射線を予測し、遮蔽物の陰に隠れる。

 

「若い癖にやるじゃないか!」

 

ダミアンの声は少し離れた向かい側の上から聞こえる。顔を覗かせると、未だに余裕さを失わず笑みを浮かべるダミアンが立っていた。その手には何かの端末を握っている。

 

「偉そうに見下ろしやがって、直ぐに降りて来れば二度と立てない体にした後【彫刻】の収容コンテナに放り込んでやるよ、お前の短い人生の最後は『ダルマさんが転んだ』で終わらせてやる」

 

「お断りだ!私の人生は私が用意した最高の舞台上で至高の最後を遂げる。この世界が破滅と混沌により焼かれるようになれば、私は火消し役として求められるようになる。財団が滅べば私は世界で唯一、破滅から世界を救い出す英雄として返り咲けるッッ!!」

 

その言葉に理雄は愕然とする。

 

「まさか貴様……その為だけにッ?」

 

「だったらなんだというッ?アイルランド解放の立役者……脆弱な財団への叛逆者……そんなちんけな栄誉に興味はない!!我々は混沌の中で、人類が蛆同然に虐殺され、屍山血河が築かれ、まやかしの理が全て覆された世界でしか生きられないッ!私も、君もだッ、この世の関節を外し、闇で光を塗り潰せば私は必要とされる!私はその為に生まれてきた!つまらん常識に囚われてる人間共はただ一方的に喰い殺されるだけだ、私と来い志熊理雄ッ!我々は英雄の凱旋を受けるべき選ばれた人間なのだッッ!!」

 

理雄は怒りに任せて引きちぎる様に安全ピンを抜き、手榴弾を投げつける。機材の上を飛びながら爆風を回避される。

 

「ほざけ外道がッ!貴様の語る未来……断じて許容できないッッ!!」

 

「ならば死ねェェェェェェェェェェェェ!!!!」

 

カーキ色のトレンチコートの裾を翻しながら理雄の頭上を跳び回り、端末を操作。

 

瞬間、足元の地面が割れ崩落------下階から鶏が現れる。

 

失敗作なのか、口角だけが異様に肥大化しており、さながら深海から獲物に食いつかんばかりにその大顎を開いていた。

 

「もう見飽きてんだその面アァ!!」

 

ダミアンとの接近戦時、取り落とした後直ぐに取り戻したM32の銃口をそのバカでかい口に突っ込む。

 

引き金を引き榴弾をブチ込むと、体内で爆発、四散した。

 

-----直後、重力による落下が始まり、眼前にコンクリートの床が見える。

 

高さ6M……頭からはダメだ…!

 

咄嗟の危機判断から行われた脳内演算により、体勢を足が下を向くように5点着地する-----地に足がついた瞬間、急に胃の内容物が逆流したような感覚に襲われたが、何とか吐かずに転がる。

 

(……ヤツはどこに…!)

 

周囲に視線を巡らせていると、非常階段の出入り口に向かうトレンチコートの裾が見えた。

 

…逃すかッ!

 

絶対に逃さないという思いで足を動かしていると、気づけば工場から出ていた。…だが肝心のダミアンを見失った。

 

ふと背後に気配を感じで首を背後に巡らせる。……そこには影があった。

 

何だ…?

 

段々と影が大きくなっていくのを見て、その正体に気付いて顔をあげる。

 

『ギェォォォォォォォォォォォォォッ!』

 

空から降ってきた巨大な鶏が視界に入るや否や、全身の力を膝のバネにためて背後に跳ぶ。

 

直後に地面に激突した質量爆弾は周囲にアスファルトの破片を撒き散らし、巨大なクレーターを作る。

 

再びM32を構え引き金を絞る---------だが擲弾は発射されない。

 

(マズイッ、撃ち尽くした!?)

 

思えば鉱山内の戦闘でもかなりの量を消費していた。シリンダーに詰める新しいロッドももう無い…。

 

舌打ちしながらガラクタと化したM32を放り捨てる。しかし、その瞬間…………背後に地鳴り。

 

ゴクリと唾を飲んで後ろを振り返ると、別の鶏の巨大な手が理雄の足首を掴んでいた。

 

逃げられないと感じた時には、粉砕骨折するのではないかという激痛が足に走り---------一拍遅れて宙に放り投げられた。

 

子供がおもちゃの人形を投げつけて遊ぶような感じで、理雄は壁に叩きつけられる。激突の瞬間に壁が陥没した。

 

「ガハッッ…………!!」

 

今ので背骨にヒビが入った……。

 

激痛で飛びそうになる意識を何とか繋ぎ止めながら、目線を上げると、目の前に仁王立ちした鶏が大きく口を開いており-----

 

(…ヤバイッ!)

 

決死の動きでその場から離れると、鶏の口から吐き出された強酸が大地を蝕んだ。ジワジワと……強酸はアスファルトを溶かし続けている。

 

後コンマ数秒遅かったら、理雄の体は液状に土に還る事となっただろう。

 

ゾッとしながら、ポーチからスタングレネードを取り出して投擲。

 

鶏の足が止まったのを確認して、彼岸の激痛に耐えながら歩を進める。

 

ひとまず身を潜める為に、近くにあったフラッツと呼ばれるアパートに入る。19世紀のイギリスで、工業都市を中心に労働者階級向けの集合住宅として建設され、日本で言う公団住宅によく似た建物である。

 

折り返し階段から分かれる2戸ひと組のアパートの内装は、聞いていた通り天井が低く、理雄の身長では直立する事が出来ない。だが、軽く休むには充分である。

 

ポケットからモルヒネの注射を取り出し太腿に打ち込む。暫くすると、背中の痛みが和らいできた。無理は出来ないが何とかいけそうだ。

 

チラリと背後につけられている小窓から外を見遣る。

 

アパートの外は奇怪な唸り声をあげながら、鶏共が久しぶりのメインディッシュを我先に食べようと、必死に辺りを散策していた。

 

彼らは実験目的で作られたプロトタイプであり、一次実験として街に放たれ行動を観察されていたのだろう。よく見ると、明らかに失敗作にしか見えない個体も伺えた。

 

上半身だけの者、下半身が異様に小さく立てない者、中にはおおよその人型すら保っていない者までいた。

 

(あの老耄は端末のような物である程度アイツらを操作できるらしいな……いや、そもそもここは奴の世界だ。まずは脱出するのが先だ)

 

相手に有利なフィールドでいつまでも戦うのは危険だと判断し、窓から身を乗り出し屋上に出て街を見回す。霧に包まれた街の視界は最悪だ。

 

だが………、

 

 

 

 

 

 

 

 

俺からは逃げられない。

 

 

 

感覚を広げる------------

 

 

------------やはり、この世界は元いた空間が現実改変により曲げられたのではなく、根本的に異なる空間を一から構築しているようだ。

 

左手に装着したコンピューターガントレットに付属したヒュームカウンターに何ら異常がない事から、これが現実改変の類ではない事は分かっていたが、改めて空気に意識を向けると、霧に一切の湿度は感じられない。工場から吐き出されている排煙も、全く有毒には感じられないのだ。

 

------あらゆる科学的法則が無視されている。それでも------

 

 

 

 

奴の居場所は割り出せる。

 

 

 

 

(もっとだ……もっと集中しろ……!!)

 

 

鶏共の叫びは無視しろ……見つけるべき俺の敵は1人だけだ…!

 

集中……まず聴き分けるのは音だ……人間の音……軍人が出す特有の音だ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞こえるのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンバットブーツの靴音……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

片足を引き摺り気味だ…痛めてる…?

 

 

 

 

 

 

 

その時、接近戦でダミアンの片足首を捻った記憶がフラッシュバック。

 

 

…見つけたッ!

 

聞こえた音は東からだ、そこに自分が倒すべき敵がいる。

 

 

背骨の痛みを無視して屋上を駆ける。

 

屋根伝いにアパートを飛び越えていき、標的までの最短ルートを辿る。

 

ギシェアァァァァァァァァァッ!!

 

突如、眼前に小型の鶏が飛び込んで来る。

 

「しつこいんだよォォォォォォッ!!」

 

最早コイツ等に用はない、体当たりを躱して見当違いの場所にダイブした鶏にグレネードを投げ置き爆散させる。

 

修羅の形相でただひたすら走る。そして…

 

「ダミアァァァァァァンッ!!!!」

 

500M先に奴を見つけた。奴はこちらに気付いて驚き再び逃走に移る。

 

宇宙を切り拓く思いで接近する。

 

振り返り様にダミアンのAKが弾幕を張りそれを躱しながら距離100Mまで近づく。

 

「…ッ!!!」

 

HKのドットサイト越しにダミアンの頭部を照準------発砲。

 

銃口初速890m毎秒の弾丸が高速回転しながら奴の顔面に吸い込まれ着弾------------する直前にセカイが解けた。

 

 

一瞬、空間が揺らいだのを感じると、目の前にLEDで照らされた鉱山内の岩場が迫って来た。階段から転んだ様に前のめりに倒れ込む。

 

顔を上げた先には荒い息を吐くダミアンが血走った目で睨みつけていた。

 

「しつこい男だッ…、いい加減にくたばったらどうだ!!」

 

「こっちのセリフだ……その妄想ごと此処に埋め立ててやるッ」

 

「貴様に2度も負けてたまるかぁァァァァァァッ!!」

 

ダミアンが銃を構えるのと理雄が構えたのは、ほぼ同時だった。

 

HKの消音されたフルオート射撃と、AK特有の激しい銃声が交錯する。

 

5.45mm弾がHKの機関部に突き刺さり、5.56mm弾がAKのレシーバーを破壊した。

 

サブウェポンの拳銃は2人共セカイで落としている…。

 

『『ならばッ…!!』』

 

互いに銃を捨て、ダミアンはトレンチコートを脱ぎ捨て、雄叫びをあげながら腰から大振りのサバイバルナイフを2本抜き、天に向かって咆哮。

 

理雄もダガーナイフを抜いて下段に構える。

 

そのまま互いに睨み合う中、どちらともなくゆっくりと近づいていく。

 

やがて互いの運足が早くなっていき…………駆け出す。

 

殺意に研ぎ澄まされた2人の刃が、大地の底で斬り結ばれ閃いた。

 

「オォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

「アァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

拒絶の意志がぶつかり合う中、ダミアンの右の一振りが理雄の頸に突き出される。

 

(殺った…!)

 

そう確信した直後、眼前に鮮血が舞う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…な!?」

 

 

しかし血を吹き出した場所は、頸ではなく、相手の左手だった。

 

理雄は左手を盾にし、肉と骨でナイフを止めた。

 

直後に脳が焼ける程の激痛が襲って来た。

 

「グッ………ガァァァァァァァ!!!!」

 

それをアドレナリンと獣じみた咆哮で脳の奥に押しやり、頭部をダミアンの顎に突き刺さす。

 

予測していなかったタイミングで喰らった頭突きは、ダミアンの脳を揺らした。

 

たたらを踏んで半歩後ろへ下がった瞬間、理雄の神速の踏み込みが入る。

 

ナイフを放した手で拳を作る。コンバットグローブを履いた黒い拳が弓形に引かれ------------放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えいぃぃやぁぁァァァァァァァァァッッ!!!!」

 

 

乾坤一擲、上段正拳突きが的確に顔面を捉え、頬骨と顎骨を粉砕。『当てた後引く』

が特徴的な松濤館流の突きは、正しく強大なインパクトを生み、その勢いが殺される事なく後方に吹き飛ばされた。

 

背後には崖があり、その先の下には絶望的な程の闇が広がっている。

 

ダミアン・オコナーは闇に引っ張られるように、闇の底にその身を消した…。

 

「やった…」

 

一息ついた直後、全身に忘却していた痛みが駆け走る。

 

その場に座り込み、腰のポーチから救急セットを取り出す。

 

ワイヤーで左手を止血した後、モルヒネを打って痛みが和らぐのを待ち、刺さったナイフを抜く。

 

「ぐ……ッ」

 

骨ごと貫いていたが、傷口を消毒して包帯を巻くと少しはマシになった。

 

最低限の処置を終えると、出入り口を探して辺りを見回す。

 

ふと、近くに武器が収納された木箱を発見し、その上にSV-98狙撃ライフルが立て掛けられていた。

 

ロシア軍の払い下げ品だろうが、とりあえず戦利品として回収していく。

 

さて、後は出入り口を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、鋭く感じた危機に体が反応したが、背骨と左手を大きく損傷した今の理雄は僅かに行動が遅れた。その遅れが致命打を与えた。

 

 

ア…………。

 

 

理解不能だった。故に脳は意味のない言葉を発した。

 

 

 

 

          *

 

肩口から出血して倒れる所を光学スコープ越しに確認する。

 

「……よし」

 

伏せ撃ちの姿勢でSVDSドラグノフ狙撃銃を構える。

 

ダミアン・オコナーはまだ生きていた。

 

彼は自らの両足を見遣る。

 

骨が折れ内側から飛び出している。

 

転落の際、奇跡的に足から落ちたものの、10M以上の高さから落ちた後派手に転げたのだ。両足の複雑骨折だけでなく、肋骨も数本折れていた。

 

モルヒネで痛覚を麻痺させてるとはいえ、足からの出血を考えると数時間と持たずに死ぬだろう。

 

(……それがどうした…、まだ終わっちゃいない…!!)

 

地の底から匍匐で這いずりながらドラグノフを口で咥え、この狙撃ポイントまでこれたのは、他でもない執念と憎悪が成した業だ。たとえ風前の灯の命だとしても、息絶えるまでにあの男は必ずここで仕留める!

 

(さぁ…、まだ私は死んでいないぞ…来いッ、志熊理雄ッ…!!)

 

 

 

         *

 

 

「ぐぁぁぁぁぁッ…」

 

倒れ込んだ先は木箱の陰だ。身を隠すには最低限の大きさの遮蔽物だが、撃ち込まれ続ければ中の火薬類に引火する可能性がある。いつまでもここにはいられない。

 

だが、この時理雄は確信していた。

 

この狙撃手が南雲博士を自宅で射殺した狙撃手であり、ダミアン・オコナーである事を…

 

体を出した瞬間が、理雄の最期なのだと肌で感じた…。

 

被弾した左肩を見遣る。動脈には当たっていないが、今ので完全に左腕が死んだ。

 

(どうする……狙撃位置が分からない上にこの体では…!)

 

出血と痛みで脳の機能が低下し、【空間把握】が出来ない。この空間は目算でも東京ドームの数倍はある。応援は期待出来ない…、その前に殺られる…!!

 

奴の落下は確かに確認した。生きていたとしてもただじゃ済まない。そんな瀕死の状態ですぐさま攻撃オプションを変え、この場を狙撃という圧倒的な力で支配している。

 

実際、同じ瀕死でも今の理雄には体を捩ることすら難しいというのに、奴は鎧袖一触の狙撃手として此方を追い詰めている。

 

強すぎる…!これが、混沌の時代を生き抜いた元機動部隊指揮官の力…ッ!

 

 

痛みと恐怖で地に這いつくばる。

 

呼吸が苦しい、目の前がふらつく、もはや瞼を開ける事すら困難になってきた。

 

「く…………そがァァァァァァッ!!」

 

諦めるな志熊理雄ッ!!

 

お前はこんな所で死ぬわけにはいかない……死ねないんだ!!

 

誇りの為だけじゃない…、今の俺には守りたい人達がいる。

 

絆を繋ぎ直し、共に生きると決めた少女達を……!

 

夢と希望を届けると誓い、笑顔で進む少女達を…!

 

(一歌を…志歩を…咲希を…穂波を…、みのりを…愛莉を…雫を………遥をッッ!!)

 

遥とは約束がある。自分は彼女の未来を応援すると誓った。

 

自分は彼女達を光の中で活かす為に、敵を闇の中で葬らなければならない…。

 

立て……戦えッ!

 

彼女達を守りたい……その為に全身全霊を懸けて敵を撃てッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、スマホが光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………なんだ……?

 

 

 

 

スマホをポケットから取り出して液晶画面を見る。インストールした覚えのないアプリのアイコンが光っている。

 

 

タイトルは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『untitled』

 

 

 

 

その光には、何故だか言葉には言い表せない希望を感じた。

 

最早なんでもいい…、今は全ての力を使わなければならない、たとえそれが忌むべきアノマリーの類だとしても……、

 

自分に……………彼女達を守る力をッッ!!

 

意を決してそれをタップする。

 

すると、世界に光が溢れ----------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

割れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに…!?」

 

スパークしたように光が飛び散り、辺りを白い閃光が包んでゆく。

 

流れ出した音楽は破滅的な音割れを起こし、やがて、全てが停まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『------壮絶だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処からか声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『私が引き抜いただけあって、ここまでの状況を創りだすとはね…、けど彼の【創造】は全て【破滅】に帰結してしまう。残念だけど失敗だったな…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰だ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…君とまた会えるとは思わなかったよ。まさかあの世界にも君がいるとは…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…この声、何処かで………………まさかッ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『君に死なれる訳にはいかない、ただ今の君のセカイはまだ不完全だ…。だから………私が少し手伝ってあげるよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、激しい頭痛が理雄を襲った。

 

 

 

「ぐッ!?…ガ、……ァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 

 

 

 

脳裏に大量の情報が錯綜し、やがてデータが結合される様にそれらは形を成していく。

 

…見えてきたのは映像。

 

フラッシュバックする光景は決して鮮明とは言えないが、それは脳から引き摺り出される様に写されては消えていった。

 

『…兄さん……ごめ(ノイズが混じり不明瞭)…、私を…』

 

学校制服を着込んだ見知らぬ黒髪の少女が涙を流しながらこちらを見上げている…。顔は……映像の光が反射している様で見えない。

 

『リオ・シグマ!どうして貴方は…ッ!』

 

ナチュラルブロンドの少女が教室の中で仁王立ちし、こちらを見下ろすように睨みつけている。見ている側は座り込んでいるのか、見上げると彼女も同じく涙を流している。…こちらも顔が判別出来ない。

 

『どうして…、どうして忘れられるのよッ!私達から(不明瞭)…を奪ったあいつらを……どうしてッ!!』

 

激昂する少女が栗色の髪を燃え立てるようになびかせ、悲壮が混じった怒号を叫んでいる。

 

『全てが狂ってる……破壊するんだッ…!……………………忌まわしい…』

 

映像がなく、男の声だけが聞こえる。年齢が判別出来ないがそこまで年老いた声でもなく、かといって若い声にも聞こえない。

 

 

なんだ…?これは……。

 

 

 

 

見知らぬ記憶が次々と脳裏を過ぎっては消えていく、まるでクラウド内の写真が消されていく様に…。

 

誰の記憶だ…?

 

この情景を自分は見た事がない………いや、待て……これは…!

 

『君がどうしてその記憶を持っているのかは分からないけど…、一先ずその記憶が【想いのカケラ】になりそうだから、代用させてもらうね』

 

 

声の主による物なのか、やがてその記憶………この世界の’俺'の新しい記憶が光の欠片となって宙を舞う。

 

やがて周囲の光と混同し、酷いノイズ音が変わった。割れた音が新たな音で補正され、一つの音楽が生まれた。

 

そして------------周囲の時間がゆっくりと流れ始める。

 

 

 

 

 

『これで、未完成だけど君のセカイが生まれた…。さぁ、君の【創造】を魅せて』

 

 

 

 

 

          *

 

 

 

 

「……なんだ?」

 

暫く待っていると、相手に動きがあった。

 

 

ゆっくりと立ち上がり、狙撃ライフルを此方に向けて構える……が、

 

「隻腕での立射…だと?」

 

ニーリング(膝撃ち)やブローン(伏せ撃ち)と違って立射は銃の保持が極端に難しく、それは即ち遠射の難易度を爆発的に上げるという事だ。

 

ここからの距離は200M以上。1mmズレただけで取り返しのつかない結果になる。ましてや片腕で脇に抱えるようにして構えるなど…。

 

まるで子供が構えているような体勢だ。

 

(自棄を起こしてあんな事を…?滑稽だな…)

 

やる気がないのならすぐに終わらせるだけだ。

 

頭上から吹き抜ける風の影響を考慮に入れて弾道を計算------発砲。

 

銃口から7.62×51mmR弾がライフリングで高速回転しながら放たれる。

 

------勝った。

 

そう確信したその時、ダミアンの耳に聞いた事もない激突音がして空中に火花が散る。

 

余人には理解すら出来ない現象だったが、数多の激戦を潜り抜けて来たダミアンには、それを何度か見た覚えがあった。

 

「馬鹿な…」

 

空気を逆巻く超音速弾がソニックブームを発生させながら2発、寸分の狂いもなく正面衝突を起こし、互いの弾道をずらして必殺必中の一撃を逸らせしめた。

 

「弾丸に弾丸をぶつけた…のか…!?」

 

今まで見て来たこの現象は、全て例外なく偶然により起こされた物だ。それを狙って起こすなどありえない。あっていい訳がない。

 

そんな業がただの人間に起こされてたまるか。

 

今度は2発連続で発砲。

 

1発目が肩を少し捻って躱され、2発目が先程と同じ様に撃ち落とされる。

 

その時、ダミアンは驚愕に目を見開いた。

 

奴は意図的に此方の銃弾を銃弾でぶつけるという神業を起こしている。

 

怒りでグリップを握る手が震える。ありえない…。

 

こんな事が……己の狙撃哲学を鼻で嘲笑うかの様にッ…。

 

「何なんだ…、何なんだキサマはァァァァァァァァァッ!!」

 

 

 

 

 

激昂するダミアンに対して、志熊理雄は無我の境地にあった。

 

 

 

 

 

『全てが遅く見える』

 

 

『全てが聞こえる』

 

 

『全てを感じる』

 

 

 

この世の全てを見通す菩薩の瞳が、耳が、肌が------全てを把握していた。

 

 

ゆっくりと立ち上がり、感じた脅威がいる方向に体を向ける。

 

 

あの時流れた音楽が、旋律に乗せてあらゆる情報を理雄の体に流し込んでいた。

 

敵の位置……距離……風速……気圧……コリオリ力……。

 

狙撃に必須の情報が全て脳内で正しく計算され------理解できる。

 

不思議な気分だ。

 

あらゆる物を見通せる感覚は、全脳の神の感覚に近いのだろうか…。

 

一時の錯覚かもしれないが、そんな今の自分には恐怖も不安もなかった。

 

【時間の流れが永遠と化したセカイ】では、自分以外の全てが矮小な存在にしか見えなかった。

 

 

 

 

 

 

…………全て……撃ち倒せる……。

 

 

 

側から見ると巫山戯てると言える程、雑に銃を保持してる様にしか見えない。

 

だが、無限の境地に立ち、一意専心の構えの先には、倒すべき敵の顔がよく見えた。

 

撃ち放たれた弾丸はスーパースローのように見える。

 

脇で固定して、向かってくる弾丸に合わせて引き金を引き絞る。スコープを覗く必要すらなかった。

 

自分でも信じられない程容易く当たる。

 

難儀しながらボルトを引いて排莢---装填。

 

2発続けて放たれた弾丸の1発目を肩を捻り躱す。弾道が線を引きこちらに向かってきても、それが余りにも遅すぎる。

 

2発目を先程と同じ要領で撃ち落とす。

 

3発目を装填-----------照準。

 

 

 

 

終わりだ------ダミアン・オコナー------。

 

 

 

 

引き金を絞る。

 

 

シアとボルトを介して薬莢の底部を撃針が打撃、銃声と炸裂音。射撃反動が体を押し、放たれた弾丸は寸分の狂いもなくダミアンに向かって直進。

 

迫り来る神弾の一撃にダミアンは反応を示さず、最後まで理解を拒んだ表情のまま口を動かしていた。

 

『バ………カ…な………』

 

 

 

 





 次回、第3章最終話。
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